メス堕ちしたくない俺の苦難八割TSチートハーレム記 作:丸焼きどらごん
▶主人公 は 敵魔族 の 角 を 叩き 折った!
▶魔族 は 求婚 された と 思い こんだ !
「その求婚、受けた!!」
「なんて!?」
がばっと顔を上げたアルマディオの熱い視線と、投げかけられた言葉。
かろうじてつっこみは口から飛び出てくれたが、思考はまったく追いついていない。
今こいつなんて言った? きゅうこん?
球根じゃねぇよな流石に。けどもう一つ変換されたきゅうこんの字面が嫌すぎてどうしても認めたくないんだが。
……そうやって、敵の前で不覚にも隙を晒した俺が悪かったんだろうな。
「嗚呼、愛しい人……!」
「は?」
うっとりと蕩けるような表情が、気づけば目前に迫っていた。
視認と同時にぶわっと総毛立つような感覚に襲われるが、フリーズしていた脳からの指令が体に届くよりも早くおとがいにがっちり指がかけられて固定。ど真ん前には無駄に長くてばっさばさした赤い睫毛が縁取る金目のドアップ。鎧の中で唯一肌が露出している部分、口元に生暖かい他人の息がかかる。
更にはそのまま息つく間もなく息ごと飲まれ…………。
唇が柔らかいものに塞がれていた。
「~~~~~~~~!?」
声にならない絶叫が喉の奥で暴れた。
『あっははははははははははははははははは!! あー! 最高! 馬鹿! 阿保! おっもしろいなぁ、ミサオは! ひ~、体ないのにお腹痛い! あはははははははははは! これっておめでとうって言うべき場面? ねえ、どう思う! ねえ! あはははははははははははははは! し、知らないみたいだから教えてあげようか? 魔族にとって角を折られるってのはねぇ、最上級のプロポーズだよ! その口づけはそれが受け入れられたってこと! ご結婚おめでとう! あーっははははははははは!』
弾けたように響いた魔王の大笑いという非常に神経を逆撫でするバックミュージック。
それを聞きながら、俺は渾身の力をこめて拳を相手の腹にめり込ませた。
「ごばっ!?」
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す。殺ォす!!!!!! おっら死ねぇ!! 内臓破裂しろやぁぁぁぁあ゛あ゛あ゛ッッ!!」
「ぉごぶぉッ、おごっ、あばっ、げはぅッ、ごばばばばばばばばばばばばばッ!?」
獣の咆哮のような声をあげながらラッシュラッシュラッシュ! 拳を次から次へと繰り出していく!
一発一発に殺意を込める!!
今…………今! この野郎は俺の、俺のぉぉぉぉおおお!!
認めたくない事実に魔王と戦った時以上の力が漲る。おそらくこいつを拳でミンチにまで粉砕しなければ鎮まらない怒りだろう。
だって……ずっと楽しみにとっておいたんだぞ!? いや、とっておいたっていうか普通に機械が無くて……いやでも! ここまで無かったなら、色々シチュエーションを妄想しちゃうだろ!? あんな美女美少女に囲まれているわけだから余計に!
なのに現実は女の子ですらなく野郎とファーストキ……うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!! 認めたくないぃぃぃぃぃぃッッ!! 嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!!
求婚って、プロポーズってなんだよ馬鹿ぁぁぁぁぁぁ!
『あはっ。その程度で発狂するの? 乙女じゃん』
(その程度!? 大惨事だわボケがッ!!!!)
魔王のデリカシーの無さに余計に怒りの感情が上限を突破していく。
ガーネッタには悪いけど、ごめん。こいつ塵も残らないかもしれない……。
どこか冷静な部分で考えながら、体は圧倒的な怒りに支配されて突き動かされていく。
そして拳のラッシュをやめ、再び剣を抜き放った時だった。
「古来より……女と女の恋路に挟まる男は処刑してよい、という教えがあります。なくてもわたくしが。このわたくしが今、作りましたわ……!」
上空から、底冷えするような声色がふってきた。
声質は鈴が転がるようなのに、響きがひどく冷徹だ。そして荒げていないというのに、よく通る。
真冬の極寒の中で夜空に燦然と輝く星のような、そんな声。美しくも恐ろしいとはこういう事だろう。
「え?」
見上げると白い柄に星の結晶を思わせる飾りがついた杖を構えているシャティの姿。表情には温度というものはなく、冷たくこちらを見下ろしている。
あまりに印象的な声と、その内容のギャップに俺の思考からざっと怒りの熱が引いた。
怒りより困惑が勝ったのだ。
(女と女の恋路? 誰と誰? それはいわゆる百合の間に挟まる男は死ねというやつですねわかります)
困惑の中でも無駄に動きの良いオタク的思考がそこまで考えたが、そこまでだった。
「ミサオ様の初めてを……初めての口づけをぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」
(女の片方ってもしかして俺ーーーー!?)
