メス堕ちしたくない俺の苦難八割TSチートハーレム記   作:丸焼きどらごん

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23話▶︎買い物①~まな板の上の鯉

 年貢の納め時ってこういう時に使う言葉なのかなって、なんとなく考える。

 合ってない気もするし、納めるものは年貢じゃなくて俺の羞恥心なんだけど。

 

「ではミサオ様! 覚悟めされませ!」

「はい……」

 

 現在、俺が居るのは昨日来た下着屋。リターンズである。

 俺の前ではシャティが目を輝かせながら、わきわきと怪しげに手を動かしていた。

 

 なに、そんな楽しい!?

 

 

 

 

 昨日は妙な輩に絡まれたから早々にベテルキクスを出たかったのだが、まだ当初の目的を果たせていないのだからとずるずるここまで引きずられてきたのだ。

 次に逃げたら寝てる間に勝手に測ってヒラヒラでセクシーな下着を買ってくると脅されたので、もう覚悟を決めるしかない。

 せめて、せめてシンプルなものを頼む……!

 

「ふふっ、そう身構えなくても結構ですよ。わたくし共にお任せください」

「は、はぁ」

 

 いい匂いのする店員のお姉さんが完璧な営業スマイルで対応してくれるのだが、俺としてはこの美人に色んなところを計測されちゃうのか? と考えると変にドキドキする。

 

 シャティはといえば「ミサオ様! サイズを測っている間にわたくしがミサオ様にぴったりの下着を選んでおきますからね!」と言って、鼻息荒く店頭に並ぶ色とりどりの下着をあれこれ物色していた。

 最近俺の中にあったシャティの清楚なイメージ、どんどん崩れていて悲しい。

 

 明らかに際どい見た目の物を手に取っているのが見て取れて一瞬顔が引きつったが、シャティの後ろでアシュレが「任せろ」とばかりに笑顔で手を振ってくれたので胸を撫でおろす。

 良かった、ストッパーがいて。きっとアシュレならなんとかしてくれる。

 

 ガーネッタは今日も別行動だが、ついでにいいものあったら買っておいてくれとスリーサイズの書かれたおつかいメモなどを渡された。

 

 あの……たいへん魅惑的なメモなのですが、俺は男なんですけど……!

 せめて俺じゃなくてアシュレかシャティに渡してほしい。そう思ってたら「あんたが選ぶ下着が着てみたいんだけど、選んでくれないのかい?」なんて蠱惑的な笑みで言われてしまったのだ。

 そういうことなら全身全霊でもって俺好みの下着を選ぶしかないじゃない……!! って意気込んだものの、その前に自分のなんだよな……。はぁ……。

 

「では、失礼いたします」

「は、はい。おねしゃす……」

 

 我ながら視線が泳いでいるしきょどっているが、店員のお姉さんは慣れた様子だ。

 いわく。「胸部の下着は出回っていない地域もそれなりにあります。ですから初めて選ぶという方も珍しくありませんし、そう緊張しなくて大丈夫ですよ」とのことらしい。

 フォローしてもらってありがたいような、こそばゆいような……!

 

 ただでさえ今まで足を踏み入れることが無かった、女性もの下着売り場という聖なるフィールド。

 なにも魔術なんてかけられていないのに、デバフ効果を受けているような感覚がすごい。

 う、動けねぇ……!

 

 もといた世界のデパートでも、下着売り場の前を通るときはやましい気持ちが無くとも妙に気恥ずかしく足早に通り過ぎていた俺が、そのど真ん中にいるのだ。

 もうただただ恥ずかしく、まな板の上の鯉となるしかなかった。

 笑えよ。これが魔王を倒した大英雄様の姿だよ。

 

『あっはっは』

(お前が笑うんじゃねぇ!)

『じゃあ誰に向けて言ってるんだい』

(察しろよ! モノローグ的な奴だよ! 実際に誰かに言ってるわけじゃねーよ!)

『ホント、撃てば響くような反応するよねミサオって。太鼓かな?』

(こ、この……!)

 

 あいかわらず、俺の心が休まる瞬間が無い。

 

 

 そして現在の俺の姿だが、さすがに全裸になれとは言われずほっとしたものの……店貸し出しの薄く簡素な服に着替えさせられた。正確に測るため、だそうだ。

 その際は流石に覚悟をきめて自分で脱ごうと思ったんだが、気づけば店員のお姉さんに全部脱がされてたし着替えさせられていた。

 て、テクニシャン!?

