メス堕ちしたくない俺の苦難八割TSチートハーレム記   作:丸焼きどらごん

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前回
▶魔王 は 転生者 だった
▶魔王 は 呪い ナビゲーター に 転職 した
▶主人公 は 魔王 に 寄生 されて しまった



4話▶謎の音~胸キュンを知った日

 現在俺たちが祝勝会をしているのは行きつけの宿屋。酒場を兼ねた食堂が会場だ。

 今日は店主の好意で俺達が気兼ねなく寛げるよう、食堂のみ貸し切りとなっている。急だってのに助かるな。

 

(こんな姿のままじゃ迂闊に出歩けねぇしな……うう……)

 

 本来なら世界を救った功績を高らかにギルドなどへ報告し、世界中から賞賛され褒賞などもらいたいところ……。

 が、この姿のまま行けば「勝ったけど女にされたまぬけ野郎」としても名を馳せることになってしまう。そんなのは勘弁だ。

 

 魔王を倒したあとすぐに転移魔術で駆けこませてもらったため、今俺達が魔王を倒したことを知っているのは世界中でここの店主とその息子だけだ。

 どういうわけか回復魔法を受けるまでもなく女になった体から怪我は消えていたし、体力もそこそこ回復している。

 だが精神的にがっつり疲労していたため、こうして一息つける場所を借りられたのはマジでありがたい。みんなも疲れてるしな。

 

 テーブルの上には店主が腕によりをかけたうまい料理や酒が山のように振舞われている。それら全てが本当にありがたいのだが……。

 腹がすいているのにも関わらず、どれに手を伸ばす気にもなれなかった。

 

「ミサオ」

 

 机に突っ伏してどんよりした暗雲を背負っている俺に、青髪ポニテの女性……アシュレ・ノーヴァが声をかけてきた。

 

 彼女は俺が冒険者になってから初めて出来た仲間で、パーティーメンバー内で最も長い付き合いになる。

 アシュレは【騎士(ナイト)】という職業(クラス)を修得しており、そのイメージに違わず礼儀正しく真面目で、女性にこの表現が正しいか分からないが紳士的な人柄だ。

 だが初期からの付き合いという事もあって俺にはなかなか厳しい。

 

 いやぁ……まあ。チートで強くなって生きってた頃からの付き合いだからな。よく怒られたし説教された。冒険者としての心得も教えてもらったりしてるから、基本頭の上がらない相手である。いや俺基本的にこのパーティーの誰にも頭上がらんけど。

 そんな彼女の事だ。さっきは褒めてくれたけど、「めそめそ落ち込んでいてもどうにもならないだろう? 情けないな、君は」とか言われるのかな~と身構えたのだが……。

 

「ごめんね。一応これでも戸惑っているんだ。だが当事者であり落ち込んでいる君を放っておくべきではなかった」

 

 最初に心底申し訳なさそうな謝罪をうけて、予想外だったのと「なんのことだろう」という疑問でポカンとする。

 ……もしかして、さっき悲痛に訴える俺から目をそらしたことか? そのまま祝勝会してたことも? 他のみんなは時々俺を構いながらまだ食事を楽しんでるけども。

 

 思わず口を開けたままぼうっとアシュレを見つめていると、彼女はそっと俺の頬に手を添えてきた。

 おふぁっ!?

 

「だけどね。気持ちは察するが、そのままでは体に良くない。ひとまず着替えて食事をしてはどうだい? 体の変化に伴い傷も消えているようだが、君は多くの血を流した。軽いものでもいい。まずは何か腹に収めねば血が足りないだろう。そんな時は余計に気分も沈むというものだよ」

「え……」

 

 慈愛の(まなこ)に落ち着いた声色。そっと丁寧かつ繊細に俺の頬を撫でた手は温かく、心底こちらを気遣ってくれている様子に胸がキュンとした。なるほどこれが胸キュンってやつかと理解(わか)らせられた。

 

(ど、どうしたのアシュレさん? 優しいんだけど。やだイケメン……)

 

 正直この五年間、冒険者としてけっこう名を馳せた割に俺がモテなかったのはアシュレが隣にいたからじゃない? って思ってた。

 原因の一つくらいに考えてたけど、これメイン理由じゃない!? だってだいたい女の子がアシュレに流れるんだよ! でも中性的で高身長で優しくてかっこよくて紳士で顔のいい女、俺よりモテるのはよく考えなくても納得しかないわ!

