メス堕ちしたくない俺の苦難八割TSチートハーレム記   作:丸焼きどらごん

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37話▶暴虐の炎~おニューチートと八つ当たりファイト

「……というわけですね」

「何かわからない所はあったかい?」

「ん。だいじょうぶ」

 

 ミサオが出て行った後ものんびりモモへの授業を続けていたシャティ、アシュレ、ガーネッタ。

 モモはミサオのように慌てふためくことなく、淡々と「へぇ、そういうものなんだ」とばかりに体の仕組みを受け入れているようだった。

 

 そんな中。

 

 先ほどまで長閑だった町に、突如大音量の警鐘が鳴り響いた。

 

「! これは……」

 

 何事かと外に目を向ければ、シャティ達と同じくなんだなんだと困惑する人々が空を見上げている。

 警鐘を鳴らしているのは一人の有翼人。

 見た所ガルーダ一族のようで、その有様を見てただ事ではないようだと察したシャティは窓からすぐさま飛び出て舞い上がった。

 

「何があったのですか!?」

 

 ガルーダ一族の青年は魔術道具で警戒の音を町中に鳴り響かせているが、その体は飛ぶのもままならないほどにボロボロだ。

 今にも落ちそうな彼を抱き留めると、シャティは白金の冒険者証を見せながら問う。

 

「対処します。説明を」

「! あ、あんた、白金級の人か……! 運がいいが……、ア、レは……、ダメだ。すぐに、町のみん、なに避難を、呼びかけて……くれ……!」

「……。アレ、とは」

 

 手っ取り早く信頼と安心を与え情報を引き出すため冒険者証を提示したが、白金の冒険者証を見てなお「駄目」と判断するほどのものとはなんであるのか。

 嫌な予感を覚えながらも……シャティは問いに答えが返ってくる前に理解する。

 

 

 遠方に一列となった黒い何かが見える。

 

 

 蠢くそれは段々とこちらに近づいており……人族よりよほど優れた視力を持つ有翼人であるシャティは、それが何であるかを察した。

 魔物の群れ。しかし青年の必死な様子を見るに、ただの大群ではないのだろう。

 

「発生は、つい先、ほど。だが……もう、町と村、が、一つずつ、呑まれた。速度も、すさまじい。俺がぎ、りぎり逃げられた」

「ガルーダ一族で、ぎりぎりですか」

 

 有翼人の中でも最速を誇るガルーダ一族が、命からがらに逃げてくる相手。

 それを聞き"あれ"がすさまじい速度で蹂躙を進めている"脅威"なのだろうと納得はしたが……対処を脳内で組み立てる前に、優れた視力は黒い群れの直線状にもうひとつの影を見つける。

 

 シャティは怪我だらけの青年に回復魔術を施しながら、ふわりと笑った。

 

 

「あの方向ならば大丈夫ですわ。ミサオ様が居ます」

 

 

 

 

 

 

 

 

++ ++ ++

 

 

 

 

 

 

 

 

(……………なあ、魔王。今の俺の絵面って何?)

『死体にむしゃぶりついて生き血をすするハイエナか山姥』

(だよな。って一瞬頷いちまったけど誰が山姥だ! 俺まだ若いだろ! あとこいつもまだ死体じゃねーよ!!)

『ハイエナはいいんだ。……絵面の話だよ、絵面の』

 

 現在俺が何をしているのかといえば、地面に横たえた少年のぐちゃぐちゃになった傷口に急いでキスをしている。

 なんだよマジでこの状況。

 つーかキスとか考えちまったけどキスじゃねーし!! 人工呼吸みたいなもんだ、こんなもん!

 

(う、うえ……! 血の味がえぐい)

 

 なりふり構ってないから、きっと口の周りも血でべっとりだ。あ~あ。

 

 

 

 

 

 

 技能(スキル)乙女の口づけ(コネクト)

 呪いナビを自称する魔王が提示した、現在の俺が身に着けている技能(スキル)のひとつである。

 

 こいつがどういった能力かと言えば、まあこれも性能だけならびっくりするくらいのチートだった。

 超絶回復チート。

 

 現在俺の体液は(表現が生々しくて嫌だな……)それそのものがまず回復の力を持っているらしい。

 それを口という最も精気の出入りがし易い場所と唾液を介して力を注ぐことで、ある程度無条件で対象に癒しを与えるようだ。

 しかもこの力、【職業(クラス)女神(アークレディ)】まで上り詰めることが出来れば、不治の病も癒し瀕死の怪我でさえも一瞬で回復可能となるらしい。

 上り詰める気なんざ、さらさらないけどな!!

