メス堕ちしたくない俺の苦難八割TSチートハーレム記 作:丸焼きどらごん
頭上の黒い毛並みの狼耳と、人間と同じ位置に生えている髪の毛と同色の兎耳。
その両方がぴょこぴょこ動いており、無表情だというのに渾身のドヤ顔だということが伝わってくる。
どうやらモモは転移で連れ去られた俺を探してこの場所を突き止めたらしい。
温泉で臭いも落ちてるだろうに見つけるだなんてすごいな。ますます探索が得意になったってことか。うちのこすごい。
そんな風に俺が親ばか思考を展開していると、俺と同じく唐突に飛び込んできたモモによるスライムスプラッシュを喰らったルリルがむすっとしながらモモをたしなめる。
「ちょっとモモ。温泉に飛び込むのはよくないことよ。あと入るなら服を脱いで温泉着を借りてきなさい」
「ここにきてお前がまっとうな事を言うんだ……。ところでモモ、どこから落ちて来た?」
「あそこ。シャティに運んでもらった」
「え」
上を指差すモモにつられて上を見れば、純白の翼を羽ばたかせてクルクル旋回している見慣れた姿。
ちなみにここ、屋内ではなく屋外……露天風呂である。
「ミサオ様~! お迎えに上がりましたわー!」
ブンブンとよく手を振るシャティにどうしたもんかと思いつつ、とりあえず手を振り返した。
降りてくる様子は無いな……。
「シャティは男湯に入るの気まずいって言うから、モモが来た」
「あ、そういう……」
普段の勢いで忘れがちだけど、シャティって一応清楚な一面もあるわけで。一応。
温泉着着用中とはいえ、ルリル、ルキ、マイヨール、俺の入っている男湯へ入るには恥じらいが勝ったようである。
モモはその辺まったく気にしておらず、乙女のように体を抱いて隠しているルキなどを前にしても仁王立ちの堂々とした佇まいだ。いやルキ、お前はもうちょっとしっかりしろよ。裸じゃないんだからそんな恥ずかしがるなよ。
そんなことを考えていると、モモが俺の腕を掴んで引っ張った。
「ミサオママ、早く出よう。宿に帰るの」
「あ、こら。ミサオはまだルリルちゃん様と温泉デートするの! 一緒に入るならいいけど、連れてっちゃダメ!」
(一緒に入るのはいいんだ……!?)
「む。勝手に連れてったくせに、ルリルちゃん、わがまま」
「あら、言うじゃない。でも譲れないわ。だってまだミサオの髪の毛の手入れも途中なのよ?」
「ミサオ様の髪の毛の手入れですって!?」
「おわ!?」
ルリルが発現した途端、恥じらいを秒で投げ捨てたシャティが上から直角に降りて来た。驚きの素早さである。
男湯に入ることを躊躇していた清楚さは何処へ!?
「ミサオ様の髪の毛をお世話するのは、このシャティの役目ですよ! 勝手にとらないでくださいまし!」
ぷんぷんっ! といった擬音がぴったりな様子のシャティに、ルリルは竜人らしいギザ歯を口からのぞかせながらクスクスと笑う。
なんというか、こう。こいつマジでメスガキ感がすごい。雌ではないんだが。
「まあ、可愛らしい嫉妬だこと。でもぉ~。もう丁寧に梳いて流して洗って集中補修までしちゃってるのよね~」
「な、なんですって……!」
いや、シャティさん? なんでそんな「寝取られた……!」みたいな顔するんだ? 髪の毛だよ?
