メス堕ちしたくない俺の苦難八割TSチートハーレム記   作:丸焼きどらごん

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26話▶再来〜馬鹿が式場ごと来やがった

 俺達がベテルキクスを訪れた本命の目的は、現在目指している賢者の住居が「いくつかの場所」を通過しないとたどり着けない場所にあるからだ。

 ベテルキクスはそのポイントのひとつである。

 

 加えて冒険者登録や買い物なども終えた俺達は、早々にベテルキクスを発つことにした。

 

 アシュレが買い物で疲れ果てた俺の様子を見てもう一日休養してはどうかと提案してくれたが、そうもいかない理由がある。

 ……あの妙な竜人が、まだおそらくこの付近でうろついているからだ。

 

 買い物で疲弊していたため伝えるのが遅くなったが、俺はそこで初めて「ベテルキクスを早く経ちたい理由」として冒険者協会で竜人ルリルに絡まれたことを仲間達に話した。

 あとこっちは出来るだけ話したくなかったけど、【職業(クラス):(フィーメイル)】が【職業:乙女(メイデン)】へと職業階級(クラスステージ)がひとつ上がったことも。

 ……そして厄介な技能(スキル)、【運命の出会い(エンゲージ)】が追加されたこととかも。

 血反吐でも吐きそうな気分で説明したわ!!

 

 竜王族とのエンカウントと求婚(?)については、シャティが少し考えた後に「わざわざ旅に出てお嫁さん探し、ですか。おそらく他種族の血を受け入れたいといったところでしょうね。そうなると、その子は末の王子かもしれません」と、なにやらあたりをつけてくれた。

 やっぱりシャティは色々知ってるな。単純な知識だけでなく、そういった他種族に関わる世情にも詳しい。

 最近暴走気味の場面ばかり見ているせいで忘れがちだが、こうした彼女の知識には何度も救われてきた。

 

 ともかく厄介な相手に絡まれたことは理解してもらえたので、俺達はスタコラと断崖の都市を後にした。

 街中歩いててばったり遭遇、とか嫌だしな。

 

 ちなみに旅立つ前、着替えを手に入れて初着替えというハードルをクリアしたので風呂にも入りたいところだったが……。あいにくベテルキクスには公衆浴場や温泉といったものはない。

 ので、宿で湯を用意してもらい部屋で頭を洗って体を拭くにとどめた俺である。

 試着室で散々魔王におちょくられたから、体を拭くときは無心、無我。

 もう二度とうろたえるものかと頑張った。まだ色々と慣れなくはあるんだけど。

 

 

 

 ともあれ色々不安を残しつつも、心身さっぱりしての再出発である。

 

 賢者の住処まで、あと少しだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……そう思ってたんだけど、なぁ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はーっはっは!! 待たせたな、我が花嫁よ! 迎えに来たぞ!」

「誰が花嫁だバーカ!!」

 

 

 リオーン大渓谷を挟む大森林。

 その中を進む途中……急に閃光のような炎が上部を通り抜けたと思ったら、前方半径一キロメートルほどの森が円形状に爆炎のドームで覆われ焼き尽くされた。

 とんだダイナミック森林破壊である。

 

 森林の中で突如ぽっかり出来た焼け土の円形広場。

 そこにふざけたことをほざきながらひらりと着地したのは、しばらく見ていなかった馬鹿魔族……アルマディオだった。

 出来れば金輪際見たくも会いたくもなかったよ俺は!!

 

 しかも奴は以前の出で立ちと違い、おそらく。おそらくだが……タキシードっぽい、黒地に金の装飾が施された婚礼衣装みたいなのを着ている。

 髪もなでつけ整えてあり、明らかにおめかしをしました! といった様子だ。

 初手森林破壊しておきながら、どうも戦いに来た感じではない。けどその装いを見て、俺の嫌な予感は加速している。

 というか初っ端のセリフでその目的は分かり切っているんだよな……!