一転して激昂へと変じたその声に、俺の赤裸々なプライベートが拡散される。
やめ、やめて!? シャティさん!? 俺がこれまでキスも経験なしという事実をご町内の方々に聞こえるように言わないで叫ばないで!? 上空からよく通る声で大声出されたら普通に町内放送だからね!? やめて!?
というかシャティ、なんで俺がこれまで経験なしだって決めつけてるんだよ! 事実だけど話したこと、ないぞ!?
『にじみ出てるんじゃない? 童貞臭』
(マジでお前はいちいち腹立つことを律儀に挟んでくるのやめろ!!)
『だって面白いんだもの』
(俺は面白くねぇよ!!)
「ミサオ様! 今すぐそのボロ雑巾を手放して遠くへ放り投げてくださいましっ!!」
「へぁっ!?」
反射的にその指示に従い、ボロ雑巾を渾身の力で放射線を描くように投げる。
そして。
【天空を支配せし雷閃妃よ、あまねく雷雲を構築し光を束ねて収束せよ。薫風は紫電を孕み大輪の花を開花するべし。望むは有翼族が巫女姫、シャティ・ティティシエール!】
シャティが言葉を紡ぐと周囲への被害を防いでいた結界の光が黒く染まり空へ吸い込まれる。
すると快晴は瞬く間に分厚く黒い雲に覆われて、バチバチと龍のような紫電がうねり始めた。
そして。
【
「おわあああああぁ!?」
瞬間、轟音と共に一条の落雷が地を穿った。その刹那、雷光に他全ての光源が奪われたように周囲が暗くなる。
俺の魔術装甲ならたとえ直撃しても無傷だが、その迫力にビビり思わず叫び声をあげてしまった。
なんの迫力って、雷そのものよりシャティのだよ。いや人間の本能として落雷にも普通にビビったけどな?
え、シャティ……当事者の俺以上に怒ってない? 逆にこっちの怒りが覚めちまったよびっくりして。
そして女と女のどうのこうのはともかく恋路うんぬんについては詳しく聞きたいんだけど? 是非とも聞きたいんだけど!
俺が困惑していると、「ふむ」と魔王が納得したような声を出した。
『彼女、順調に魅了の効果が出ているね』
(は? 魅了!?)
その予想外の言葉に思わず背後を振り返る。
魔王は俺の脳内に声のみを響かせているので、当然後ろには誰も居ないのだが。
『ああ、そうだよ。僕が君に与えた
(まてまてまて、情報処理が追い付かない。聞いただけなら美味しい話に聞こえるけど絶対そうじゃないだろ俺は騙されんぞ)
『用心深いなぁ。魅了だよ? 君みたいなスケベ野郎からしたらおおはしゃぎするスキルでしょ。喜べよ』
(お前今祝福とか言ってたけど呪いって言葉にルビつけるニュアンスで言ってなかった? 騙されんぞ)
『メタ読みおつ。なんでわかるかな……これだからオタクは』
(その発言がもうお前も俺と同類なんだよなァッ!)
『君と一緒にはされたくないな。……ま、色々と気になるようだけど、とりあえず僕に感謝したまえよ。その姿になった事で、ミサオには新たな"チート"が発現しているんだから。おそらく君にとって垂涎物の』
(チートって……)
『おやおや……おやおやおやぁ? 呪いナビに興味津々かな? 色々聞きたくてたまらないのかなぁ~? そうだろう、そうだろう。君はもっと僕の存在に興味を持つべきなんだ。……ふふん、いいだろう。落ち着いたらちゃんと説明しよう。呪いが呼び寄せた奇跡のような祝福を』
芝居がかった口調で魔王は上機嫌に述べるが、俺としては喜ぶどころか不安が増しただけだ。さっきメス堕ちポイントなんて不穏なワードを聞いたばかりだってのに、今度は新たなチート能力だって?