 

 

 

 

 もうあとは、成すがまま。

 

 

 

 

 俺は極力心を無にし、採寸が終わるのを待つのであった。

 ……悟りの境地、至ったかもしれん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございました~!」

 

 

 

 

 満面の笑みな店員さんに見送られ、俺はぐったりとした気持ちで持たされた紙袋を見た。

 中には高級下着が綺麗に畳まれ納まっている。

 

 採寸が終わったと思って安心していた俺は甘かった。

 ……そこからが更に大変だったのだ。

 

 

「ではミサオ様、デザインを選びましょう! ちなみにわたくしのおすすめはコレとコレとこれなんですけど……!」

「私はこちらかな。刺繍が美しいのだけど、意外と丈夫で機能性にも優れている。職人在中の店だし、出来合いの物を選ぶだけでなく調整もしてもらった方がいいね」

「ですです! いいですか? ミサオ様。女性冒険者にとって下着は必須と言っても過言ではありません。わたくし達は日常では考えられない激しい動きをするわけでしょう? それだと胸の形が崩れやすいのに加えて、胸が動きを阻害すればそれは戦闘中に大きな隙となります! その可能性を極限まで抑えるために昨今まで発展し、現在も更なる進化を求められているのが女性下着なわけですよ~。下着を侮る者は下着に泣くのです! ……ですから、ちゃぁ~んと。じっくりしっかり、選びましょうねっ♥」

 

 

 そんな調子のシャティとアシュレ、そして店員のお姉さまに挟まれて小一時間ほど下着を選ばされたのだ。

 モモがあまり興味を示さなかったのだけが幸いだろうか。モモにまで下着を選ばれていたら泣く。

 

 ブーイングを受けながらもなんとかボクサータイプのパンツもあつらえてもらったのだが、最後までブラとデザインをそろえたものをと進められて、結局何個かは買わされた。

 え、この布面積少ない奴を俺がはくの……? 嫌だが……!?

 

 しかも。

 

「さ~て、次はお洋服ですわ! 靴も買いましょう!」

「その次は他装備だね。いくら強くても、今のミサオの姿は見ていて心もとない」

「日用品も買い足さないとっ。ですしね。女の子は色々と入り用なんですよぅ、ミ・サ・オ・さ・ま!」

 

 シャティのノリノリ加減が凄い。

 アシュレが実用面でしっかり見繕ってくれると分かったからか、もうシャティの方は完全に自分の趣味嗜好で遊ぶ気満々である。これ、俺の気のせいではないよな……!?

 

 そう。これからまだまだ買い物は続くのだ。

 うええ……。

 

 これが買い物にくっついていくだけならキャッキャと物を選ぶ女の子って可愛いしいくらでもニコニコ見守れるんだけど、選ぶのが俺用の女の子の服だなんだのってのがもう脳みそバグるんだよ。

 

 俺の目が死んでいることに気付いたのか、アシュレが身をかがめて顔を覗き込んでくる。

 

「ミサオ、大丈夫? なんなら休憩をはさむけれど」

「サンキュ……でも早く終わらせたいからがんばる……」

 

 気遣いありがたいが、さっさとすませて宿で休みたい。

 こりゃベテルキクスでもう一泊だな……。思った以上に気力が削れてる。

 

「そう。でも無理はしないでね」

「大丈夫です! もうミサオ様のサイズはこのシャティが隅から隅まで記憶しておりますからね。わたくしに全て任せて、ミサオ様はのんびり構えていてくださいませ!」

「それが心配なんですよねぇ!?」

 

 俺だって出来たらあとは脳死でフラフラついていくだけにしたい。

 だけど放っておいて、妙に女らしい服ばかりチョイスされても困るのだ。

 せめて脱スカートしたい。一応厚手のタイツは履いてるけど、譲ってもらった服をそのまま着てるから俺ここ最近ずっとスカートなんだよ……!

 ズボン! ズボンをくれー!

 

「シャツと下履き。あと上着……かな。小物はベルトも欲しい。それだけでいいから。かさばりそうなもんは無しな」

「んもうっ、ミサオ様ったら。前にも言いましたがミサオ様は磨けば光る原石ですわ! もっとオシャレしましょうよ~」

「いいって! 光らなくていいから俺は! ほ、ほら。あれだよ。シャティ達が可愛くて綺麗なら俺はそれで十分だからさ……おしゃれ服は自分たちの服で選んだら……?」

「それはそれ、これはこれです。モモだってミサオ様の可愛い格好見たいですよね~?」

「あ! しゃ、シャティ! モモに聞くのは卑怯だぞ!」

「……モモ、ミサオママのかわいい姿見たい」

「ほらぁぁぁぁぁぁぁ! もぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

 下着には興味を示さなかったモモが途端に目を輝かせ始めた。

 

 こうなってくると抗えるか色々と怪しい。

 ……俺の戦い(かいもの)はまだまだ始まったばかりのようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




2023.12.22>>加筆修正

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