メス堕ちしたくない俺の苦難八割TSチートハーレム記 作:丸焼きどらごん
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現在俺が手記をしたためているのは天空迷宮の中である。
というのも迷宮を出て宿に泊まることも出来ず、一晩この中で明かすことになったからだ。
一晩で済めばいいんだけどな。
滝裏の入り口から入ったこの迷宮……仮称として天空迷宮と呼ぶことにしたのだが、単純に天空都市の近くにあるからという理由ではない。
文字通り迷宮そのものが天空に浮いているからだ。
これはこれで単純だろと自分でも思うんだけど、ここまで見事に浮かれてるとそれ以外思いつかない。
そもそもこの天空都市が存在するエリアの土地は大小の違いはあれど全て空中に浮いているのだが、迷宮があるとしてもほとんどが「その土地内」に留まるはず。
だが滝裏の扉……それは本当にただの入り口に過ぎず、そこを抜けた先にあった階段を下りて驚いた。
土壁に挟まれた暗い迷宮内だというのに下から風が吹き抜けてくると思ったら、螺旋階段を進むと目の前に広がったのは広大な空。
歩く場所そのものは魔術結界で覆われていたので落ちる心配は無かったが、螺旋階段とそこから続く先。現在俺達が居る建造物まで伸びていた回廊は見通しが良すぎて、情けなくも再びシャティにしがみついて歩く羽目になった。情けない。
でもってたどり着いた空に浮く建造物だが、真っ先に思ったのは「なんだこの形」というもの。
初手に選んだ迷宮がなかなかの曲者であることは、この時点から伺えた。
迷宮の形は端的に言うと「真四角の匣が連なったような物」である。
いくつもの硬質な
その形を見て真っ先に「迷宮に入ったらこの立方体が動いてパズルみたいに移動するのでは?」とゲーム脳で仮説を立てたのだが、一応ここは未踏の迷宮ではなく過去にそんな記録はないらしい。
……とは、以前俺に生理レクチャーする片手間で事前にしっかり下調べをしてくれていたシャティの言だった。
のだが。
忌々しい事に現在俺たちは迷宮内で分断されている。
俺が予想した通り、立方体ごとにブロックが分かれている迷宮が動いたことによって。
【俺のチートハーレム記、○ページ目の記録より】
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そこまで記録をしたためた所で、俺は荒々しく手記を閉じた。
「どうした、浮かない顔をして。マリッジブルーというやつか? 心配しなくともいい。俺様に任せておけば未来は薔薇色間違いなしだ!」
そりゃ
「…………ッ!!!!!! あ、相変わらず愛情表現が過激だな君は。だがそこがいい。先ほどの攻撃もなかなかに効いた。ところでそろそろ名前を教えてくれても良くないだろうか? 俺様は未来の夫なのだし」
「だ・れ・が。未来の夫だよバーカ!! テメェわかってんのか? お前のせいで眠ってた迷宮が作動しちまっただろうがよボケ!! イージーをハードにしやがって!!」
俺の目の前で寝ぼけたことを抜かしているのが誰かといえば、自称
さっきから散々名乗られて「アルマディオ・カーネリアン」という長いフルネームまで覚えてしまったが、絶対に呼ぶもんかと思っている。馬鹿で十分だ馬鹿で。
遡ること数時間前。
高難易度の迷宮だけあって出現する迷宮の守護者……迷宮魔物の強さは他に比べて明らかに強かった。
油断すればいくら周りを強者で囲おうとルキレベルはすぐにやられてしまうだろうと、ルキには探索の他に「絶対に俺の手を離さないこと」を厳命した。
まあ、俺にかかれば? この程度……せいぜい平均レベル五十程度の魔物なんて片手で倒せるし? 弟子一人守りながら動くなんて楽勝よ。
敵を切り伏せるごとに間近からルキの尊敬の念がこもった眼差しを向けられ、俺としては師匠としての威厳を取り戻せてめちゃくちゃ気分が良かった。
