メス堕ちしたくない俺の苦難八割TSチートハーレム記   作:丸焼きどらごん

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14話▶明晰夢~寄生野郎が顔のいいショタガキになったの何

 明晰夢。

 夢の中でそれが夢だと自覚できるもの。

 

 俺が今体験しているのもまさにそれで、広々とした湖に半分身を沈めている廃墟群の中をぺたぺたと歩いている。

ちなみに歩いているのは水の上だ。

 崩れた建物の残骸などが沈んでいるわりに湖の水はやけに透き通っていて、すぐ下を見れば魚の影が横切る水底が見渡せるし、少し遠くを見れば鏡のように夜空を映し出していた。

 

 夜空といっても実際は少し違う。

湖をぐるりと囲うように三百六十度、星の瞬く濃い藍色の夜天から裾野へ行くにつれて、夕焼けのような朝焼けのようなグラデーションで彩られていた。

 そんな夜のふもとがぼんやりと明るいから、湖の中や建物の輪郭を見ることができるんだろう。

 

 

(でも夢だし、明かりが無くても景色がわかったりするのか)

 

 

 ぼやけた思考のままゆっくり歩く。

 

 妙に静かに感じるのは、今日一日さんざん頭の中でうるさくしてくれた魔王の声が聞こえないからだろうか。

 さすがの奴も夢の中までは干渉できないと見た。

 

(え、夢だけ? 夢だけしか俺の安息の地ないの!?)

 

 はたと気づいて、とてつもない疲労感に襲われた。夢なのに。

 

 水面を覗けば昨日まで慣れ親しんでいた男の姿ではなく、見慣れない髪と目の色をした女の自分が映っている。

 それを見て疲労感は増すばかりだ。元の体が恋しい……。

 クッソ長かった今日一日で、俺の異世界人生ゴールデンロードマップが大きく崩れてしまった。

 本当、明日からどうしよう……。

 

「はぁ~~~~あぁあっ」

 

 ため息と声の中間のような半端な音が出る。

 今のところ夢も覚める様子は無いし、このまま気分転換に少し歩くか……。

 奇妙なところだけど、景色はまあまあ綺麗だし。

 

 

 

 

 

 

 

「」

 

「ん?」

 

 自分が発する以外の音は聞こえない。だというのに、誰かに話しかけられたような気がした。

 呼ばれたとかでなく、話しかけられた。問いのような色を含んだ、音のない空気の振動。

 

 特に目的もなく歩いていたから、目覚めるまで夢の探検もいいだろう。

 自分の夢なんだしと、俺は特に警戒することもなく気配の感じる方向へ足を進めた。

 

 

 

 目に映る廃墟群はこの世界に来てから目にしてきたファンタジー色増し増しの建造物ではなく、五年前まで見慣れていた日本の一般的な家屋やビル、電柱がほとんど。時々神社の鳥居みたいなものも見え隠れしていた。

 どこかの町の一部を巨人が無造作に掴んでぐしゃっと丸めて、放り投げたような雑多さだ。中には苔むして真緑になっている建物もある。

 

 時折ちゃぷんと魚が跳ねて静寂を破る以外は本当に静かだ。

 さっき話しかけられたのも気のせいな気がしてきた。実際、声は聞こえていないんだし。

 

 

 

 だがあるビルの角を曲がった瞬間。世界が一変した。

 

 

 

「……!」

 

 墨汁をぶちまけたような黒に息をのむ。次いで赤の光に心臓を掴まれた。

 

「」

 

 人だ。

 黒い帯のようなものが無数に廃墟へ張り巡らされ蜘蛛の巣状になっているその中心に、瓦礫に王のごとく座した誰かが居た。

 よくよく見れば黒い帯は"彼女"の髪の毛だとわかる。あまりに長くて、一瞬そうとは分からなかったけど。

 

「」

 

 ぱくぱくと口が動かしている。しかしその桜色の唇から音が出ることは無く、苛立たしいのか彼女は不快げに眉根をよせた。次いでジロリと俺を見る。

 

