「ただいま戻りました~~!」
元気溌剌といった様相で大きなコンビニ袋を両手に抱えて事務所へ戻ってきたのは、広域暴力団今川組の構成員、小塚カズキ。とはいえ格好のカジュアルさや天性の明るさからか、暴力団員というよりも水商売に従事する人物といった印象を抱かせる。
「小塚さん!買い物があるならオレらに頼みゃよかったじゃねぇっすか!?〝先輩を顎で使うとは何様だ〟ってオレらが殴られちまいますよ。」
「そうです。ここは牧村さんの家じゃないんですから。」
「大丈夫、大丈夫。今日事務所に詰めている人少ないし、野口さんはそんなことで怒らないし。」
部屋住みであるヒロとカジは小塚の行動に慌ててしまう。パシリなんていうのは最下層の自分たちがするべき仕事で、間違えても正式な構成員に行わせるものではない。とはいえ小塚、カジ、そしてもう一人の部屋住みヒロは牧村ユタカの弟分・子分(仮)という関係性から他の組員と異なる友誼を結んでいる。
そのため、上下関係というものをそこまで気にしないが、流石に事務所の中でその仲を大っぴらにしてしまうのはよろしくない。
「ああ、ヒロもカジも気にしなくていいよ。小塚に買い物頼んだの俺だから。二人とも忙しそうだったからさ。」
「忙しいと言っても荷物運んでいただけっすよ。言ってくれればいくらでも……。」
「まぁ牧村さんが言ったとなれば野口さん以外誰も文句はいいませんが……。」
今川組若頭補佐牧村ユタカはオンラインカジノの月締め報告書類から目を離さずに小塚へ助け舟を出す。とはいえやはり部屋住みふたりのもやもやが晴れることはない。
そもそも小塚は正式な組員であり部屋住みの二人からすれば大先輩にあたるのだが、本人の気質がフリーダムかつパシリ気質なため、気兼ねなく話せる一方、〝組織の先輩・後輩としては如何なものか?〟というのが頭痛の種だ。
「とりあえず適当に飲み物を何本かと、牧村さんにアイスの新作と、そうだカジとヒロにはヤク〇ト1000珍しく残ってたから買ってきたよ!あと野口さんの煙草をカートン3つ……。そういえばヒロとカジってタバコ吸わないんだね。カジなんてバシバシ吸ってそうな見た目してんのに。」
「オレぁ昔吸ってたんすけど、一箱500円超えたあたりから禁煙しましたね。流石に金がキビィっす。」
「自分は元々吸ってないですね。身体に悪いじゃないですか、息切れしやすくなりますし、闇討ちのとき匂いで相手に
「ヒロの理由怖い!?ん~タバコかぁ。漫画のキャラが吸っているの見るとカッコいいとは思うけれど、自分で吸いたいとは思わないかなぁ。」
「俺もアニ……牧村さんと同じかなぁ。よくあんな煙の塊吸うよって内心思ってる。てかカジも言ってましたけれど、何でタバコってこんなに値上がり繰り返しているんですかね?」
「ああ……。まずタバコは種類にもよるけれど原価は一箱20本で50円くらいなんだ。そこに輸送費や人件費を乗せても商品価格で言うと130円って言われてる。」
「え?今大体一箱560円ですよね?残りの430円はどこからでてきたんですか!?」
「全部税金だよ。だから1本換算が30円弱として、23円が税金。ほとんど税金の塊を吸っているようなものなんだ。実際2021年のたばこ税収は加熱式・紙巻き式合わせて2兆円になっている。依存性があるからどんなに値上がりしても買う人は買うし、ヒロの言ったように有害なものって認識が高いから声を大にして反対意見を述べる人も少ない。国からすればいい財源なんだ。実際コロナ禍で酒税は減少に転じたけれど、タバコ税は2兆円台をキープしている。」
「そう考えるとなんだか癪っすね。」
「てか牧村さんはなんでそんなに詳しいんですか?」
「実は紙巻タバコ・加熱式タバコの他に葉巻タバコっていうものがあるんだ。葉巻って言っても大富豪がマッチで火をつけて燻らせるものじゃなくて、文字通り〝タバコの葉っぱで巻いて作りました〟ってタバコのこと。リトルシガーなんて言われているね。これだけは税制が異なっていてかなり安く手に入ったんだよ。他の煙草が500円の時代に240円くらいかな?それで色々調べてたんだけれど……」
牧村はオンラインカジノの報告書を読み終え、小塚の買ってきた棒アイスの袋を開ける。
「……2020年の法改正でリトルシガーにもしっかり課税がかかるようになっちゃった。それで〝これは脱法のシノギにするのは難しいな〟と思って調べるのを止めた感じかな。」
「アニキ……相変わらずシノギの嗅覚ヤバイっすね。」
「やっぱり禁酒法時代のアルカポネみたいにはいかないよねぇ。まぁあれはガッツリ違法だしさ。国も2兆円規模の税収を維持したいから無茶な値上げはしないだろうし。つけ入る隙は無いよ。国も中々
そんな話をしていると事務所に頭を剃り上げた強面が入ってくる。今川組組長代行若頭、野口剛だ。全員が直立不動で立上がり一礼する
「「「「「 おはようございます! 」」」」」
「おう。……ああ、小塚タバコ買ってきてくれてたのか、丁度数本しか残ってなくてコンビニ寄ろうか迷っていたところだ。」
野口はそう言ってタバコのビニールを開けて、ジッポライターで火をつけ煙を楽しむ。だが違和感を覚え牧村たちのいるデスクを見ると……
「なんだてめぇらその目は?タバコ吸っているだけがそんなにおかしいかよ!?」