 前は身長近かったけど、見上げる視線でこれはヤバい。あ、これが大抵の女の子の視線ってこと!? やばいって。これはやばいって。

 

 キュンっ! の次はドッドッドとエンジンのように鳴る心臓を自覚する。

 うわー! うわーっ! アシュレってこんなにかっこよかったっけ!?

 これは新たな扉を開いてしまいそ……。

 

 

 

 

 

 

 なんて考えていた時だ。

 

 

 

 

 

 

【メスメロリンッ♪】

 

(!?)

 

 脳内へ鳴り響いた間抜けな音に動揺が走る。

 

 

 

 

 

「? どうかした?」

「い、いや! なんでもない! けど、そうだな! まずは、その、着替えてだな! 飯を食う! うん! 俺部屋で着替えてくるわ!」

 

 突然聞こえた形容しがたい奇妙な音にぎょっとしたが、結構な大音量だった気がするけど、他の皆には聞こえていないっぽいし……頭の中、となれば奴だろう。

 

(ぁんっの野郎……! 何が力ないだ変なことしてきやがって!)

 

 と、ともかくだ。自分の中にせっかく倒したはずの魔王が居ると知られるなんて、冗談じゃない。

 仲間の事は信じたいけど、万が一。……万が一にもだ。魔王に寄生された事実が広がれば、下手すりゃ今度は俺が討伐対象ってこともあり得る。

 

 相談したくもあるが、まずは俺がこの事実を受け止めきれるまで黙っておいた方が良いだろう。

 受け止める前にあの寄生虫が消えてくれりゃあ一番いいんだがな!

 

 

 そう文句を心の中に並び立てると、俺は我ながら慌てふためいた様子で食堂から借りている部屋に退散するのだった。

 

 

 

 

 

 

 部屋に戻った俺はバタンと部屋の扉を閉め、そのまま扉にもたれかかりズルズルとへたりこむ。

 

 はぁぁ……! 焦った……!

 ったくよぉ! なんだよさっきの馬鹿みたいな音! びっくりすんだろうがッ!!

 

『有翼族の魔術師に、人族の騎士。獣人族の闘士、加えて半魔族の銃士……ね。なかなかの精鋭だったが、よくもまあ。この人数で僕に挑もうと思ったものだ。あ、半魔の彼女はもともとうちの子だったかな?』

 

 俺の中から周囲の仲間を観察していたらしき魔王は感心したように述べるが、その言いざまは上から目線だ。

 

(負けたくせに! 負けたくせにぃぃッ!! ばーかざーこまぬけー!!)

『勝った方が負けた雑魚の捨て台詞みたいなこと言うのはいただけないなぁ。君、自分で自分の格を下げているよ』

「うっせぇっ!」

 

 腹立つ物言いについ声が出てしまう。

 しかし奴はそんな俺の反応など意に介さず、余裕たっぷりといった様子で鷹揚に構えている様子だ。声だけだけど。

 

『確かに優秀なお仲間達だが……君がいなければ僕は負けなかったよ、大英雄くん? 誇りたまえ』

 

 クスリと笑ったような雰囲気と共にそんなことを言われるが、果たして俺は勝ったと言えるのだろうか。

 男としての象徴を剥奪された上に現行で魔王に寄生されてんだけど。

 

『寄生とは失礼だなぁ! 僕はアニサキスかなんかか?』

(それ遠回しに俺の事イカ臭いって言ってる?)

『あっははは。ずいぶん深堀りしたねぇ。疑心暗鬼かい? やっぱり君って面白いなぁ』

(不名誉!)

 

 この妙に軽い自称魔王……いや、自称呪いナビゲーターだったか? よくわかんねぇけど。こいつの正体が正体だけに余計に腹立つ。これ見よがしにこの世界じゃ通じない寄生虫の名前だしよってからに。

 アニサキスくらい知ってらぁ! イカとか魚とかに居るやつだろ! 昔兄貴の釣りにくっついて行くとき、散々食って腹壊すなよって脅されたんだよ!!

 

 ともかくこいつはめちゃくちゃ性格悪い。

 魔王に転生するのも分かるってものだ。

 

 俺はちらっと部屋の姿見に映った自分の姿から必死に目をそらしつつ、魔王に問いかけた。

 

「おい魔王。なんだよさっきの間抜けな音は。お前だろ?」

『だ~か~らぁ。もう魔王はやめてくれって。さっそくナビゲーターとしての役割もこなせそうだし、ここは可愛くナビくんとかさ』

「ナビゲーターとしての役割? その……呪いのか?」

『君、ノリ悪いね』

 

 お望みの呼び方をしなかったからか、どこかぶすくれた感情を滲ませる魔王。

 ……こいつの声も変なもんだな。含む感情は分かるってのに、声の音自体は機械音声みたいでどうも慣れない。

 