 

 ある程度ってのは、レベルの差みたいなもんが関わってくるようだ。

 このガキと俺くらいの力量差があれば正に死の淵にあったはずの命も助かるが、もっと強い相手であれば効果は薄くなるとか。

 ……でも現状でも反則急に強い力だよな。

 だって今の俺との力量差、そう近い奴いないだろ。つまり大体の怪我は治せるって事だ。

 

 

 けど方法がな……!

 

 

 人工呼吸みたいなもんと言っても、施術部位に口付けなければいけないってのがどうにも受付ねぇ!

 相手が女の子ならいいけど、初使用が男。そんな場合でもないし目の前で死なれるのも寝ざめが悪いから仕方がないけど。

 

『ほらほら、仕上げに口にちゅーして』

「はぁ!? もういいだろ! 怪我はもうほとんど治ったぞ!!」

『部品を直してもガソリンが無いと車は走らないだろう? そして車と違ってその子はガソリンが無いと死んじゃう。生命力が尽きかけてるんだよねぇ』

「~~~~~~!」

 

 そう言われてしまえば納得するしかない。

 魔王の事だから俺をからかい倒すために言っている可能性もあるが、それを俺が確かめる術はないのだ。

 

(だあああああっ! もう!! ここまでやったんなら、もうヤケだ!)

 

 ファーストキスはもうガーネッタに捧げてるわけだから、まだ軽傷!

 そう思うしかねぇわ!! いやこれはキスではないんだが!!

 

 

(回復チート、すごいはずなのにまったく嬉しくねぇ……!)

 

 

 俺、本当にどういう方向に向かってるんだよ!

 

 

 

 

 でもってスキルの力は……まあ凄まじかった。

 

 口付けた場所はまるで時間が戻るように怪我の無い状態まで回復し、不本意ながら人工呼吸(あくまで人工呼吸!!)すると少年の顔はあっという間に血色が良くなり、生気を取り戻した。

 叫んだり、俺が怪我人への躊躇なく頭突きや拳骨を振るえる程度には。

 

 この様子なら転移魔術でシャティ達の所へ放り込んでも大丈夫だろうが……。

 それをするには、魔物の群れが近くまで迫りすぎていた。

 大群が移動する重々しい地鳴りがすぐ間近だ。

 

 ガキは逃げようと言ったが、冗談じゃねぇ。

 この俺が尻尾を撒いて逃げる? ありえねぇ。俺は魔王を倒した男だぞ!

 

 

 ………といういきりは建前で。

 

 

「ククククク。い~い八つ当たり相手が出来たぜぇぇ……!」

 

 あまりの多さに一瞬ブチギレたが、それは単純にこぼさず対処するのが面倒くさいというだけのもの。

 戦う事にまったく異論はないというか、むしろ歓迎だ。

 

 

 

 

 俺はこの現状への溜まりまくった不満をぶつける、八つ当たり相手を探してたんだからなぁッ!!

 

 

 

 

 俺は背に携えていた剣を引き抜くと、まっすぐに魔物の群れへと飛び込んだ。

 すると以外にもなんか喋る知能のあるやつがいて話しかけてきやがった。

 

〔……ワレは悪意のケシン。人が想像しうるカギリの悪意を実行スるために生まレテきた。ワレはそレを遂行す……ごっ!?〕

「おらぁッ!! 俺のストレス発散にせいぜい付き合ってもらうぜ木偶の棒がよ!! わーははははははははははははははははははははッ!!」

 

 手始めにその話しかけてきたおぞましいやつに剣をねじ込んだ。

 

 なんかこう……見た目的に一番邪悪っつーか、生理的に無理な見た目で視界の暴力だったんだよな。

 苦悶に歪んだ人間の顔が体中に敷き詰められていて、全体のシルエットだけが人の形を保っている。

 魔王とは別ベクトルに嫌な感じだ。

 

『はぁ~? 僕の魔王体をこんな不細工な人形と一緒にしないでくれる?』

(似たようなもんだろ)

『僕の方がかっこいいだろう!! あの美しい装甲を思い出してもらいたいね!』

(お前、案外自分の外見気に入ってたんじゃん……)

 

 思いのほか気に障ったのか、きゃんきゃん噛みついてくる魔王。

 それを無視して剣を突き立てた場所に最大火力の魔力を注ぎ込んでいく。

 最近は道中の野良魔物を倒すのがせいぜいで、ここまで思い切り力を振るうのは久しぶりだ。

 

 

 

【爆ぜろ、爆ぜろ、爆ぜろ。渦巻く暴風よ火を纏え。咆哮をあげろ。灼海より押し寄せる煉獄の津波よ災禍を振るえ。爆ぜろ、爆ぜろ、爆ぜろ】

 

 

 

 久しぶりに詠唱も挟みながらたっぷりと魔力を注いでいく。

 何と言っても数が多いから、最初の一撃である程度吹き飛ばしたいのだ。

 

 魔術の類は俺なら詠唱が無くても使えるためスピード感を重視する戦いでは端折り気味だが、ブースト効果が欲しい時はこうして使う。

 

〔き……さまァァァあ゛!!〕

 

 おぞましい何かが黒板を爪でひっかくような金切り声をあげて、四肢から目玉が連なったような触手を無数に伸ばして俺を囲う。

 体中に絡みついたそれはどうも俺を絞め殺そうとしているらしいが……正直、マッサージ程度の圧迫感だ。

 今は戦闘モードで体中の筋肉に防御力を張り巡らせているからな。

 多分あのガキあたりがこれくらったら一瞬でミンチだけど、さすが俺。魔王を倒した男! 強靭! 無敵!