 聞かなかったふりをしたいんだけど、奴の勢いは困惑する俺にお構いなしだ。

 

「おま、」

「すまない。あのような熱烈な求婚を受けておきながら、これほどに君を待たせるなどと! しかしその分、素晴らしい婚礼を準備した。見てくれ!」

 

 俺の言葉を堂々とぶち切ってくれた馬鹿野郎は、青白い顔に嬉々とした笑みを浮かべて指をパチンっと鳴らした。

 すると前回の襲撃時同様、数多の魔方陣が展開され上空を埋め尽くしていく。

 

 ガーネッタに聞いたところ、これは俺たちが戦った時には使用されなかった魔王の力の一つ……【眷属召喚】というものらしい。

 それを魔王が倒れた時、どういうわけか幹部である馬鹿魔族アルマディオが継いだらしいのだ。

 魔王本人にも確認をとったが、あれが自分の持っていた力だという事は認めた。でもそれが部下に引き継がれた経緯はよくわからないらしい。なんとも曖昧なもんである。

 

『だって自分が死んだ後の事なんて、わかるわけないだろう? 興味もない』

 

 そう言われてしまえば、まあそうだよなーってこっちも納得するしかないんだけど。

 

 

 ……まあ、力の出所なんてどうでもいいか。

 俺は目の前のもんを対処するだけだ。

 

 

 そう思い、俺は魔方陣から顔を出し始めた魔物どもを睨んだ。

 この間みたいに首を全部掻っ切ってやろうか。

 

 今回は前回と違い魔術装甲は魔術工芸核(アーティファクト)が壊れているため使用できないが、もとよりそれが無くても圧倒できるだけの力量差はあるはずだ。

 前回だって服代わりに鎧を展開しただけで、装甲が無くても処理できる自信はあった。

 

 それにしても、婚礼準備がどうのこうの言いながらこの有様だ。

 こいつやっと俺がアイゾメミサオだとわかって、魔王の仇を討ちに再襲撃に来たのか!?

 ふざけた格好もセリフも演出か何かで、こちらの隙をつくためのものかもしれない。

 

 ……とか思って身構えたんだけどさ。

 なんならそっちの方がよっぽどマシだったぜ。

 

 

 

 

 

 無数に並んだ魔方陣から顔を出していた魔物達がその全貌を露わにし始める。

 大木のように太い腕を持つミノタウロスっぽい奴、凶悪な歯並びをぎらつかせる巨体のスッポンもどき、ケルベロスのように三つの頭を持つ二足歩行の鮫。

 まず初めに魔方陣から排出され、地に降り立ったのはそいつらなのだが……。

 

「???」

 

 魔方陣から出てくる前に倒すつもりだったのに……俺は剣を構えたまま口を開けて、魔物が降り立つのを見守ってしまった。

 なぜならそいつらが凶悪な見た目にそぐわないものをそれぞれ持っていたからだ。

 

 ずんっと重々しい地鳴りをあげながら着地し、馬鹿魔族……アルマディオが背後に従える魔物達。

 その背や手には、これから戦闘が始まるにしては違和感しかないようなものが見える。

 出来れば気のせいであってほしかった。

 

 魔物達が持っていたもの。それが何かといえば……。

 

 

 十段重ねのケーキ。

 レースとフリルがクソほど重なったゴテゴテのウエディングドレス。

 ステンドグラスがはめ込まれた禍々しい教会。……教会!?

