メス堕ちしたくない俺の苦難八割TSチートハーレム記 作:丸焼きどらごん
突然現れ一見華奢な腕で簡単には外せそうにないホールドをがっちりかましてくるのは、金の巻き毛に赤い瞳、フリルたっぷりの青いドレスという最高級品のドールもかくやな見た目の超絶美幼女。
だが男である。それも俺よりずっと年上のおっさん。
「またお前かよ……」
満面の笑みで見上げてくるぱっと見美幼女な竜人ルリルベレスにげっそりしていると、途端にその薔薇色の頬がぷくりと膨れる。
実際の性別と年齢を知らなければ非常に微笑ましく思えた事だろう。
「なによぉ、その態度! 未来の夫に対して失礼じゃなくて?」
「誰が未来の夫だ」
べしっと軽めに脳天チョップを入れてやる。……ここで軽めにしてしまうところが「可愛いは正義」という概念に敗北している気がして落ち込むぜ。見た目はマジで可愛いからなこいつ。
にしても、他に気をとられていたとはいえこんな至近距離で腕を組まれるまで気づかないとは不覚。
……つーか前に別れた場所から結構距離離れてんのにどうしてこう簡単に突き止めてくるんだよ!? アルマディオの方は千里眼持ちの仲間が居るからとタネが割れたが、こっちはどういうわけなんだ。
簡単には逃がしてくれなさそうな雰囲気だし、どうすっかな……。
「知り合いか? 竜人とは珍しいな」
「! よくわかりましたね。こいつの正体」
街中のためか人間へと擬態しているルリルの種族名を即座に当てたロハルドさんに驚く。しかし彼はなんてことないように俺達の後ろを指差して答えた。
「竜人の付き人を従えた人族など早々いない」
「あ」
指差された方を振り返れば、こちらは一切擬態していないルリルの執事。確かマイヨール……だっけ? 何故かダブルピースをしている。
「お久しぶりでございます」
「ど、どうも」
初手で殴り殺しにかかってきた相手とは思えないほど丁寧にお辞儀されてしまい、悲しきかな日本人。挨拶されれば返してしまうというもので、俺も軽く会釈した。
……この人も良くわからん人だよな。ダブルピースもど丁寧なお辞儀も全部真顔。どういう感情なのかまったく読めねぇんだわ。
……あ。
(こ、こいつかぁぁぁぁぁ!! そういやこいつも長距離転移魔術使えたわ!!)
『やっと気づいたのかい?』
クスクス馬鹿にしたように笑った魔王が久しぶりな"魔王から見た視界におけるリプレイ機能"である映像の流す。
それは以前ルリルがアルマディオとの戦いの後に突撃してきた時のもので、この付き人はその時確かに去り際で「マーキングをしておいたからいつでも来られる」とか発言していた。
疑問は解けたがゾッとする。……場所でなくて個人に特定した長距離転移魔術とかさらっと恐ろしいことやってんじゃねぇよ!!
「……つーかよ。俺は忙しいんだ。お前に構ってる余裕はねぇぞ。もちろん嫁だ夫だって与太に付き合うつもりもない」
ともかく相手をしてやる意志はないとばっさり切り捨ててみるが、それでルリルが引くわけもなく。
「つれないわねぇ。でもそんな態度も嫌いではないわ! 簡単に手に入るより愛着がわくもの! ……ああ。でも、このルリルちゃん様より他の男を優先するのは気に食わないのよねェ。お弟子くんは子供だし弟子だし? ぎりぎり許さなくはないけど……この
そう言ってロハルドさんを睨みつけるルリルだったが、ロハルドさんは気にもかけていない様子で小首をかしげる。
「気になるなら一緒に来るか? これからワタシの工房に向かう所なのだが」
「工房?」
「ロハルドさんは
渋々説明してやれば、ルリルの瞳は途端に好奇心で爛々と輝いた。
「まあ! 話には聞いたことがあるけれど、
「ん……まあ」
「そう! ならいいわ!」
何やら勝手に一人で納得したルリルは「じゃあ早く行きましょ」と、ついてくるのが当然とばかりに俺達をせっつく。ええ~……来るの?