 

 でもこの攻撃、見た目がめちゃくちゃ嫌だな……!

 眼玉の触手て……! きっもちわりぃ!!

 

 

 

 こんなもん、さっさと焼却処分しちまうに限るぜ。

 

 

 

「おっと」

 

 目の前の化け物に集中していると、その横をすり抜けていくドロドロとした影のような魔物が少年の方へ向かう。

 丸腰のガキはこちらを見ながら硬直していて、逃げ出せる感じはしない。

 

「しかたねぇな。もうちょい溜めたかったが」

 

 嘆息すると、目を細めて眼前の化け物を睨み据える。

 

 

 熱くなる腹の底。

 丹田から生まれた熱が血液のように体内を巡り、胸、肩、腕へと伝播していく。

 その熱は鈍色に光る剣にたどり着き、刀身を夕日色へと染め上げた。

 

 技の完成間近を示すように俺と剣の周囲からはかまいたちのような風の斬撃が発生し、体に纏わりついていた気味悪い触手を切り裂いていく。

 金切り声の悲鳴が耳障りだ。

 魔王の野郎はそんな無様な悲鳴、あげなかったぜ。

 

 風の刃は周囲まで広がり、横をすり抜けようとしていた魔物の胴体を裂いた。

 そして、仕上げとばかりに詠唱を止め結びとし……技名を解き放つ。

 

 

 

 

「おらァッ! 爆ぜ死ね! 【暴虐紅蓮風斬(アサルトプロミネンス)】!!」

 

 

 

 

 瞬間。

 

 化け物の体内から太陽が生まれたかのような光が迸る。

 俺はその光源……突き刺していた剣を一気に横に振り抜いた。

 

 すると俺が振り抜いた剣の軌跡が辿る空間全てが炎の波に飲み込まれ、一拍遅れて焼かれた魔物を風の斬撃が切り裂き粉みじんに焼き崩していく。

 周囲の自然やら街道の石畳も同時に吹き飛ぶが、まあこれの対処するんだから許容範囲だろ。

 

 この火力、閉塞的な迷宮内や周囲に人が居る場合は絶対に出力できない。

 だが視界が開けていて、かつ埋め尽くすように魔物が押し寄せている状況にはハマり過ぎた。

 綺麗に焼き刻まれ爆散していく魔物どもがいっそ見ていて清々しい。

 

「おーおー、綺麗に吹き飛んでくなぁ! わーっはははははははは!!」

 

 当然、最初に攻撃をうけた例の気持ち悪い化け物は真っ先に消滅している。

 ……結局、あれなんだったんだ?

 

 

 それにしても、"これ"を極限まで凝縮した一撃でやっと切り裂けた魔王の装甲、今思うとヤバいな。

 

『そうだろう、そうだろう』

 

 今は声だけなものの、得意げな顔をしていることが容易に想像できる魔王野郎。

 けどお前は結局倒されたんだから誇らしげにすることでは無くないか?

 ……まあいいけどさ。今の俺は気分がいいから許してやろう。

 

 

 

 

「うわああああああああああああ!?」

「あ、やっべ」

 

 周囲に人はいない。けど後ろ側に一人いた。

 

 

 直接被害こそ受けていないが、爆風と熱波で後ろに居たガキが吹き飛ばされた。その後ろにはそこそこ大きな岩。

 

「ちッ」

 

 舌打ちし、地面を強く踏み込み真横へ跳躍するようなイメージで一気にガキのもとまで飛び、その体を片手で抱き込む。

 

「うぷぃっ」

「おい小僧、このまま一回離脱すっぞ」

 

 まだ全部倒したわけじゃないが、これだけ派手にやったんだ。

 あとはシャティや、町に滞在する他の冒険者。自警団などが気づいて来るだろう。

 

 今の一撃ですっきりしたし、八つ当たりは完了!

 結構魔力も消耗したし、あとは他と連携をとって残党狩りしていけばいいもんな。

 

 

 

 

 

 

 そう結論付けると、俺は元怪我人のガキを抱えたまま短距離転移魔術で町へと戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




2023.12.30>>加筆修正

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