メス堕ちしたくない俺の苦難八割TSチートハーレム記   作:丸焼きどらごん

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二章
17話▶賢者の住居を目指して~俺のチートハーレム記、始動!


 

■ ■ ■

 

 

 今日から男に戻るまでの記録として手記を残そうと思う。

 

 というのも、脳内でいつも魔王の野郎がうるさくて頭の中だけでは考えが纏まりにくいからだ。心底迷惑な奴である。

 今も横から茶々を入れてきているが、この白紙上は俺だけのもの。邪魔者もこの手記には介入できないのだ。

 

 内容として記していくのは今後の目標と、それを達成するために何をするかという予定。

 そういった記録を残し途中で振り返るなどしていけば、流されっぱなしになることはないはず。俺は成長するのだ。

 

 手記のタイトルは、そうだな。

 

 

 俺のチートハーレム記!

 

 

 

 これでいこう。

 

 魔王がセンス無いだの欲望丸出しだの言ってくるが、俺としてはこれ以上のタイトルは無い。

 元居た世界に帰れなくなったんだ。だったらその代わりに、とびきり楽しい人生送ったっていいだろう。

 チートはある。今の状態はハーレムと言えなくもない。唯一のネックは今の俺の状態異常もとい職業(クラス)もとい呪い。つまり呪いさえなんとかすれば、俺には薔薇色の未来が待っているというわけだ。

 

 メス堕ちなんぞ誰がするか。俺は絶対男に戻ってやるからな。

 でもって俺と、俺の事好きになってくれた女の子も全員幸せにしてハッピーエンドだ!

 

 とにもかくにもそのためにも、現在は知恵を借りようと世界一と名高い賢者の元へ向かっている。

 以前は俺に元の世界へは帰れないという事実を突きつけ絶望させてくれたが、その実力や功績は本物。今度こそいいアドバイスがもらえることを祈っているぜ。

 

 

 

 

 

【俺のチートハーレム記 1ページ目の記録より】

 

 

 

 

■ ■ ■

 

 

 

 

 

 

 

 

 青空の下、遠くまで広がる濃い緑の森。それを真っ二つに割っているのは、底の見えない大渓谷だ。

 ここも賢者の元へ向かう道中の一つである。

 

 魔王に呪われ妙な職業(クラス)を取得した俺は、どうにかそれを剥がせないかと、かつて尋ねた賢者に知恵を借りるべくその住居へ向かっていた。

 ……このくだりは後で手記に記録しておこう。

 文章書くの慣れなさ過ぎて、まだほとんど白紙だけど。

 

 

 ちなみに仲間達だが、俺の「男に戻りたい!」という希望については手伝ってくれる様子なんだが……。

 明確に協力を申し出てくれたのはアシュレだけで、シャティあたりは協力はしてくれるが積極的に俺のメス堕ちポイントを溜めてこようとしている節がひしひし感じられる。直で「女の子になった方が楽しいですよ?」とかも言われたし。

 ガーネッタも同様で、彼女については性別そのものにこだわりが無いようだ。「性別ってそんな気にすることかい? 交わった時に子供が出来るか出来ないかくらいの違いだろう」「私は愛すれば女でも男でも抱くよ?」と言い切られてしまい、自分の常識ごとちゃぶ台返しされた気分だった。さすがハーレム主の先輩である。

 モモはもともと男という存在が苦手だからか、俺が女になった事でスキンシップ出来るようになったのが単純に嬉しいらしい。嬉しいけど嬉しくない。複雑。

 

 

 ……あれ。

 よくよく考えなくても、俺が女になった事を重要視している仲間が一人もいない!?

 

 

 アシュレについても彼女としては、こう。精神的なつながりを重視しているというか……。

 俺が望むなら男に戻るための協力はするが、女のままでも愛してくれるってスタンスのようで。つまり極論、男じゃなくてもいいってことだ。

 俺そのものを愛してくれてるって状況は贅沢なんだけど、それでもこう……やっぱり複雑だよ!!

 

 

『だからさっさとメス堕ちした方が楽だって。むしろお得?』

(黙れよこの悪魔が)

『悪魔っていうか、魔王なんだけどね。元。……でも君さぁ、悪魔って表現するということは、僕の発言を甘言と認識しているってことだろう? 悪魔のささやきってやつ。こうして見ていると君の場合、僕の言葉など無くとも耐えるだけ無駄だと思うけどね。一年かからず堕ちるんじゃないか?』

(堕ちてたまるか!)

『たった一日で職業階級(クラスステージ)をあげた奴が良く言うよ』

(ここ数週間は耐えられてる!)

