メス堕ちしたくない俺の苦難八割TSチートハーレム記   作:丸焼きどらごん

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40話▶熾火は執着の風に煽られて(魔王視点)

 ミサオが男。

 その事実を受け入れられないのか、頭ををくしゃくしゃに掻きむしりながら緑髪の少年がオレンジ頭の元男を凝視する。

 

「おと、おと、男って! しかも悪評高いアイゾメミサオって……え、あ、待ってください!? 今、魔王を倒したって言いました!?」

「そこに注目するのが先じゃねぇかな!? あとさりげにディスるのもやめろ!! 悪評高いって駄目押しすんなよマジでさぁ! え、つーか本当に俺そんな評判悪かった!? 本当に!?」

「でぃす……? えっと、ごめんなさ……いやいやいや、でも、いや、ええええええ!? でも師匠のあの強さは尋常じゃなかったし、魔王を倒しててもそこだけは納得ですけど、でも女性ですし!? アイゾメミサオ!?」

「呪われてこんな姿になってんだよ! いいから説明させろ!!」

 

 

 美しい子供の姿をした魔王は、見た目の年齢にそぐわない老獪な目でもって眼前の騒がしい様子を眺める。

 

 

『ふむ……。これも運命の出会い(エンゲージ)の影響か』

 

 

 目の前の急造師弟の片割れであるルキという名の少年。

 ミサオは一連の出来事の元凶は全て魔王であると言っていたが、それは正しくもあり……一部間違いでもある。

 

 

 なぜなら魔王の見立てではルキという少年と出会う運命そのものは、ミサオが現在手にしているスキル【運命の出会い(エンゲージ)】が引き寄せたものなのだから。

 

 

 封印されていた「悪意の化身」とかいう人造魔物はいずれ解き放たれていただろう。

 だがミサオたちがあの町に滞在するタイミングで、しかもミサオが一人で外に出た瞬間に瀕死の少年と出会ったのだ。それもかなりの距離を魔物に弾き飛ばされるという、かなり無茶な方法で。

 それに元凶である魔物の進軍まで重なった。

 

 もしこれが本当に偶然ならば、なかなかの凶運である。

 

 しかしミサオには魔物を蹴散らす力があった。

 その後に残った結果は自分に絶対的な信頼を寄せる、求める力を持った「伴侶候補」との縁。

 ミサオにとっては凶運どころか強運、豪運といっても良い。

 

(思ったより厄介な力だな。笑ってばかりもいられないね……。神にすら至れる職業というものを、甘く見ていた)

 

 思わず舌打ちする。

 

 自らの呪いが引き寄せた職業ではあるのだが、そのすさまじく強い力の内容そのものに魔王は干渉できない。

 出来るのは「知る」ことのみだ。

 

 魔王としてはミサオが完全にメス堕ちして【職業:女神】を取得し、呪いを介して魔王との繋がりが完全なものとなるか、性転換の事実に追い詰められて精神、もしくは肉体的な死を迎えればミサオの魂を道連れにできる。

 それが魔王にとっての勝利だった。

 

 故にここ最近鬱屈とした様子を見せていたミサオに「ようやく持ち前の愚鈍さでも我慢できなくなってきたか」とほくそ笑んでいたのだが……その件に関してはミサオ本人と同じく、完全なる勘違いだった。まさか生理前症候群とは。

 ミサオの不調が生理の前兆と知って、らしくもなく心配する様子まで見せてしまったのは前世の記憶と経験がある故の不覚である。

 

 ともあれ、ミサオはといえば魔物を倒して気分転換出来た上に、男に戻れる可能性のあるアイテムを手に入れるための更なる足掛かりまで手に入れて上機嫌。

 いざ股から血が出た時の反応が楽しみではあるが、現状では精神崩壊のせの字もない。

 

 もしもこのままとんとん拍子で例のアイテムを見つけられでもしたら、確定していた魔王の勝利は露と消えるのだ。

 

 

 

 

 

 

――――【技能(スキル)運命の出会い(エンゲージ)

 自分にとって優良な伴侶となりうる異性と引き合わせてくれる力。

 

 

 

 

 

(僕はその意味を知りながら、深くまで理解していなかったのだろうな。テキストだけ読んで分かった気になるなんて、まったく甘いにもほどがある。ミサオの馬鹿が移ったかな?)

 

 "自分にとって優良な"。それは単純に能力が優れた者だけでなく、スキル保有者が望む力を持った相手と引き合わせるという意味も含むのだろう。

 しかもミサオには魅了(チャーム)の力もある。その相手は喜んでミサオの好意を得るために力を差し出すはずだ。

 

(男に戻れる可能性を指し示した賢者。彼もミサオに好意を抱かなかったら、情報と引き換えの代償をなにかしら要求していたはず。僕を倒したご褒美に要求されたからといって、自分が有利な状況にあってそう簡単に貴重な情報をぽんと教えるものか。あれはそういう類のモノだ)

 

 魔王は賢者カリュキオスをそういった性格だと判断していた。

 

 加えて魔族の元部下や、竜族の王子。

 今のところミサオにとっては厄介者でしかないだろうが、いずれも強力な力を持つ。

 男に求愛されるというミサオにとっては罰ゲームでしかない状態に目を瞑れば、そういった者達から好意を向けられる事実は生きていく上での強力なアドバンテージだ。

 

 神にも至れる職業(クラス)がもたらす恩恵は多い。

 魔王は以前この呪いを祝福と称したが、なにもそれは嫌味ではなく正しく事実なのだ。

 そして最終的にミサオが女神の職業を取得すれば魔王の勝利へとつながるが、その過程で恩恵を得たミサオが呪いを解いてしまっては意味が無い。

 

 最終的な勝利を確信していただけに、雲行きが怪しくなってきた現状が少々悩ましくもあった。

 

(どうしたものかな……。もっと追い詰めるか)

 

 ミサオが元々持っていた力、経験値十倍取得のレベルアップチートによりメス堕ちする速度は本人のチョロさもあって魔王が少し引くほどに早い。

 だがそれでも、メス堕ちしきるのを待つにはいささか不安だ。

 

 ならば近々来るであろう、自分が女になった事実を決定的に思い知らせる女特有の生理現象を利用して精神面を追いつめる方が得策に思える。

 

 

――――君は僕のもの。それは決定事項だからね。そこを変えられてしまっては困る

 

 

 呪いを上書きしてハイさよなら、などと都合のいい結果には終わらせない。

 魔王は死出の旅路の大事な同伴者を、逃す気など無いのだ。

 

 

 

 

 

 魔王は自分がいかにしてこんな姿になったかを弟子にあーだこーだと説明をしては疑われ、更に懇切丁寧に説明してはその過程で自分がダメージを受けている阿呆を見る。

 

『運命? そんなもの、ぶち壊してこそなんぼってやつだろう。強いて言うなら僕の意志こそ運命。最後に笑うのはこの僕だ。……"また"神という存在がもたらす何かが僕の前に立ちふさがるなら、今度も。ふふ』

 

 

 すでに終わった命であるにも関わらず、燃え盛り始めた何かを自覚した。

 

 

 

 

 

 

 

 燻っていた熾火は執着心という風に煽られて、再び勢いを取り戻していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ま、今のところ出来そうなことあんまりないんだけどねぇ。とりあえずミサオを追いつめて追いつめて、存分にからかおっと。あっはは』

(おめぇはさっきから何を不穏な独り言を言ってんだよ怖いわ!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




2023.12.30>>加筆修正

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