 

 切りそろえられた前髪、白い肌。影を落とすほどに長い睫毛に弓型の綺麗な眉毛。すっと筋の通った鼻に艶のある唇。

 普段仲間たちのそれぞれ違った美貌を近くで見ている俺からしてみても、恐ろしいほどに整った容姿だと思った。

 中でも湖を囲う黎明と夕日を溶かして流し込んだような、複数の色が混ざり合う赤い瞳はそこそこ距離があるってのに間近で見ているかのように鮮明で鮮烈で、黒と白の中で映える色が印象的だった。

 

 

 人形のような少女だ。

 それが夢の主である俺を差し置いて、この場の主人だとばかりに足を組んでふんぞり返っている。

 

 

(中学生……? いや、高校生か?)

 

 容姿に気を取られたが、よく見ればその服装は黒いセーラー服だ。

 靴も靴下もはいていないようで、素足で組まれた脚を見ているといけないものを見ている気分になる。

 ……多分だけど、この世界に来た時の俺と同い年くらいではなかろうか。

 

「あの~」

 

 特に話しかける内容も決まっていないのに口を開いたから、その後が続かない。

 どうしたもんかと思ったが、これ夢だしなと気楽に構えることにした。

 

「マジで綺麗だな……」

 

 しげしげと眺めて呟く。特徴として容姿以外で目立つのは、頭に添えられた小さな王冠だろうか。

 セーラー服に王冠なんて不釣り合いに見えそうなのに、その場にあるのが当然のようにしっくりきている。

 

 そうして呑気に観察していた俺だったのだが……ふと瞬いたら、目の前に紅が迫っていた。

 

「え?」

 

 同時に襲い来る衝撃。

 

「がっ!?」

 

 ものすごい力で肩を掴まれて水の上に押し倒されたと分かったのは、少女の美貌と空を見上げてからだった。

 

 体が水に沈むことは無いが、ぎりぎりと掴まれている肩が痛い。

 爪も食い込んでいるようで、傷ついた肌から滲んだ血が俺の白い服を汚した。

 

(おいおいおい、マジかよ! 俺の体を傷つけられる奴、そうそういねぇぞ!? あと、速っ!?)

 

 痛みがリアルすぎて夢だという事を一瞬忘れる。

 いや夢かこれ!? 疑わしくなってきた!

 

 瞬きの間に俺に近づいて、そのまま押し倒し拘束している。それを今の俺相手にやってのけるのが、いかに難しい事か。夢とはいえ魔王以外では久しくこんな緊迫感を味わったことがなく、ぶわっと汗が噴き出した。

 少女は端正な容姿を歪めて俺に何かを叫んでいるが、先ほどと変わらず声が聞こえない。

 

「こ……のっ」

 

 いよいよ痛くて反撃を試みようと体に力をこめたが……俺が反撃する前に、ぼたっと顔になにか冷たいものが落ちてきた。

 夢の中で初めて感じた明確な温度に、体がビクッと硬直する。

 

 しかも……。ええー!?

 

(そ、それは反則だろ!)

 

 そう、反則だ。

 

 眉間にこれでもかと皺が寄っているし、歯は剥き出しで眼もきつく吊り上がっている。そんな鬼のような壮絶な表情を浮かべているくせに……少女はぼろぼろと涙をこぼしていた。

 女の子に泣かれるとどうしていいか分からなくなる。

 掴まれている肩は痛いけど、反撃する気分がしょぼしょぼと小さくなった。

 

 つーかそんなに水分出して大丈夫か!? ってくらい出てるんだが。涙ってこんなに出るものだっけ。

 

 ……ここは、あれだな。

 

 俺ってもう年齢的にはイケてるナイスガイだし? 成人してるし? 未成年の恐慌を優しく受け止めてなだめるくらい、こうさ。できるし? お兄さんだからな!