『一日目に比べれば、だろ。着実にポイントはたまっている』

(うぐぐぐぐ……!)

 

 否定できずその発散も出来ず、俺はただただ鼻息を荒くしつつ仲間達の先頭をずんずん歩く。

 

(つーかさぁ! 普通、メス堕ちって言ったら男にどうこうされてするもんじゃねえのかよ!? そっちは普通にあり得ないって言えるのに、女の子まで範疇に入ったら俺的TS唯一のお得ポイントである百合なお楽しみも出来ねぇのは詐欺だろ!)

『受け入れたらすぐに出来るよ?』

(それが出来ないから嘆いてんだっつの!!)

『ところでミサオ。君、この世界に来る前は十六歳だったはずだよね? 【職業:女神(アークレディ)】のことをエロゲっぽいとか言ったりメス堕ち展開の作品を良く知ってるっぽかったり……隠れてR十八作品見てたでしょ』

(!!)

『……うわ、すけべ』

(あーあーあーあーあー!! やーめーろーーーーーー!!!!)

 

 こいつには頭の中身筒抜けだから俺が見てきた作品全部知られちまう! やめろ質問するな考えちゃうからぁぁぁぁッ!!

 

 

 俺はこうして頭の中の絶叫を隠すべく、日々無駄に表情筋だけが鍛えられていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、もう端まで来たか。あとちょっとだな」

 

 魔王の相手に疲弊しつつも、目的地までの道中はなんだかんだ順調である。

 

 俺達が現在向かう先。そこは鋭角に地の底へと続く断崖だが……宙に足を踏み出した途端、ぐるりと重力が回転し俺は崖の側面を踏みしめた。今はこちらが地面なのだ。

 

「断崖都市へ行くのは久しぶりですね」

 

 一人だけぱさぱさと翼を動かし宙を移動していたシャティも、断崖エリアに入れば体の方向が九十度変化する。

 

 

 

 断崖都市ベテルキクス。

 そう呼ばれるエリアがこの大渓谷の中ほどに存在しており、都市へ続く道はこうして崖を歩けるように魔術が施されているのだ。

 

 

 

「ああ。あそこならきっと、今のミサオにもいい装備が揃う」

「ついでにその姿での冒険者登録もしておいた方がいいね。冒険者証が使えないのは不便だろう?」

「あー……。まあな」

 

 賢者の元へたどり着くためには徒歩でいくつかのポイントを通過しなければならないが、ベテルキクスもそのひとつである。充実した商業施設もそろっているので、この体に合わせた装備や服を見繕うつもりだ。

 

 ……ちなみにここ数週間、俺は着替えてないし風呂にも入ってない。

 

 汚いというなかれ。一応体は最低限の清潔さを保っている。

 シャティが使える魔術に身を清潔に保つものがあるから、現在それに頼りきりだ。本来ダンジョンへ潜った時などの緊急用なんだけどな。

 

 性別の変化した体。

 一日目は混乱が勝ったが、いざ冷静になって向き合うと、そうそう慣れるものではない。

 

 トイレは流石に我慢できないけど、まあ見なくてもギリギリ用を足せる……ようになった。

 だが着替えをすればもろに自分の体を直視しなければならない。せめて新しい服を買うまでは! と言い訳して、俺はまだ自分の体のありようから目を背けている。

 

『いくら便利な魔術があるからって、本当に意気地なしだねぇ君。受け入れなよ情けない』

(お前が居る前で着替えたくないってのもあるんだよ! 変に実体化なんか出来るようになるもんだから視線が気になるっつの!)

『気にしなくていいのに。僕は君なんかよりよほど見慣れているから、ミサオの裸を見ても何も感じないよ』

(唐突に自慢された。何、俺と違って女に困ってないって!? おうおうおう、言うじゃねぇか!)

『涙目で凄まれても可哀そうになるだけなんだけど。……自慢でなくてただの事実だよ。心が狭いね、英雄くん』

 

 

 ……この調子だから、柄にもなく手記なんてもの書き始めたんだ! いっつもうるさくてかなわねぇ!

 

 

 それに気にするなと言われても、まだ俺にとってこの体は他人みたいなものなんだ。

 裸を見られそうになった時、必要以上に隠すのも見知らぬ女の子が裸を見られている気分になって。……こう、申し訳ないというか、すわりが悪い。

 

(うう……でも着替え買ったら、いよいよ着替えなきゃな……)

 

 そう。いつまでも先延ばしには出来ないのだ。

 

 

 

 俺は深く長いため息を吐き出しながら、暗い崖底を背景に燦然と生活の明かりを燈している断崖都市を眺めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




2023.12.18>>加筆修正

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