 

 

 教会を乗せて踏ん張ってるスッポンもどきがかわいそうになってきた。めちゃくちゃ歯を食いしばってるんだけど。

 ……あの巨体をもってしても重いんだ。そうだよな。建造物だもんな。

 

「……ええと。ガーネッタ、あれは……何? 君の弟さんは何をしているの?」

「…………」

 

 俺と同じくぽかんとそいつらを見ていたアシュレが、馬鹿魔族の姉であるガーネッタに問う。

 問われたガーネッタはと言えば、片手で額を押さえて天を仰いでいた。分かり易い「あちゃー」のポーズである。

 どうも姉であるガーネッタとしても、あれは予想外だったっぽい。

 

 あ……うん。あんな姿の身内が現れたら、恥ずかしくて見てられないよな……。

 

 俺はガーネッタになんて声をかけていいか分からず、攻撃の出鼻もくじかれて完全に相手にペースをもってかれたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺達の困惑など知った事ではないとばかりに、奴はばっと両腕を広げる。

 すると魔力の波動が焼け焦げた地面に伝播し、途端に白と紫色の花で埋め尽くされた。

 更には俺と奴を繋ぐ直線状にだけ、血のように赤い薔薇が絨毯のように咲き乱れる。

 

『うわ』

「うわ」

 

 不覚にも魔王と声が重なってしまった。

 つーかこの魔族野郎、上司の魔王にも引かれてんじゃねーか。

 

 俺達がドン引いている間に、他の魔物達も魔方陣から出てきた。

 見ればそれぞれが別々の物を持っていて、それらが瞬く間に花の咲き誇る円形の広場に設置され始める。

 果てはど派手な噴水まで登場し、焼け野原は一瞬でガーデンウエディングの会場へと様変わりした。は?

 

 

 おいおいおいおいおい、なんだよこれ。馬鹿が式場ごとやってきたんだが。

 今度はこれ、俺が焼き払っていい感じか?

 

 

「ケーキ、おいしそう」

「モモ、いくら美味しそうに見えても近づいてはなりませんよ。馬鹿が移りますわ」

「シャティの言う通りだぞ。モモ」

 

 困惑する俺たちの中でモモだけがマイペースに中央に用意されたケーキへの感想を述べるが、感心しないでほしい。

 魔王の力を式場丸ごと運んでくるために使うとか馬鹿か? 馬鹿なの? 馬鹿だよ!!

 

「というかなぁッ!!そもそも、俺はお前に求婚してねぇよ!!」

 

 このままだと妙な勢いに押し流されそうだったので力の限り叫んだ。

 だがアルマディオは青白い頬の血色を良くすると、うっとりと俺がへし折った角の断面を撫でる。

 

「ふふっ、そうか。やはりな。……もちろんその可能性も考慮した。角を折ったのは、敵対者である俺様を排除したに過ぎない行動だと」

「なら……」

「だが、角を折られた瞬間!! 俺様の体内に電流が走った!! 血が滾った!!」

 

 それシャティに落とされた雷と錯覚してたりしない?

 

「この感情に蓋など出来ない。ああ、そうだ。魔王様の仇を後回しにするくらいに!! 勘違いであるというならば、今度は俺様から求婚しよう! さぁ俺と結婚してくれ我が花嫁、我が妻よ! そのために全て準備してきた!!」

『ミサオ、あれ殺していいよ』

 

 こちらの意志などお構いなしで一人の世界にどっぷり浸かっている馬鹿を指差すのは、実体化したショタ魔王。

 その表情は能面のようで、自分は幹部である部下の名前すら忘れていたことを棚上げして「後回し」にされた事実が気に食わないようだ。勝手な奴だな、おい。

 

 でもさっさとあの馬鹿をぶっ殺した方がよさそうだなってのは俺も同意見だ。

 ほら、馬鹿って死なないと直らないって言うじゃん? つまり俺がとるべき行動も一つってことだよ!