 ただ、気のせいだろうか。最初に比べてノイズらしきものは減ったように思える。だからなんだよって話だけど。

 

『う~ん。説明してもいいけど、その前に着替えたらどうだい? あまりに煽情的な恰好で、宿屋の彼が目のやり場に困っていたよ』

「煽情的って、あのなぁ」

 

 このボロボロな男物がどうしたらそう見え……。

 

「ああ、うん」

 

 改めて自分の格好を見てわかった。ああ、うん。

 

『彼シャツに萌え袖に破損肌チラ見え服だね』

「言い方」

 

 混ぜるな混ぜるな! 言いたいことは分かるが。

 ……というか俺、微妙にこいつが脳内で喋る現状に慣れてきてないか? やだやだ。そんなもんに慣れたくねぇ。

 

 それにしても、あれだな。確かに服まで気にする余裕無かったけど、これはよろしくない。

 まだはっきり自分の全体像は見ていないが、筋骨隆々と言って差し支えない俺のスペシャルなボディは背丈も横幅も小さくなってしまっていた。そうなれば当然、服のサイズが合うはずもない。

 腰は細くズボンはゆるゆる。これまで使ってたベルトじゃ絞められないからヒモみたいに縛って使っている有様だし、上の服はうっかりすればずり落ちて肩がむき出しになる。袖口も長すぎて手が出ないから、萌え袖ってより幽霊袖だ。まくってもすぐ落ちてくる。

 更には怪我こそ治っているものの、魔王との戦闘で服はズタボロ。結構際どい肌色が見え隠れしている。

 

 これが自分じゃなかったらうっひょ~ってなもんだが、自分なんだよなぁ……。はぁ……。

 

 宿屋の彼こと店主の息子は俺と同い年。俺の正体を知っていようが、そりゃ視線の置き場に困るだろうよ。

 

(…………。このまま見ないわけにもいかねぇか)

 

 先ほどからちらちら視界の端で姿見に映る女。当然、俺。

 

 まだしっかり自分の姿を見ていないんだよな。体つきと髪の色はわかるが、顔は鏡が無いと無理。

 ちなみに髪色だが黒々としたやぼったいもさもさ髪は、色素が抜けたような淡いオレンジ色に変化していた。長さも腰くらいまで伸びていて落ち着かない。

 

(どれどれ。こういうのはお約束として美少女になってるもんだが……)

 

 事実こそ認めたくないが、ちょっとばかりわくわくしながら鏡を覗き込む。そこには……。

 

 

 

 

 

「じ、地味……」

 

 

 

 

 

 思ってたよりずっと地味。

 圧倒的、地味……!

 

 髪と同じで目の色もオレンジに変わっていたが、三白眼がそのまんまでくりくりした可愛い眼なんてどこにも無いし、癖毛が伸びた影響で余計に暴れまわっていて野暮も野暮、さいっこうにやぼったい!

 俺の期待外れに連動するように、なかなか外れないよう特注の魔術がかけてあるはずのメガネがずり落ちた。

 妹が居たらこんな感じかなってくらい元の俺の顔をそのまま女に置き換えた容姿で、なんかめちゃくちゃ萎える。テンション駄々下がりである。

 

「こ、これが現実……。せめてもっとこう、可愛くあれよ」

『そう? 磨けば光るタイプじゃないの』

(中途半端になぐさめるの何、お前)

 

 憐れみをかけられたようで、ただただ不快である。

 

 もとの鍛えた体が置き換わったからか、体のメリハリはまあまあだよ? でもそこじゃねーんだよなぁぁぁぁッ!

 その割に背は縮んでてパーティー内で一番小さいモモと同じくらいの背丈になってるし。

 なんかことごとく想像していたものと違う。

 

「ま、まあ……。これなら逆に性別変わった自分を下手に受け入れることも無くて安心……なのか? これがめちゃくちゃ美少女だったらまんざらでもない気分になるところだったぜ。ふぅ、危ない危ない」

 

 

 そう言って自分を納得させようとした時だ。

 

 

 

 

「安心してください! あなたは磨いて光る原石です!!」

「『え?』」

 

 

 

 

 

 魔王と似たような台詞と共に、背後の扉が勢いよく開かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




▶アシュレ>>
人間。騎士。女。青髪ポニテ。
操が冒険者になってから出来た最古参の仲間。礼儀正しく紳士的な人柄だが、操には厳しい。
しかし女の子になった操にはいつもより優しいようだ。



2023.12.3>>微修正

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