メス堕ちしたくない俺の苦難八割TSチートハーレム記   作:丸焼きどらごん

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19話▶断崖都市~俺は下着イベントから逃げました

 

 

■ ■ ■

 

 

 せっかく手記をつけはじめたのだ。これからは訪れた場所の記録もつけて、俺だけの冒険の書にしよう。

 今までそんな余裕が無かったとはいえ、記録を残していなかったことは残念に思う。

 けっこういろんな場所冒険したのにな。

 まあそれはこれから記録していけばいいだけの事だ。

 

 今日訪れた場所は断崖都市ベテルキクス。

 リオーン大渓谷の中にある大都市だ。

 

 中というのは文字通り、中。

 渓谷を降りていくと、岩肌にぽっかり口をあけている。

 

 土妖精(ノーム)の魔術により歩けるようになった崖を垂直に下って行くと、暗がりの中に燦然と明かりがともる場所が見えてくる。

 それは俺が元居た世界の大都市の夜景に引けを取らない、と思う。こちらは全部魔法石による明かりなのだが。

 

 赤、オレンジ、紫、緑、青と光の色は様々。

 全体的に夕方か夜みたいに暗いし地形も複雑だから、始めはよく迷ったものだ。

 

 ここは遠くから見ると大きな竜が口を開けているようにも見える。

 魔法石の明かりはその上あごにもずらりと並ぶが、なんとそこにも人が住んでいるのだ。

 崖と同じく土妖精による魔術で重力が反転しているらしい。

 上部と下部は巨大な植物の根を利用した道で繋がれている。

 そんな地形なものだから、一度迷ったら本当に何処にいるか分からなくなるんだよな。

 

 最初に来た時は崖を歩きで降りられるなんて思わなかったし、こんな場所に人が住んでいるとも思わなかったから驚いた。

 ここにもともと住んでいる住民は土妖精とドワーフがほとんど。

 彼らの集落に迷宮(ダンジョン)攻略目当ての他種族が寄り集まって発展した場所なのだとシャティが教えてくれた。

 

 そうそう。ここ、迷宮(ダンジョン)もあるんだよな。けっこうデカめの。

 

 先を急ぎたいしまだ金に余裕はあるから今回は寄らないつもりだが、珍しい鉱石が迷宮魔物からドロップするから結構楽しい。

 その鉱石を持ってドワーフの工房を訪ねると、面白いものを作ってもらえるのだ。

 

 

 そんな街での目的は賢者の元へ行くためのポイントの通過と、俺の着替え及び装備調達。

 加えてこの姿での再冒険者登録だ。冒険者証、便利だから無いと不便だし。

 

 さて宿もとったし、これからそれらもろもろの用事をすませに出発だ。

 残りの記録は帰ってきてから。

 

 シャティが妙に張り切っているが、間違っても女の子女の子した服を買わされないよう頑張ろう。

 

 

 

 

 

【俺のチートハーレム記、○ページ目の記録より】

 

 

■ ■ ■

 

 

 

 

 

 

 

 そこかしこから賑やかな音楽が聞こえ、人々の喜びの声が満ちている。

 祭りの様相を呈した有様はここに来るまでの町、村、集落と同じで、ここでは人口も多いからか魔王討伐から数週間経った今でも喜びの宴は続いているようだ。

 なんの宴かって、当然それは厄災の魔王が倒されたことを祝うもの。

 誰が倒したかなんてみんな知らないが、やはり黒星草が枯れたことで厄災の魔王が居なくなったことだけは知れ渡っているらしい。

 

 こういうの見てるとさして使命感も正義感が強くない俺でも「ああ、戦って良かったな」って思うんだけど……。

 その魔王が俺の中に居るとか口が裂けても言えないぜ。

 

 

 

 

「ふぅ……。えらいめにあったな……。疲れた……」

「ミサオママ、だいじょうぶ?」

 

 賑やかな祭りの様子を見ながらも、出てくるのはため息ばかりだ。

 けど愛娘同然のモモが気遣ってくれたから、疲れながらも顔は自然と笑顔になる。

 

「おー、モモ。大丈夫だぞ~。それより何か食べたいものとかないか? パパがなんでも買ってやるからな! パパが」

『もとの君の見た目だったら軽く通報ものだよね、その発言』

(お前からの俺の元の姿評価、そんななの!?)