「ミサオの暴れん坊な髪の毛は、このルリルちゃん様が蝶や花のように丁重に扱ってあげたわ! ほーっほほほ!」
「~~~~! でも、まだ補修剤は流してないんですよね!? でしたらここからはわたくしが引き継ぎますわ! どうもご苦労様っ!」
「はぁ~? 横からかっさらう気というわけ? ふざけないでもらいたいわ。手順や使う洗髪料によって手入れの方法も違ってくるのは、あなたもご存知じゃない? ルリルちゃん様が何を使ったかも知らない相手に途中で委ねるなんて、とても出来たものではないわね! ミサオの髪の毛はルリルちゃん様が乾かすところまでやるんだからっ!」
「ミサオ様の頑固な髪の毛の事はわたくしが一番知ってますもんっ! それこそ他の人になんて任せられませんっ!」
「…………」
『…………』
なんか……うん。
シャティとルリル、俺っていうより俺の髪の手入れについて激しい取り合いをしているな……。自分の一部の事なのに、なんだろうなこの蚊帳の外感。
ルリルVSアルマディオの時はネタでも言わんからなって思ってた、人生で一度は言ってみたい「俺のために争わないで!」を今こそ言うタイミングなのでは? と一瞬思ったけど、取り合いされてるのは俺の髪の毛なんだよな……。
『君の髪の毛、本当に癖が強いからね。髪にこだわりがある人から見たら放っておけなくて、変なスイッチ入るんじゃない?』
(そ、そういうもん?)
『多分? 僕は手入れするまでもなく一度も絡まったことも傷んだことも無いからよくわからないけど』
(めちゃくちゃ天然美髪マウントとってくるじゃんお前……)
ふふんっとばかりに短いながらサラサラの黒髪をかきあげる魔王に「お前はお前で髪にこだわりあるじゃん。めっちゃ誇ってるじゃん今」って感想を抱きつつ……。
俺は白髪の美少女有翼人と、金髪おっさん幼女竜人の争いが収まるのをルキ、モモと共に待つのだった。
ちなみにマイヨールは一人で勝手にアイス食ってた。
おい風呂の中で食うなよ自由か。
そして、しばらく。
「まあ、この花の蜜を使用しているのですか? 希少種ですね。すごくいい香り」
「でしょ~? 竜の国近くでしか採取できない特別なものなの。よかったら少し抽出液を分けてあげるわ。洗髪料や保湿の油にちょぴり混ぜるだけですごいんだから! 香りがいいのはもちろんだけど、美髪効果抜群よ~」
「いいのですか? ありがとうございます! では私からはこれを……」
「櫛? ……! もしかしてこれ、材質は月華樹かしら?」
「ふっふっふ。さすがお目が高いですね。その通りです! 地上では育ちが遅い月華樹ですが、天空では採取が可能なほどよく育つのですよ! 故郷の特産品のひとつですわ」
「そうなの! 素晴らしいわね。いいわねぇ、天空都市。行ってみたいわ。……くれるの?」
「ええ。希少な蜜をくださったのですもの。そのお礼です。あ、未使用品なのでご安心くださいね?」
「ありがとう! 嬉しいわ。細工もきれいねぇ」
「ふふふっ。でしょう?」
「…………」
『…………』
浴場での争いから、数十分後。
何故か俺は意気投合しながら俺の髪をいじりつつキャイキャイはしゃぐシャティとルリルに挟まれていた。
ガールズ(半分ガールではない)トークに入れない俺は大人しくお人形さんになる他ない。
(さっきまで言い合ってたのに、なんでこんな仲良くなってるの……)
『こだわりがあるって事は共通のものに深く興味をもっているってことだからね。ちょっと歯車が嚙み合えば、仲良くもなるというものなのだろうさ』
(知ったかぶった物言いしてるけどお前も困惑してんじゃねーか)
さっきまでさんざん俺の髪を巡って争っていた二人が、今では仲良く共同作業である。
鏡が目の前にあるが、俺の癖毛が驚きの艶を見せ始めてるんだが。
女になった時に何故かオレンジなんていう派手な髪色になったので、艶が増すともとからのボリュームもあって我ながら華やかだ。その分髪に囲われた地味顔の地味さが際立つわけだけど……。
「ミサオママ、牛の乳飲む?」
「おー。ありがとな、モモ」
