メス堕ちしたくない俺の苦難八割TSチートハーレム記   作:丸焼きどらごん

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30話▶事情説明~勝利宣言はフラグだとあれほど

「して、何用だ。魔王は倒したようだが……わざわざその報告に来たわけでもあるまい。前にも言ったが、いくら俺といえどお前を元の世界に戻す方法など知りえぬぞ。異世界がいくつあると思っている」

「ぐ……」

 

 思わぬジャブをくらい呻く。

 もう納得したとはいえ、改めて聞くとなかなかにキツイ。

 

 

 様々な料理をたらふく食わされた後、しれっと最初の服装にもどった賢者カリュキオスの問いかけ。

 

 ちなみに食事の最中、ついにデリカシーの無い発言の数々に我慢できなくなったシャティが「あなた、その破廉恥な服装はなんなのです!」と攻勢に出たので裸エプロンの真実は知れたのだが……。(口が裂けてもシャティの服の背中もなかなかだよとは言えない言わない)

 なんと「跳ねた油が肌にあたると刺激的で気持ちいいだろう?」という賢者の性癖だった。

 知りたくなかったよ、そんなもん。

 

 ティーバックの方については聞けていないが、できれば一生そっとしておきたい……。

 

 俺はぱんぱんに膨れた腹をさすりつつ、消化に良いという茶を胃に流し込み賢者を見る。

 

「帰りたいとか、今回はそういうことじゃ……ない。これだよ、これ! 何に困ってるか一目でわかるだろ!? あんたの知恵を借りたいんだ!」

「これ……とは。そうか、乳が大きすぎて困るのか。確かに邪魔そうだな。だが萎ませるのはもったいないと思うが。女の体は大きければ大きいほどいい」

「ちげぇわ!! その前にそれがくっつくようになった原因で困ってんだよ!!」

 

 

 見当違いなことを言ってくる賢者にわざとか? と思いつつも全力でつっこんでしまう。

 とりあえずさっきの肥えろだのいい膨れ具合だのという発言と合わせて考えて、賢者がふくよか女性趣味ということは分かった。

 そのわりにハイパーナイスビッグおっぱいを持つシャティに対するもろもろが何故か雑。部分的に大きいのは趣味じゃない……とか? いやどうでもいいわ。

 

 う゛、大声出して前のめりになったら腹が苦しい……! ズボンが腹に食い込む……!

 

 というか、なんで腹苦しそうになってるの俺だけなの? みんなお腹いっぱいそうな顔はしてるけど体型そのまんまなんだけど。

 代謝か? 代謝の良さか?

 モモに至っては追加で出されたケーキを美味しそうに頬張っている。

 幸せそうで何よりだが、パパはちょっと心配だぞ。

 そのケーキ、俺の目がおかしくなければモモの頭と同じくらいの大きさじゃない? 

 

 

「……? 別にそのままでよくないか」

「良くないから相談に来たんだよ! 頼む、元に戻る方法を教えてくれ! 魔王の呪いなんだ!」

 

 俺の悲痛な叫びにカリュキオスはしばし考えるように斜め上を見ると、ぽんぽんっと自分の座るソファの隣を叩いた。

 

「見てやるから、ここに来い」

「お、おう」

 

 やっとまともに見てもらえるのか。

 そう歓喜して賢者の横へ座ったのだが……。

 

 

 

 

 ぽんぽんぽんぽんぽんぽんぽんぽんっ。

 

 

 

 

「だぁぁぁあああああああッ!! 腹を! 叩くな!!」

 

 この野郎っ、性懲りもなく人の腹を叩き始めやがった! しかも当然のように服に手を突っ込んで!

 

「カリュキオス殿、そういったことはお控えを……」

「? そういうこと、とは。なるほど、軽くでも叩くのは駄目と。確かに不躾であったな」

「のわああぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」

「そういうことでもなくてですね賢者カリュキオス殿ぉ!?」

 

 やや顔をしかめたアシュレが賢者の暴挙を止めようとこちらへ足を踏み出すが、賢者は納得したような顔で俺の腹の中心を下腹部ギリギリからヘソにかけてをなであげ、挙句はへその穴に指を押し込んで撫でまわした。

 叩かないからって、どっちにしろ不躾だろうがよ!

 

 ぞわぞわする感覚に背筋が震えあがり飛びのくと、奴は不満そうに眉をひそめた。

 

「見てやると言っただろう。大人しくしていろ」

「これってそういうたぐいのもの!? 本当に!?」

 

 疑わしくて悲鳴に近い声が出るも、賢者は至極真面目そうに頷いた。

 ちらとシャティを見れば、めちゃめちゃ眉間に皺を寄せながらも頷く。

 

「腹部には魔力発生の根幹たる器官が備わっていますので、そこを見るのは間違いではございませんわ。……チッ」

 

 不本意そうに舌打ちまでセットで説明するシャティに、俺は「マジで?」と信じたくなくてガーネッタの方も見るが困ったような顔で頷かれてしまった。

 魔術に長けた二人が言うなら、それは真実なのだろう。

 

「見目に反して案外柄が悪いのだな、有翼人」

 

