メス堕ちしたくない俺の苦難八割TSチートハーレム記   作:丸焼きどらごん

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31話▶光明~目指せ迷宮!目指せお宝!俺たちの戦いはこれからだ!

「……は?」

 

 賢者カリュキオスのここで暮らさないか発言。イコールで嫁にならないかという誘いであることは、あからさまなスキンシップで隠せてもいない。

 俺の自意識過剰や冗談であってほしいが、ここへ来るまでに野郎二名ほどから求婚を受けているという嫌な事実が俺の前に横たわっている。

 

 

 まあ当然、俺がそれを受けるはずもないんだよな! 当!! 然!!

 

 

 しかし俺は慌てたままでは魔王を楽しませるだけだと深呼吸して極力落ち着くことを心掛けた。

 そして落ち着いたまま勢いよく賢者の顔にアイアンクローをかます。

 ……手が小さくて思ったように掴めないのが地味に悔しいが見ないふりだ。

 顔に手を届かせようと思ったらめちゃくちゃ背伸びしないと届かないのも見ないふりだ!!

 

「おいおい、賢者ともあろう者が、魅了(チャーム)にかかってんじゃねぇよ」

「魅了になどかかっていない。純粋な好意だ」

「嘘つけ!」

 

 メリメリメリっと指先を食いこませても、賢者は何食わぬ顔で俺を抱き寄せたままである。は・な・せ!

 さすがに突き飛ばして距離をとろうかと思ったのだが、その前に賢者の手を引き剥がしたのはアシュレだった。

 

「それが魅了であれ心からの好意であれ、ミサオをお渡しするわけにはまいりませんよ賢者殿」

「アシュレ……!」

 

 さっと前に出て俺を背に隠すアシュレのなんと頼もしい事か。

 自分で何とかすることが出来たとしても非常に安心する。これが、包容力……!

 

 なんて思っていたら。

 

 

【メスメロリンッ♪】

 

(でっすよねぇぇぇぇぇッ!! はいはいはい知ってた知ってた。今さらそう簡単にダメージ受けませ~ん)

『そう考えている時点でダメージ受けてるようなものだよ』

(黙れ)

 

 

 抗うという思考を挟む前に鳴り響いた音に、半ば「アシュレのかっこよさを前にしたらしょうがないよな……」という諦めに似た感情を抱く。

 もう半分日常だもんよこれ……嫌な日常だな。マジでアシュレは悪くないんだけど、俺がいい加減慣れて耐えろよボケがって思う。

 地味に落ち込んでいると、それを賢者の求愛にビビっているとでも思われたのかシャティに「よしよし。ミサオ様、こわかったですよねぇ~」と頭を撫でられた。

 あれ、俺って一応この中で一番強いはずなんだけどな……!? ポジション、おかしくない?

 そう思いつつも、恐る恐るアシュレの背中から顔を出して賢者を窺う。

 

「馬鹿な事言ってないで、迷宮の場所を教えてくれよ」

「いや、しかしだな。宝物(ほうもつ)がある迷宮の場所を知らないのは本当なのだ」

 

 一連の流れがまるで無かったかのように淡々と答える賢者に、このジジィのテンションよくわからないなという感想しか抱けない。

 

「いかに俺が世界一の大賢者と呼ばれているからといって、全てを知らないことはすでにお前は知っているだろう」

「それは……そうなんだけど」

 

 縋るような思いで元の世界に戻る方法を求めたが、突き付けられたのは「何故無理なのか」という理由が添えられた不可能という事実。それを考えれば俺としても頷くしかない。

 一方的に「世界一の大賢者」という肩書に信頼を寄せているのはこちらなのだ。頼られた方も迷惑だろう。

 

 

 

「自ら大賢者などと名乗ったわけでもないが、無知を既知と偽る者が賢者などと呼ばれてたまるものか。俺は知らないことは知らないと言う。教えないという事はあっても、その場合は「知っているがお前には教えない」と伝えるさ。これでも正直者でな」

 

 賢者カリュキオスはそう述べると、ついっと壁に指先を向け動かす。すると壁に亀裂が入り、次いでぼこっと浮き上がったかと思うといくつもの本へと形状を変えた。

 その本たちはそのまま飛び出て、ひとつが賢者の手に納まる。

 残りの本は手招く賢者に導かれるように、彼の周りを緩く回りながら浮遊し留まった。

 

職業(クラス)。魂の指針、魂の力とも言えるその力を我々は生涯をかけて磨き、鍛え上げる。誰に言われたわけでもなく、進化のための本能でな。高位の職業を極め魂を鍛え上げた者が属する種族は全体にその力が伝播し、より高位の存在へと昇るのだ」