 

 

 

 俺は構えた剣に炎を付与し始める。

 高熱は空気を熱で歪め、余波でレッドカーペットのごとく広がっている赤い薔薇が一部水分を失い枯れ果てた。

 しかしそれを見た馬鹿は何を勘違いしたのか、ドヤ顔で懐から何かを取り出した。

 

「ああ、君が不機嫌なのも分かるとも。指輪だろう? 安心してくれ、この通り素晴らしい品を用意して……」

 

 取り出されたのは立方体の物体。それを奴がぱかりと開けると、中からは眩いばかりの宝石がはめ込まれた指輪が現れたのだが……。

 俺がその全貌を目にすることは無かった。

 

 

 

 何故ならその直後、アルマディオが何か青い物に衝突され、広場横の森までぶっ飛んでいったからである。

 

 

 

「え……」

 

 これには俺もポカンとせざるを得ない。

 なんか唐突に目の前で衝突事故? が起きたんだけど。

 

「あの子、また来た」

 

 認識の追いついていない俺とは裏腹に、モモがむすっと頬を膨らませて視界を遮る青いものを見ている。

 そう。馬鹿魔族を吹き飛ばした青い物体は、俺の視界を遮るほどに大きいのだ。

 

「…………」

 

 剣を構えたまま恐る恐る視線を上にあげていけば、ようやく朧げに青い物体の全容がわかってくる。

 

 青と紺碧がグラデーションを織りなす鱗を、黄金色に輝く羽毛が彩っている。

 そして青と真逆の紅玉のような目が、薄い皮膜の向こう側でぎょろりと動き俺の視線と重なった。

 

「ど、ドラゴン……」

『やぁっと見つけた~!』

 

 小山のようにそびえる優美かつ強靭な青き竜。

 それが見た目にそぐわない愛らしい声を発したかと思うと、次に感じたのは抱き着かれる衝撃だった。

 

「ぐえっ」

「もう。ルリルちゃん様に挨拶も無しに行くなんてどういうこと? せっかくお嫁さんに選んであげたのに」

 

 そう言って頬を膨らませるのは昨日会ったロリもといショタもといおっさん竜人。

 いやこの見た目でオッサンだと認めたくはないが、四十六歳は俺から見たらおっさんでしかないんだよな。

 とにかく俺の倍以上生きている見た目超絶美幼女な竜人が、俺の首に手を回して抱きついていたのだ。

 前方で太陽の光すら遮っていた竜の姿は無いが、当然だ。あれがこいつの正体なんだろう。

 

「ルリルちゃん、ミサオママからはなれて」

 

 俺に抱きつくルリルに真っ先に文句を言ったのはモモだ。

 しかしルリルはふふんっと笑うばかりで離れる様子はない。

 

「あら、惜しいわね。獣人ちゃん、ルリルちゃん"様"よ。まあ別にそう呼んでくれてもいいけどね。でもあなた、まず自分が名乗ったらどうかしら。二人ともまだ名前も聞いていないのに、いなくなっちゃうんですもの。探したわ」

「モモは、モモ」

「うふふっ、素直な子は好きだわ! それで、あなたは? ルリルちゃん様のお嫁さんっ」

「いや、嫁じゃねぇし。……ミサオだよ」

 

 げんなりしながらモモが名乗ったんだしと渋々名前を告げる。モモに関しては一人称が名前なんだから分かってただろうに。

 というか、待て。

 人に名乗らせておきながら、よくよく考えてみるとこいつもちゃんと名乗って無くないか!?

 

「そう、ミサオというのね!」

「……あんたは。一人称でまあ分かるが、ちゃんと名乗られてないぞ。人に言わせておいてそれはねぇんじゃねーか?」

「まあ、そうだったかしら? でも目上の者があとから名乗るのは当然だし、結果的に問題ないわね!」

「へいへい」

 

 一応年上なのは事実のようだし、いちいち突っ込むのも面倒くさいのでそこは流す。

 

 

 美幼女は俺の首から腕を離し飛び降りると、仁王立ちで胸を張り名乗りを上げた。

 

 

 

「ルリルちゃん様はこの名前で呼ばれるの好きではないのだけど、教えてあげる。ルリルベレス・ファーレン。これが、あなたの夫となる偉大なるルリルちゃん様の名よ。よく覚えておいてね、ミサオ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




2023.12.26>>加筆修正

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