う、うさんくぇぇぇぇぇッ!
俺は心労による頭痛を覚えつつ……目の前でぷすぷす煙をあげながら焦げている魔族を眺める。
「これ、どうしよう」
そしてすっかり困惑で塗りつぶされ、行き場を失った怒りの感情を持て余すのだった。
シャティによる怒りの高難易度攻撃魔術が直撃した馬鹿魔族は、魔術装甲のおかげで死んでこそいないが轢かれたカエルのようにべしゃっと地面に張り付いて痙攣していた。
(こ、こわ……)
『でもこれ、主に君が与えたダメージだと思うのだけど?』
(え、そう? まあ殺す気で殴ったから……)
なんとも言えない気分になっていると、先ほどとは打って変わった可愛らしい声に呼ばれた。
「ミサオ様~! このシャティが、不埒なやからに制裁をくだしましたわ~! 褒めてくださいまし~!」
声につられて上空を見上げると、シャティが笑顔で手を振っている。翼を犬が「ほめてほめてっ!」と尻尾を振るようにぱたぱた動かしている仕草が可愛い。
可愛いけど、たった今の攻撃を見たあとだと…………うん!
「あ、ありがとう~。シャティはすごいな~!」
我ながら棒読みになってしまったが、シャティは満足したようだ。
「えへへ。とんでもないですわ~! お役に立てたのならばなによりです~!」
(あ、かわいい……)
朱に染まった頬を両手で押さえる姿はあざと可愛くて、まあ可愛いならなんでもいっかなという気分になってくる。可愛いは正義である。ジャスティスオブかわいい。いぇあっ!
「あ、でも今の一撃に結界を作っていた魔力を注いでしまいましたのー! まだ油断も出来ませんし、今ある魔力残量でもう一度結界を張ってまいりますわ~!」
「た、頼む~」
ブンブンを手を振りながら再び魔力を振りまきながら空を飛び回りはしめたシャティ。
俺はそれを見送ると……ようやく困惑と衝撃の波が引いていき、先ほどの感触が蘇ってきて全身に鳥肌が立った。
「うえぇぇぇ……ッ! ぺっぺ!」
顔を覆う魔術装甲だけ消し、ごしごし口を擦って唾を吐き出す。
は、吐き気が。
「魔族にとって異性に角を折られるってのは、最上級の求婚なのさ」
俺が涙目になっていると、ガーネッタがそんな説明をしながら歩み寄ってきた。
モモはといえば、その後ろで周囲への警戒を続けせわしなく耳を動かしている。
にしてもさっき魔王に聞いちゃいたが、そんな文化今回初めて知ったよ!
とんだトラップである。受ける方も受ける方だが。
「求婚……」
「ああ。自分が折れた角の代わりなって添い遂げようっていうね。まあ受けるかどうかは結局相手次第なんだが、その様子だと随分気に入られたようだねぇ。ふふ。あの子、強い相手は男でも女でも大好きだから」
「笑い事じゃないんですが!? たった今俺のファーストなキッスがクソボケ勘違い野郎に奪われたんですけどぉ!?」
「なんだい、ミサオ。本当に口づけは初めてだったのかい?」
「う゛」
ぼ、墓穴を掘った。
「あははっ。世界を救った英雄様だっていうのに、本当に今まで縁がなかったんだね」
筆おろしを頼んでいた相手にそれを知られるのに何を今さら恥ずかしがることがあるんだという気もするが、それでも恥ずかしいものは恥ずかしい。羞恥で顔に熱が集まってきた。
(うううううううううううう……! 泣きてぇぇ~……!)
我ながら情けないが、いくら(おそらく)この世界においての最強格の実力を手に入れたとはいえデリケートな部分はそうそう克服できるものではないのだ。俺の心は繊細なのである。
そんな風に落ち込む俺がガーネッタの視線から逃げるように俯いていると……ふっと影が差した。
「…………それなら」
「え」
顔をあげると、ガーネッタの金眼と至近距離で視線がぶつかる。さらに形の良い爪がおさまる手で、くいっとおとがいを持ち上げられた。
先ほどとほぼ同じシチュエーション。だけど今度は相手が違う。
(こ、これって)
期待に胸を高鳴らせると、頭の後ろに腕を回され力強く抱き寄せられた。やだ、男前……!