 

 つらつらと述べられるのは、この世界においての生物の形。

 

「……まず職業の資質はそう簡単に手に入るものではない。あらゆる経験値が向き不向きに関わらず取得できるとかいう、馬鹿みたいに強い力を持つお前と違ってな。ミサオ」

 

 魔王の呪いで余計なものも含まれてはいるが、複数の職業を持つ俺を賢者のアイスブルーの瞳が見つめてくる。

 

 一応賢者にも元の世界に戻れるならと、前回来た時に俺の力に関しては全て開示済みなのだ。

 少しでも世界渡りに関する情報の手がかりはあった方がいいからな。

 

「ともあれ、そんな職業(クラス)を司る宝物が何処にあるかなど簡単に知れるわけがないだろう。ただでさえ迷宮の数は多いんだ。かつて二千を超える迷宮を踏破した俺がこれを言う意味が分かるか?」

「にせ……ッ!? そ、そりゃあ……まあ」

 

 思った以上の数の迷宮を攻略していた賢者にビビりつつ、その例を出されては賢者が知らないという事にも納得を示すしかない。

 

 

 迷宮(ダンジョン)。世界各地に残されている未知の空間。

 過去の文明が魔王の厄災から逃れるために作った叡智の結晶だとか、かつてこの世界を創造した神が残した遺産だとか諸説ある。

 冒険者を中心にその攻略、踏破は進められているが……。今も未発見だったものがぽこじゃか見つかる程度には多いんだ、これが。

 中の空間は現実的な広さの物もあれば、あきらかにこの土地面積に埋まってるのは無理あるしおかしいだろ! といった物もある。

 もしくは一度攻略されたのに、一定期間経過すると中身が変わっていたなんてこともあると聞いた。

 

 そんな不思議空間を……。

 

「もしかして、しらみつぶしに探すしかない……?」

 

 く……っ! 光明が見えたと思ったら再びどん底へ叩き落された気分だぜ。

 五百歳越えの賢者ですら全てを知らない迷宮を、人間の俺が生きている間にひとつのアイテムを見つけだすことが出来るのか!?

 単純な力だけではどうにもなりそうにない困難を前に、がくりと膝をつく。

 

『わぁ、見事なまでに敗者のポーズ』

(こ、この)

 

 ここぞとばかりに魔王が喜色満面の笑みでつついてくるもんだから、怒りつつもダメージが倍増した。

 人がされて嫌だなって思う事を最高のタイミングで仕掛けてくる本当に嫌な奴である。

 

 

 だが打ちひしがれる俺に、再び光明は示された。

 

 

「しかし俺は賢者と呼ばれし者。……知らずとも、知りうる情報から新たに道を切り開き価値を創造する者だ。知識を無為に蓄えるだけが賢者ではないのでな」

「……と、いいますと。もしや、宝物が存在する"可能性"のある迷宮ならばご存知と」

「!!」

 

 シャティの問いかけを耳にして、萎んでいた期待の心が一気に膨らんだ。

 

「察しが良いな有翼人。その通り。そいつがありそうな場所なら、ざっと五つまで絞り込める」

「本当か!?」

「ここで嘘をついてどうする。俺は正直者だと言っただろう?」

「~~~~!」

「もちろん、可能性であって確実なものではないぞ」

「それでもいい!」

 

 五つ!

 無数にある迷宮の中からそこまで絞ってもらえたなら、もしその五つが駄目でも次点の候補たちも分かるはずだ。

 自分たちでしらみつぶしに探すよりも、ずっといい!

 

 飛び上がりそうになる気持ちのままに敗者のポーズから復活した俺は、期待のこもった目で賢者を見る。

 

「当然、教えてくれるよな! 世界を救った英雄に、そのくらいのご褒美はあっていいはずだぞ!」

 

 何か変なものを情報の交換条件に出されても困るので、俺はここぞとばかりに救世の英雄という称号を振りかざした。

 現状、宿屋親子と仲間達、この賢者しかしらない事実ではあるけども。

 報酬や賞賛が受け取れないなら、これくらい得したっていいだろ!

 

 前回は結構な金額と希少アイテムを対価にぶんどられたからな……!

