メス堕ちしたくない俺の苦難八割TSチートハーレム記   作:丸焼きどらごん

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51話▶窮地~自分を追い詰めるのはいつだって自分だが納得は出来ない

 よりにもよってなタイミング過ぎて思わず固まる。

 そして俺が予期せぬ事態にうろたえていると、アルマディオが巨体をかがめて顔を覗き込んできた。

 

「む? ……怪我をしたのか!? 血の匂いがするぞ!」

「死ね」

「何故だ!? 俺様は心配をだな……」

 

 最悪のタイミングで来た女特有の例のあれに、なんとか平静を保とうとしていると馬鹿が不躾なセリフをよこしやがった。無駄に鼻良くて気持ち悪いな!

 モモ並だ、と思ったがそういえばこいつも魔族の中でも半分が魔獣みたいな体の構造してるからな。嗅覚も優れているのかもしれない。

 

(ほんっとに、なんでこんな時に!)

 

 これはいよいよ脱出を急ぐ必要が出てきた。

 

 一応迷宮に入る前、高難易度の迷宮ということもあって分解紙を用いた探索用下着は身に着けた。だからしばらく服の汚れは気にしなくていいが、問題は腹部の痛み。

 ……だんだんと痛くなってきている気がする。

 こう、ただの腹痛でなく……腹よりもっと下の部分というか。

 

 俺はガーネッタからもらっていた痛み止めの薬をがりっとかみ砕く。が、これでどこまで抑えられるか分からない。

 生理がもたらす不調は個人によって違うらしいが、アシュレは俺の場合その症状が重そうだと言っていたし。

 ……重いって、具体的にどんな感じなんだよ!?

 

 今感じている痛みがまだ序章であると考えると恐ろしい。

 

 

 

 おそらく俺が身動き取れ無くなれば、現在こうして鬱陶しく口説いているアルマディオはルキになど目もくれず部屋全体を破壊するだろう。

 こいつは飛べるからな。そのまま俺を連れて迷宮からとんずらする様がありありと予想できる。

 現在は俺が牽制しているからこうして大人しく……はないが、口先で口説くにとどめているのだ。

 

 ……つーか、俺も飛べないことは無いんだよ。現に前こいつと戦った時は飛行魔術を使っていたわけだし。

 ただ長時間飛行するには向かず、戦闘など単発的な使用が主。こんな空が大半を占める場所での使用は考えたことが無い。

 だからさっきもシャティにしがみついてたんだ。普通に怖いから。

 

 それでも自分一人ならいくらでも無茶できる。

 だが弟子の命を預かっている今、下手なことは出来ない。

 

 まあ飛べようが飛べまいが、どっちにしろこの密室からは破壊以外の方法で出る必要があるんだけどな。

 昼から何か仕掛けはないかとアルマディオをいなしつつルキと共に調べているのだが、一向にそれらしきものは見つからない。

 探索者(シーカー)のルキに期待したかったが、アルマディオが発するプレッシャーの中で張り切り過ぎたらしく現在ダウン中。

 俺は急く気持ちで部屋を見て回る魔王に目を向けた。

 

(魔王、なにかわかりそうか?)

『今のところは、なにも。……というか暇つぶしに引き受けはしたけど、僕に任せていいの? 僕が本気で君のために探してあげてると思ってる?』

(ダメもとに決まってんだろうが)

 

 そう言うと魔王はどこか不満そうに鼻を鳴らすと部屋の中の観察へ戻って行った。

 え、なにこいつ。まさか「ああ、信じてるぜ!」とか言って欲しかったのか? そのうえで俺の事「わ、敵を信じるなんて意外と純情なところもあるんだ? へぇ~」とか言ってもっと馬鹿にしたかったとか? うわ、めんどくさ……。

 

 だが半ば縋るような気持で魔王を見てしまったのも事実なので、複雑な気持ちになる。

 強制的に憑依してるだけの害虫に何を期待してんだか俺……。

 

 

 

 

 

 

 俺が深くため息をついていると、こりない馬鹿が再び話しかけてきた。

 

「なあ。そろそろ名前を……」

「だからアイゾメミサオ。ミサオだよ」

「兄の名前ではなく君の名が知りたい」

「お・れ・の!! 名前なんだよ! なんだよ兄って!! いや、兄貴はいるけどさ! 俺じゃねぇよ!! というかよしんば俺がアオゾメミサオの妹だと仮定するなら兄を殺そうとしてる奴に好意向けるわけ無いだろうがそういうところ含めて馬鹿だなお前!! いいか? 耳かっぽじれよ。この前だけでなくそれまでもさんざお前をボコってきたのは、俺!! てめぇらのボスのせいでこんなことになってんだよ!!」

