メス堕ちしたくない俺の苦難八割TSチートハーレム記   作:丸焼きどらごん

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※本日二回目の更新です。ご注意ください。


66話▶再戦タイムリミット(魔王視点)

(あ~、おかしい。……ミサオに憑いてから笑ってばかりだな僕は)

 

 魔王は未だに笑いで痙攣しそうになる体をおさえる。この体はあくまでイメージであり実態が無いというのに、不思議なものだ。

 そしてこの魂の拠り所ともいうべき人間……無理やり本来の目的を遂行しようとしている健気な英雄様(ミサオ)を眺めた。

 どうやら今までの流れを全部ぶっちぎり、魔装工芸核(アーティファクト)の修復という自分の要求を通すつもりのようである。

 

 

 このアイゾメミサオという(元)男、とにかく娯楽として優秀だ。

 これが少しでも現状に流されるだけならば途端に興味を無くすだろうが、ほぼほぼ空回りしているとしてもなんとか抗おうとしている姿は面白おかしく好ましい。

 

 やはり死出の旅路のお供にはこの愛玩動物もといミサオこそが相応しいな、と魔王は思考する。ここまで飽きない連れが居るなら、潔くこの世界を去るのも悪くはない。

 

 しかしそう思うからこそなおの事……現状は楽しいが、少々問題を抱えていた。

 

 ミサオは元の姿に戻るための手段を掴みかけている。そして今のままでは魔王にそれを妨害する術はない。

 紆余曲折があろうとも順調にその過程を辿っている今、指をくわえて見ているだけではいずれこの関係性も終わるのだ。魔王とミサオを繋いでいるのは、彼が解こうとしている呪いだけなのだから。

 今の魔王に出来るのはせいぜいミサオの神経を逆撫でしてその反応を楽しむだけである。

 

 少し前にその状況から多少の変動があったのだが……それでもまだまだ弱い。

 

 

(……少し、沈むか)

 

 

 このままミサオの愉快な現状を眺めていたいところだが、少し思考をまとめようと魔王は自らの深層心理の世界へと意識を移動させることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 ほんの少し。実態を留めようという意志を弱くすれば、魔王の魂は容易くそこへ、"底"へと落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 前世の世界を想起させる建物の残骸に囲まれた、様々な時間が混在している狭間の空間。それは「魔王」と呼ばれる彼女の深層心理。

 全てが壊れていて、全てが曖昧。

 荒廃的、排他的でありながら、それでも何かへ縋るように空は美しい。

 

 

 その空間の中央。

 瓦礫の王座に座すは、白い(おもて)に黎明色の瞳、射干玉(ぬばたま)のような黒い髪を持つ美しい少女だった。セーラー服を身にまとう少女と女性の中間に位置する見た目と、中身と外見のアンバランスさをもってして無垢かつ背徳的な魅力を備えている。

 

 ボロボロの王冠を頭に、普段は子供の時の姿しか維持できない彼女は自らの空間を睥睨する。

 

 

 この光景を見るたびに「自分もたいがい中二病だな」とため息をつきたくなる。

 かつてミサオに対し「転生物ジャンル」が流行った要因として『みんな一から人生やり直したい、つまんない人生送ってる奴らばかりってことかな?』などと皮肉を述べたが、実際の所それは自分の事だ。

 魔王としての本質を失わないながらも、紛れもなく存在する前世の自分。その記憶。

 

 

 

 どこまでもつまらなくて、意味もなく、自分で生きる目的も見いだせないままの人生だった。

 

 

 

 その上で死後、"舐め腐ったこと"を言われたがためにブチ切れて起こした行動の結果がこの「厄災の魔王」という体である。

 ブチ切れたこと自体には押し付けられかけた運命に抗ってやったという爽快感こそあれど、後悔はない。ただ全てには抗えきれなかった事もまた事実であり、その忌々しさは涙さえ滲ませる。

 その涙は悲しみではない。魔王は前世人間であった時から、怒りで涙を流す人種だった。

 

