メス堕ちしたくない俺の苦難八割TSチートハーレム記   作:丸焼きどらごん

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61話▶娘のような息子の花嫁候補(竜王視点)

 雲海の中で屹立(きつりつ)する、人の足で到達する事が非常に困難な険しい岩山の群れ。

 その周囲を旋回するように舞うのは鳥ではない。

 陽光に煌めく鱗と逞しい、あるいは優美でしなやかな肉体を持つ天空の覇者たる種族……(ドラゴン)である。

 

 そこは竜族達が住まう、天然の要塞ともいうべき領域。

 更に地形に加え各山の頂からは属性の違う結界が網の様に張り巡らされ、外界からの干渉を阻んでいた。

 

 

 中でもひときわ背の高い山には見事な彫刻が施された入り口が存在しており、その最奥……剥き出しの武骨な岩肌を宝石が彩る"玉座の間"。

 中央に坐するのは金色の鱗と体毛を持つ黄金の竜だ。

 その神々しいさまは目にしたものをひれ伏せさせる力がある。

 瞳は左右色が異なっており、深い青と鮮烈な赤のオッドアイはその威容を際立たせる一因となっていた。

 

 

『そうか。ルリルベレスは"つがい"となるべき人間を見つけたか』

 

 

 竜の口から発せられたのは猛々しい咆哮ではなく、威厳に満ち落ち着いた声。現在そこには喜色が入り混じっている。

 その前に跪くのは灰色の髪を持つ竜人であった。彼は恭しく(こうべ)を垂れて頷いてみせる。

 

「それも特別お強い方です。私は一撃で沈められました」

『ほう! お前をか!』

 

 黄金の竜はますます機嫌を良くし、太い尻尾が大きく揺れる。その風圧で竜人の前髪が舞い上がるが、その姿勢は微動だにしない。

 

『それは良きことだ。新しい血を入れる必要はあるが、それが優秀であることに越したことはない。……ところで一応聞くが、相手は女だな?』

「もちろんです」

『そ、そうか。いや、なに。あやつは紛らわしい姿を好むものだからな。時々雄だか雌だか分からなくなるのだ……』

「心中お察し申し上げます。竜王様」

 

 竜王。それは強靭な竜族をまとめ上げる、唯一無二の存在。

 そして彼はミサオに求婚する竜族、ルリルベレス・ファーレンの父でもあった。

 

 現在彼は息子につけた付き人に報告をさせているところである。

 

 

 

 

『うむ。ではマイヨール。引き続きルリルベレスの世話を頼んだぞ。くれぐれも私にこっそり定期報告へ来ている事を悟られることが無きよう』

 

 こっそりなどと可愛らしい言葉を選ぶこの竜王、実は少々お茶目である。

 

「かしこまりましてございます」

(返事だけは有能そうなのだよな……)

 

 流麗な所作でもって応えた息子の執事を見て竜王はそう評価する。

 

 実際有能ではあるのだが、すっとぼけたように直情的な動きをするのもまたこの男の性質なのだ。

 真面目な上での天然なのか、それとも真面目なふりをしてわざとふざけているのか。それは長年付き合いのある竜王でも理解が困難なところだ。

 

 そんな事を考える竜王だったが、ふむとひとつ頷く。

 

『しかし……そうか。そんなに強いか。古代竜の先祖がえりであるお前を一撃とは、見上げたものだ』

 

 古代竜の先祖返り。それは現在より力の純度の高かった竜族古代種の性質を受け継いで生まれた者の事を指す。

 世代の積み重ねにより洗練され磨かれてきた竜族の血筋と、祖先の力の両方を併せ持つ存在は竜族の中でも稀だ。

 竜王族ほどでないにしろ通常の竜族より強い持つ力を言われており、まず普通ならそこいらの人間に負ける事などない。だが息子が見つけた嫁候補はその男を一撃で沈めたのだという。

 

 すっとぼけてはいるが、この男は相手を害する動作をする時に躊躇などしない。

 常に全力の一撃を叩き込む。それをいなして叩きのめしたとあらば素晴らしい力の持ち主だ。

 

『その者の名は?』

「ミサオ様、でございます」

『聞きなれぬ響きだな。……うむ。これはもしかするとだが、ヘルベルの占いが当たったかもしれんな』

「占い、ですか?」

 

