ニートだった俺がヤクザの大幹部!?   作:セパさん

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投資にご注意

 鶯会事務所

 

「はい……ええ……、お話は大変光栄に思いますが何分沢渡一家はわたしと若頭だけでやっている小せぇ組なもんで、薩摩庵組様の貫目にはとても釣り合いがとれません。お食事会!?いえ、そりゃあちょっと……ええ……。」

 

 俺の名前は安田太一、暴力団鯛八木組傘下鶯会構成員であり、沢渡一家若頭である。今電話対応に苦慮しているが鶯会事務局長であり、沢渡一家総長、沢渡凌牙その人である。

 

「畜生!安田と牧村んとこの若頭が兄弟分になってからこの方うちを通じて三穣会と繋がりを持とうとする連絡が多すぎるぞ。マジで虎の威を借りる狐じゃねーか!」

 

「お疲れっす。それにしても薩摩庵組ですか。鹿児島のシマを一本独鈷で長年守り続けてきた武闘派の組ですよね?過去には大判組やうちの鯛八木組の侵攻も退けた組まで沢渡さんと……正確には間接的に三穣会と手を組もうと?」

 

「薩摩庵組は他に侵攻しない程度には温厚だが、妄りにシマを荒らす連中には容赦がねぇくらいには勇猛な組だ。しかし暴対法以降衰退が激しいからな。一時期250といた構成員が、今じゃ準構成員を含め4~50だ。第二次首都抗争を終えた大判組が勢力を拡大して鹿児島に侵攻すりゃ今度こそ耐えられないと思ったんだろ。俺と関係もって誰か向うが安田と盃交わせば牧村んとこの若頭とは叔父になる。大判組としてもその縁は無視できねぇだろうよ。」

 

「にしても庵端(あんばた)組の次は薩摩庵組ですか、北は北海道から南は鹿児島まで大人気っすね。」

 

「他人事みたいに言ってんじゃねーよ!向こうの最終目標はテメェと盃交わすことなんだからよ。ったく!腹が立つ!」

 

「え~~~~!!でも沢渡さん、勢力拡大するなら大チャンスじゃないっすか!?」

 

「バカ野郎!俺と安田しかいない二人の組が……いや、例えそれが鶯会だったとしても、盃事・義理事だって大事になるし、これだけ多方面からアプローチされてりゃ、どこかと手を組んだだけで不公平だと不満が溜まって爆発する。鯛八木内部が不安定なときにそんな爆弾抱えてられるか。」

 

「んまぁ……確かに、傘下にしてくれって話じゃねーっすもんね。」

 

「地方を一本独鈷でシマを守ってきた組の矜持として大判組傘下を打診するわけにはいかない、かと言ってこのまま大勢力になるであろう大判組を指くわえて待つわけにもいかない。その折衷案が俺らってわけ。打算で動いてるから俺らを信用してるわけではねーし、俺らも信用できないのよな。悲しいけれど。」

 

「え?それって今回の抗争みんな大判組が勝つって思ってるってことっすか?確かに牧村さんや小塚さんたちには負けてほしくねーっすけど。」

 

「いいや、もし伯水会・界転組残党が勝ったとしてもあそこは全国に覇を唱えるような組じゃない。だから最悪の想定をして保険をかけてるのよ。」

 

「そういうこった。俺の手に負える話じゃねーよ。牧村なんざ世界に目を向けているってのに情けねぇ話だ。」

 

「いや~、あの人目線が最早宇宙ですよ。このまえイーロンが宇宙開発で2000億ドルの上場をしたじゃねーっすか、その情報をいつから掴んでたか知りませんが、それに関連して他の宇宙事業……特に共産圏の宇宙開発事業株が高騰して大分投資の利ザヤ稼いだらしいっすからね。」

 

「……おめぇもその話でひと稼ぎしてんじゃねーだろうな。」

 

「黙秘しま~す。」

 

「え~~~~!!投資ってそんなに儲かるんですか!?俺もやってみようかな~~!」

 

「入江くーん?やめたほうがいいよ、追証のメール連打で震えてるのが目に見えてるから。」

 

「ついしょーってなんすか?」

 

「……入江、お前絶対株式だのFXだの仮想通貨には手を出すなよ。」

 

「それにしても牧村さん、真面目に商才のある方で良かったですよ。あの人がポンジスキームなんて始めたら俺だって引っ掛かります。」

 

