メス堕ちしたくない俺の苦難八割TSチートハーレム記   作:丸焼きどらごん

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52話▶貧血~最強の俺、体調不良が今のところ一番の敵

「オラぁッ!!」

「ごふっ!!」

 

 俺が元男かつ上司の仇と知ってなお求婚の手を緩めない姿勢を見せた馬鹿を前に、俺には殴る以外の選択肢はなかった。

 本日三回目のマジ殴りである。

 

 一回目は気絶。

 二回目はなんとか耐え、三回目の今は再び気絶。

 もうガーネッタに申し訳ないとか考えないで気絶してるうちに息の根止めてやるべきでは? と思わなくもないが、疲れている今そんな気力はない。

 がぁぁッ! 疲労!!

 

 

 とりあえず気絶したアルマディオを蹴って壁際に追いやると、真っ青な顔で眠っているルキの肩を揺さぶった。

 

「おい、ルキ。悪いな。そろそろいいか?」

「あ……ししょ……はい……」

 

 ルキは思ったよりすぐ目を覚まして、ぼやけた声を出しながらも頷いた。

 

「少し、休めました。すみません。僕が足手まといなばかりに、身動きがとれなくて」

 

 そう言いながらルキは視線を彷徨わせ、壁際でのびているアルマディオを見てほっとしたように息を吐いた。

 こいつ自分が居るから俺が思い切った破壊やら出来ないのを察して気にしているようだが、気にするなと言っても気にするんだろうな。

 ……だったら。

 

「その分期待してんぞ、探索者」

「……! はいっ!!」

 

 期待している。それを聞いた途端ルキはぱっと目を輝かせて、気合を入れるように頬を叩いた。

 う~ん。こいつの扱い方、ちょっと分かってきたかも。というか、師匠としての接し方?

 こいつが控えめて後ろ向きな分は、俺がいっぱい期待やら褒め言葉を投げかけてやればいい。ルキの性格なら調子に乗ることも無く、丁度良い感じになりそうだ。

 

「……そういえば師匠。顔色が悪いようですが、大丈夫ですか?」

「んぁ。あー……。おう。平気だから、気にすんな」

 

 ルキの思いがけない言葉に反応が一瞬遅れる。

 一応迷宮の壁が鈍く発光しているため最低限の明かりは確保できているが、顔色を見破られるとは思わなかった。

 う~ん。やっぱこいつ、観察眼あるな。

 

「本当ですか? 動きもどこかぎこちないような……」

「何でもないから! 気にすんな!」

 

 あ、焦るわ! そこまで見抜くか!? というか、俺の調子がそれくらいに変なのか、やっぱり。

 

 生理痛なんてバレたくないので気にするな、で誤魔化すも、ルキは変なところで頑固なのか疑うような目を向けてくる。

 が、それ以上は聞かずに室内の探索を再開した。

 

 ちなみに例の腹痛だが、痛み止めが遅効性なのかそもそも俺の体に薬の効きが悪いのか……あまり改善されておらず、段々としんどくなってきている。さっさとここを出たい。

 

『運がいいね。ちょうど少し気になる物を見つけたよ』

(マジで!?)

 

 魔王の言葉に思わず体ごと反応すると、唐突な俺の動きに驚いたのかルキの視線もこちらに向く。

 

「師匠、どうかされました?」

「あ、えっと。だな。その辺に……」

 

 魔王の姿は俺にしか見えないためしどろもどろになりつつ、何かを見つけたらしい魔王に視線を送る。

 すると奴は肩をすくめてある場所を示した。

 

『魔力を介さない純粋な仕掛けのようだね。先ほど仕掛けが魔力で作動した先入観もあって、探すあてを間違えていたんだろう』

 

 魔王が何やら解説を添えているが、俺はそこに何があるかもわからないまま指をそちらに動かす。

 するとルキが目聡く何かに気付いたのか、飛びつくように床にしゃがみ込んだ。

 

「! 本当だ。こんな所に溝が……! よく見つけましたね、師匠」

「ま、まあな! 俺にかかればこれくらいどうってことないぜ!」

「この仕掛けなら……うん。なんとかなりそうです」

「おお! 流石だな!?」

「いえ、そんなことは……。…………。……! もしかして、僕を試して……?」

「ん?」

「なるほど、そういうことですか! そうですよね。あんなに強そうな魔族を一撃で気絶させられる師匠が閉じ込められたくらいでうろたえるはずがありませんもんね! 本当はすぐに出られたのに、僕に役目を与えてくれようと……! だというのに結局は助言を頂いて、僕は自分が恥ずかしい!」

 

 何やらルキがすごい勢いで勘違いし始めた。

 いや、普通に困ってたんだけど……?

 それにルキの実力はすでに試し終えているんだし、こんな場面で試したりしないけど……?

 

(……ま、いいか!)

 

 せっかくいいように解釈してくれてるようだし、無くなり続けた威厳を取り戻すため俺は鷹揚に頷いた。

 

「ふっ。バレちゃしょうがない。よく気が付いたな」

「さすが師匠!」

 

 素直~。俺の弟子、素直~!

