メス堕ちしたくない俺の苦難八割TSチートハーレム記   作:丸焼きどらごん

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59話▶モテとは~惚れた弱みに付け込もうとしてみた

 フルリット砂漠の地下に埋もれた迷宮。

 入り口を掘り起こすためには「砂喰い」という魔物を使うのが有効のようだが、その魔物は希少だという話だ。

 

 そこで【眷属召喚】という魔王の権能を引き継いでおり、魔物を従えるor自らの魔力を糧に新たに魔物を生み出せるアルマディオの力を借りるのが手っ取り早い……と。

 

 余談ではあるが、魔王の能力に関して「権能」って表現されてるの前から気に食わねぇんだよな……。誰になんて権利を与えられてるってんだよあんな奴に。

 この辺は異界渡りの際に身についた自動邦訳の兼ね合いかもしれねぇから、文句を言っても仕方ないのだが。

 

 

 ともかく、ざっくりまとめるとこんな感じである。

 

 しかもアルマディオはめちゃくちゃ乗り気だ。

 本当にこいつ、何? もともと敵対関係のはずなんだが?

 

 

(これで結婚式だ何だとほざいてなければな……)

 

 そりゃ自分の上司を討った宿敵の頼みを、見返りも無しにきく義理は無いだろうが。見返りの内容がおかしいんだよ。

 

 本当に何度考えてもこいつは俺がこうなる前の姿も知ってるのに「嫁としていける!」って思ったのか理解に苦しむ。職業技能(クラススキル)である【魅了(チャーム)】があったとしてもだ。

 初対面時から何度も何度も棒を投げたら拾ってくる犬みたいな勢いで付きまとわれてはいたが、これまで男として接してきた相手にそう簡単に嫁だ惚れただのいう感覚は俺には理解できない。

 

元、でも男は男じゃん! 男の姿を知ってるじゃん!!

 

 俺の仲間に関してもそうだけど、この世界マジで性認識というかその辺の寛容性凄すぎないか? それともこれって俺の周りにそういう人たちが集中的に集まってるだけ???

 

 

 

 

 

 

 

 

 賢者が示してくれた俺の求めるアイテムが存在する可能性がある迷宮の残り数は四つ。

 

(……やっぱ、無理にここから攻略する必要もないかぁ……? わざわざ入り口を探し出してきてくれた皆には悪いけど、どういう形であれこいつに借りを作りたくねぇし……)

『いいの? 君の可愛い愛娘や愛弟子くんが、頑張って探してくれたんじゃあないか』

 

 すかさず俺の思考に罪悪感を植え付けようとするな魔王テメェこの野郎。

 

『あんなに誇らしげで、嬉しそうにしていたのにねぇ』

 

 囁くように俺の耳元へ良心の呵責を刺激する言葉が流し込まれる。こ、こいつ……!

 

 俺は苦虫を五百匹くらい潰したような顔でため息をつくと、渋々とアルマディオに声をかけた。

 

 

「おい馬鹿マディオ」

「罵倒と名前を混ぜるな! …………。いや、しかし愛称と思えばなかなか……」

 

 抗議しつつもすぐに自分のいい方向に捕らえる前向きさが怖い。ポジティブの塊かよ。

 くそっ、しょうがねぇな。やっぱり普通に呼ぶか。

 

「アルマディオ。お前、俺が元男で魔王の仇のアイゾメミサオってのは理解したんだよなぁ。その上で俺を落とそうってのが、どれだけ難しいか分かってるか? 俺は女の子が好きだし、俺より弱いお前じゃ力づくも出来やしねぇ」

 

 出来るだけ見下すように事実を述べる。

 せめてマウントだ。マウントをとるんだ。俺のが上って事をしっかりすりこんでやらねぇと、こっちのメンタルがやられる。基本構造がネガティブ思考の俺にとってポジティブ野郎は天敵なんだよ。

 

「む……失礼な。愛した女を力づくでどうこうするような無粋な輩と思ってほしくないものだな」

「男! 男な! 俺、男!! 愛した女とか言うな鳥肌立つだろ!」

「? ならば愛した人間とでも言えばよいのか?」

「なんなんだよその無駄な包容力! 性別の概念すら超越して来るな!!」

 

 だ、駄目だ。プライドをぼこぼこにしてやろうと思ったのに向こうのポジティブさが上回ってくる。ちょっと分けてほしいくらいの前向き力だぜ……!