『もとの君、無駄にデカいしガタイがいいからその子と並ぶと犯罪者じみてるんだよ。なにより表情がデレデレで犯罪者臭すごい』

 

 道なりに並ぶ出店を見ながら隣を歩くモモに「パパ」を強調して話していると、魔王野郎から不当な評価を下される。

 魔王に犯罪者臭すごいって言われるのなんなんだよ! マジ遺憾の意。

 

 現在俺はモモと二人でベテルキクスの繁華街を歩いていた。

 ……というのも、俺がシャティとアシュレから逃げてきたからだ。

 

 

 

 

 遡る事、数十分前。

 

 

 

 

 町に入って宿の確保だけすると、俺達はさっそく買い物へ行く運びとなった。

 ……その買い物が初手から俺にとって試練すぎたわけだが。

 

「わたくし、ず~っと我慢していたのです。覚悟なさいませ、ミサオ様っ!」

「へ?」

 

 シャティにそう言われ腕をがっちりホールドされたと思ったら、反対側をアシュレにもかためられ……連れていかれたのは下着屋だった。

 

 俺は当然大絶叫した。

 

「い、いいってば! 俺はこのまんまでいいってばぁぁぁぁッ!! まだそこまで心の準備が出来ていないって! せめて他の装備からでもいいじゃんっ!」

「ダメです」

「駄目だよ」

 

 ばっさり却下された。

 

「ミサオ様、何週間わたくしの清浄魔術に頼りっきりでした? それはそれでかまわないのですが、着替えとなれば話は別です。特に下着! もう、もうもうもう! 女の子なんですからちゃんとしなくちゃダメですよぅ!」

「女の子じゃないし!」

「心はどうあれ体は女の子です」

 

 再度ばっさり言われた。

 やめて。俺の心はもう赤ゲージだよ。

 

 一応、あれだ。ノーブラは流石に俺もまずいと思って(俺だったらノーブラの女が居たら絶対見る)適当な胸鎧をつけて誤魔化していた。けどシャティとアシュレにしてみれば、それがどうしても気になっていたらしい。

 俺の気持ちを考えてここまで我慢してくれたのが彼女らの慈悲だぞとガーネッタに言われてしまったけど、その慈悲もっと継続してもらいたかった。

 どうか。どうかお慈悲を……!

 

「せっかく綺麗な形をしていますのに、そのままでは垂れて形が崩れます! ミサオ様のお胸元は大きいのですから特にですよ!」

「ミサオ。鎧では下着の代わりにならないよ」

 

 彼女たちの攻めの姿勢は変わらない。

 俺もなんとか抵抗を試みようと口を開くが……。

 

「でも、その! まだぬぐ覚悟が」

「ご安心召されませ。ミサオ様が脱げないなら、わたくしが脱がせます! まず大きさをちゃんと計らねばなりませんしね!」

「ぅえ!?」

 

 藪蛇った。

 

「アシュレ、押さえていてください」

「承知した。ごめんね、ミサオ。でも清浄魔術も万能ではないし、汚れは少しずつ溜まっているんだ。……言っては悪いが、流石に少し臭いも、ね。清潔にしなければ君の健康にも悪い。なに、一度脱いでしまえば慣れるものさ」

「それは最近モモがちょっと距離とってたから俺も気にしてたけど! でもお願い待って待って待って!」

「待ちません。ふふふふふふふふ。ベテルキクスは色んな職人が居ますからね! 下着のワイヤーの加工もこの辺では随一です! 草原都市フロキオンとの交易も盛んですから、良い布も揃っています! ミサオ様の体にぴったりの素晴らしい下着を作ってもらいましょう! 店員のお姉さま、よろしくお願いいたしますわ! 金に糸目はつけません!」

「かしこまりました」

 

 鼻息荒いシャティと、ほがらかな笑顔なのに有無を言わせない雰囲気でしっかり俺の脇を押さえるアシュレ。

 そして上客を見つけたとばかりに、にっこにこの店員。

 