 

「でもそういうのは気づいても言わないでおくもんだぜ」

「! すみません。せっかくさりげなく教えてくれたのに余計なことを……」

「ま、いいってことよ! 仕掛けや本命のお宝さがしの方は頼むぞ」

「お任せを!」

 

 弟子のいい返事に満足げに頷いていると、魔王のジト目が俺を見ていた。

 

『貸しひとつだよ、ミサオ』

(貸しも何も体の家賃だ家賃。たまに役に立ったと思ったら図々しい奴め)

『図々しさなら君には負ける』

 

 魔王の言葉に反論したかったが、手柄を横取りしたのも事実なのでそれ以上は黙っておくことにした。

 いやでも、こいつに気を遣うのはおかしくないか? 今は腹痛に襲われているから本調子でないとはいえ、俺はもっと毅然とした方がいい。

 この体は俺のもので、俺は被害者なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後ルキは魔王が見つけた溝を調べ、見事その仕掛けを解いてみせた。

 

 どうも魔王が言うようにその仕掛けは魔力がなくとも迷宮を少しばかり動かすものらしく、ルキが推察するには「動力が切れた時の予備装置」らしい。

 迷宮は誰が作ったものなのかはわからないが、作ったやつもこうして閉じ込められた経験があったのかな……。なんて思いを馳せてみる。

 

 ちなみにアルマディオだが、面倒くさいので元密室から引きずり出した後は空に突き落としておいた。

 死んだら死んだでそれでスッキリおさらばできるのだが、きっと死なないんだろうな……という諦念に似た確信がある。あいつマジでしぶといんだよ。

 

 まあ次回来た時は体調を万全に整えておいて、俺自ら二度と立ち上がれないように丹念にボコしてやんよ。

 不法投棄程度じゃ安心できない。

 

「……念のため、迷宮から出たら魔術装甲も使えるようにしておくか」

「え、師匠って魔術装甲まで使えるんですか!? あ、魔術工芸核(アーティファクト)、持ってるんです!?」

「ん? ああ。ほら」

 

 ルキが興味を示したようなので後ろ襟を引っ張ってルキから背中が見えるようにしてやる。

 そこには刺青のような見た目で体の表面へと収納されている魔術工芸核(アーティファクト)が見えるはずだが……。

 

「ししょう! だから、そうやって軽率に肌見せるのやめてくださいってばぁ!?」

 

 弟子が悲鳴のような叫び声と共に後ずさった。

 おいおい、背中程度で初心な奴だな。

 パーティーでは服の構造上、常に背中おっぴろげ状態でワンチャン脇乳チャンスも狙えるシャティさんがいるってのにこれくらいで照れてどうすんだよ。

 

「まっ、今は壊れてるんだけどさ」

「そうなんですか……」

 

 魔術装甲は無くても問題ないといえば無いが、万全の状態を整えておいて損はない。

 この迷宮を攻略したら魔術工芸核技師の所へ修理依頼に行こうかなと、今後の予定に組み込んだ。

 

 

 

 

 そして密室から脱出し仲間達と合流すべく複雑怪奇な迷宮を進んでいた俺達だったのだが……。

 

 

 

 

「すまん……」

「い、いえ。そんな、お気になさらず」

 

 現在俺は弟子に背負われぐったりしている。

 何故なら先ほど目の前が真っ暗になって、そのままぶっ倒れたからだ。

 

『貧血だねぇ』

 

 魔王が隣をぴょこぴょこ歩きながら俺の状態をそう判断する。おそらく間違っていないだろう。

 すぐに意識を取り戻したはいいものの、酷くなってきた腹痛も合わさってなかなかに最悪の気分を味わっている。

 

 現在は「僕が背負います!」と申し出てくれたルキに甘えている状態だ。

 取り戻した師匠の威厳、すぐ吹き飛んでしまうのなんなんだよ……!

 

「ひっ」

「ちッ」

 

 ルキの引きつるような声が聞こえてから、舌打ちしつつ腕を横薙ぎにはらって雑に魔術を打ち出す。

 その先では俺の魔術で焼かれ消し炭になった迷宮魔物の残骸。すぐ粒子になって消えてしまったが、ルキの反応を見るまで気づけなかったのは失態だ。

 

 さっきは密室だったのに加えて、アルマディオという明らかに上位のオーラを放つ魔族の気配が魔物避けになっていた。

 しかし一歩外に踏み出せば、ここは高難易度迷宮。初心者冒険者相手にはなかなかキツイレベルの魔物がうろついている。

 

 ちなみにどうも今の俺は弱っているからかなんだか知らないが、魔物に舐められてるっぽい。

 あの馬鹿より遥かに強いんだが??? ちょくちょく襲ってきやがって! もっとビビれよ!

 

 これがあるから休んでいるわけにもいかず、仲間達との合流を目指して急いでるってわけだ。

 今のところ片手間で対処できる魔物ばかりだが、さっきみたいに貧血で意識がぶっ飛んだらルキだけでは対処が厳しい。

 

 

 俺は情けなく弟子の背中に張り付きながら「俺は最強……俺は最強……魔王を倒した男……」と、自己暗示をかけ腹痛を紛らわせるのだった。

 

 

 

 ううう……! 情けない!

 

 

 

 

 

 

 




2024.1.20>>加筆修正

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