 

「ふっ、お嬢さん。一体何を泣いているんだい? よければ僕に話してごらん」

 

 出来るだけ優しい声色を心掛けて話しかけてみる。イメージしているのはアシュレだ。なんかちょっと違う気もするけど、まあまあいい感じじゃないか? ふふん。

 

「」

「うひっ!?」

 

 歯をむいて威嚇された。え、今の駄目だった!? ちょっと待って、やり直しさせてくんない!?

 

 なだめるどころか火に油を注いでしまった感が強く慌てるが……その時。少女の頭が何かに引っ張られるようにぐんっと上向いた。

 そのまま少女の体ごと何かに引っ張られて浮き上がり、どんどん遠ざかっていく。そして彼女はドカッとなかなか大きめの音を立てながら……もといた瓦礫へ叩きつけられるように座らされた。

 

 ……自分の髪の毛に。

 

「」

 

 あ、今のは分かった。クソッって言ったぞあの子! 口の動きでわかる。

 

 俺はじくじく痛む肩を押さえながらゆっくり身を起こす。

 これが本当に夢なのか分からず不安になるが、その前に奇怪な動きをした少女を窺った。

 

 見た所あの子は今、廃墟に巡らされた自分の髪の毛に引っ張られた様子だった。まるで生き物みたいに蠢いた髪が彼女を引っ張ったのだ。

 普通あんな長い髪の毛あるはずないもんな……実は髪じゃない、とか?

 

 ……あ、こっち見た。

 

 先ほどは不機嫌そうに俺を見ていたし、その後は憎々し気とまで言える目つきで俺を押し倒した少女。

 だってのに、今度はしばらく俺を眺めた後……ぽかんと目を見開いて、しばし考え込み……ぽんっと手を打った。

 次に浮かべた表情は、(あで)やかな微笑。

 

「……っ」

 

 それがあんまりにも綺麗で、さっきあんな目にあわされたのに心臓が脈打つ。『チョロさの化身なの?』とかいう魔王の幻聴が聞こえたような気がするが、気のせいだ気のせい。ここに今あいつはいねぇ。

 

 しかもあの綺麗な子、来い来いとばかりに手招くではないか。

 

 俺は操られたようにふらふらと、少女に向かって歩みだす。

 歩調に合わせるように胸の鼓動も早くなっていった。

 

 そして目の前まで来た俺に向かって、少女はふわりと笑って手を差し出した。

 ぼや~っと霞む様な思考の中で俺はその手を掴み、そして……。

 

 

 

 

「!!」

 

 

 

 

 バネ仕掛けの人形のように飛び起きた俺は、キョロキョロと周りを見回した。

 そこには湖も廃墟も無くて、なんの変哲もない宿屋の一室があるのみ。

 俺が乗っているのも水ではなく簡素なベッドだ。

 

『どうかした?』

「あ、魔王……」

 

 脳内に響いた声でようやくここが現実だと認識する。いや待てこいつの声で認識するのなんなんだよ。

 ……ん? というか。

 

「お前、声かわった?」

 

 寝ぼけた頭がストレートに感じた疑問を口に出させる。

 

 そう、ずっとノイズ交じりの機械音声のようだった魔王の声が……明らかにクリアになっていた。

 しかもその声は思っていたより高い。ソプラノボイス? に、似合わねぇ~~~~!

 

 とかなんとか思っていたら、寝起きに魔王はとんでもないことを告げてきやがった。

 

『ああ、これ? ふふ……それはね。君のメス堕ちポイントが溜まって、職業階級(クラスステージ)がひとつ上がったからさ』

「はぁ!?」

 

 寝ぼけていた頭が一気に覚醒する。

 

 いやいやいやいやいや! 早すぎるだろいくら何でも!!

 他の職業でもさすがに一日でクラスアップとかこれまでなかったぞ!?