 

 

 そんな女性陣に囲まれた俺は……逃げた。

 

 

 

 魔王を前にしても一歩も引かなかった俺でも下着屋には敵わなかったのである。

 短距離転移魔術まで使って本気で逃げたわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなでの現在である。

 

「いずれは向き合うにしても、なぁ。心の準備もしたいし、先に冒険者ギルトだ、冒険者ギルド」

『心の準備はたっぷり数週間あったと思うのだけどね』

(うっせ! そうだけど……あの迫力でこられたら、普通に怖いんだよ!)

『僕、これ言うべきかな。やぁい、ざぁこざぁこ♥ へたれの英雄くん情けない♥』

(このショタガキがよ! ぐうの音もでねぇのがクソ腹立つな!! ちくしょうっ!)

 

 魔王の煽りにやめればいいのに反応してしまう俺は、現在モモと共にベテルキクスの冒険者ギルドへと向かっていた。

 

 何故モモが居るかといえば、下着屋から逃げ出した俺を真っ先に見つけたのがこの子なのだ。

 もとから優れている抜群の感知能力を遺憾なく発揮したモモだったが、特段連れ戻す気は無いようなので一緒に行動している。

 ……見つけられたとき「今のミサオママ、臭うからみつけやすかった」と言われて心に致命傷を負ったので、登録が終わったら手ごろな店で着替えを買おうと思う。

 シャティ達に見つかる前に、さくっと。

 

 ちなみにガーネッタだが、家族へ土産を買いたいからと下着屋へ行く前から別行動中である。なんでも旦那さんの一人がベテルキクス特産の酒が好きなんだそうな。

 ここデカい都市だからガルーダ便があるんだよな。買い物して、それをそのまま送りたいんだろう。

 

 

「お、あったあった」

 

 賑わう通りを歩いていると、比較的目立つところに冒険者ギルドを見つけた。

 

 

 …………ふっふっふ。

 実は冒険者の再登録、結構楽しみだったりする。

 

 

 レベルという概念は俺にしか見えないが、この世界にも強さを視覚化できる方法がある。

 その一つが特殊な金属で作られた冒険者証なのだ。

 俺は自分が女になった事を知られたくないけど、冒険者証は無いと不便だから再登録するんだが……。

 このイベントがわくわくしないはずがない。 

 

 だって最初に登録した時と違って、今の俺は最強クラスの冒険者!

 少し前にレベルを確認したらカンストだと思い込んでたレベル余裕で超えてたからな……!

 正直、期待値……大。大・大・大! である。

 

 これは、あれだろ。お約束のあのイベントができるだろ!

 今の俺の見た目なら確実に舐められるだろうから、そこからの……あれを! ぐふふ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、何ぃ!? こんなお嬢ちゃんが黄金(きがね)級だと!?」

 

 

 

 

 

 

 そうそう。例えばこんな……。

 

 ん?

 

 

 

 妄想を膨らませていた俺は、何やらざわついている冒険者ギルドを覗き込んだ。

 ごつい冒険者たちの視線の先に居たのは……この場に似つかわしくない、可憐な意匠の青いドレスを身にまとった女の子。艶やかでふわっとした巻き毛は見事なもので、色も輝かしい金色だから遠目にも目立つ。

 しかも木箱に乗ってようやく受付に届くくらいの、小さな子だ。

 

 ビスクドールってあんな感じだろうか。

 夢で見た少女とはまた違った趣の人形を彷彿とさせる容姿に一瞬見惚れた俺だったのだが。

 

 

 

 

「おーっほっほっほ! 当然の結果よ! ふふん。このルリルちゃん様を、そこいらの凡俗と同列に扱わないでちょうだい!」

 

(あ、変な子だ。関わらんようにしとこ)

 

 

 

 

 秒で関わるという選択肢を放棄した。

 

 これ以上変な奴に関わるのは勘弁だぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 




おまけ

断崖都市イメージ(作者絵)

【挿絵表示】


2023.12.19>>加筆修正

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