 

 いい加減耐え切れず、俺は何度目かになる主張をアルマディオにぶつけた。

 奴は一向に信じようとしないが、今度はついポロリと理由も添えてしまう。

 

「ボス……魔王様のことか?」

「そうだよ!」

 

 イライラしつつ肯定すると、アルマディオは何やら考え込むように口元に手を当て目を伏せる。黙っていればイケメンであるため、その無駄な顔の良さで余計にムカついてきた。

 俺は女になってもこんな地味顔なのに、異世界顔面偏差値高すぎて嫌になる。

 

「つーかよ。お前はさっきから自分の事ばっかりでつまんねーんだよ。それで自分のプレゼンしてるつもりかぁ~? 思いあがるなよ」

 

 イライラついでに吐き出すように言えば、キョトンとした顔で奴がこちらを見てくる。

 ふんっ。どうも理解してないようだな。

 

 さっきからやたらと口説いてくるものの、その内容はといえば自分がいかに優れている男で俺の伴侶に相応しいかという自慢話、自分語りばかり。

 俺自身は現状を除き(く……ッ!)モテたことは無いが、俺の間近にはアシュレさんという無意識にスパダリムーヴを発揮するお人が居るのだ。それと比べたらこいつの口説き方がまったくなっていない、ということは分かる。

 俺が男じゃなくても嫌だろこれ。

 まず振り向いてほしい相手を褒めるのが基本なんじゃねーの? アシュレなら息するようにそれをするぞ。

 

 

 ……まあ、どうせ【職業:女】のスキルである魅了(チャーム)で俺の事好きになってるにすぎないんだろうしな。

 褒めるところなんてないか。

 

 

(くそ。腹痛のせいか油断すると気分が後ろ向きに……)

 

 いざこいつに褒められたところで気持ち悪いだけだろ。

 そう思いつつ、痛み止めを飲んだにも関わらず変調をきたしていく体を意識すると嫌な気分になる。

 

 俺は先ほどよりも深く長いため息を吐き出すと、渋々ながらアルマディオに向き合った。

 

「おい」

「なんだ!」

 

 散々邪険に扱われているにも関わらず、奴は俺に話しかけられるとぱっと笑顔になった。

 普段の顔色が悪いだけに血色がよくなると人間以上に分かり易く、目もキラキラしている。犬かな?

 

「この際だからとことん説明してやる。お前に迫られ続ける地獄より恥晒した方がまだマシだからな」

 

 俺はそう前置くと、身を乗り出して傾聴体勢バッチリの馬鹿に俺が誰であるか。何故こうなったのかを懇切丁寧に説明し始めた。

 

 

 

 この時背後で魔王が「あ~あ」という顔をしていたことを、俺はまだ知らない。

 

 

 

 

 

 

 

「本当に貴様がアイゾメミサオ……なのか!?」

 

 説明し終わると奴がそんなことを言うので、俺は満足げに頷いた。

 よしよし、ようやく理解できたか!

 

「だからお前の嫁になることなんかありえないし、お前も魔王の仇として討たないといけない相手なんだろう俺は」

「そ、それは……」

 

 魔力が同質であること。

 今は壊れてしまっているが、魔装工芸核(アーティファクト)を用いた一点物オーダーメイドのはずである魔術装甲のデザインがこれまで何度も戦ってきたアイゾメミサオと同じである事。

 ここは俺のプライドのために性欲反転云々は端折ったが、魔王の振りまくはずだった厄災が呪いとなった結果……女になった事。

 これまで男だった頃に馬鹿と戦った詳細。

 

 などなど。

 

 大人しく聞いていたので、思いつく限りの材料を並び立てた。俺がアイゾメミサオであることの証明をな。

 

 

 

 ちなみに満足したはずの俺だったが、現在冷や汗だらだらである。

 

 

 

 俺がアイゾメミサオであることを納得させることは出来たっぽいが、話している途中で「あれ、これ俺が倒す相手だって認識したらこいつ普通にここぶっ壊して攻撃してくるんじゃね?」と気づいたからだ。

 奴が俺の牽制で攻撃を仕掛けてこなかった理由には、奴が俺に好意を抱いているという前提がある。

 それを今俺自分でぶっ壊さなかった? 俺が倒すべき相手だって認識したらこんな場所どうなったって知ったこっちゃねぇだろ。

 そうなったらぶっ壊される時の余波でルキが死にかねないし、現在外がどんな状態か分からないため足場を確保できる保証も無く空中ダイブの危機でもある。

 場所的に完全にこっちが不利なんだよ。

 

 

 

 部屋を破壊される時ルキを守り、長時間の持続的な飛行が難しい飛行魔術でその弟子を抱えつつ、未知の不調を抱えたまま格下とはいえ十分に強い魔王軍幹部と戦わなければならない。

 

 

 

 

 ……難易度ぉッ!!!!!!!

