メス堕ちしたくない俺の苦難八割TSチートハーレム記 作:丸焼きどらごん
断崖都市ベテルキクス。
せり出した崖の内部にあるこの都市だが、外から見た時に最も目立つのは中央に鎮座する大きな扉だろう。
それは
その入り口の左右上下に人々が日々の営みをする居住区があり、前方には大きな貯水湖。
これらがベテルキクスの全貌である。
そのベテルキクスの入り口から最も近い場所に、ひとつの塔が
蟻塚を思わせる作りのそれからは、時折大きな荷物を抱えた有翼人が崖の外へと飛び立っていく。
「これも頼むよ」
「はいよ、任された」
赤髪の魔族ガーネッタが渡した一抱えもある荷物を受け取ったガルーダ便の宅配員は、小気味よい返事と快活な笑顔を返す。
彼の背中にはシャティとはまた違った種類の立派な翼が生えており、近くには荷物を入れる専用の箱が用意されていた。
その大きさは宅配員の倍以上あるのだが、彼ら"ガルーダ一族"はそれを苦にもせず運び世界中を駆ける。
有翼人が一部族、ガルーダ族の宅配便。
大きな都市へ行けばだいたい居を構えている、世界最速の宅配業者である。
ガーネッタは故郷で待つ夫と子供たちへのお土産を見繕い、それをたっぷりの愛情と共に荷物へ詰め込んだ。
彼女は十人いる夫も、十二人の我が子達も皆愛している。
その愛は非常に大きく、人数が増えても色あせることは無い。一人一人が愛おしいのだ。
もし今より愛する対象が増えたとしても、その愛は有り余るほど。
例えばもしミサオが望むなら、それが婿入りでも嫁入りでもガーネッタは受け入れるつもりでいる。
それほどの溢れんばかりの愛を備えているのが、ガーネッタという女なのである。
……だからこそ、彼女は魔王軍へと入った。愛した者達とこの先も共に暮らすために。
そしてその魔王軍を裏切ったのもまた、同じ理由である。
魔王については先の未来は無いと見切りをつけたのだ。
(シャスビスあたりなら現魔王軍の動向も掴んでくれてるだろう)
土産がたっぷり詰まった荷物には手紙が忍ばせてある。
その内容は夫達へのラブレター兼、魔王軍残党の情報を求めるものだった。
魔王軍がほぼ無傷のまま厄災の魔王は倒されたが、弟のように魔王の仇を討とうとする者などほとんど居ないだろう。魔族の多くは切り替えが早く、ドライなのだ。
しかし弟が見せた"召喚"の力を見るに……"噂"の方は本当だったらしい。
だとすれば魔王の敵討ちなど関係なく、妙な動きを見せる者が居たとしてもおかしくない。
そう思い、お土産を送りがてら手紙で夫に軽い探りを入れてもらおうとお願いするつもりなのだ。
厄災の魔王。
その特異な存在に付き従う魔王軍を構成する魔族には、それぞれ思惑がある。
ひとつ。厄災の魔王そのものを魔族の神と考え崇拝する者。
ふたつ。厄災の魔王により世界に滅びが振りまかれた時、助かるために従属する者。
みっつ。厄災の魔王が倒れた時、近しいものにその権能が付与されるという噂を信じて力を狙う者。
大きく分けてこの三つ。
ちなみにガーネッタは二つ目、家族と自身の保身のため魔王の傘下へと加わった者だ。
弟のアルマディオはガーネッタと違い崇拝者の類だが……その中でも少々派閥がわかれる。
純粋に厄災の魔王を魔族の神として崇め敬う者と、若年魔族に多い「最近のひよった魔族と違って世界中から恐れられる魔王様マジかっけー!」勢だ。アルマディオは後者である。
その考えの違いから、同じ崇拝者にも関わらず両者の溝は深い。
そして三つ目の魔王の権能狙いの者達だが……。
(
数週間前の襲撃の際、弟が見せた力。あれは【眷属召喚】という魔王が持っていた権能の一つだ。
ミサオと戦う際はシャティの結界に阻まれて発動されなかった力だが、魔王が何処かを襲撃させるときに用いられていたのを見たことがある。
あれは魔物たちを従属させる力に加えて、自らの魔力を糧に新たに魔物を作り出すことが可能だ。更にはそれを任意の数だけ召喚できる力。
魔族の神と崇める者達がいるだけあって、厄災の魔王の力は性能が破格のものばかりだ。
……弟が行使した力を見る限り、半ば眉唾と思われてきた
違和感があるとすれば「近しいものに」譲渡されるという部分。それが弟アルマディオに譲渡されたというのがどうにも解せない。
幹部とはいえ弟がそれほどに魔王に近しく、信頼されていたとは思えないのだ。
