メス堕ちしたくない俺の苦難八割TSチートハーレム記   作:丸焼きどらごん

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48話▶シャティさんの幸せ花園計画(シャティ視点)

 

 シャティ・ティティシエールはアイゾメミサオを愛している。

 しかしそれはつい最近……ミサオが女になってからの話だ。

 

 とはいえ、もともと好感度自体はあったのだ。

 それを阻害していたのは"男性"というミサオの性別。

 

 

 

 

 

 シャティは女の子が好きだった。

 

 

 

 

 有翼族の中でも白い翼を持つ白翼(はくよく)族は厄災の魔王を倒せる可能性を持つ英雄を探し出し、その英雄を補佐する使命を担っている。

 これは世界救済という目的の他、英雄を助けることで優先的にその血を一族に取り入れるという有翼族の生存戦略でもあるのだ。

 

 魂の指針、および格ともいえる職業階級を高め、高位の職業をおさめた者が属する種族は種族全体にその力が伝播し基礎能力が向上する。

 しかしそれは何も同族でなくとも良い。

 

 優れた力を有する他種族を花嫁もしくは花婿として一族に迎え入れ、その魂の強さを子へと受け継がせる。

 そうすれば資質を受け突いだ子は同族とみなされ、長じれば結果的に種族全体が強くなれるというわけだ。

 故にその可能性を広げるため、子は多ければ多いほど良いとされる。

 

 

 ……とはいえ、同族以外で子を為せる他種族は"最も弱い"とされる人族のみであるのだが。

 

 

 同族間でも縁が遠い種族。例えば草食動物の獣人と肉食動物の獣人では子ができにくいとされている。

 個体値の水準が身体、魔力共に高く寿命も長い竜族などは同族間でも子が出来にくく、種族存亡のため定期的に"他種族と子を成せ"て"数における種の繁栄"を得ている人族の血を迎え入れる必要さえあるのだ。

 

 有翼族もまた個体それぞれが優秀であり寿命が長い種族のため、同族間でも子が出来ることは人族に比べて少ない。

 しかし常に研鑽を続け、より優れた種族となることに貪欲であり……。

 そのために人族の中でも優れた者……英雄となりうるものを探すのである。

 

 過去。厄災の魔王を退けた英雄や、厄災の魔王の呪いが猛威を振るったあとに現れた「女神」という職業を持つ者。

 実のところ、それらは全て人族なのだ。

 

 人族以外の傑物の活躍が目立ち勘違いされることも少なくないが、いつの時代も必ず人族の英雄が要となっていた。そして比率的には女性より男性の方が多い。

 故に、その優秀な血筋を迎え入れるために有翼族は"巫女"という役職を作ったのである。

 英雄を補佐し厄災の魔王を退けるだけの優秀な人材が英雄と縁を結び子を成せば、より資質の高い子が生まれるに違いない……と。

 

 有翼族にとってそれら一連の行為は非常に神聖なものとされていた。

 

 

 中でも"巫女姫"は特別だ。

 幼いころから巫女として才能を見込まれ選ばれた、数少ない者の中から更に特別優秀な者にのみ与えられる称号なのだから。

 

 

 シャティはその巫女姫に十歳の時に選ばれた。

 そして長きにわたり教育を施されていくのだが……その中にはには男を篭絡し悦ばせる手練手管も多く含まれており、彼女はそれを学ぶ過程で男性そのものに嫌悪を抱くようになる。

 何故素晴らしい資質を持つというだけで、顔も知らない男を悦ばせ子を生むためにこんなことをせねばならないのか、と。

 

 

 

 そんな中、シャティの目に映ったのはまだ何の汚れもない巫女の仲間達。

 

 

 なんて可愛いのだろう。美しいのだろう。

 

 

 そういった気持ちは成長するにつれて愛へと変化し……ある日を境に爆発した。

 シャティは巫女仲間や他の有翼人の女性を篭絡する、魔性の巫女となったのである。

 

 ずば抜けて優秀だったがために英雄以外の男と恋仲になるよりマシだとギリギリ許容されていたが、シャティは恋多き女だった。

 このままではいけないと英雄探しのための時が満ちたとみるや、すぐさま長がシャティを叩き出す程度には。

 

 

 

 

 とはいえ、シャティは欲に忠実だったし男性に対し嫌悪感こそ持っていたが、使命感に対する意識は高かった。

 そのため自分の役割を強く認識しており、旅立ちの際には名残惜しむ恋人たちにキッパリ別れを告げている。

 自分の事は忘れて幸せになってほしい、と。

 

 これを聞いた者は一瞬「なかなか感心だな」と思うかもしれないが、それは間違いである。

 まず「恋人達」と複数の相手と目くるめく恋模様を繰り広げていたわけだし、恋人の中には同じく巫女の役割を持つ者も居た。

 彼女らはシャティと恋仲になった影響で巫女をやめており、長はひどく頭を抱えたものである。

 

