メス堕ちしたくない俺の苦難八割TSチートハーレム記 作:丸焼きどらごん
メス堕ちポイントが新たに溜まっていたことにキレつつ、アシュレに向き合うために息を整える。
もしこの内心が表に出たら、俺一人でわちゃわちゃやってるだけの変な人だからな!!
…………。
………………。
………………………!!
(だ、ダメだ。アシュレに向き合おうとしたらそれはそれで緊張してきた! なに、あの表情!! めちゃくちゃ可愛かったんだが!?)
結局落ち着かない俺である。
しかし「話はある」と言っていた当のアシュレはバルコニーへ出た後、月を眺めたまま口を開かない。
俺は戸惑ったまま、その端正な横顔を見つめた。
鎧をまとっていない今はそのほっそりとした顎や首筋が良く見えて、いつもより女性みを感じる。……やっぱり、美人だよなぁ……。
そういえば出会った頃、アシュレは兜で顔を隠していた。
初心者冒険者だった俺は「強そう! 頼りになりそう!」って鎧姿のアシュレを男と勘違いしてパーティに誘ったんだけど、ごつい兜の下から涼やかで綺麗な声が返ってきて驚いたものである。
実際アシュレは強いしめちゃくちゃ頼りになったんだけど、最初からこの素顔を知っていたら照れて声かけられなかった。
今だって毎日見て見慣れても、こうしてよく見惚れてしまう。
でもって、そこそこ長い付き合いになるアシュレなわけだが……。彼女はいつだって余裕があって落ち着いていた。
だからこそさっき魔王が見せたアシュレの様子には驚いたわけで。
……つい、俺に都合の良い考えが浮かんでしまう。いくら自分を戒めても、引っ込めて蓋をしたはずの考えはどんどん膨らんでいる。
た、ただ……! これは己惚れると、違っていた時になかなかに痛い。いや、なかなかどころじゃねぇな!? 大事故だよ!!
(こ、ここはさりげなく! さりげな~く、探りを入れるんだ……!)
俺は部屋で休む前に「ミサオ様は癖毛ですし、そのまま寝たら盛大に暴れると思いますよ。なので緩めに結っておきますね。わたくしとおそろいに!」とシャティに結ばれた三つ編みを手慰みにいじりながら、ちらちらとアシュレの様子を窺った。
そして意を決して口を開く。
「そ、そういえば! その、魅了の力って今のところ俺が好きな相手か、俺の事を好きな相手にしか効かないって話しだったろ。俺はアシュレの事好きだからさ。それでいつも厳しいアシュレが優しくしてくれたのかな~……なんて」
『もしもの時、冗談ですませるための保険みたいに「なんて」とか「なんちゃって」とか最後につけるダサい奴っているよね。あと全然さりげなくないからな?』
(お前マジでちょっと黙っててくれ)
『でも五分経ったよ』
(早っ!?)
この魔王、一応律儀に五分は待っていたらしい。けどそれはそれ! ここは空気読んで黙っておくべきだろ!?
そういきり立つ心を押さえて我ながら曖昧でへらへらした笑みを浮かべて、今は頭一つ分以上高い場所にあるアシュレの顔を見上げた。
……聞くにあたって必要だったから好きとか言っちまったけど、好きの種類がライクかラブかってのは分からない感じに言えたよな? 俺。
まあ俺がアシュレを好きだって事は本当なんだし、どんな受け取られ方をしても俺に損は無い。最悪、的外れてあっても気まずくなることはないはずだ。
『マジでクソ雑魚ヘタレじゃん、君。僕に魔王としての格を求めながら自分はそれなんだ? ショックだなぁ。僕を倒した英雄がこんな奴だなんて。やぁい、ざーこざーこ』
(だからお前はよぉ!!)
『しかも半魔の彼女に筆おろしとか頼んでおきながら、女騎士のことも好き? うわぁ……って感じだね』
(しょうがないだろあんな美女美少女に囲まれて好きにならない方がおかしいだろ!! みんな性格だっていいんだぞ! 頼もしいし!)