 陰キャの俺はその前向き加減に慄きつつ、必死で仕切り直そうと試みる。

 

「と、ともかくだ! お前が俺とどうこうなりたいなら? いやどうこうなるつもりはねぇけど。……ゴホン。結婚だなんだ飛躍する前に、俺の好感度を稼がなくちゃいけねぇよなぁ!? つまり俺の要求にお前はどうあっても頷くしかねぇってわけだ!」

 

 何が言いたいって、こっちの要求は呑んでもらうがその報酬は「俺からの好感度が上がるかもしれない」可能性。結婚などもってのほか、という事である。

 すっげぇ嫌だけど、惚れた弱みに付け込ませてもらおうってわけだ。

 

「むぅ……。いいように使われるだけのような気が……」

 

 気が、というよりまさにその通りだよ。

 

 だけどほんの少し。……ほんの少しだけ、罪悪感がある。

 それはこいつが【魅了】の力で俺に惚れている錯覚をおこして、こうなっているからだ。俺がその立場だったらと考えると、同じ男としてはなんだかな……。

 

 

 

 だからだろうか。

 こんなことを聞いたのは。

 

 

 

「というかさぁ。お前、こんなに美女美少女が居る中でなんで俺に求婚できるわけ? しかも俺の元の姿と性別知っておきながら」

 

 そう言って俺は自分の仲間達を示す。

 

 正直、俺は性別が変わる前も今も地味で華の無い見た目をしていると思う。二次元の美少女美女を崩さないまま綺麗に現実に再現しました! みたいな仲間達と並べば見劣りもいい所だ。

 男のルキにだって顔面偏差値では負けているだろう。エルフの血を引いてるのは伊達じゃないっつーか、女装が違和感なく似合っちまうお綺麗な顔だ。

 

 容姿が全てでないにしろ、内面で惚れられるような場所有るか? と考えると悲しい事に特にない……と思う。

 

 現状俺の【魅了】はもとから好意を抱いてくれていた相手のそれを強める程度、とは初めの頃にシャティやガーネッタが言っていたので、何かしら琴線に触れるところはあったんだろ。でもそれが魅了の力で強化されて思い込みが激しそうなこいつがそれを直に受け止めてるだけなら、やっぱりそれは錯覚だ。

 

『…………。ミサオってさ、イキってるわりに本当に性根がネガティブだよね』

(でぇいっ! 言うな言うな! そんなもん自分でもわかってんだから!)

 

 魔王に心底憐れみの眼を向けられしみじみと言われてしまった。

 く、くそ。せめて以前の身長と筋肉さえあれば……! 俺はあれでこっちの世界で自信を保ってたんだぞ……! なんで性別変えるどころか身長と筋肉まで奪っていくんだよこの職業(クラス)チェンジ……!

 

 

 

 ともかく、この問いかけで俺に魅力を感じてるのは間違いだって気づいてくれないものか。

 

 

 

「? 俺にはお前が一番美しく見えるが」

「はいはいはいはい、魅了おつ」

 

 お世辞もいい所な答えが返ってきた。彫り深めの顔立ちくっきり美麗顔に言われても嫌味だろ。

 そして俺の言葉を聞いたアルマディオはキョトンを目を見開く。

 

「? 魅了(チャーム)? なんだ、そんな力まで備えていたのか」

「あー……」

 