ルキを除いて仲間内では一番レベルが低いモモも、シャティやアシュレ、ガーネッタと協力して問題なく魔物に対処していた。
罠に関しては主にアイテム探索に気を裂いてる
だからこの迷宮の難易度が示すものが魔物の強さの場合、問題なく最奥まで行けると思っていた。
強力なアイテムの気配を探っていけば、最終的に最奥へ最短で! たどり着けるだろうしな。だいたい強いアイテムってのは迷宮の奥にあるものなのだ。
さくっと今日中に到着してさくっとアイテムゲット。それが俺の求める「あらゆる職業の可能性を開く宝物」だったら最高だ。
……そう思っていたのだが。
探索の途中、突然迷宮が揺れた。
地震かと思ったけど、ここは空に浮く迷宮。そんなことはあり得ない。
そして俺達が動揺している間に……"迷宮が目を覚ました"。
「!! いけない。これは魔力を行き渡らせるための回路だ!」
そう叫んだのはガーネッタで、彼女の視線の先には壁、天井、床にわたってびっしり浮き出ていた魔術文字。先ほどまでは無かったものだ。
それらは全て発光していて、ガーネッタの言葉と合わせてそれが何を示すか理解した。
魔力を行き渡らせて起動させるもの。それは世間に流通する魔技術で作られた製品全てに共通する仕組みだが、それがこの場所に当てはめられるとなると……。
「ミサオ、ここは迷宮であると同時に古代に作られた魔技術の結晶……魔導製品のようだ。まさかこの規模の大きさが本当にあったとはね。……動くよ!」
「ええっ!?」
ガーネッタが言う通り、その後すぐに迷宮は本来の動きを取り戻し動き始めた。
ちょうど俺とルキが立っていた場所とガーネッタ、アシュレ。シャティ、モモが居た場所が別ブロックだったのを知ったのは迷宮が動いてから。
……俺達は見事に迷宮内で分断された。
しかし迷宮が魔導製品だったとしても、シャティが調べた記録を振り返るに動かなくなってかなり長いはず。
それを動かす馬鹿みたいな魔力をそそいだ奴は誰だ!?
……そう思っていたら、壁を破壊して外から侵入してきたのが馬鹿ことアルマディオである。
壁の破壊時に「ふふん、やっと壊れたか! 俺様の魔術攻撃を何度も受けて無事とは、なかなか骨のある迷宮だ!」とか言ってた奴の言葉で俺は全てを悟った。
まあ、まず殴ったよな。奴がゲロ吐いて気絶するくらいの強さで。
あああ、もうっ! せっかく順調だったのにぃぃ!!
迷宮内で分断され、更に言うなら閉じ込められたから数時間。
おそらくもう深夜だろう。
「ししょ……」
「お前はそのまま寝てろ」
寝ぼけ眼の弟子の頭を犬を撫でるようにしてから促すと、ほとんど気絶同然にルキは意識を失う。
さっきまで頑張って起きていたのだが、どうやらアルマディオの放つプレッシャーに気おされているようでかなりストレスを溜めているようなのだ。
……まあ相当の格上相手に殺気を向け続けられたら、本人の感受性が高いのも手伝って溜まるモンも溜まるよな。
今俺が撫でたことで更にルキへの殺気は強まったが、俺がそれ以上の意気を込めて馬鹿にメンチきればにこにこ笑顔になった。
おいそこはビビれよクソが。
そういえば相手からの好感度が激高ってのはめちゃくちゃ嫌ながら理解したから、レベル測定の条件は満たしてるなと試しにこっそりレベルを測ってみた。
そしたら馬鹿のレベルは九十一。
おい、思ってたより前の俺に迫ってたじゃねーか。
そんなに強かったのかこいつ……。
『まあ、僕の部下ならそのくらいはね』
(お前はあいつの名前忘れてたし現在進行形でかたき討ちすっぽかされてんだろ。上司が上司なら部下も部下だな)
俺が驚いていると魔王がどやったのでジト目で見れば、俺にしか見えない魔王の立ち位置がちょうどアルマディオの方で奴が消えると視線が馬鹿とかち合った。そこからまた口説かれる羽目になったので、「やられた」と苦虫を噛み潰した気分になる。
あああ、もう! マジ性格悪いなこの魔王!! だから魔王なんだろうけど!!