『ふーん。ほーん。へー。みんな好きなんだ』
(あぐっ)
言い訳みたいに言葉を重ねる俺に対して魔王は白けた声を出すばかり。
俺は思考が隠せない分、どんどん墓穴を掘る。墓穴っていうか、もう墓穴を地下に突き抜けて地獄の五丁目くらいだと思う。
(……と、今はこいつに構ってる場合じゃなかったぜ)
俺はビークールを己に言い聞かせ、アシュレの言葉を待った。
アシュレは俺の言葉を聞いてから、やっと涼しげだった表情をわずかに崩した。少し目を見開いて俺を見つめている。
その視線はしばらくさ迷ったが、最終的に俺へと定まった瞳の色に迷いはなく。……真摯な光を宿したアメジスト色に縫い留められて、少し緊張する。
「……。ミサオが私を好いてくれているのなら、嬉しく思う」
そう口にしながらアシュレが距離を詰めてきたので、思わず後ずさると壁に背がぶつかった。
でもって、顔のすぐ横の壁にアシュレが手をつく。
(こ、これは!!)
ドクンっと心臓が高鳴り。
【メスメロリンっ♪】
知ってた!!
(今こそ! 今こそ空気読んで音量を小さくしろよぉぉぉぉッ!!)
『壁ドンにときめいたの? ベタだねぇ。でもベタは言い換えれば王道だからね。しかたないね』
(うるせぇバーカ!)
(うぉああああああッ!! あかんあかんあかん! これ、相手との距離が単純に近いし体全体で囲われてる感じがドキドキする! うおぉぉぉ! これ以上たまるな俺のメス堕ちポイント!! 頼む!! このシチュ自体は美味しいけど、頼む!!)
「あ、アシュレ?」
初壁ドンに挙動不審さを隠せない俺に、アシュレは緩く笑んで口元をほころばせた。
「ミサオの魅了が私に効いたのは、君からの好意だけでなく。……私が君を好きだからだよ。普段から優しくしたいと思っていたけど、上手くいかなかった。それがどうやら、魅了の力で緩んだらしい」
壁ドンというイケメン仕草をしておきながら、それを口にしたアシュレは……どこまでも乙女らしい、可愛く照れた表情をしていた。
そしてそれを直視した俺が耐えられるわけがないのである。
だって……だって!!
(よっしゃあぁぁぁッ!! 勘違いじゃなかったぁぁぁぁぁああああああああぁぁ!!)
『うわッ!! ミサオ、うるさい。思考がうるさい!』
(はぁ!? 俺の内心だぞ文句言うなら出てけ! foooooooooooooooooooooooooooooooooo!!!!!!!!)
『うっざ』
(へへーんだ! なんとでも言えー!)
アシュレの言葉で一瞬にして俺の内心がお祭り騒ぎになる。魔王の言葉も今は微塵も気にならない。
うおおぉぉぉ! 宴だーーーー!
あの時のって、やっぱりそういう!? え、マジ!?
あれってあれってそれだろ!? 隠してた好意がバレて照れたとかそういうやつだよな! 俺はそういうの詳しいんだ! 漫画で読んだ!
『ちょっと……。君、そういうのやめてくれない? なんだか共感性羞恥で僕まで恥ずかしい』
(はぁ~? そういうのってなんだよ)
『漫画で読んだとか、そういうやつ! この童貞オタが』
(…………)
一瞬でフィーバータイムの俺を冷静にさせるとはやるじゃねぇか魔王……。スンってなったわ。
思いがけずダメージを負って俯いていると、すぐ近くからアシュレの落ち着いた声。
「あんな形で自分の気持ちが露呈するとは思っていなくてね。君は自分の事で手いっぱいで、気づかなかったようだけど。……顔にあんな熱が集まったのは初めてだ。ふふっ。このまま黙っていても、そのうちバレると思ったから。それならと、自分の言葉で伝えたくなったんだ。……私は運がいいね。そう考えていたら、寝ていた君が起きてきたんだから」
「えっと……」
「いきなりで驚いただろう? 君の言うように、私はどちらかといえば君に厳しく接してきたからね。……ただ、今はそのまま話を聞いてほしい」
「う、うん」
されるがままというか流されるままというか。
完全にリードを奪われていて、我ながらこれでいいのか? と思いつつ頷いた。
「まあ、厳しく接したことはしょうがないと思ってくれ。君は調子に乗り易いしすぐ油断するし、力を傲慢に振りかざすこともあった。しかも女性に対しての視線がだらしなくて不躾だ。先ほども落ち込んでいるくせに私たちの体を舐めるように見ていただろう?」
「う゛、それは……」