 

『あれだけポンポン溜まってたら当然だと思うけどね。……ああそれで、僕の声? これは君と呪いの結びつきが強くなったからだ。それはつまり僕とのつながりも強くなったと、そういうことでもあるからね。まあ御覧の通り、弱体化した僕の魂ではこの姿が精一杯出来る自己表現なのだけど。君意外には見えないし、疲れると消えちゃうし』

「姿って……」

 

 嫌な予感がしていると、視界の隅に黒いものが映る。

 ……おそるおそる見下ろせば、そこに見えたのは艶やかな黒髪のつむじ。

 

「ぎゃ!?」

『あっはは。驚いた? 驚いたぁ? でもこの美しい顔を見ておいて「ぎゃ」は無いんじゃないかな。賞賛の言葉を述べてくれても構わないよ』

 

 愉快そうに笑っているのは十歳にも満たないだろう容姿の男の子。生身でないことは半透明の体が実証している。

 耳のあたりで切りそろえられた艶のある黒髪をさらりと耳にかけながら、子供の口からはムカつくあの声が吐き出されていた。

 

「お、おま、おまえ」

『この姿を見るのは僕も久しぶりだよ。なんといったって、前世の姿だもの。……少々若すぎるけどね』

 

 どこかいい学校の制服のような黒いシャツにベスト、タイに半ズボン。それを身に纏っている抜群に顔の良いショタガキが魔王の前世の姿!?

 若いって事は本来もっと年上なんだろうが、この容姿ならよほど崩れない限りモデル並みのイケメンになることしか想像できない。

 

 あんなに性格悪いのに、顔がこれかよ!?

 

「ふ、不公平……」

『世の中は常に不公平だよ。公平だったことなんて、あるの? ふふ』

 

 少し泣きそうになりながらぎりぎり歯を食いしばるも、魔王は涼やかに笑うのみだ。

 視覚情報が追加された分余計にムカつくなぁ! おい!!

 

『ところでさぁ。飛び起きたようだけど、変な夢でも見た?』

 

 そう言って魔王はいっそう笑みを深めるが、俺は目の前のクソガキやらメス堕ちポイントが溜まって女に近づいたことやらがどうでもよくなるほど……夢を思い出して顔が熱くなった。

 

『…………ん?』

 

 その様子に魔王が首をかしげる。

 しかし俺はそれに構わず、芽生えたばかりの感情を口にしたくてしょうがなかった。

 

 

 

「俺、好きな子が出来ちゃったかも……!」

『はい?』

 

 

 

 それまでこまっしゃくれたクソじゃりだった魔王が、心底驚いた顔をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔王の驚いた顔。それを見て気分を良くした俺は、感情を怒涛の如く垂れ流し始めた。

 早朝なのにテンションは深夜のそれである。

 でもたった今見た夢の感想を、すぐに語れる相手が目の前に居るんだぞ。これが黙っていられようか。もうその相手が魔王でも何でもいい。とにかく今すぐ語りたい!

 

「あのさあのさ、今すっげーはっきりした夢を見てたんだけどさ!! めちゃくちゃ綺麗な子が出てきたんだよ! なんかすげぇ怖かったんだけどその百倍すげぇ綺麗で可愛くて、なんかこう……心臓を鷲掴みにされるってああいう事を言うんだろうなって……! マジ、目が離せなかった」

 

 思い出すと体と顔がぽっぽと熱くなってくる。

 攻撃? されたり睨まれたり泣かれたりしたけど、俺の中に鮮烈に残っている感情はけしてマイナスなものではなかった。

 夢の中では呆けていたけど、目覚めた今……抱く感情を強く自覚する。

 目覚める直前。彼女の手をとったとき、俺は確かに胸の高鳴りを自覚した。

 