 

 

 

 

 普通のフィールドなら何にも問題ないけど、今は場所も間も同行者も! 何もかもが、まずい!!

 少なくとも弟子の命が風前の灯火!!

 

『判断力にぶっているねぇ』

 

 いつの間にか横に戻ってきていた魔王にケラケラ笑われるがぐうのねも出ない。

 これは完全にタイミングをミスった。

 しかし頭の中でぐるぐる思考を巡らせる俺とは裏腹に、アルマディオが攻撃を仕掛けてくる様子はない。

 

 見れば奴も奴で混乱しているようだった。

 

「彼女が本当にアイゾメミサオ!? ならば俺様は彼女を倒さなければならないのか……! せっかく出会えた人生の伴侶を!? しかし、彼女があの尊大で粗野粗暴で忌々しいアイゾメミサオだとするならばそれを伴侶とするのはあまりに……男だし……。いやだが待て。僕がこれまで生きてきた中で奴以上に強い者はいなかった。僕が宿敵と認めた者も奴ただ一人。僕は奴を倒そうと考えると同時に己より強い者が居ることに喜びを感じていなかったか? 好ましく思っていなかったか? ふむ。そうなると僕……じゃない。俺様の伴侶に相応しい者は逆に奴しかいないのでは……いやだが男……ん? だが今は女……? しかも魔王様の呪いを受けてその姿になったとあらば、魔王様の呪いは逆に魔族の俺様にとっては祝福では? ふむ……ふむ!」

 

 待て。攻撃してこないのは良いが雲行き怪しくないか!?

 なんか凄まじい勢いで内心駄々洩れの独り言呟いてるんだが!!

 

 俺は加速するアルマディオの思考に歯止めをかけるべく、冷や汗を浮かべながら話しかける。

 

「おいおいおいおいおい。お前、俺を魔王の敵討ちで殺すつもりなんだよな? な? 今は間が悪いけどよ。ちゃんと日を改めてちゃんと戦うからさ。真正面から戦おうぜ。だから何か納得するのやめようぜ。な?」

 

 ライバルとの正々堂々とした決着! というシチュエーションに持っていくため出来る限り刺激しないように言葉を選んでみるが、アルマディオの瞳はどんどん星を宿したように輝きを増している。

 頼む。錯覚であってくれ。何キラキラしてるんだ? ヤメロヤメロ、嫌な予感しかしねぇ!

 

 

 

「アイゾメミサオ!」

「ひっ!」

 

 

 

 ブツブツと独り言をつぶやき続けていたアルマディオがぱっと顔をあげて俺を見た。

 その勢いに魔王をも倒した英雄にあるまじき引きつった声が出る。

 

 いや、なんか……。さっきとは違う、圧が!!

 おい待て触るな両手を握るな!!

 

 

 

「我が宿敵よ! 今現在をもってお前を我が伴侶とし永遠に俺様が監視することで魔王様の仇を討つ代わりとする! お前のその姿が魔王様の呪いであるとするならば、これも魔王様のお導きに違いない! そうすべし、と魔王様も草葉の陰でご納得されているはずだ!」

「柔軟性とポジティブの塊が過ぎるだろ!!!!」

 

 こいつ、俺を元男と認めた上で求婚する気か!? 思った以上の馬鹿だったよ!!!!!! ライバルをなんだと思ってんだこのホモ野郎!!!!

 

 

 

『あっはははははははははははははははははははは!!!!! そう解釈するんだ!?』

(テメェはテメェで笑ってんなよ!! 自分の仇を討とうとしてた部下がこれでいいのか!?)

『最初はムカついたけど、ここまで清々しく自分の都合のいいように突き抜けられると逆に好ましい! 許してあげようじゃないか。僕は寛大だからね。せいぜい頑張って求婚するがいいさ』

(この馬鹿阿保魔王!!!!)

 

 

 

 誤解はひとつ解けたはずなのに余計に面倒になった。

 

 何で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




2024.1.19>>加筆修正

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