メス堕ちしたくない俺の苦難八割TSチートハーレム記 作:丸焼きどらごん
俺がこの世界に来た時に手に入れた能力は"レベルアップ"。
俺にしか認識できないレベルという概念の元、あらゆる経験値を十倍で取得できる。
更には一度強くなったらいくらサボろうが弱くならないというのも、この能力の大きな特徴だろう。
身体能力と魔力保有量からおおよその強さを色で表現する妖精王作の冒険者証と違い、俺のそれは技量も加味した上で明確な数字として強さをはじき出す。
ゲームなどと違うのは、自分以外のレベルを知るには一定以上の好感度みたいなものが必要になってくることだ。
だから敵や、初対面もしくは親しくない人間のレベルは知ることが出来ない。
この辺の詳しい理屈は知らないが、そもそもレベルアップ自体の能力内容も朧げに掴んで名前を付けているにすぎない。
自分の能力ではあるものの、よくわからない部分はそこそこあるのだ。
そしてレベルを把握するには目視するだけでなく、ちょっとした所作が必要であり……。
「す、しゅ、すてーたす、オープン!!」
『何照れているんだい。噛んだよね? 今』
「うっせぇぇ! いざ元の世界を知ってる奴に見られると、こう。こそばゆいんだよ! 分かれよ!」
『あはは。分かってて言ってる』
「て、てめぇ……!」
……なんて魔王とやり取りしたのはちょっと前。
魔王を倒してから自分がどれくらい経験値を得てレベルアップしたのか確認を試みた時だ。
その倒したはずの魔王におちょくられながら確認するのがすげぇ腑に落ちなかったけど。
そう。俺が自分に備わっている能力を知るために試みたのは、異世界転生とか転移ものとかでよく出てくるステータス表示!
実際やってみたらドンピシャで、最初はテンション上がったものだ。
しかし元ネタを知る同郷の奴に見られながらのそれは、まあ恥ずかしくてな……。
こういうのは恥ずかしがる方が逆に恥ずかしいから堂々とやればいいものを、魔王の前ではかなり中途半端になってしまった事が今でも悔やまれる。屈辱だ。
ともあれそんなこんなで俺が可視化できるようになった"レベル"だが、これは三つの強さに支えられた総合力を指す。
身体能力。
魔力保有量。
技量。
その合計値がレベル。
表示されるのはこの四つだけだ。
こうげき、しゅび、すばやさ、こううん。などは出てこない。
仲間達のレベルはシャティが八十八、アシュレが七十五、モモが六十七、ガーネッタが八十四。
新参のルキがレベル二十五であることも添えると、このパーティがいかに強いか数字で示すのは簡単だろう。
でもって魔王討伐前の俺はレベル九十九。ゲーム脳が抜けきらず、正直これでカンストだと思っていた。
この時の内訳が【身体能力:四十】【魔力保有量:四十】【技量:十九】。
しかしいざ確認してみれば……我がことながら、目玉が飛び出そうだった。
現在の俺のレベルは百五十六。
……魔王討伐により、元のレベルの半分以上もレベルアップしていた。
経験値十倍取得があるにせよ、魔王どんだけ経験値の塊だったんだよってなる。
というかそれだけの経験値を得られる魔王のレベルって、結局いくつだったんだ!?
カンストうぇ~い! って喜んでいたつもりだったけど、レベル九十九が最高値でないなら、もしかして俺とんでもない格上に挑んでいた可能性が……いやいやいや。
実際倒せたんだし、そんな事はないはずだ。そう、魔王が経験値の塊なお得仕様なだけだって!
とかなんとか考えていたら、その魔王本人が話しかけてきた。
『いつまで現実逃避してるんだい?』
(いや、してねぇし。己を振り返ってるだけだし)
『君、本当に強さに精神力が追い付いてないよね。そういうの何回目?』
(うるせぇ!! こういう場は、その。緊張するだろ普通に……!)
思考の底に沈んでいた俺を無遠慮に呼び戻した魔王のせいで、現状に嫌でも目が向く。
……まあ、あれだよ。悔しいけど魔王の言う通りだ。
いくら破格の強さを手に入れたとしても、俺は中身が釣り合ってない。
圧倒的に! 人間力が!