「ちょ」

「でさ、でさ! 笑った顔が可愛くてぇ! その前は泣いてたんだけど、俺に笑いかけてくれてさー! ……はっ! あれ、もしかして泣いてたのは……あれか!? 俺に何か助けを求めて、テレパシー的なものを送ってきたから、とか!? 夢だけど夢じゃなかったパターンのやつ!? だよな、あんなハッキリしてて痛みまで感じて意味深な夢がただの夢なわけが無い! つまりワンチャン、あの子は現実に存在する可能性がある!! ヤベー! テンション上がってきたー! うんうん、この世界なら十分ありえる! 存在自体が不思議の塊だし! でさ! その子、俺の世界の制服着てたんだ。セーラー服! 俺と同じ転移者か? 髪だけど髪じゃない何かに捕まってたっぽいし、これは同郷の俺に助けを求めてんだよきっと!」

『うざいうるさい。話に中身がない。うざい黙れ。うざい妄想キモイ。うざい』

「そこまで言う?」

 

 思った以上に手痛く叩き落された。今うざいって何回言われた!?

 無駄に顔の良いビジュアルがくっついた分、声だけの時よりダメージデカいんだが。

 

『というか、君さ。昨日……青髪の女騎士に告白されたばかりだよね。あと、白髪の有翼族。そんな時に夢で見た見知らぬ女を好きになったってぬかすんだ? ふ~ん?』

「そ、それは」

 

 正論をつきつけられて、熱に浮かされていた思考がだんだんクリアになっていく。

 けど心はあの赤い瞳に捕らわれたままだ。それほどに彼女の印象は鮮烈だった。

 

 俺はアシュレに告白してもらって嬉しかったし、シャティもその言動全てに関する感想はともかく好かれていたと知って嬉しかった。俺も彼女達が好きだから。

 でも、でもでもでも! 

 

「す、…………好きになっちゃったんだからしょうがないだろぉッ! 恋ってそういうもんだ!」

 

 なんとか絞り出した言葉は、我ながらあまりにもお粗末で陳腐な内容だった。羞恥で顔に熱が集まる。

 だけど告白されてめちゃくちゃ嬉しかったのも本当だし、夢で見た女の子に一目惚れしたのも本当だし……ああもう!

 

 俺は今寝ぼけているが、寝ぼけているからこそ嘘もつけない。

 

「お、俺はなぁッ! 女の子が大好きなんだよ! いちゃいちゃしたすぎて望みが反転したら女になるくらいに! それはお前も良くわかってんだろうが呪い主! だからあんな綺麗で可愛い子、しかも泣き顔と笑顔を両方見て手まで握られちゃったら……好きになっちまうっつーの!」

 

 ………………。

 がぁぁッ! 自分で言っててなんだけど、俺今一切胸を張れない事言ってる!!

 

 これはまた何か言われるなと身構えた俺だったのだが……。

 

 

『…………。そんなに綺麗だった? 可愛かった?』

「え?」

 

 

 ど、どうしたんだ?

 絶対にさっきの倍以上の罵倒、もしくはからかいの言葉が返ってくると思ってたのに。

 投げられたのは問いかけだ。

 

「うん。綺麗だし、可愛かった」

 

 俺もまだ寝ぼけているのもあって、問いには素直に答えてしまった。

 すると魔王はしばし沈黙した後……にんまりと笑った。

 

『へ~ぇ。ふぅ~ん。ほ~う。そうか、そうか。そうなんだ。あれだけの美女と美少女に囲まれている君から見ても、そんなに素晴らしかったんだ。へ~え。そうかい、そうかい。一目惚れするくらいに…………ねぇ。ふ~ん』

「な、なんだよ」

 

 妙に上機嫌だなこいつ……。気味悪い。

 

『ところで何か気づくことはない?』

「気づくこと……?」

 

 職業階級(クラスステージ)がひとつあがった事についてか? 急に話題変えるなぁ、こいつ。

 そう言われても体に特に変化は見られない。……いや、これ以上変化されても困るからいいんだが。

 

 自分の体を見下ろしていた俺に、魔王の奴が眉根を寄せた。

 

『ちがうちがう。そっちじゃなくて、こっち』

「お前?」

 

 不機嫌そうに自分を指差した魔王。

 気づいたことって……ただただあの化け物がこんな美少年姿で実体化しやがった事が腹立たしいくらいで、あとは別に。

 