「どこを見られているか。そういった視線は、案外わかるものだよ」
それはちょっとわかる。さっきモモの服を着ていた時、あの魔族野郎が破廉恥破廉恥言いながらしっかり見るとこ見てたからな。あれは分かる。
「けど、突然十六歳の少年が今まで生きてきた世界から切り離されたんだ。どうにか正気を保とうと、降ってわいた力にすがるのも無理はない。それが傲慢さにつながるのも、経験が足りない若さゆえだ。だから厳しく接しても、私が君を嫌ったことは無いよ」
「そ、そっか。へへ……」
ここにきて急に今までの、それこそ黒歴史に該当する自分も認められたような気がして嬉しくなる。
「……それにね、ミサオ。君の力は簡単に言えば「急速成長」と「強さの維持」だろう? たとえどんな簡単に強くなれたとしても、踏み出す一歩がなければ宝の持ち腐れとなる能力だ。だが君は、多くの困難に立ち向かった。そしてついには厄災の魔王すらも倒したんだ」
「それは……それは、アシュレが仲間になってくれたからだ。俺一人だったら町の周辺でスライム狩りでもして、安全の範囲内で経験値をかせいでたぜ。だけどアシュレが仲間になって色々教えてくれたから、いろんな場所へ行けたし、たくさんの経験を得られた」
認められていたのは嬉しいが、妙に過大評価されてるような気がしてこそばゆい。だからそれ以上言われる前に、事実を口にした。
本当に、きっと一人じゃ色んな事が無理だった。それくらいは俺だって分かってる。
「そう言ってもらえるのは光栄だね。しかし、だとしてもだ。たった五年で魔王をも倒せる力。それを身につけられる力は破格だが、成し遂げるための経験を積んできたのは……紛れもなく、ミサオ自身の力だよ。特別な力だけで、今の君があるわけじゃない」
「……!」
ストレートな褒め言葉にどう答えていいか分からなくて、口をもごもご動かすしか出来ない。
俺はいつだって褒めてほしいし、出来ればちやほやしてほしいけど……。いざ直球に来られると、恥ずかしさが上回った。
これでは魔王にヘタレと言われても仕方がない。
そんな情けない俺の頬にアシュレの手が添えられ、優しく上向かされる。
俺の瞳に似ているという月が浮かぶ夜空を背景に、アメジスト色の瞳と視線が絡まった。
「そんなミサオが危なっかしくて、放っておけなくて。……見ている内に、愛しくなった」
ゆっくりと、しかし力強く告げられる。
そして。
「私は君を愛しているよ。魅了の力などなくともね」
感じるのは慈愛と包容力。
「もしこのまま女性でも、男に戻れたとしても。私は君自身を愛し続けると誓おう」
「アシュレ……!」
限界だった。
ぼろりと涙腺のダムが決壊して、俺は無様に滂沱の涙を流し始める。
「う……う、うおぁぁぁぁああああああん!」
「ど、どうしたんだい?」
さっきまで揺るぎない心で愛の告白をしてくれていたアシュレが、おんおんと泣き出した俺に慌てだす。
先ほどまでとのギャップでそれが非常に……非常に可愛いのだが、俺はちょっと今それどころじゃない。鼻水まで出てきて今顔がすごいことになってると思う。
けど!
これが泣かずにいられようか!!
「アシュレぇぇぇえええええ! めちゃくちゃ嬉しいし女の子に初めて告白されて感動でどうにかなりそうなんだけど、ごめんその辺で勘弁してくれ! うおおぁぁぁああああん!」
「……嫌だった?」
「そうじゃない、そうじゃないんだよ! けどアシュレが、アシュレが」
嘆きを盛大に含んだ叫びを、涙と鼻水でぐちょぐちょな顔でロマンチックな月夜に吠えた。
「かっこよすぎて、性格イケメンすぎてさっきからメス堕ちポイントたまる音が止まらねぇんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおぉぉぉぉお!!!!!! あああああああああああああ! 女の子になっちゃうぅぅぅぅぅうううううううう!!!!!」
【めすめろりんりんりんりんりッんメスメロリリリリリっリリリリリリンめすめろりんめすめろりんりりりりりりりりりりりりり♪♪♪♪♪♪♪♪♪】
バグったように間抜けな音が絶え間なく脳内で響く! 響く!! あの音が!! ああああああああああああああ!! 助けてぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!!!!
