メス堕ちしたくない俺の苦難八割TSチートハーレム記   作:丸焼きどらごん

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43話▶部屋割り~なんか弟子がめちゃくちゃキョドってる

 

 突然来ては慌ただしく強制送還させられていったルリルに奪われた時間はそこそこ長く、暗くなってきた空を見上げて俺たちは一泊してからマシュラバに向かうことにした。

 先行きがいいかと思えば当たり前の様にトラブルがあるし、なんだかなぁ……。

 

 俺はげんなりとため息をつくと、先ほど危うく潰れたトマトに転職するところだった弟子を見る。

 

「お前も災難だったなルキ。つーか災難続きか。さすがに同情するぜ」

「ええっと……はい」

 

 ルキの表情は引きつっており、歯切れも悪い。

 仲間が文字通り全滅して自分も死にかけた後にルリルに絡まれるとかな……。これは何か旨いものでも食わせて元気づけてやった方がいいか? 師匠として。

 そんなことを考えていると、ルキがおずおずといった様子で言葉を続けた。

 

「……あの、師匠。一つ聞いてもいいですか?」

「おう、なんだ?」

 

 神妙な面持ちで尋ねられたので少し身構える。あのメスガキおっさんについてはさっき説明したから、来るとすれば師匠として頼られる何かであると思ったからだ。

 なんだ、俺はまだ師匠若葉マークだぞ。するなら出来るだけ分かり易い質問にしろよな。

 

 しかしルキの質問とは実に単純なものだった。身構えていた分、少々肩透かしを食らった気分だ。

 

 

 

 

「どうして僕は師匠と同じ部屋なんですか!?」

「はぁ~ん?」

 

 

 なんだ、そんなことか。

 

 半ば叫ぶように問いかけてきたルキの質問はなんてことない。現在この宿屋に置おての部屋割りについてである。

 俺は男だった時も、そして女になってからも仲間達とは別部屋だ。でもって俺の弟子かつ男であるルキは当然俺と同じ部屋。それがこの弟子にとっては一大事らしい。

 

 でもそれはこいつがいけないんだよ、こいつが。

 

「いや、だってお前。迷惑はかけられないとか言ってさ。めちゃくちゃやっすい部屋借りようとしてんだもんよ」

「で、ですから! 僕は気にしませんし、それでいいんですってば!」

 

 食い下がるルキに深いため息が出る。

 俺はガシガシと頭をかくと落ち着かない様子の弟子にジト目をむけた。

 

「バッカお前。自分達だけいい部屋に泊まって仲間一人……それも一番若いお前を安いタコ部屋に放り込んだらさ、ほら。嫌な感じだろ。世間の目ってもんがあんだよ」

 

 アシュレにちゃんと面倒見ろって言われたばかりだし、余計にそんなことは出来ない。

 

「だけど! その、女性と同じ部屋というのは!」

「だから俺は男だっつってんだろ!! いいか。これは最大限の譲歩だ。もう一部屋借りてもいいんだが、それだと今度は申し訳ないから外で寝るとか言い出しかねないだろお前。どうせ泊まり賃は部屋ごとだ。俺と同じ部屋ならタダみたいなもん。これ以上は譲れねーな」

「ぐ……!」

 

 というかこいつには見えないけど魔王もいる。

 ルキとしては師匠と二人で気まずいんだろうが、俺にして見りゃ単なるむさくるしい男部屋だ。気にしなくていいのに。

 

『君ってさ……。いや、それより前言を撤回してくれない? むさ苦しいだなんて侮辱もいい所だ。僕が居るだけで部屋の景観が数段良くなるだろう』

(その自信はどこから来るんだよ)

『え? 顔』

(自分で言いやがった)

 

 さっきから静かな割に人を小馬鹿にしたような呆れたような視線を向けてくる魔王は、喋ったと思ったら相変わらず面の皮が厚い。こいつ自分大好きだな。

 俺はルキにばれない程度にベッドに座って足をプラプラさせているショタガキを睨むと、言い返せなくなっているルキの肩をぽんっと叩いた。

 

「……ま、中身が男でも体が女じゃ困惑するよな。でもそこは慣れだぞ、慣れ」

「ええ……」

 

 か細い声をこぼすルキ。……こいつもエルフの血を引くだけあって線の細い美少年だから、確かにむさ苦しいって感じではないか。

 

 俺がこれ以上はどう声をかけたもんかと考えていると、隣の部屋……女性陣が借りている部屋から楽しそうな笑い声が聞こえてきた。

 いいなぁ……。せっかくなんて言葉は意地でも使いたくないが、女になったんなら俺も女子部屋にお邪魔したかったぜ。

 冗談めかして「俺もこれからはみんなと寝よっかな~」と言った時に思いのほかあっさり「いいよー」くらにのノリでOKしてもらったんだが、実際にそれをするとなると問題がある。……メス堕ちという問題が。

 一晩でシャティあたりに夜這いされて完全メス堕ちする懸念さえなければな……! いや、モモもか。添い寝とかねだられた日には俺の母性が爆発してしまう。いや父性だが。メス堕ちポイントの野郎が母性認定してくるだけで父性だが。

 

(いや、俺は誰に言い訳してんだよ)

 

 妙な葛藤をしそうになったので頭を左右に振って考えを振り払う。

 ……さてルキも黙り込んでしまったことだし、そろそろ寝るか。なんかめちゃくちゃ眠いんだよな。

 