『…………』

 

 首を傾げる俺に魔王は更にむっとした顔で、なにやらごそごそポケットを漁りだした。

 そして取り出したものを頭に乗せてむんっと胸を張る。

 

「は? なんだよ王冠? 魔王様のにしちゃしょぼいな。手作りかぁ~?」

『…………』

 

 ぷっと噴き出しながら魔王が頭に乗せたおもちゃのような王冠を小突く。すりぬけて触れこそしないが、小さいし薄そうだし、全体的にしょぼい。

 昨日からさんざんからかってくれた魔王が面白いくらい不機嫌さを増す。お~? なんだなんだ、怒ったか?

 

 俺がニヤニヤ笑っていると、今度はずいっと顔を近づけてきた。

 

「おわ!? な、なんだよ」

 

 無表情な顔の良い子供。無言でぐいぐい迫られると顔がいい分ホラーじみてて怖いんだけど。

 手を前に伸ばしてもすり抜けてしまうので、奴の顔を見るしか出来なくなる。これもう幽霊と変わんないっていうか幽霊だな。

 

 …………にしても、こいつの顔ほんっと嫌になるくらい整ってるな。

 

 黒っぽく見えたけど、目の色はよくよく見ると濃い赤のようだ。微妙に赤に紫っぽいのが混じってる感じ? けどなんかこう、ハイライトが無くて暗い色だ。

 珍しい色してるけどなんか全体的に濁ってんなぁ。まあ魔王だもんな。

 

 まじまじ魔王の顔を観察していた俺だったが、時間の経過と同時に魔王の顔がどんどん不機嫌に染まっていく。

 

『チッ』

「なんで俺が舌打ちされるんだよ!?」

 

 ついには盛大な舌打ちをくらわされた。

 すかさず文句を述べるが、魔王は顔をしかめるばかりだ。

 

『自分で考えたら? ……あのさ。僕って鈍感系主人公とか嫌いなんだよね。縊り殺したくなる』

「は? なんで急にサブカル談義? ええ~。俺は鈍感主人公結構好きだけど? だってその分、恋が叶うまでの焦れったい様子をたくさん見れるじゃん。俺、付き合ってからより付き合うまでのじりじりした過程を見るの好きなんだよな~」

『はぁぁ? 今さ、そういう話じゃないんだよね』

「ええ……?」

 

 魔王の情緒がわからねぇ……。

 ただでさえムカつく奴なのにこれ以上面倒くさくなるのとか勘弁しろよ。情緒不安定か? 幽霊が?

 

『……まあいいや。じゃ、僕は消えておくよ鈍感くん。賑やかな子が来たからね』

 

 言うなり、少年姿の魔王は空気に溶けるように姿を消した。

 

「え、おい。俺が鈍感ってなんだよ」

 

 突然妙な行動をして突然消えやがった……。どうせ俺の中には居るんだが。

 どうも不完全燃焼な気分だが、ドアをノックする音が聞こえて気を取り直す。

 やべーやべー。俺、このままじゃ独り言しゃべりまくってるヤバい奴! ……聞かれてなかったかな?

 

 

「ミサオ様、起きてらっしゃいますか~?」

「ああ、起きてるよー」

 

 

 シャティだ。

 起きてるか確認されたってことは、今の独り言は聞かれなかったみたいだな。よかった。

 

 ……とりあえず、夢で見た女の子の事は胸にしまっておくか。

 淡い恋心は大事にしたいし彼女が本当に俺の想像通り実在する人間なのかも確かめたいが、まずは自分の事を整えないと何も行動できない。

 

 

 

 

「……はぁ」

 

 

 

 現状を思い出したら、ため息しかでねぇ。

 見下ろせば、胸にくっついた二つの山は一晩寝ても変わらずそこに鎮座している。

 

 

 

 

 女になってから二日目の朝が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




【おまけ】
※作者絵注意

謎の()少女

【挿絵表示】


2023.12.12>>加筆修正
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