『あはははは~。音量をもとに戻しておいたよ。ちょっと大きくもしておいた。親切だろ? 気づかなければもっと溜まっていたんだから。あ、でも気づいても止まらないか。あっははは』
(狂うわっ!!)
『ほんっと文句が多いよね、君。面白いからいいけど』
魔王にいくら文句を言ってもメス堕ちポイントは俺のバクバク脈打つ鼓動と連動するかのように鳴りやまない。
「そ、それはすまない! 私がかっこよくて性格イケメンなばかりに! ……ところでイケメンとはどういう意味? ごめん、ミサオの使う異界の言葉は時々単語がわからなくて」
「ごめんちょっと今説明する余裕ないから察して! おうぁああああ!」
鎮まれ! 鎮まりたまへ!
祈祷するように踊り狂うと、だんだんとメス堕ちポイントの音が鳴りやんできた。
どうやら感情によるドキドキを身体的な疲労を伴うドキドキが上回ったらしい。
だからどうなってんだよこのシステム!!
膝に手をついてぜーはー息を整える俺だったが……そこに新たな珍客が現れた。
いや、仲間なんだけどな? でも色んな意味で珍でしかなかった。
「話は聞かせてもらいました!」
バサバサバサ! と純白の翼を羽ばたかせ、なんとバルコニーの下からシャティが現れたのだ。
え、何!? 今までそこに居たの!? 待ってくれ俺まだいろんなことが落ち着いてない!!
しかしシャティはお構いなしとばかりに、芝居がかった仕草で胸に手を添え、もう片方の手は舞台女優のように大きく広げた。
「聞いてください! わたくしもまた、ミサオ様を愛しています!」
「え!」
「そして、アシュレの事も愛しています!」
「は!?」
なに、まさか俺をはさんで修羅場なの? という想像は秒で否定された。
告白された次の瞬間、別の相手に告白されるとかある???
困惑する俺の手を、シャティが華奢な手で力強く握る。
「ミサオ様! 世界を救ってくれたあなた様の事は、なにがあってもこのシャティがお守りしますわ。そしてアシュレもミサオ様を愛しているなら話が早いです! これからもミサオ様と共に歩みましょう! 愛し合いながら! ミサオ様の貞操をお守りしながら!」
「シャティ、まずは落ち着きなさい!」
「落ち着いてなどいられませんわ! 見た様子だとミサオ様もアシュレに告白されて嬉しかったんですよね? 受け入れるってことですわよね? 目の前でわたくしの愛する二人が愛し合う。素晴らしいですわ。ですがそれならわたくしも混ぜてくださいませ! 愛し合う相手が多ければ多いほど幸せだと思いませんこと!?」
「だから落ち着きなさい!」
「あんっ」
そのあまりの勢いに温厚になだめることを諦めたらしいアシュレが、シャティにヘッドロックを仕掛けた。
だがシャティはなんだか幸せそうな顔をしている。……マゾかな?
「……夜中にずいぶん、賑やかだね」
「ママ……?」
どうすればいいかわからずオロオロしていると、あくびをかみ殺しているガーネッタと眠たげに目を擦るモモが現れた。
救世主が現れたとばかりに安堵が心を満たすが、にやりと笑ったガーネッタは俺の期待を見事に裏切っていく。
「面白そうな話をしてたね。……なんだったらあんた達、まとめて私の嫁になるかい? 私もあんた達を愛してるからさ」
「ガーネッタさぁぁぁぁあぁああん!?」
これ以上ひっかきまわさないで!? そう思ったが、思わぬ伏兵もいた。
「お嫁さん……? ミサオママがお嫁さんになるの? なら、モモもほしい。そしたら、本物の家族」
「モモーーーー!?」
ぎゅっと腰に抱き着いてそんなことを言い始めたモモ。
可愛いが、同時に脳内で【メスママリンっ♪】とか鳴り始めたことで……再び俺のキャパシティが限界を迎える。
結果。
「ミサオ!?」
「ミサオ様!」
「おや」
「ママ?」
人生で初めて、思考回路の破裂で目を回してぶっ倒れた。
『うわ、漫画みたい』
(おめぇも漫画どうこう言うんじゃねぇか!!)
そんな魔王へのつっこみを最後に、俺は意識を手放した。