足りねぇんだよぉぉぉッ!!!!!!
「ミサオ様、そう緊張なさらず」
「き、ききききききき緊張? いや、してないし? 大丈夫だぜ……だぞ、ですっ」
気づかわし気に俺を覗き込むシャティに虚勢を張ろうとするが、面白いくらいに失敗した。面白くないけどな!!
ガチガチに緊張している俺と違ってアシュレは優雅だし、ガーネッタは堂々としているし、モモはいつものマイペース。
唯一ルキだけが俺と同じく緊張しているが、高所にビビっていた俺を見た時の様に「自分以上にビビってる奴を見ると落ち着く」現象なのか俺よりか冷静に見える。先にビビった者が負けというやつだ。
ち、ちくしょう! 師匠としての威厳が!
どうして俺がこんなに緊張しているかといえば、現在針の
針は針でも、視線の針。四方からグサグサと刺さっている。
現在俺達が居るのは東京ドームくらいの広い空間で、観客席のような場所には有翼族達が一糸乱れず整然と並んでいた。
これだけたくさん居るのに話す声どころか衣擦れの音すらしなくて、静寂が耳に痛いくらいだ。
自分の鼓動の方がよく聞こえる。
天空都市マシュラバに到着した俺達だったのだが、入り口の門番が真っ先にシャティに気が付いた。
そしてあれよあれよという間に恭しく都市中心にある長の居城へ招かれて、流されるままに風呂で体を磨かれ(有翼人のお姉さま方が体を洗ってくれたがラッキーとか思う以前に羞恥で死にかけた)正装っぽい服に着替えさせられて「長がお会いになります」とか言われてこの場所に放り込まれたってわけだ。
シャティが言ってた買い物してる暇ないって、こういうことかよ!?
しかもこの正装、当然のごとく女物なわけで。シャティ達有翼族の伝統の衣装だけあって背中がばっくり開いている。
翼の動きを阻害しないため……だっけ? なんというか、翼なんて優美なもの持ち合わせていない俺としては着ていて非常に背中が心もとない。すーすーする。
慣れない服装の上に案内された場所が神聖で厳粛な雰囲気の漂う大ホールで、多くの目が俺達だけに向いている。
その中でこれから偉い人に会うとなれば……緊張するだろ!!
少しくらい現実逃避させてほしいもんだが、縋るものがチートで強くなったレベルであるあたり俺の人間力の底は浅い。
結局「いくら強くなっても人としての強さは早々に得られるものではない」という事実に行きついただけだった。
だって! 今まで冒険者らしく! 冒険ばかりだったし!
立場ある人に会う時も! 仕事の依頼とかで! こんな雰囲気初めてだし!!
高校生で異世界転移したしバイトもろくにしたことなかったから面接すらほぼほぼ未経験な社会人初心者だぞ俺は!? 難易度高いって! 公的な場面の経験少ないんだって!
うえぁぁぁぁああん! 人の視線が怖いよーーーー!
『君、幼児返りしてない?』
(いっそ赤ちゃんになりたい)
『思ってたより重症』
おちょくってくる魔王に返す余裕もだんだん消滅してきた。
考えれば考えるほどドツボにはまる俺だったが……そんな俺の肩にぽんっと手がかけられた。アシュレだ。
「ミサオはこういった場は初めてだものね。緊張するのも無理はない。でも、安心して。私がついているから」
「あ、あしゅれ」
い、イケメン~! スパダリ~!
【メスメロリンっ♪】
(くそがよ!!)
