メス堕ちしたくない俺の苦難八割TSチートハーレム記 作:丸焼きどらごん
生理。
女の子にだけ来る、子供を産むことが出来る準備が整った事を示す生理現象。
小学生の頃、初めて授業で習った時はその後しばらく女子に対して気まずい思いをしたし、プールの授業を休んでいる女の子を見ると「ああ、そうなのかな」と考えるようになった。
知識では知っていても、そうそうに触れることは出来ない絶対領域。
……だと、思っていたのに!
(俺、今女の子だったぁぁぁぁあぁぁぁぁああああああぁ!!)
シャティからさっくり告げられた衝撃的な内容に、狂ったように地面を転がりまわっていた俺。
だがやがて体力が尽きて、仰向けで寝転がった体勢で止まった。
ああ、空が青い……。でも滲んで見えるのは、なんでだろうな……。
鼻と喉の奥がしょっぺぇや……。
「み、ミサオ様。……そうですわよね。はじめてのことですもの、びっくりしますわよね。申し訳ございません。配慮が足りませんでした。ごめんなさい。でも、これだけは安心してほしいのですが……月のものが来る前はとても精神が不安定になり易く、体調にも変化が生じるのです。ですからこれは生理的現象であって、ミサオ様が心配するような魔王の呪いによる精神の侵食などではありませんわ! ご安心ください!」
「あ、はい……」
俺の奇行を見たシャティがあせあせと心底申し訳なさそうに謝罪してくるが、今の俺にとってその腫れ物に触るような態度が逆につらい。
かといってさっきのように雑に衝撃の事実を告げられても困るけど。
だが俺はこのすぐ直後。
更なる試練が下されるなど露とも思っていなかった。
「ねえ、ミサオママ」
「は……はは……。なんだ……モモ……ははは……」
力なく倒れている俺をひょこっと覗き込んできた桃色の少女に、俺はひくつき、ふるえる口でなんとか返事をした。
そういえば「わかってる」感を出す女性陣の中で、モモだけ腕組みしながら首傾げてたな。
なんでだろう? と働かない頭で考える。
モモ。桃か……。
我ながら安直な名前にしてしまったなとも思うけど、それ以上にピッタリの名前だと思う。
この世界は髪色のバリエーションが豊かだけど、桃色の髪っていうのは意外と少ない。
こんなに違和感なく人に収まるピンクの髪ってあるんだなと感動したのを覚えている。
桃は魔除けになるというし、桃の節句……女の子のお祝いの日に飾られる花でもあるからな。
直感もあったけれど、記憶を失った少女に少しでも不幸が寄せ付けられることなく、幸せが訪れますようにとつけた名前だ。
その名付けただけの俺を親のように慕ってくれる、可愛いモモ。
そのモモが、小首を傾げて俺を見ている。
「?」
俺も内心首を傾げる。
奇行に走った俺を心配しているというよりは、なにかを疑問に感じている。そんな雰囲気だ。
表情が乏しい彼女の感情も随分わかるようになったなぁと考えていると……その珊瑚色の愛らしい唇から、俺への更なる追加試練が放たれた。
「月のものって、なぁに?」
「!?」
これに驚いたのは俺だけではない。
他の女性陣がにわかにざわついた。
「あら!? モモは初潮がまだでしたっけ……? たしか、十四歳くらいでしたよね?」
「そうだね。仲間になってから一度もそんな様子はなかったし、おそらく」
「多少の種族差や個体差があっても、獣人の周期は人族とそう変わらないはずだ。そうなるとなくはないけど、少し遅いね。モモの種族は獣人内でも希少だから私も詳しくは知らないが……」
「ふ、不覚。有翼人ベースで考えてはなりませんね……! 一度ちゃんと見ておくべきでした」
「いや、それは付き合いの長い私が気を付けておくべきだった。血の匂いについて聞かれたことはあったけど、あの時はこの子にはまだ早いかと誤魔化してしまったから。でもそうか……モモもそろそろ知っておくべき年齢だね」
シャティ、ガーネッタ、アシュレの会話でだいたいを察する。
けど俺としては「ああ、種族が違う影響って発育にも関係あるのかぁ~」などど呑気に驚いている場合ではない。だって俺はまだモモの質問に答えられていないのだ。
ダメージ抜けきらない俺に、モモは更に質問を重ねる。
「ミサオママ。ねえ、ミサオママが驚いてる月のものって、なあに? 教えて。モモ、知りたい。だってそれのせいでミサオママ苦しがってるんでしょ?」
「そ、そ、そ、それは……!」
俺はどもりながら、助けて! と仲間達を見た。
自分に生理が来そうって事実を受け止めるだけで精一杯なのに、更には無垢なモモに生理のあれこれ教えなきゃいけないのは流石に拷問だろ!?
いくら仮の親とはいえ!! 俺はママじゃなくてパパなんだよ!!!!
『さすがにこれは同情するよ……』
(お前が……!?)
憐憫を含んだ声色の魔王にぎょっとする。
ここぞとばかりにからかってくるものと思っていたら、まさかの純度百パーセントの憐みである。
これはこれで屈辱だけど、こいつにそこまで言わせるほどってことはやっぱり今の俺って相当可哀そうな状態だよな!?
「も、モモ。それについてはわたくし達が説明いたしますわ」
「シャティ……!」
さきほど俺に致命傷を負わせた口から今度は救いの言葉を述べてくれるシャティ。
純白の羽や中天から降り注ぐ太陽の光もあって、さながら後光を背負った天使に見えた。
しかし。
「あ、ミサオ様も一緒にお勉強しましょうね」
「え」
ぶわっと冷や汗が吹き出る。
「ミサオ。君も詳しくは知らないだろう? 特にそうなった時の対処法とか、処理のやり方とか。いい機会だし、いざ来た時に慌てるよりも今のうちに覚えておこうか。ね? 大丈夫、怖くないから」
「買う物も追加しないとね。……となると、ゆっくり休めてそれなりに物がそろっている場所へ行かないと、か」
真っ青になる俺をよそに着々と計画を立てていく三人。
俺は生まれたての小鹿のような動きでなんとか立ち上がると、手を上下にさ迷わせる謎の動きをしながら口
をパクパクさせる。
必要性は頭で理解できるが、心がついていかない。言葉が出てこない。
『……僕が説明しようか?』
(お前に教えられるのはそれはそれで嫌すぎるだろうが!! あとなんで教えられるほど詳しいんだよ!!)
『…………。ふん、親切を無下にするとバチがあたるよ? ま、それなら大人しくお仲間に教えてもらうんだね』
気遣うような声から瞬時に不機嫌そうな声色になった魔王に突っぱねられるが、こいつに教えてもらうのだけはごめんである。
となると……。
「おねがい……します……」
俺は蚊の鳴くような声で、仲間達に頭を下げるのだった。
2023.12.30>>加筆修正