 この空間が形成されたのはミサオに憑りついてからである。その時夢と勘違いして入り込んできたミサオの意識に涙を見られたことは不覚であるが、もうここも慣れたものだ。

 

「ああ、今日も元気だねぇ」

 

 ざわざわと這いより纏わりつく数多の黒い手で縒われた髪の毛のようなそれ。少女の黒髪と同化しているそれらは彼女をすぐさま死の淵へと誘いたいようだが、それを成すには彼女の魂が強すぎた。

 

 最初こそ弱ったこの魂を縛るように深層心理内に現れたそれを少女は厭わしく感じたが、今では片手で戯れる程度には愛着がある。

 あくまでこの空間の王は魔王その人。排除は出来ないが、力でもって抗う事は可能だった。

 

 怨嗟の声にまみれた黒い集合体はこれまで魔王として屠ってきた者達の叫び、残滓。おびただしい数のそれらは直接にせよ間接的にせよ、彼女がこれまで手にかけて来た魂である。

 常人ならば一時間とせず気が狂うような声の集合体が、常に耳へと流し込まれている状態だ。

 だがそんな声も魔王たる彼女にとっては心地よいBGM。

 すでに魔王という器に魂が納められてから長い。前世の年齢を数回、数十回繰り返しても足りないほどに。

 人を殺める事すら蟻の巣に水を流し込む程度の行いに過ぎない。基礎とする感覚がすでに違う。

 

 

 しかし。

 

 

 ……敗北し全ての力を失って、かつての生と同郷の者の魂を寄る辺としている現状が「以前の普通」を押し付けてくる。が、その二つの価値観は奇妙なことに融和し、同居していた。

 

 

「この姿を得てから、多少なりとも僕も変質してきているという事かな。ふふっ」

 

 

 魔王としての姿に人間体は無く、数百年不変だったもの。それがミサオの魂に同居しこの空間を得ることで、じわじわと変化が進んでいる。

 不快でこそないが、このままではよろしくないなと感じるのも事実。

 このままミサオの無様さを眺めるだけで満足するようになってしまっては目的が果たせない。

 

 

 ……魔王はなんとしても、ミサオを道連れにするつもりだった。

 

 

(さて……。そのためにも、彼が見出している希望をつぶさないとね)

 

 先ほどまで散々ミサオを笑っていた魔王であるが、細められた瞳から温度は消え失せている。

 小さな手のひらをかざし、小指のみ黒く染まった爪を眺めながらルナナリアスに向かってくる気配に口端を歪めた。

 

――――やあ、来たね。いい子だ。

 

 出来るか不確定ではあったが、取り戻した一つの力を介しての呼びかけには成功したようだ。

 染まった爪。それはかつての力の一端。

 

 ……魔王は天空迷宮にて、魔族バシュトレーゼから自らの権能の一部を回収していた。

 

 

 

 

 

「……それにしても、この体も難儀だね。本人が知らない所で復活の手段が用意されているなんて、悪趣味としか言いようがない。僕自身でさえ気づかなかったのはお笑いだよ」

 

 体に備わった機能とはいえ、自分の認識しない所でお膳立てされるのはあまり趣味じゃないんだよな、と吐き捨てる。

 

 そう。ここ最近気がついた事なのだが、実のところ魔王の魂が現世に留まっている時点で「魔王復活」の目途はたっているのだ。

 

 それを可能とするのは「権能を受け継いだ」魔王軍の部下たち。

 これまで半ば眉唾物として扱われていた魔王の死後での権能譲渡。それがはっきり確認できる形で複数名に現れたわけだが、魔王はそのうちの二人を見て直感で感じた。「あ、食えるな」と。

 なにもまずそうな魔族を直接喰らうわけではない。だがその者達に「預けた」状態にある魔王の力を全て喰らえば、おそらく魔王は蘇る。

 

 