長年頼りにしている先輩冒険者の風格に安心した途端に鳴ったまぬけ音に床ダンしたくなった。
『忙しいねぇ、君も』
自分でも思ってるわい! とキレそうになりつつ……メス堕ちポイントが溜まる音のおかげとは死んでも思いたくないが、感情が高ぶったからか多少緊張が取れた。
これから俺は世界を救った英雄として有翼族の長に会う。
今は一族への報告をするというシャティの目的のために有翼族にしか言えないが、男に戻れれば大々的に魔王を倒したのは俺! と言って回れるのでこういった機会も増えるだろう。
今はその予行練習と思って、堂々と長に対峙せねば。シャティに恥かかせるわけにもいかないしな。
……思ってた以上に人に見られたのは計算外だけど、そこは長さんによく話して口止めしてもらえばいいだろう。うん。
俺がそう腹を決めていると、静寂を裂いて流麗な音楽が流れ始めた。
「有翼族が長、メルバティア・エラルディア様のお越しです」
シャティの声に顔をあげると、ドームの天井……一部青空を覗かせているその場所から羽が舞い降りてきた。
それはシャティと同じく純白の羽で、まるで雪のようだ。
その後を追うようにばさっと羽ばたく音が聞こえ、大きな翼をもつ有翼人の女性が現れる。
彼女はゆっくりと中に入ってくると、ドーム中央にある玉座のようなものに腰かけた。
……長っていうから厳めしいおじさんを想像してたけど、結構若いな。しかも美人!
ちょっとシャティに似てるかも?
「……英雄殿よ。待たせてしまい、申し訳ない」
「あ、いえ!」
急に話しかけられてビビった。
「私はメルバティア・エラルディア。有翼族の長を務めております」
「あ、藍染芽 操です。その、操が名前、です」
名乗られたので反射的に名乗り返すと、横に居たシャティが一歩前に出た。
そのまま跪いて頭を垂れるので「え、俺もそうしたほうがいい!?」と焦るが、アシュレが「君は客人であり、英雄だ。膝をつかれても向こうが困るだろうから、そのままでいいよ」と声をかけてくれて胸を撫でおろす。
よ、よかった~。アドバイス助かる~!
「メルバティア様。英雄探し、ひいては英雄を補佐し魔王を討伐する任を終えてシャティ・ティティシエール帰還いたしました。そして彼……ごほん。彼女が魔王討伐の功労者であり、英雄となられたミサオ様です」
「巫女姫シャティ・ティティシエール、よく使命を果たしてくださいましたね。大儀でした」
慈愛のこもった笑みを浮かべた長さんは(名前長くて一発じゃ覚えらんねぇ……)シャティに労いの言葉を述べると、俺に視線を向けた。
そしてそのまま玉座から席を立ち俺の側へとやってくる。
ふわり、と花のような香りは鼻腔をくすぐった。
「ミサオ殿。よくぞ厄災の魔王を討伐してくださいました。僭越ながら命を救われた生命全てを代表して、感謝の言葉を述べさせていただきます」
「いえいえ、そんな。まあ、俺にかかればちょちょいのちょいっすよ~!」
いざ近くで見たらマジのマジで美人だった。
あとおっぱいでけぇ! 背が高い人で俺が今縮んでるからおっぱいが俺の目の前にある!!
さっきも美人さんに世話してもらったが、体を洗われる緊張で鼻の下伸ばす余裕はなかったからな。
手を取られてふわっと笑われたら、こう。包容力? みたいなのやばくて。ついデレデレと調子のよい事を言ってしまった。
「むぅ……。ミサオ様ったら」
いつの間にか立ち上がっていたシャティがジト目で見てくるので咳払いをしてごまかした。
……若干、後ろの仲間達からも冷ややかな視線を感じる。
いやだって、このデカさとこの位置は見ちまうよ! 男の子だもん!!
「有翼族は貴女様を歓迎します。ささやかながら、宴を儲けさせていただきますね」
「………………」
おおー! 宴かぁ~。
せっかく世界を救ったのに誰にも言えなくて、仲間内での祝勝会以外そういうイベント無くて寂しいなーって思ってたし、これはお受けする以外ないよな!
……とか、俺はお受けする気満々でいたんだけど。
「………………。あ、ミサオ様。この宴には出なくていいですよ~。それより報告も済みましたし、さっさと迷宮に行っちゃいましょう」
「え、シャティ!? 宴やってもらわないの!?」
「ええ、そうですよミサオ様。…………そうそう、長。ミサオ様に大義に見合う報酬とわたくしにお小遣いた~っくさん、くださいねっ! 宴の費用をそのまんま頂ければそれでよいので~」
「シャティさん!?」
さっきまで長への敬意を表していたシャティが、すっげーフランクにとんでもなく大雑把な要求しはじめたんだけど!?