 今だと嫁になれば教えるとか言われかねない。

 

「まあ、よいだろう。ほれ」

 

 賢者はしばし考えるも、拍子抜けするくらいあっさりと了承の意を示した。

 彼はひとつ頷くと、先ほどのように指先を動かす。

 するとそれまで賢者の周りを浮遊していた本からぱらぱらいくつかのページが抜け出てきて、俺の前に五枚のそれらが並ぶ。

 そこには迷宮までの地図と簡易的な迷宮難易度が示されており、示されているのは全て【攻略推奨練度:黄金(きがね)白金(しろがね)】。

 相当な高難易度迷宮であることは窺える。しかしだ。

 

「上等だ……! どんな迷宮でもかかってこいってんだ! 俺はやるぜ!」

「モモも、ミサオママのお手伝い……する」

 

 俺がメラメラと燃え滾るような気持で五枚の紙を手に取ると、丁度ケーキを食べ終わったらしいモモがぎゅっと抱き着いてきた。

 静かだと思ってたけど、食べてる間はしゃべっちゃダメだぞという俺の教えをちゃんと守っていたらしい。うちの子めちゃくちゃえらい。

 

「ありがとな~! モモ~!」

 

 モモのお手伝い発言に嬉しくなり俺からも抱き返す。

 俺の娘じゃないけど娘みたいな愛娘、マジ可愛いぜ。パパは嬉しいぞ!

 

 

 

【メスママリンッ♪】

(パパだっつってんだろうが母性じゃねぇんだよクソが!!)

 

 魔王もメス堕ちポイント音も、人のいい気分に水を差すことしかしてきやがらねぇ!

 

 

 

「早々に。早々に迷宮へ向かおう。このままだと攻略する前に俺が女から戻れなくなる」

「また女子力ポイント溜まったんですか?」

「え、あ、……うん」

 

 シャティのメス堕ちポイントに対する「女子力ポイント」呼びが未だに慣れなくて一瞬タイミングが遅れるも、こくりと頷く。

 シャティさん、どことなく嬉しそうな顔するのやめない!? 俺は女の子にはならないぞ!

 いくらシャティが女の子の方が好きでも、元に戻ったらそっちの姿でも好きになってもらえるよう頑張るから男の俺を諦めないで!?

 

「完全に女になったらいつでもここへ来るがいい。働かなくても豊かに暮らせる最高の場所だぞ」

「だ・か・ら! 女にはならないって言ってんだろォ!?」

 

 ここぞとばかりにぬるっと近づいてきた賢者がアピールしてくるが、冗談じゃない。

 わざわざ住居の外に出てまで俺に求婚を迫る気が無さそうなのは幸いだが、どいつもこいつも俺が男に戻れない前提で考えよってからに! 腹立つなァ畜生!

 

「ほほほ。賢者様はお一人で引きこもっていればよいのですわ。ミサオ様はわたくし達と旅をして仲を深めるのです。お呼びじゃないんですよねぇ~。それにたとえ女の子になったからといって、わざわざここに来る必要がありまして? その時はわたくしが責任をもってミサオ様を幸せにいたしますから、ご安心めされませ!」

 

 賢者の言葉を聞いたシャティがモモとは反対側から抱き着いてきて、笑顔のままにバチバチとした視線を飛ばすという器用なことをやってのけた。

 けど俺としては「その時」が来るのをまず回避したいので、素直に喜べず引きつり笑いしか出来ない。感情がもにょる。

 

 あの、シャティさん。俺が男に戻ってから一緒に幸せにならない? ねぇ。女の子になるの前提で話すのホントやめて?? 本当に協力してくれる気ある???

 

 せっかくの美少女サンドという美味しいシチュエーションだというのに素直に喜べないのが辛い。

 モモとかも俺が男のままなら、絶対抱き着いてきてくれないもんな。……はぁ。

 

 

 

 しかし! しかしだ!

 

 

 

 溜息は絶えないが、これからの方針は決まった!

 色々思うところはあるけど、仲間たちはみんな俺が元に戻るための協力はしてくれる気で居る! 多分!!

 

 なら【職業:男】という職業(クラス)を求めて、迷宮(ダンジョン)攻略をするだけだ。

 

 

 

 やるぞ頑張るぞ俺なら出来る!

 

 そして目指すのだ! 男の俺による正当チートハーレム生活を!

 俺達の戦いはこれからだ!

 

 

 

『おーおー。また綺麗にフラグ立ててるねぇ』

(だからお前は水差すのやめろ!)

 

 

 

 もうお決まりになってきたような魔王のクソ茶々に内心で怒鳴り返すと、俺は「迷宮攻略、やるぞー!」と高々と拳を突き上げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




打ち切りみたいなタイトルだけどもうちょっとだけ続くんじゃ。


二章完結です。次回から三章、お宝求めて迷宮へ。
ここまでお付き合いいただき感謝!

2023.12.29>>加筆修正

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