 魔王は自分の権能を引き継いだ部下二人を思い出した。

 一人目。アルマディオ・カーネリアンは眷属の生成と召喚、使役。眷属召喚という総称で纏められているが、実質三つの能力を有している。

 二人目。バシュトレーゼは魔王存命の間、世界に蔓延っていた黒星草の力……魔力を吸収し、相手から力を奪い己の糧とする能力を得ていた。

 それらを続けて見た時にひっそりと覚えた、飢餓感に似た感覚。きっと元の自分を取り戻すため厄災の魔王の本能が求めているのだろう。

 

 今の魔王が無力であると信じ切り、油断したミサオを復活と同時に不意打ちで道連れにすることなど容易いはずだ。だがその分、今はまだこの力の回収に気付かれてはならない。

 アルマディオにミサオが触れた(殴った)時には回収されなかったので魔王自身の心構えなど何かしらの条件はあるのかもしれないが、現状ミサオたちに協力しているアルマディオから力が消えればさすがに鈍いミサオでも怪しむはずなので回収できていないのはむしろ好都合だ。

 まずは"呼び寄せた"他の権能保持者で条件を確認すればいい。

 

 

 

 

「♪」

 

 らしくもなく鼻歌が零れる。

 

 災厄の魔王としての役割はミサオに敗北した時すでに潰えた。故に今さら世界をどうこうする気はないが、かつて抱いていた目的意識は現在一人の人間へのみ向けられている。

 世界を滅ぼす厄災の魔王が、たった一人の人間を道連れにするために思考を巡らせているのだ。

 ずいぶんちっぽけな存在に成り下がったなと感じるが、特に悪い気分はしない。むしろ遠足前の子供のような気持ちを抱いている。

 

 

「ああ、ミサオ。なんて恵まれた人間だろうね? 君は。僕の寵愛を一身に受けられるんだから」

 

 

 最初は「まあこいつ一人道連れでも悪くないかな」程度だった気持ちが、気づけば執着という段階まで成長している。それは確定していたはずの勝利に障害とタイムリミットが出来た故だろうか。それとも共に過ごすうちに、思った以上にミサオ自身を気に入ったからだろうか。

 

 こうした疑問を抱きながら暗躍するのも存外楽しいものだなと、魔王はほくそ笑んだ。

 

 己を負かした英雄もどき。自分の中に忌まわしい呪いのような魂が同居していると知りながら、(ミサオは否定するだろうが)本質的には嫌悪していない変わり者。

 いくら魔王がうるさいとはいえ話しかければ必ず答えてくるし、この間などは「ダメ元」とはいえ魔王に協力さえ求めた。

 望む願いの反転で女になるような奴であるため絵物語のような英雄ではないと思っていたが、その強さに反していつも何かしら間抜けなリアクションをしている姿がとにかく飽きない。

 陰鬱な死の世界も、きっと彼が居れば楽しく過ごせるだろう。

 

「いい加減、僕にも呪いの焼きがまわってるのかな」

 

 ミサオの魅了は未だに効果はさほど強くはなく、まず彼に何かしら好意を抱かなかれば発動しない。だからこそ魔王がもし自身の呪いが引き寄せた職業スキルの影響下にあるとすれば、それは「好意」を認めたことになる。

 だが無理に否定するよりも、これに関しては受け入れた方が愉快な気もした。

 

 

 人へ向ける好意とその意味を考えるなど、何百年ぶりだろうか。

 

 

 

「ああ、楽しいなぁ。ねえミサオ、この僕に惚れたんだろう? 安心したまえよ。君は僕が必ず連れて逝く」

 

 

 

 

 

 夢と勘違いした魔王の深層心理の空間で、この姿に惚れたとぬかしたくせに未だにその正体に気付きもしない間抜けな英雄。

 

 

 ミサオが万が一にでも元の性別に戻る力を手に入れるまで。

 それがひっそりと始まった魔王と英雄の、再戦のタイムリミットだった。

 

 

 




テーテテッテテッテー
地雷 が 時限式 地雷 に 進化 した
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