 しかしいくら恋をしようと、巫女姫の役割だけは放り投げなかったシャティ。

 彼女の使命感は厄災の魔王の脅威を旅する過程で実際に見るたびに強くなっていった。

 

 英雄と子を設ける。

 その役割には嫌悪を抱くが、そんなものはこの脅威を取り払った後の話だと。

 

 シャティは愛する者達が住むこの世界を、なんとしても守りたかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 そして彼女は、英雄となりうる者を見つけた。

 

 

 

 

 

 

「あなたの力は伝説の英雄様と同じです! どうか、わたくしと一緒に魔王を倒してください!」

 

 そう懇願した相手。初対面時、彼からの視線はシャティの胸に向いていた。

 猫をかぶりながらも内心盛大に舌打ちしていたシャティである。

 

 

 英雄を探すにあたって非常に便利であるためシャティもまた冒険者となったのだが、それは大正解だった。

 有翼族とは違ったアプローチで厄災の魔王に備えるべく、妖精王が立ち上げた冒険者ギルド。その中で頭角を現すものに目をつけるのが最も効率的である。

 

 シャティが目をつけたのは短期間で最高位の冒険者証……黒金(くろがね)級を手に入れた人族の少年、アイゾメミサオ。

 最初から黒金ではなかったものの短期間での急激な成長に、ある日ぽっと現れたような経歴。それはシャティに過去の英雄が備えていた、ある能力を想起させた。

 その英雄もまた異常な成長速度を誇り、しかもそれは単純な強さに限らずあらゆる職業(クラス)の資質を備えていたという……伝説の大英雄。

 

 巫女として過去の英雄たちの知識も持っていたシャティは「この人だ」と確信した。

 

 そしてその少年、アイゾメミサオはだいぶチョロかった。

 後々もとの世界に帰れないことを知った直後の傷心状態だったと知ったが、魔王を倒してくれというお願いをあっさり引き受けたのだ。

 

 厄災の魔王が振るう恐怖はあらゆる場所に広がっている。

 だというのにあまりにあっさり引き受けられたのでシャティはお願いした身でありながら「ちょっとこの子大丈夫か」と少年のチョロさを危ぶんだ。

 その後仲間になりたいと申し出た魔王軍の女魔族……ガーネッタをあっさり受け入れた時も非常~~に危ぶんだ。

 

 強さこそ折り紙付きだと一緒に旅する過程で思い知ったが、信頼に比例してその危うさにどんどん心配する気持ちが育っていく。

 

 悪い人間ではないが基本的に単純で、慎重かと思えば時々ものすごく大雑把かつ迂闊で見ていて危なっかしい。

 それがシャティからミサオへの評価だ。

 

 

 

 ……その心配の根底に確かな好意が存在したのだと、はっきり分かったのはミサオが魔王の呪いによって女になってしまった時。

 

 

 

 【職業:女】の魅了の効果も確かにあったのだろう。

 だがシャティにとってはミサオが「女になった」ことが何より大きかった。

 

 旅する過程ではっきりミサオへの好意は育っていたのだが、それがどんな形であれ。好意と認めることを阻害していたのは「嫌悪すべき男」という性別。

 それが取っ払われた途端……シャティの愛は花開く。

 

 これまで仲間になった女性が全て魅力的なため、いずれミサオを落として子を孕まねばならない鬱憤を晴らすがためにミサオに見えないところで全力で彼女達を口説いていたシャティ。

 だがそのミサオが女になったのだ。

 

 

 

 これはもう仕方のない事ではないだろうか?

 もう一族の使命など知ったこっちゃないのでは?

 厄災の魔王は倒したんだし十分だろう!

 ……そんな考えがシャティの頭の中を駆け巡り、彼女はあることを心に決めた。

 

 

 

 まず一族に魔王討伐を報告する際、巫女姫とかいう自らを縛る立場を捨てる。

 厄災の魔王の憂いは取り払われたので、使命の半分は果たした。十分だ。子供? 知るか!

 

 女になってしまったミサオだが、自分の代わりに一族の男を彼女にあてがわれることを考えるとふざけるなという気持ちになる。ならもういっそ、連れ去ってしまおう。

 自分にはもう白金級冒険者という世間一般で通じる立場がある。

 一族と縁を切ったところで何も問題はない。

 

 ミサオが男に戻るための協力はする。信頼を失わないためにここは真面目にやる。

 しかしそれまでに自分が篭絡してミサオを心まで女の子にしてしまえば何も問題はない。

 女の子は最高だぞと教え込んでやればいい。

 男に戻りそうになったらその肝心の瞬間を邪魔してしまえばいいことだ。

 

 

 

 

(そしていずれは、みんな一緒に暮らせたら最高に幸せでは? ぐふふ)

 

 

 

 ……第一の迷宮を目前に、ミサオの知らない所でシャティの「幸せ花園計画」は着実に進行していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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