 にしても別に同じベッドで寝るわけでもないのに気にしすぎだこいつ。どうせ野宿の時は雑魚寝だぞ? まあそれはそれで部屋とは気分違うんだが。……でも俺だけでこれなら他の女の子も一緒の時はどうなるんだよ。

 真面目なのは良い事なんだろうけど、ここまで気にされると俺まで居心地悪くなってくる。……さっさと寝ちまう方がいいな。

 

 そう決めるとごそごそ寝る準備を整え始める。すると静かだったルキが突然奇声をあげた。

 

「今度はなんだよ!!」

「だっ、えっ、ししょっ」

「なんだって?」

「わああああああ!! 来ないでください!!」

「はぁ!?」

 

 変な声出された上に来ないで下さいとはどういう事だ。

 俺はわけのわからなさにさすがにカチンときて逆にルキに大股で近づいた。

 

『あ~あ……』

 

 後ろから魔王の半笑いっぽい声が聞こえたが……。なんだよ。気づいてないのは俺だけで、何かあるのか?

 

「わっ、ちょっ、とっと」

「おいおいおい」

 

 俺が近づいた分だけ後退したルキは勢い余ってベッドに足を引っかけ倒れそうになる。反射的に手を伸ばしてその腕を掴むと、俺も少々バランスを崩した。

 斜めった体を支えるためにもう片方の腕を伸ばすとちょうどそこは壁で、なんだかルキを壁ドンするような体勢になった。げぇっ!

 

「ひぃっ!!」

「だからさっきからなんなんだよ!!」

 

 言葉にならない声を発し続ける弟子にいい加減イライラして少し大きな声を出してしまった。妙に眠いからさっさと寝たいっつーのに、寝る前に疲れさせんなよなぁ。

 

 我ながらこれは弟子からの評価爆下がりなのでは? という目つきの悪さで睨む。するとルキは口をぱくぱく動かしたあと……目を泳がせ、意を決したように唾を飲み込んだ。

 

「師匠」

「なんだ。言いたいことがあるならはっきり言え」

「はい! その……! たいへん言いにくいのですが……!」

「おう」

 

 なんだこいつこれから死地にでも赴くのか? って顔して。

 ただ視線は絶対こっちに向けず、顔も俺から直角にそらされた状態である。は? 随分頑なだな。俺を見たくない理由でもあるのか?

 

 訝しむ俺にルキは喉の奥から絞り出すような声で懇願した。

 

 

 

「下着を、つけてくださいぃぃぃぃぃぃぃ!!」

「え」

 

 

 言われて初めて俺はつつっと視線を下に向ける。現在俺の服装は部屋着用の黒いタンクトップとゆるめのズボンだ。

 下着ってそんなもんつけてるに決まってるだろ人をノーパン主義みたいに言いやがって。……そう思ってたんだが、俺は今の自分がパンツ以外にも下着をつけていることを思い出した。正確にはさっきまでつけていた、だが。

 

「あ~あ……」

 

 口からこぼれ出たのはさっきの魔王と似通った半笑いの声。いや、笑い事じゃねぇんだけど人って不測の事態になった時には笑うしかないというか。

 

 ちらと自分のベッドを見るといわゆるブラジャーという物体が無造作に放り投げられている。

 

(やべー……。いつもの調子で外しちまった……。いやだって締め付けられて苦しいんだよブラジャー……)

 

 言い訳の様に思考するも、眼下には黒のタンクトップから覗く双丘。かなり際どい所まで見えており、俺より背の高いルキからしたらこの距離でその位置は完全に見えてしまうだろう。

 俺は流石に慣れるしかなく自分のそれには特に思う事はなくなったが……思春期真っ盛りのルキではそうはいくまい。

 

 

 俺も男だ。ルキの気持ちはわかる。

 中身が男だとしてもノーブラの女と密室に居たら気まずいだろうよ。

 

 

(でも、ここ俺の部屋だし……。気を遣って俺が苦しい思いをするのはおかしくないか?)

 

 宿でのひと時は唯一許された楽な恰好が出来る瞬間なのだ。だというのに弟子に気を遣って寝る時までブラジャーをつけ苦しい思いをしないといけないのか?

 

 

 

 結論。

 冗談じゃない。

 

 

 

 俺は襲ってくる眠気に判断力が低下している自覚を抱きながらも、ふっとルキに笑いかけた。

 ルキはそれを了承ととったのか安堵の息をこぼすが、次の俺の言葉を聞い固まる。

 

 

 

「慣れろ」

「え?」

「俺、これが一番楽な恰好なんだよ。なに、どうせベッドに入るから見ねぇよ。すぐ慣れる」

「待ってください!?」

 

 思わずといった風にそらしていた頭を俺の方に向かせたルキが狼狽えるが、俺は「もうどうにでもなれ」」という心境でさっさとベッドにもぐりこんだ。

 いや、マジで眠いんだよ。しんどい。

 

「じゃ、俺寝るからな。おやすみ」

「え」

 

 

 

 

 

「ええええええええええええええ!?」

「ちょっとルキ。さっきからうるさいですよ! 他の宿泊者の方にご迷惑でしょう!」

 

 

 

 

 

 

 ルキの叫びとそれを聞きつけ扉の外まで来たシャティの声を聞きながら、俺はだるい体をベッドに委ねた。

 

 

 

 

 ……疲れたな。今日は良く寝られそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。すっきり快眠の俺とは違い、目の下に立派な隈をこさえたルキが憔悴した様子で「おはようございます」と言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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