(いや。……あの魔王陛下が近しいと感じる相手などいたのかどうか、そこがまず疑問かもね。みんな同列だったと考えたら、物理的に近くで過ごしていた相手が譲渡相手に選ばれたって可能性もあるか)
ふと厄災の魔王と呼ばれていた者、その孤独について考えるも……今の自分には関係ないなと首を横に振った。
ともかく噂が本当だとするならば、他にも魔王の権能を受け継いだ者が居るかもしれない。有力候補としては幹部たちだろうか。
相手によっては少々厄介である。それが厄災の呪いに連なるような系譜能力であればなおさらだ。
譲渡された権能の種類の全貌は分からないが、魔王が有していた力全てを指すならば可能性は十分あり得る。
(気にしすぎなだけかもしれないが、一応ね)
魔王軍といっても、肝心の魔王が倒れればそれまで。
崇拝者ですら積極的に魔王の仇を討とうなどと考える者は少なく、多くはそれぞれの生活に戻るのだ。その辺の割り切りは良い種族である。
しかし権能を引継ぐ魔王の後釜が居るとなれば話は別。
擁立する者が居ないとも限らない。
現在確認できているのは弟の力のみだが……。権能譲渡の件を考えると、弟本人の「現在は自分が魔王軍の頂点」だという発言にも信憑性が出てくる。
「変にかつがれて調子にのらないといいけど」
そんな懸念を抱きつつ、そういえば婚礼の準備が出来たら迎えに来るなどとミサオに言っていたなと思い出す。
おそらくアルマディオには二度と会いたくないであろうミサオには悪いが、来るならさっさと来てほしいものである。
直接確認出来れば一番手っ取り早いのだ。
(そういえばミサオ、服は決まったのかね。ふふっ、シャティが張り切っていたから大変だろう。……私もそのうちひと揃え選んでやろうか)
その時のミサオの反応を想像しクスクス笑うと、ガーネッタは宿への帰路につくのであった。
そして宿に帰ったガーネッタが目にしたのは、大量の紙袋に囲まれて頭を抱えるミサオの姿だった。
「な・ん・で! 結局全部買ってんだよシャティぃぃぃぃぃッ! かさばらないようにって言っただろ!?」
「だって、ミサオ様ったら……最近体を清めていなかったでしょう? わたくしの清浄魔術があるとはいえ、そんなお体で試着した服を買わないなんてお店に失礼ですもの~」
「図ったな……! それでやたらめったら試着させたのか!」
「なんのことやら~」
「買わなくていいって言うから着たのに! 返してくるか売ってくるかしてくんない!?」
「嫌です! 買ったのわたくしのの金ですもの! わたくしがどうしようとわたくしの自由です! ミサオ様には買わなくていいと言いましたが、わたくしが買わないとは言ってません~」
「へ、屁理屈! 俺、お金渡したよね!?」
「あ、そうでした。はい、こちらお預かりしていた金額です。全部お返ししますね〜」
「シャティぃぃぃぃ!!」
「おやおや」
宿に戻ると買い物を終えたらしい仲間たちが戻ってきていたが、ミサオはずいぶんと遊ばれたようだとガーネッタは苦笑する。
ここ数週間、脱ぐのが嫌だからと同じ服を着続けていたミサオだが、現在は町娘から冒険者らしい服装へと変わっている。
……といっても、ところどころにシャティが口出ししたであろう洒落た仕様となっているが。
仕立ての良いシャツにベスト、やや裾が長い上着に体の線に沿いつつ伸縮性のありそうな下履き、機能性に優れたブーツ。腰にはアイテムを収納しやすいカバンをベルトにつけて巻いている。
だがその横の紙袋から飛び出しているのは、それらとまったく趣の異なる繊細なレースだ。
ミサオが服屋でどういった扱いを受けたのかは想像に難くない。
このひたすらおちょくられている元・青年が、魔王を倒し世界を救った立役者だとは……この場面を見る限り、誰も思うまい。
本人ですらその偉業を自覚しているか怪しい。
そう思わせる一因は自分たちの対応なのかもしれないが。
ミサオは賞賛や報酬が欲しい! 出来ればモテたい! といったように単純な欲望は持っているが、彼が成した功績はその程度の見返りに収まらないほどのもの。……それこそ世界史に刻まれるほど大きい。
そんな偉大な英雄と言って差し支えの無い相手なのだが、どうもいい反応をしてくれるため、ついからかいたくなってしまうのだ。
ガーネッタは家族に加えて、この子供のこれからの平穏を守りたいと考えていた。