そして、そのまま。
唇が柔らかく花びらのように繊細なもので塞がれて、その間で互いの吐息が交じり合った。
(ひょあああああああああああああああああああッッ!!)
柔らかいし気持ちいいしなにかいい香りがする!! 薔薇? え、ここって楽園? 楽園再び!? 一日に二回目の楽園!? うおおおおおおおおおおおおおお!! さっきの悪夢が霧散していくぅぅぅぅぅぅぅぅッ!!
「…………。ふふっ、どうだった? 弟の不始末はこれで勘弁してもらえるかい、なんてね。お詫びというには私の方が得したかね。あははっ」
(ほ、包容力ぅぅぅぅぅぅうううう! ガーネッタ姐さん、一生ついていきます!!)
ファーストから間を置かずしてセカンドぶちこまれたんだけど、はいさっきのは地獄。今のは天国!! 楽園!! …………いや地獄なんて無かったが? あんなものカウントしてたまるかってんだ! 今のが俺のファーストキス! 甘酸っぱい思い出!! たいへん素晴らしかったですごちそうさまでした!! よ、よければサードもいかがです!? そのまま満塁しましょう!
なんて、脳内でホームランが打たれ宴が開催されていた俺だったのだが。
【メスメロメロリンッ♪】
(まったかよぉッ!! この、いい気分に水差しやがって!)
本日五度目? の例の音が響いた。宴、瞬く間に強制終了である。
いい加減この音がなんなのか魔王のあんちくしょうに答えてもらわねばなるまい。
(おい、魔王!! だからこの音、なんなんだよ!)
魔王に問いただすと、奴はあっさりとんでもない内容を答えた。
『そうだね、いい加減君にかかっている呪いの事を説明しておこうか。なんたって僕は呪いナビだし』
(もったいぶらずに、はよ!)
『ほしがりさんだね』
(そういうのいいから!)
『はいはい。……では
……は?
『えーとね。例えば君がその
溜まるわけ、じゃないが???
『……でね? ふふふ。これが溜まって溜まって溜まり切って……【
ごくり、と生唾を飲み込んだ。
「ミサオ? 顔色が悪いけど……私とじゃ、弟に似ていて嫌だったかい?」
「そんなことはありえませんたいへん素晴らしかったですありがとうございました一生の色あせない思い出として心に刻み脳みそに感触と共に永久保存します!」
「そ、そうかい? じゃあ、体調でも?」
「ま、まあそんな感じで……」
歓喜の表情から一転。神妙な顔になった俺を、ガーネッタが不思議そうに覗き込む。
キスが嫌だったのかという問いに関してはきっちり否定して全身全霊の感謝を述べつつ、しかしそれとは別に嫌な緊張感が走る。
だって、だって……この魔王の言葉の、流れって……!
『【
…………………は?
「嘘だぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああぁぁぁぁッッッ!?」
「ミサオ!?」
「ミサオママ!?」
叫ぶと同時。何故か身に纏っていた魔術装甲が砕け散り、勢い余ってマイクロビキニ(仮)もほどけ落ちた。
なんで!?
天国から一転。地獄の底まで突き落とされたうえで泣きっ面に蜂である。
正面に居たガーネッタとモモには完全に全部見られた。
更に。更に更に更に!
『あ、ちなみにだけどね。君のチート能力、経験値確定十倍取得だっけ? さっきも言ったけれど、それメス堕ちポイントにも適応されるようだから。今のところ僕が想定していた十倍の速度で溜まっているよ、ポイント』
更に地獄の地下フロアまで通じる情報追加されたんだけど!! もうお腹いっぱいだよ! やめろよッ!!
俺の……俺の超お得チート能力がこんなことで、裏目に……! 馬鹿な……!
馬鹿なぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!
『いい悲鳴だねぇ。耳に心地よい。……さあ、ミサオはいつまで、自分に向けられる好意に耐えられるかな?』
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
本日の天気。
晴れ時々雷雲時々俺の悲鳴。
※2023.12.9>>加筆修正。【