にゅっと目の前に差し出されたのは陶器の瓶に入った牛乳。そしてそれを差し出しているモモはすっかりホカホカな湯上りだ。衣服も宿が貸してくれたゆったりした貫頭衣に着替えており、腰のあたりを鮮やかな桃色の帯でとめている。
布面積が少ない服とはいえ、モモには毛皮がある。流石にそれが温泉(しかもスライム仕立て)で濡れたままというのはいただけないので、普通の温泉に入って着替えることを勧めたのだ。
「やあ、私達もすっかり温まらせてもらったよ。同じルナナリアスでも、場所が違えば温泉の質も変わるものだね。気持ち良かった」
「ああ。スライム温泉でないほうも肌をしっとりさせてくれるいいお湯だ。スライムの方も気にならないわけじゃないけどね。残念ながら、もう次の客が入っているそうだよ」
そう言ってモモと同じくホカホカ仕立てで、しっとり浮かんだ汗をぬぐいながらやってきたのはアシュレとガーネッタ。色っぽいぜ……! 入浴中の温泉着姿は拝めなかったが、これを見られただけでもルナナリアスに来た甲斐はある。
温泉に強行突破で侵入してきたモモやシャティと違い、この二人はちゃんと入浴施設の正面から入ってきたからさっき合流した。めちゃくちゃ当たり前の事なんだけど、大人である。
現在俺達が居るのは、ルナナリアスの中でもかなりプライベートな高級宿。一般の観光客はあることすら知らないようで、実際に俺どころかアシュレさえ知らなかったとのこと。
温泉内で騒がしくしてしまいあとから追加人数が入ってきたにも関わらず、宿の対応は丁寧だった。料金はまあとられたけど、お願いしたところモモたちを普通の温泉に入らせてくれたし。そんなところにも高級宿らしいサービス精神を感じる。いや本当、騒がしくしてすみません。
にしても、マイヨールのやつどんだけ大枚はたいだんだよ。宿の人に聞いたらスライム風呂、一定時間貸切るだけでかなりの金額のようで、そもそも一年以上先まで予約でいっぱいらしいのに。知る人ぞ知るポジションの宿で一年先まで予約でいっぱいとか、具体的な金額を想像するのが恐ろしい。
ルリル達と知り合ったのはつい最近だから、そんな前から予約していたわけもないだろうし。想像するに宿自体だか先の予約客かは知らんが、金の暴力に物を言わせたとしか思えないんだよな……。怖……。
まあルリルは一応竜王族とかいうやつらしいし。そりゃ俺達なんかとは比べ物にならないブルジョアなのかもしれないけど。
でもそれならますますもって、人にケーキやらをたからないでほしい。
ともかく色々疲れたけど、しばらく寛いだら自分たちの宿に戻る予定だ。
「え、こちらに部屋はとってありますけど? ルリルちゃん様とミサオ様用に」
「お前はさらっと恐ろしい事言うんじゃねぇよ」
この後の予定を話していたら付き竜人が何か言ってきた。色んな意味でお断りだわ。
いや、それでもルリルが俺の部屋に泊まることは決定事項だったな……。
「でしたらこちらのお部屋はもったいないので私が泊まりますね」
「お前も人生楽しそうだよな」
断ったら秒で自分が泊まることを決定しやがった……。恐るべき人生エンジョイ勢である。
主人が主人なら付き人も付き人ってか。いやそこは似るのおかしくねぇか?
『僕からしたら君も人生楽しんでるように思えるけどね』
(あん? ……まあ、そりゃあな。なんだかんだで俺も楽しんでるのは否定しねぇけど)
髪の毛を手入れをされながら、賑やかな空気に顔が緩む。
理由も分からず放り出された異世界だけど、こうして人に囲まれているってのは幸せなことなんだろう。
最近は悲鳴しか上げてない気もするが、まあそれはそれとして。顔の良い美少女と美少女もどきにいたれりつくせりで世話を焼いてもらってる現状、呪われた自分の状態やらを顧みなければかなり恵まれてるし……。
ふふふ。これが極楽ってやつか……。多少の事に目を瞑れば……。瞑れば……。
そんなことを考えていると、いつもならもっとつっこんでくる魔王がどうも静かだ。奴は後ろにいるのか、髪をいじられている今は首を動かせず顔は見えない。
まっ、静かなのはいいことだよな! 内心で会話しながら表面上のリアクションおさえたりするの大変なんだぞ。
『本当に、いい人生を送っているよ』
だから俺は、それをつぶやいた魔王がどんな顔をしていたのか見ることは無かった。