「ぽんじすきーむ?ってなんすか?」

 

「んじゃぁ入江くん、今俺に5万円投資してよ。そしたらこの財布の中身全部あげる。」

 

「ええええ!!10万……いや、20万は入ってるじゃないっすか!?本当に貰っていいんですか!?」

 

「はい、じゃあ俺が入江から5万円預かりました。まず1万円を返します。」

 

「はいはい。」

 

「次に2万円……3万円と返して……、はい約束通り財布の中身全部あげる。」

 

「やったーーー!……って!?空っぽじゃないっすか!?あと2万は!?てかさっきまで入ってた札束は!?」

 

「……そういや安田、こういうマジック得意だったな。」

 

「約束通り〝財布の中身は全部渡した〟でしょ?大雑把だけどこれがポンジスキーム。なまじ2,3万円返ってきてるだけに詐欺としても立件しにくいし、被疑者も〝投資に失敗しました〟なんて言い訳すれば不起訴になりやすいんだよ。」

 

「安田さん待ってくださいよ~~!俺の2万~~!今夜メルちゃんにスパチャしようと思ってたのに!」

 

「勉強代だ、これで自分が投資に向かねぇってわかったろ。」

 

「ま、弟分から金はとれねぇんでちゃんと返しますけどね。ほい、残りの2万円。俺の財布は返しなさい。」

 

「は~い……。にしてもこんな単純なことに頭のいい人まで引っかかるんですか?」

 

「2000年代初頭にバーナード・マドフっていう詐欺師がこのポンジスキームを使ってアメリカ史上最大の詐欺事件を起こしたんだけれど、その被害総額は650億ドルっていわれてるくらいなのよ。顧客から1億預かって、その金から月に1000万づつ配当金として出す、そして信用を得て更に3億投資させて手元に1、2億くらい残してトンズラする。これを繰り返したわけ。単純でわかりやすい詐欺だからこそみんな引っかかるじゃない?」

 

「円じゃなくドルですか!?てことはいくら……6兆?7兆!?いや、今円安だってニュースでやってるから……うわぁ、想像もつかねぇ。」

 

「最後は発覚して懲役200年だか食らってるけどね。日本は詐欺の実刑食らっても86%は3年未満っていうからやっぱやりやすいんよな。俺らが言うのもなんだけど法整備なんとかするべきだと思うよ。」

 

「じゃあ俺もそのぽんじすきーむ?ってのやればローリスクで金儲けできるんですよね!ちょっと勉強してきます!」

 

「……安田、止めなくていいのか?」

 

「あいつに投資する酔狂なアホもいないでしょ。どうせ痛い目みて終わりますよ。」

 

 

 ● 

 

 某所居酒屋

 

「ということで小塚さん!ぽんじすきーむ?っていうのをはじめてみようと思うんですよ!」

 

「ふーん、じゃあ投資家としての実績作らなきゃじゃん。」

 

「そこなんすよねー。投資なんてやったことねーし。」

 

「じゃあ入江ちゃんにだけ特別のご案内。絶対騒がないでよ、この数字みて。」

 

「え!?1,10,100,1000、万………10億。た、た、宝くじでも当てたんすか!?」

 

「違う違う。俺も投資しててその利益。入江ちゃんだから特別に元本保証で資産運用してあげる。そうすりゃ投資家としての実績も作れるっしょ。そうだなぁ……月10%は利益あげられると思うよ。」

 

「ええええ!でも俺今5万しかないから……。もっとでかい金動かしてーから……。何かいい仕事ないっすか!?」

 

「はいアウト―。これポンジスキームに〝誘う側〟の常套句ね。ちなみに言うとこの画像捏造だから、信ぴょう性を高めるためにこのくらいの金額にしたけれど、その気になれば1兆でも1京にも加工できるよ。」

 

「そんな方法あるんすか!?」

 

「本当に動いてるサイト偽造するってなるとひと手間だけれど、こういう静止画だけならプログラミングかじってれば一瞬だよ。こういう画像つくってSNSで儲けた話を拡散して投資話誘い出すのは常套手段だからね。入江ちゃんも変な話に乗っちゃダメだよ?」

 

「はい……。投資に向かないことがよくわかりました……。」

 

(ここで〝騙したな!〟って因縁つけないあたり入江ちゃんだよねー。素直でいい子なのはうれしいけれど……沢渡さんは牧村さんのダチだし環境に恵まれたなー。)

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