仲間と離れ離れになった俺とルキなのだが、現在厄介なことに身動きが取れない状態にある。
というのも
切り取られた立方体の密室からの脱出。
それが現状で最も優先される事項である。
そこそこ広いとはいえこんな密室で
レベル九十一の奴が何度も攻撃してやっと破壊出来た壁を内側から? 俺の方が遥かに強いしやろうと思えばできるだろうが、力の反射と余波でこの密室内がどうなるか分からない。
更に言うならよしんば外に出られたとしても、忘れちゃいけないのがここが空の上だという事。
力加減を誤って部屋ごと破壊したら底の無い空へ真っ逆さまだ。
転移魔術に関しては以前ルリルが使っていたような妨害結界が迷宮の機能として発揮されているらしく、使用できるのはせいぜい二メートルほどまでに制限されている。この機能もまた迷宮が目を覚ましたことで復活したものだから、つくづく馬鹿が恨めしい。
一緒に閉じ込められている敵……アルマディオだが、こいつはもともと戦う気はないらしく延々と口説いてくる。鬱陶しい。
それにしてもこいつ、どうやって俺の居場所を知ったんだ? 流石に魔王城に残っていた魔力の残滓も消えたはずなのに……。
(まあ、会話するの嫌だし聞かねーけど)
『かわいそうじゃないか。あんなに健気にアピールしてるんだから、構ってあげたら? くくっ』
(誰が。それよりお前、ここを出る方法なにか知らねぇのかよ)
『それ、僕に聞く?』
(あいつに聞くよりマシ)
『随分嫌われたねぇ、あの子も』
ダメ元ではあるがいい加減あの暑苦しい馬鹿と一緒の空間に居るのも飽きた。
気分転換に手記を記録をしてみたがいまいちはかどらない。
こういう時はいつもシャティかガーネッタに頼ってたからなぁ……。
アシュレやモモだったら知識が無くても機転や洞察力で突破口を見つけるだろうし。
(あれ。もしかして俺、火力以外の取り柄が……ない!?)
『うわ、自虐始めるための助走やめてくれる? 気持ち悪い』
(自問自答で落ち込む暇も無いのかよ俺)
気持ち悪いとばっさり言葉の刃で袈裟切りされて、少し落ち込む予定がぱぁになった。
まあ非建設的なことで時間を無駄にするのもあれだし、いいけどさ……!
『ふむ。まあ僕としてもこれの仕組みに興味はあるかな。結構パズルゲームとか好きなんだよね』
思いがけず協力的な魔王に目を見開く。
こいつ的には気まぐれかつ暇つぶしなんだろうが、もしここから出られたら初めてこいつが役に立つ。
『初めてなんて、ひどいなぁ。僕はこんなにミサオに尽くしてるというのに』
(どの口でそれ言う?)
『ははっ』
俺の恨めし気な視線を軽やかに笑い飛ばすと、魔王はゆっくり部屋の中を見て回り始めた。
それを目で追いながら、ゆるやかな眠気に抗うべく頬を叩いた。こんな奴の前で眠れるか。
しかし、その時だ。
どろり。
「………………」
いついかなる時でも最悪のタイミングというものがある。それはどんなに強くなっても変わらない。
俺は今まで感じたことの無い感覚に嫌な汗をかきながら腹に手を添えて下腹部と……股の間に意識をむけた。
意識した途端。"始まった"からか、それともこれまで緊張で感じていなかったのかは分からないが……じくじくと腹が痛み始める。
(よりにもよって、このタイミングで!?)
『あ、なに。やっと生理始まった? おめでとう。お赤飯炊く?』
(じゃかましいわ!!)
目の前には忌々しい求婚者。同伴者は弟子。両方男。場所は迷宮の密室。
……どうしろと!?
2024.1.7>>加筆修正