驚いたのは俺だけではないようで、今まで静寂を保っていた有翼族達がざわつき始める。
言われた長さんはといえば……こめかみにぴくぴくと青筋を浮かべていた。
めっちゃ怒ってるじゃん!?
「シャティ……。貴方という子は」
「あ、もう巫女姫の地位もおりますね! 役目終わったので! わたくしはこのままミサオ様の旅に同行します~」
「そんなことは許しませんよ! というかですね。ミサオ殿にはこのままとどまっていただき歓待を……」
「ミサオ様、ミサオ様。うっかり頷いちゃいけませんよ? 長は有益な血を一族に引き入れたいので、きっといい男をあてがわれてしまいますわ。ミサオ様は結構チョロくていらっしゃるので、いくらお強くても酔わされたりなんなりで手籠めにされること請け合いです。メルバティア様やり手ですからね。かくいうわたくしも、英雄が男性なら篭絡して子を身籠れなどと言われていましたし」
「だからちょっと待とうかシャティさん!? 情報量多いよ!」
なんか一気にすげぇ聞き捨てならない情報量を叩き込まれたんだけど!!?
手籠め……は? 何!? というか俺はチョロくないが!? 少なくとも男にはチョロくないが!?
しかしシャティは置いてけぼりの俺達などお構いなしに、両腕を広げて晴れやかに笑った。
「ご安心を、メルバティア様! このシャティ・ティティシエール。当初のご命令通り、ミサオ様と一生を添い遂げます! ええ、それはもう! 幸せになりますとも!」
「待ちなさいシャティ。英雄殿が女性の場合は……あ」
長さんは何か言いかけたが、先ほどのシャティのセリフからまあまあ想像は付く。
マジで男をあてがわれるとかあるの!? 嫌だが!?
そして混乱している俺にぎゅっと抱き着いたシャティは、止めとばかりに言い放った。
「ミサオ様はぁ、女の子の方が好きですもんねー?」
「え、うん」
素直に頷いたら長さんが絶句してた。シャティはといえば渾身のドヤ顔である。
あ、いや、そのですね長さん。俺はもともと男で……。
「……というわけで! 用事があるので、わたくし共はそろそろ失礼いたしますわ。帰りにまた寄りますので、報酬とお小遣いをたっぷり用意しておいてくださいまし~」
なにが「というわけ」なのか分からないが、無理やり会話を終わらせたシャティが俺を横抱きにする。
ふぁ!? 横抱き!?
ちょっと待てポジション的にはシャティのお胸様が非常に近く役得なのだが姫抱きは俺がする側じゃない!? そうあるべきじゃない!?
アシュレの壁ドンといい、なんでことごとく俺がやりたい側の動作が女の子に奪われて俺がされる側なの!? おかしくない!?
が、シャティは俺の混乱など何のその。
我が道を行かんとばかりに、マイペースにドレスアップした仲間達に呼びかけた。
「みなさ~ん! 迷宮までご案内しますので、わたくしの後をついてきてくださいな~」
顔を見合わせる仲間達。
だか彼女たちの切り替えは、俺なんかよりよほど早かった。
「シャティ、突然過ぎだ! あとでよく話してもらうよ!」
「やれやれ、なんだか慌ただしいねぇ」
「シャティ、いつも自分の事になると説明たりない」
「え、な、師匠は女の子が好き!? え!?」
モモの天然マイペースと違い分かった上でごり押しする剛腕マイペースを発揮したシャティは、俺を抱えたまま飛行して長さんが入ってきた青天井から外へ出て行く。
慌ててそれを追いかける仲間達を眼下に見つつ、俺は魔王に話しかけた。
(これ、なに?)
『僕に聞くなよ』
今日も空が青い。
最近、現実逃避が得意技になりつつあった。
2024.1.13>>加筆修正