 竜王の言葉に竜人、ルリルベレスの付き人をしているマイヨールは首を傾げた。

 ちなみにヘルベルとは竜王の二番目の娘の名である。

 

『本人曰く予言、らしい。二割当たればいい方のものなど、よくて占いの域だろう。とても予言などと呼べぬわ。……だがその二割の当たりは、だいたいが我らにとって重要なものとなる』

「そういえばルリルちゃん様の旅立ちの前にも、ヘルベル様は何か言いたそうにしていましたが。それですか?」

『いかにも。あまり先入観を持たせぬようにと口止めしておった』

「……その内容とは何か、伺っても?」

 

 竜王はしばし逡巡した後、長い首をもたげて頷く。

 

『時々いるのだよ。"界渡り"をして我々が住まうこの世界へとやってくる異邦人が。肉体付きか魂のみかはまちまちだがな。そしてだいたいその者達は強い力を授けられている。……ヘルベルは、ルリルベレスが出会う運命の相手はそれだと申しておった。何億……否、何兆分の一の確率だと一笑にふしていたが。聞きなれぬ響きの名を耳ぬすれば、もしや、とも思えてな』

 

 竜王は鋭い爪の生えた前足で顎をさするという人間じみた動作をすると、マイヨールを見下ろした。

 

『加えてヘルベルの占いにはもう一つ無視できない情報が含まれておった。……マイヨール、心して聞くがよい。もし占いが当たっておれば、そのミサオとやらは【職業(クラス)女神(アークレディ)】へと至る可能性を秘めた女だ。それほどの資質を備えているならば、強者と聞いても納得がいく。なれば益々もって、我が竜族に迎え入れたい』

 

 なにやら熱心にそう語る竜王を前に、マイヨールは「ふむ」と頷いた。

 

「【職業(クラス):女神】とやらはわかりかねますが、ルリルちゃん様ならば問題ないでしょう。ご本人がいつになく本気のようですので」

『ほう? あの自分にしか興味がないようなルリルベレスが、か』

「ええ。……少々気になる点として、厄介な恋敵がおりますが」

 

 マイヨールの言葉に先に述べられていた報告を思い返しつつ竜王は苦々しく言葉を吐き出す。

 

『魔族の小僧だったか。しかも魔王の権能を受け継いでいるなどという。……厄災の魔王め。死したあとまで迷惑な奴よ。あやつらには関わるだけ損をする』

 

 竜族は長い寿命と強い力を誇りながらも、世界に危機をもたらす厄災の魔王相手には基本関わらない姿勢をとっている。その理由は竜王が先に述べたとおり。

 もしこれまでの歴史のように他種族から厄災の魔王を倒す英雄が出てこなければ動かないわけにもいかないが、ここしばらくはそんなことは無かったがために完全に傍観の姿勢をとっている。

 

 厄災の魔王が現れても誰かに倒されるまで引きこもりをきめるのが、竜族のスタンダードなのだ。

 

 そしてつい最近、ようやく厄災の魔王が何者かに倒されたことを契機に末の息子を花嫁探しの旅に送り出したのだが……。

 さっそく良い相手を見つけことは僥倖だが、厄災の魔王に縁のある恋敵がいるとはよろしくない。

 

『ままならぬなぁ。……して、ルリルベレスがその魔族との戦いで負ったという傷は?』

「もう間もなく癒えるでしょう」

『ふむ。ならば傷が癒え次第早々に花嫁を追いかけさせよ。そしてすぐその伴侶を連れて里に戻ってまいれ』

「言わなくても本人そのつもりのようです。むしろ私が留めなければそのまま追っていたというか、実際一度傷を負った直後に追っていました。……ですがミサオ様を篭絡したとしても、すぐに帰るのは嫌がると思いますよ。外の世界がとてもお気に召したようなので」

『…………。分かってはいたが完全に物見遊山をしているようだな』

「ええ、それはもう。竜王様からのお小遣いも湯水のように使っています」

『小遣いなどやった覚えはないのだがな……』

 

 言いながら竜王はちらと玉座の間を装飾する宝石たちを見る。どれも竜王に相応しい極上の品だ。

 その多くは献上品の他、竜王自ら集めたコレクションでもあるのだが……。

 

『減っているなとは、思っていたが……』

 

 どこか哀愁を含んだ声色に、自分もまた"お小遣い"の恩恵にあやかっているマイヨールはしれっと無言を貫くのだった。

 

 

 

 

 




2024.3.10>>微修正
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