 賢者はさして気にしたふうでもなかったが、極々自然体で相手の神経を逆撫でする。

 多分本人に悪気はないが、その分余計に質が悪い。

 

 ぴきぴきと、シャティの額に青筋が浮かんだ。

 笑顔を崩さないところは流石である。

 

「あなた様は見目に反して無神経な方ですね」

「そうか? 照れる」

「褒めてるように聞こえたのですか? お年のせいかしら。それとも文化の違いなのかしら」

「文化かな」

 

 シャティの反撃も軽くいなすと、賢者は引き続き俺の腹を触ってきた。これが一応正当な検査? であることを知った今、それも我慢するしかない。

 

「…………!」

 

 分厚い皮の張った硬い指の腹が、ゆっくりと俺のへそ周りを撫でていく。

 次いで「香りの確認だ。失礼するぞ」と前置かれたうえで首筋にも顔を寄せられ臭いを嗅がれるもんだから、緊張で汗をかいた首に賢者の吐息なのか鼻息なのか分からない風があたってぞわぞわする。

 

 ……確認ってのは、あれか。

 自分ではよく分からないんだけど、【職業(クラス)(フィーメイル)】はいい香りがするらしいからそれの確認か。

 うう……っ、でもそうと分かっていても至近距離で触られて臭いを嗅がれるの嫌だな。

 相手が女の子ならともかく、野郎にそんなことをされる趣味はない。

 しかもこの人ティーバックの下着履いてるんだよなって、変な情報まで得てしまっているものだから奇妙な気分に拍車がかかるのバグだろ。

 

 あああ、もう! 早く終わってくれぇッ!

 

 

 

 

 

 そしてやっと検診? のようなものが終わったのか、賢者の手が離れる。

 

 

「……ほう。驚いたな。ミサオ、こうなった経緯を聞いても?」

「順番、普通は逆だよな? ……まあいいけどさ」

 

 

 距離をとれたことにほっとすると、俺は賢者にこれまでの事を話した。

 

 

 魔王を倒したこと。

 望みと逆の事象を引き起こす呪いを受けた結果、女になってしまったこと。

 そして最重要の話。

 俺が呪いを解いて男に戻りたいこと。その方法を知りたいこと。

 

 それらをひとつひとつ伝える。

 

 

 すると賢者はじっと俺の瞳を覗き込んだ後、頷いた。

 

 

「有翼人の見立ては正しいな。【職業(クラス)女神(アークレディ)】は確かに【職業:(フィーメイル)】を極めた先にたどり着く職業だ。歴史上、そこまで到達できたものはごくわずかだが」

 

 これまで下位職業が謎とされてきた、とシャティから聞いていた【職業(クラス)女神(アークレディ)】と【職業:(フィーメイル)】の関連性を、賢者は当然のように肯定した。

 

「わずか……シャティが言ってた、厄災の魔王の後に現れて人々を導いたうんぬんかんぬんっていうやつか」

「その存在も今やおとぎ話程度の知識としてしか知らないものがほとんど。職業の名と共に知る者は少ないのだがな……その有翼人は知識に富んでいるようだ」

「こほん。有翼人でなく、シャティと呼んでくださいませ。先ほど名乗りましたでしょう? シャティ・ティティシエールですわ。カリュキオス・ラトワイヤス様」

 

 褒められてまんざらでもなさそうだが、賢者の呼び方に不満があったらしくしっかり訂正を入れるシャティである。

 

「ガーネッタも知ってる風だったよな?」

「ああ。私は元々古代書庫に勤めていたからね。過去の記録には興味があって、色々読んだ中で知ったのさ」

「ほう! 魔族の女、古代書庫に居たのか! あそこは良い。俺も昔はよく忍び込……通ったし、いくつか寄贈もした」

「ガーネッタ。ガーネッタ・グラナタス・アネアドラ、だよ。それにしても忍び込んだって、その言いっぷりだともしかして最奥の禁書室へ? 賢者様ほどの方なら、わざわざ忍び込まずとも入れたんじゃないかしらね」

「忍び込んでなどいないが」

「でも今……」

「忍び込んでなどいないが」

(二度言ったよ……)

 

 しれっと直前で発した言葉をしらばっくれる賢者に呆れのこもった視線を送る。

 

『あからさまな部分まで言いかけておいて誤魔化せたと思ってる上に、そのまま押し通そうとするとか神経が太いね、こいつ』

(うん)

 

 魔王の言葉に思わず素直に頷いた。

 

 こう……なんだ。

 二回目の訪問だからか、それとも俺が女になって仲間もみんな女だからか分からないけど、以前より賢者との距離が近い。その分会話も増え、今まで知らなかった面を知ったわけだが。

 今のところその新しく知った面ってのが「デリカシーが無くて図太い裸エプロンティーバック」なんだから勘弁してほしい。

 寄せていた信頼が怪しくなってくる。

 

 賢者はガーネッタの視線を受けつつ、誤魔化すように賢者と呼ばれる所以である知識を披露しはじめた。

 口調がやや早いのは、誤魔化している自覚があるからだろうか。

 