 うっかり口を滑らせたが、考えてみたら別に黙ってる必要もないな……。俺が今投げかけた「何故」のアンサーも、「スキルで惚れたから」ですむ話だし。

 遠回しに俺に魅力感じてるのはおかしいって気づけ!! と言ったつもりだったが、遠回りする必要性がまずなかった。さくっと説明した方が楽じゃねーか。

 多分タイミングと……呪いの詳細、性欲が反転した結果が今の姿って事実を知られたくなくて詳しい説明を避けていたんだろうが、そんなもん俺が言わなきゃすむだけだ。

 

 妙な事で無駄な思考リソース裂いちまったなとため息をつき、頷く。

 

 

「ああ。でもってそれは、俺が女になった呪いに付属してた嫌なオプション。言っておくけど発動には俺の意志は関係してないからな!! ……まあ、つまりだ。今お前が抱いている俺への気持ちはスキル由来の勘違いってわけだ」

 

 流れで話してしまったが、これでいいんだと思う。

 勘違いの好意で利用し協力を得るってのは自分が気持ち悪いんだよな、やっぱり。

 だから俺への感情を否定した上で、必要なら他の方法で協力を取り付けてやる。

 

 しかしアルマディオは自分が【魅了】というスキルに踊らされていたことを聞かされても不思議そうに俺を見るばかりだ。

 な、なんだよ。

 

「ふむ。それは分かった。認識してみれば確かにそういった気配も感じる。……だが何か問題でもあるのか?」

「は? 大ありだろ。自分の意志とは関係ないところで好きになるはずもねぇ相手を好きになってんだぞ。気持ち悪くないのかよ」

 

 しかし俺の思惑に反して、アルマディオはニヤリと笑った。

 

「なるほどなぁ。自分へ向けられる気持ちが偽りのものではないか、と拗ねているのだな? ククククク。なかなかに()い」

「なんっでそうなる!」

「ははは! そう照れるな! 不安ならば述べさせてもらうが、俺はきっかけが何であれ角を折られた瞬間に熱い想いを抱いた。そこに何かしら作用する力があったとしても、今抱く感情に偽りなどない! だから安心して俺様の妻となるがいい!」

「何処から出てくるんだその自信! もうヤダお前!」

 

 もうこいつ相手になにを言っていいか分からず叫ぶと、ぐいっと横から腕をとられた。……シャティだ。

 

「ミサオ様、そろそろ口出ししてもよろしいですか? 話は進まないので」

「えっと……うん」

 

 仲間達は俺とアルマディオのやりとりを見守っていてくれたのだが、俺が話を脱線させ始めたのでシャティが軌道修正に入ってくれたっぽい。

 俺も馬鹿を相手して疲弊していたので頷くと、シャティは我が意を得たりとばかりにアルマディオに向かって口を開いた。

 

「魔族アルマディオ。貴方はわたくしたちに協力すると……そういうことでよろしいのですね?」

「ああ。惚れた相手の頼みだからな」

「結構。ですが勘違いなさらないように釘を刺しておきますが。ミサオ様は体が女性になっても心は男性のままなのです。ご本人も申されていましたが、ミサオ様は女の子が好きなのです! なので! どんなに役に立とうと、どんなに愛そうと。過分な期待はなさらない方がよろしくてよ? ……ね! ミサオ様!!」

「お、おう。そうそう」

 

 内容には同意なんだがシャティからの圧が強い。がっつり釘を刺している。

 アルマディオはそれを鼻で笑った後……マントを翻して無駄に派手なポーズをとってみせた。

 

「ふんっ! 心などいくらでも変わろうというもの! アイゾメミサオよ、覚悟するがいい。いずれはこの俺様が貴様を惚れさせてやる!」

「ふん! 威勢だけはよろしいようですね! でもミサオ様はわたくし達のです! ぜぇったいに、そんなことありえません!」

 

 バチっと見えない雷が両者の間で散った気がした。

 

 

『よかったね、モテて』

(素直に喜べないのは何でだろうな……)

 

 

 どうせ取り合われるなら、両方女の子が良かった。なんで片方男なんだよ。

 

 

 

 

 まあ、なにはともあれ。

 アルマディオの協力を取り付けた俺たちは、砂に埋もれた第二の迷宮を目指す事となるのであった。

 

 


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