ガーネッタはふと、彼に協力を申し出た時の事を思い出す。
――――厄災の魔王を倒せる可能性のある個で強力な力を有した英雄。
その英雄は過去幾度となく現れ、中にはミサオのような異世界からの客人も居たという。
これは古代書庫で調べた記録だ。
厄災の魔王には同族にすら向ける愛は無く、自ら共々滅びる気だと知り魔王軍を裏切ったガーネッタ。
そうなれば彼女には家族を守るため魔王を倒す必要性が出てくる。故に敵対してきたミサオ達に協力を申し出たのだ。
彼らを選んだ理由は単純に一番強く、英雄を見出す使命を代々受け継いでいる有翼族の巫女が共に居たからである。
当然初めは断られると思っていた。
だが蓋を開けてみれば、罠かと思うほどの快諾。
『敵が味方になるイベント、来たー! 美人が味方になってくれてうれし……ゴホンっ、じゃなくて。うんうん、俺にはあんたがいい人だって分かってたぜ! 戦いを挑む相手以外傷つけなかったし、子供とか戦闘の余波から守ってくれたもんな!』
などと言っては直後に『君はもう少し考えてものを言え』とアシュレに叱られ、『ミサオ様、相手に一定のポリシーがあるのは確かです。ですけどね? すぐ信用するのは、あまりに軽率ですわ。相手は魔王軍ですよ?』とシャティに窘められてはいたのだが。
その後無事に仲間となり、旅をする中で最初はこちらを警戒していたアシュレやシャティとも仲を深めることもできた。
……そして旅の中で、ガーネッタはミサオがもう元の世界には戻れないと告げられていたことを知ったのだ。
同時にミサオがガーネッタをすぐに受け入れたのは、単に軽率な性格やガーネッタの美貌に魅せられたからだけではないことも知った。
『ガーネッタはさ、家族と仲良く暮らしてくれな』
旅の中で何気なく告げられた言葉だが、そこから滲む郷愁の色があまりのも濃く……ガーネッタの耳に残った。
ミサオは帰りたかったのだ。
だがそれが不可能と知って、諦めた。
諦めたからにはこの世界に居場所が欲しい。
その一心で魔王と戦う事を本格的に決めたように見えたし、家族のために元居た場所を裏切ったガーネッタを受け入れたのも「大事な居場所を守ろうとする」相手として見たからなのだろう。
本人がどこまでそれを自覚しているかわからないが、少なくともガーネッタの目にはそう映った。
呪いが反転して女性になるほどの性欲も、純粋な欲望に加えて血のつながった家族を求めるが故。
ミサオはその欲望を知られた事に恥ずかしいと頭を抱えていたが、ガーネッタはその気持ちを理解できていた。
家族は力、生きるための
(アシュレじゃないが、放っておけない子なんだよね)
強い力に反して未成熟な中身。
そのアンバランスさがガーネッタを惹きつける。
庇護欲に似たそれは恋とはまた性質が違えども、紛れもなく愛だった。
もし魔王を倒せたら自分の初めての相手になってほしい。そんな要望を受け入れたのも、けして遊びや気まぐれなどではない。
ガーネッタは確かに愛多き女だが、その対象でないものを抱くことなどはあり得ないのだ。
ガーネッタはアイゾメミサオを愛している。
ガーネッタはクスリと笑うと、華奢になったミサオの肩に後ろからのしかかった。
「ただいま。私の下着は選んでくれたのかい?」
「が、ガーネッタ! ええと……はい」
ぐいっと胸を押し付けるとミサオはデレっと顔をだらしなくにやけさせながらも、恥ずかしそうに体をもじもじさせる。その様子がどうも嗜虐心がくすぐられてしかたがない。
守りたいと感じる母性と、いじめたいと考えてしまう嗜虐心。それが絡まり合って、ガーネッタがミサオへ向ける愛情となっている。
……おそらく、それは自分だけではないだろうが。
「じゃあ、買ってきた下着はミサオがつけておくれよ」
「は!? それは……えっと!」
「いいじゃないか。つけかたは習ったんだろう? ……外し方も、教えてやろうか」
後ろから顎を掴みくいっと上向かせ、口づけるほどの位置で述べれば面白いようにミサオの顔は朱に染まる。
ガーネッタはからから笑うと、その頬に軽く口付けた。
「はーっはっは!! 待たせたな、我が花嫁よ! 迎えに来たぞ!」
翌日。
ガーネッタが夫からの返事を受け取る前に、求めていた情報源がやってきた。
……受け継いだ魔王の権能を、これでもかと無駄遣いした状態で。
2023.12.24>>加筆修正