 滔々と語られるのは【職業(クラス)女神(アークレディ)】に関する情報の数々。

 具体的なスキルや職業階級については内容に含まれていないものの、シャティが話してくれたものより詳しく歴史上で現れた際の記録が提示された。

 

 

 

 その中でも聞いてげんなりしたのが、これ。

 

 過去。厄災の魔王の呪いに晒された後の世界で生き残り、その上で現在この地で繁栄している全種族。その祖が元をたどれば件の女神にたどり着くのだとかなんとか。

 人族も、有翼人族も、魔族も、獣人族も、竜人族も、妖精族も。……女神、又はその血を受け継いだ者と婚姻を結び、その恩恵を受け血を繋いで今の繁栄につながっているのだという。逆を言えば女神と血縁になれなかった種族は全部滅んだって事だし、賢者に聞いたら肯定された。

 ライトめに話してくれたシャティよりも、重々しくその重要性が語られている。

 

 けど職業女神がすごい事は分かるが、その職業に至る可能性を得ているのが自分であり、シャティが言っていた「全世界から貞操を狙われちゃうかも」の意味が具体性を増して嫌な気分にしかならない。

 

 要するに過酷な環境でも生き残れるくらいの、強くて優秀な血筋を残せる母体ってわけだ。

 母体て。

 自分で言ってて気持ち悪くなってきた。産まねぇよ!!

 

 

 

 話しを聞くごとに眉間に皺が寄り口がへの字に曲がっていく俺を見ながら、賢者はそんなレア職業なぜ手放そうとするのかと首を傾げて問う。

 待て。同じ男なんだから少しはこちらの気持ちを分かってくれよ!

 

「俺は! 男に! 戻りたいの! 神様になんてならなくていいの! 女の子とまっとうに、イチャイチャしたいの!」

「女のままでも出来るだろう?」

「なんで俺の周りそのへんの境界があいまいな奴ばっかなの!?」

 

 その後散々俺は賢者にいかに男に戻りたいかを語り、語り終えた時にはぜーぜーと肩で息をしていた。

 俺の嘆きを聞き終えると、賢者はどことなく残念そうにしながらも一冊の本を手に取る。

 

「職業を消すことはほぼ不可能だが、同系統の職業で上書きすることは可能だ」

「マジで!? っつーか、【職業:女】と同系統っていうと……」

「事象にはそれぞれ表裏、対となるものがある。女の対となれば男だろう。……【職業:男】は、確認こそされていないが確実に存在する。これは俺が責任を持って保証しよう」

「!!」

 

 そ、そうだよな。職業に女があるなら、男だってあるよな普通に考えて!

 

『チッ』

 

 あ、魔王の奴舌打ちしやがった!? ってことは、これってマジに男に戻れる奴なんじゃ……!

 

 期待に身を乗り出す俺を前に、賢者は本のあるページを俺に見せながら言葉を続けた。

 そのページに描かれているのは、神々しい鍵のようなアイテム。

 

「どこかの迷宮の最奥に、あらゆる職業の可能性を開く宝物が眠るという。それであれば【職業:男】を得ることも可能だろうな」

 

 それを聞いて震えが走る。もちろん歓喜によるものだ。

 

 賢者に会いに来てみたものの、本当に男に戻る術を知っているか不安だった。

 しかしこの人は俺の期待を裏切らず、労力こそ擁するもののかなりイージーな解決法を示してくれたのだ。

 

 だって迷宮だろ? 今の俺なら、きっとどんな迷宮だってちょちょいのちょいで攻略できる!

 なんたって魔王を倒した男だからな!

 

『倒せてないって、いつも言ってるくせに』

(勝負的には俺が勝ってるからいいんだよ!)

 

 どことなく拗ねたような声を出す魔王に意気揚々と返すと、俺は賢者にぐいっと詰め寄った。

 賢者への好感度が一気に跳ね上がっている。これであとはその迷宮の場所さえ教えてもらえれば……っ!

 

『くくっ。あ~あ』

 

 魔王が何やら変な笑いを含んだ声を出しているが、無視だ無視。

 俺は目を輝かせつつ、馬鹿でかい賢者を見上げる。この身長差も、元に戻ればなくなるんだ!

 

 わーっははは! 勝ったな! 呪いに!

 

 

「で? で!? その迷宮は!? どこの迷宮だ!?」

「知らん」

「え……」

 

 肩透かし。そんな気分を自覚する前に、賢者が詰め寄っていた俺の背に手を回してぐっと引き寄せる。

 そして密着したまま、おとがいに手をあてて俺を上向かせた。は?

 

 

 

 

「ところで、そんな迷宮探しなどやめてここで暮らさないか?」

 

 こちらを見つめる視線に宿るのは、熱い情熱。

 

「し……」

 

 

 

 しまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!?

 

 

『好感度。出された料理をよく食べて向こうからのが上がってた上に、君からも向けちゃったもんねぇ。世界一の大賢者の魅了、おめでとう。ひゅ~ひゅ~』

(じゃかましいっ!!)

 

 

 

 ケラケラ笑う魔王の声が、俺の脳内に腹立たしく響くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




2023.12.26>>加筆修正

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