メス堕ちしたくない俺の苦難八割TSチートハーレム記   作:丸焼きどらごん

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35話▶散歩~晴れ時々血の雨

 現在滞在している町はベテルキクスほど栄えてはいないが、そこそこ賑やかだ。

 商業施設に加えてちゃんと冒険者ギルドもある。

 

 俺は近くの迷宮へ行くか冒険者ギルドで適当な依頼を探して野良魔物を狩るか迷い、結局何も考えず町の外へ出ることにした。

 

 目的は気分転換だからな。

 迷宮みたいな閉塞的な場所に行けば余計に気分が沈むし、依頼を受ければいくら簡単なものでも義務感が発生していまいち目的に沿わない。

 だったら適当にぷらぷら歩いて、襲ってきた魔物を倒すくらいがちょうどいいってなもんだぜ。

 

 

「あ~あ。せっかくみんなが気を遣ってくれたのに、誰かさんのせいで一人になれないんだよな~。邪魔だな~。せめて黙ってくれてたらな~」

 

 

 町を出て街道からはずれた人気のない林を散策しつつ、ここぞとばかりに文句を言う。

 木々の間には大きく間隔が開いてて見通しがいいから、周りに誰もいないのは分かり切ってるしな。

 やっぱり脳内だけで話してそれに反応返ってくるのって疲れるんだわ。人気が無い場所なら、口に出した方がまだマシだ。

 

 俺の文句を受けて、魔王が即座に実体化する。

 明るい日差しの中で半透明の体が元気に動く姿は本来違和感しかないはずだが、この光景にも少し慣れてしまった。

 自分で考えておいてなんだが、慣れたくねぇ……!

 

 

『君が喜ぶことをして、僕になにか得があるのかい? お願いするなら見返りを用意してから言いたまえよ』

「お前は敗者だろうが。勝者の俺の言うことくらい聞くべきだろ寄生虫」

『へぇ、言うじゃないか。でも今の僕は何もできないけど、君からの干渉も受け付けないんだよね。ま、好きにさせてもらうよ。ふふふ』

「このクソガキ……!」

 

 

 楽し気に俺の前をぴょこぴょこ歩いている魔王。

 当然ながらそこに反省の色は無く、俺はどうにかしてこのクソガキをぎゃふんと言わせる方法は無いものかと考えていた。

 

 

 

 そんな時だ。

 

 

 

「は?」

 

 何の前触れもなく、唐突に。

 爽やかを絵に描いたような快晴広がる上空から、なにかが振ってきた。

 

 俺はそれが何かを確認する間もないまま、咄嗟に両腕で受け止める。

 避けても良かったのだが、何故かそれはまずい気がしたのだ。冒険者の勘、というやつである。

 

「うおっ」

 

 どさっと結構な質量を伴い俺の腕に収まったのは……中坊くらいのガキだった。

 

(いや人間かよ降ってきたの!? 山も崖も高い建物もないけど、何処から!?)

 

 更にはそのガキの後を追うように、快晴に喧嘩を売るがごとくざぁっと降り注いできたのは血の雨である。

 血の雨!?

 

「何!? なになになに!? 何事!?」

 

 幾多の激戦をかいくぐった俺でもさすがに声出るわ!

 少し前に俺も魔物の血で雨を降らせたが、自分でやるのといきなりそんな現象に襲われるのとでは心構えが違う。

 普通にビビる。

 

 おかしい。

 さっきまでここは温かい日差しが木々の葉を縫って降り注ぐ、木漏れ日の林って感じの平和を絵に描いたような場所だったはず。

 もうちょっと行かないと魔物出てこないだろうな~とか、呑気に歩いていたお散歩コースだったろうが。

 それが今や降り注いだ血の雨で視界一面赤色に染まった地獄絵図だ。なんだこれ。

 

 しかもよく見なくても、上から降ってきたガキもぐちゃぐちゃに怪我をしている。そう。ボロボロじゃなくて、ぐちゃぐちゃだ。ひでぇ怪我。

 さすがにこの血の雨が全部こいつの血ってことはないだろうが、かなりの出血を伺わせる大怪我である。

 

 見えるとこそ全てに打撲痕と切り傷があるし、裂かれるに留まらず肉ごと潰れてるような傷まである。

 片腕は骨半ばまで達していそうな深い裂傷で、ぶらんと垂れ下がり欠損寸前だ。

 脚は曲がっちゃいけない方向に捻じれて不格好な様を晒している。

 呼吸も不自然。……もしかして肺も潰れてるんじゃないか!? これ!