しかし工房の主であるロハルドさんが誘った手前、俺が渋るわけにもいかず。……今度はどうやってこいつを撒けばいいのか考えつつ、余計な連れを二人も伴ってロハルドさんの工房へと赴くこととなった。
温泉に入る前に余計な疲労溜まりそうだぜ……。
ちなみにロハルドさんがルリルに声をかけた理由は「見学の礼に鱗(素材)のひとつもくれたらいいな」とかいう理由だと思う。
その後、街の各所で湯気をあげている温泉を指をくわえて見送りながらロハルドさんの工房へ向かう。
ルナナリアスは自然の地形を生かした街であるため、整備されているとはいえ場所によっては移動に力を使う。このメンバーでへばるような奴は居ないが、ロハルドさんの工房はそんなルナナリアスの街中でも特に難所にあった。街中で難所ってなんだよって気がするが、実際そうなのだから仕方がない。
綺麗に舗装された道を横に逸れてから待ち受けていたのは、急こう配のごつごつした岩の路。人が通ることなど考えられていない坂道をせっせと上った先の、見晴らしだけは良い台地に建っているのがロハルドさんの工房だった。
この場所、ちょっと先の崖まで行くと真下に広大な森が広がっている。(一応)街中にある生活面での利便性と、森へ素材を採取しに行く際の交通面での利便性を考慮した結果だそうだ。
……交通面っつっても、それが適応されるのはロハルドさんだけなんだけどな。崖はほぼ垂直で人も動物も魔物も登れそうにないのだが、ロハルドさんは指先の力だけで上下を行き来するらしい。
ガタイと角の他はエルフで通してもいいような顔立ちをした人であるが、こういう所を知ってるとやっぱり鬼人族なんだな、となる。
「お邪魔しま~す」
「あら、意外と小奇麗ね」
久しぶりに入るロハルドさんの作業場に背筋がのびる。ルリルの野郎は無遠慮に入り込んでいくが、技術を持った職人さんの職場というのは独特の空気があって緊張するのだ。
古そうに見えるのにまったく音が鳴らずにスムーズに開く扉や、動きやすさを追求した作業同線。材料を兼ねた観葉植物が配置されている様子は目に優しいし、柑橘系のいい香りもする。
明り取りの窓の位置や魔道具の照明にもこだわりを感じるその部屋は明るくて、こう……なんというか、職人の工房ってよりはデザイナーのオフィスといった感じ。デザイナーのオフィスとか見たこと無いけど、なんつーかスタイリッシュ。
そう思い部屋の中を眺めまわしつつ、ロハルドさんの涼やかな横顔を見る。俺と同じく眼鏡をかけているからか、その美麗顔にもどこか親しみを覚えてしまう。眼鏡の同族意識ってすげぇよな……。
ついでだから眼鏡の調子も見てもらうか。戦闘中に外れないようにしてある特別製の眼鏡も、実をいうと細工を施してくれたのはこの人だ。
生活においても冒険においても戦闘においても視覚の確保は非常に重要なため、それだけでもかなり助けられている。
「ここへ来るのも久しぶりだなぁ」
「アモネとルップル、どちらの茶葉がいい?」
当たり前のようにお茶を淹れてくれる上に、お茶っぱまで選ばせてくれるらしい。
アシュレがお茶好きのため、よく旅の間振舞ってもらったり新しい町へ行くとそこ特有のお茶を飲んだりする。だから俺もそこそこ詳しくなってしまったので、提示された中からすっと好みの茶葉を選んだ。
「えーと……。じゃあ、アモネで」
「ルリルちゃん様はルップルがいいわ!」
「私はアルサムで」
当然のようにマイヨールまでお茶を所望してきた。おい。
普通こういう場だと付き人って控えるもんじゃねぇの??? しかも選択肢外の茶をねだってやがる。
しかしロハルドさんは気にしたふうもなく頷いた。
「心得た。茶菓子もつけようか?」
「お願いします!」
茶菓子、の言葉につい飛びついた。この人お菓子を作らせても天才的に美味いからつい……。
「ふふっ。そう喜んでもらえると嬉しいものだ。ミサオくんはワタシが作るものはみんな好きだものな」
「いやぁ……ロハルドさんの作るお菓子、甘さ控えめなのに、こう、コクがあるっていうんですかね? 美味いんですよ」
「それはよかった」
食い気味で返事してしまった事に少々恥ずかしくなるが、ロハルドさんは引くことなく微笑を浮かべて頷いた。
う~ん……。掴めない所も多いけど、所作やさりげない気遣いが、アシュレとかとはまた別の格好良さがあるというか……かっこいい大人なんだよなぁ……。
俺もああいう余裕のある大人になりたいもんだと思いながら、洗練された所作でお茶の用意がされていく様子を眺める。
あ、そうだ。
「そういえばよく俺がミサオだってわかりましたね?」
流れでここまで来てしまったが、まだロハルドさんがどうして俺がミサオだを見抜けたのか聞いていなかった。顔はともかく背丈も体格も髪の色や長さまで違っているのによく気づけたもんだよ。
賢者同様、魔力の質で気づいた……とかかな、やっぱり。
俺はなんとなくの予想をつけつつ、目の前に出された茶にありがたく口をつけながらロハルドさんの答えを待つ。
そして。
「ん? なんだそんなことか。好きな男が多少姿を変えたくらいで気づかぬほど、ワタシの愛は軽くないぞ」
口に含んだ茶を全部噴き出し、目の前の男にかけることとなるのだった。