 

 

 

 まさに虫の息。

 その表現がぴったりの少年を前に、俺は咄嗟に回復魔術を得意とするシャティを探すが彼女は居ない。

 俺は今、一人なのだ。

 

「と、とにかく応急処置を……!」

 

 極力揺らさないよう、慎重に少年を地面に横たえる。

 衛生的にどうかと迷ったが、両腕が塞がってることには何もできない。

 

 荷物は最低限しか持ってきていないため、着ていた上着を裂いて千切れかけの腕を覆い、脚は手近にあった木の枝をへし折り添え木にしてから残りの上着で固定する。

 そのうえであまり得意としていない回復魔術の行使を開始した。

 

(こ、こんな事ならシャティに頼り切らないで、もっと回復魔術の知識も極めとくんだった!)

 

 俺も回復魔術は使えないわけじゃないし、効かないわけでもない。

 レベルアップに伴い手に入れた膨大な魔力に物を言わせて、そこらの魔術師よりはよほど強い力を使えるだろう。

 

 だがこのレベルの怪我となると、俺の半端な回復だけでは後遺症が残りかねないのだ。

 魔力をぶっぱするだけしか能がない俺の魔術では、回復に伴いくっついてはいけない場所が接合したりする危険がある。

 だから微量の魔力になるよう調整して、まさに応急処置としか言えない治癒しか行えない。

 

 回復の魔術はあくまで高度で便利な医療器具のようなもの。高水準で使いこなすには医者のように知識が居る。

 そして俺にそこまでの知識はない。すぐに専門であるシャティに診せるべきだろう。

 

 見れば見るほど少年の傷は深く焦りそうになるが、どうにかその判断までこぎつけることが出来た。

 冷静さを失ったら死ぬのはこの子だ。

 

 しかしせっかく俺が落ち着いた判断をしたってのに、魔王が横から声をかけてくる。

 おい、こんな時にやめ……!

 

『【職業(クラス)乙女(メイデン)】の職業技能(クラススキル)を使ったら?』

「あ!? んだよ、こんな時に何を言って……」

『こんな時だから提案してあげてるんだよ。なんといったって、僕は呪いナビだからね。僕の呪いが引き寄せた職業……そのスキルの中で、この場に応じた最適のものをご提案させていただいてるってわけ。感謝してくれていいんだよ?』

「……!」

 

 ニヤニヤ笑いのショタガキ魔王は気に食わないが、流石に人命がかかってるとなれば俺も文句を飲み込むしかない。

 迷惑ばかりの職業(クラス)だが、たまには役に立ってもいいはずだ。

 

「で!? なんだよそれは! 教えろ!」

 

 ……少年の怪我に気をとられていたが、近づいてくる不穏な気配に気づかない俺でもない。

 晴天の中、黒い波のように遠方から何か黒い津波のようなものが近づいてきているのが見える。

 それらがすべて魔物であろうことは気配で窺えた。

 

 どう考えたって、このガキがこうなった原因だ。

 なんでそんなもんが現れたのかは知らないが、下手に動かせないこいつを放置したまま応戦すれば少なくともガキは死ぬ。

 せめて転移魔術に耐えられる程度に回復できれば、シャティ達の所に放り込んで俺は魔物をぶっ倒すだけなんだが。

 

 もどかしい思いで魔王を見る。役に立つスキルがあるならさっさと言え!

 

 

『ふっふっふ。その性能、聞いて驚きなよ? まずそのスキルの名は……【乙女の口づけ(コネクト)】』

「もう嫌な予感しかしねぇなぁ畜生ッ!!」

 

 

 

 悲鳴のような怒声のような声をあげつつ、俺はやけくそで魔王からその使い方を教わることを決めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 




2023.12.30>>加筆修正

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