光の戦士と暁のベル・クラネルがダンジョンにいるのは間違っているだろうか   作:dukemon

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ベルとグノッソス

1、

 

ベルの朝が早い。

まずは起きて、朝食を作って、リリとヘスティアを起こす。

朝ごはんを食べ終わったら、リリと共に都市の北壁に行く。

アイズ、ベートとレフィーヤとの共闘を経てから、彼らはほぼ毎日ロキ・ファミリアの幹部と特訓している。

しかし、今日は少し妙な感じがある。

来たのはフィン一人だけ。

フィンは多忙のゆえ、特訓に顔を出すことが少ない。

そんな彼は今、ベルに頼み事をしている。

 

「実は闇派閥の根拠地を発見した。君たちと一緒にそれを調査したい」

 

人造迷宮(グノッソス)ですか!?あ、ダイダロス通りの地下にあるアレのことです」

 

フィンは目を見張った。

 

「僕はその存在を知っているけど、入口はどこにあるのかがわからないです。ダンジョンの18階層のどこかに扉があることを確信したけど、数日探しても見つかりませんでした」

 

「なるほど――情報源については聞かないでおこう。ほかに情報があるのか?」

 

ベルが自分の知る限りの情報を話した。

フィンの顔が段々険しくなっていく。

 

「鍵について、ロックさんは一つ持っています。今すぐ連絡します」

 

異端児が闇派閥を撃退した時、それを奪った。

すぐに、フェルズに渡して、複製品を二つ作った。

本物はロックが持っている。複製品はそれぞれリドとフェルズが持っている。

 

「あと、実は鍵は魔道具だから、アスフィさんに複製を頼もうとします。数日間待ちますか?」

 

少人数用ならともかく、ロキ・ファミリアのような大きな組織と連携するなら鍵一つでは足りない。

かといって、ウラノスの私兵であるフェルズが作った鍵を使うのはまずい。

だから、ヘルメス・ファミリアに依頼する。

 

「それなら構わない。できるだけ早めに攻略しようと思っているが、準備を整えるまで待つよ」

 

「……それなら、僕と一緒にロックさんの特訓を受けませんか?」

 

 

「はぁ、はぁはぁ」

 

フィンの赤目がもとの碧目に戻ったのを見て、ロックはお互いの傷を治し始めた。

フィンは傷だらけで、ロックは肩が槍に貫通された。

 

フィンに対する特訓の課題は狂化の制御。

簡単に言うと、ひたすらに模擬戦をした。

自分の力と技をレベル7上位に制限したロックを相手に、フィンが魔槍を使わなければ絶対に力押しで負ける。

でも、魔槍を制御できないと、普通に技と駆け引きで負ける。

数日間の特訓で、フィンはようやく部分的に制御できた。

一度成功したことがあるから、その時の怒りを思い出すことで何とかなった、とフィンは言った。

 

「一つ聞きたいことがある、ロック。レベルは幾つだ?」

 

疲れ果てたフィンの疑問に、ロックは事も無げに答えた。

 

「俺は恩恵を受けていないぞ。ベルに勝てるから、レベル9以上かな」

 

フィンはそのまま意識を失って、ロックに抱えられてロキ・ファミリアの本拠地に戻った。

 

翌日、ダイダロス通りの地下水道。

そこは迷宮のようであり、迷路のように入り組んでいる。

その一角で、それがある。

『オリハルコン』最硬精製金属でできた扉だ。

もともとは固く閉ざされるものだったが、今回はまるで冒険者たちを誘い込むように開かれた。

 

「見え隠れする挑発だな。しかし、運が悪かった」

 

フィンは冷静に、もしグノッソスの構成が知らなかった場合の状況を考えている。

おそらく遭難するだろ、と彼は考えた。

 

「よお、フィン、来たぞ!」

 

オラリオにいる最高戦力、ロックの声を聞き、フィンは顔を向けた。

そして、驚いた。

彼が知っているロックは、大剣、槍と刀などの近接武器を使いこなす戦士だ。魔法も使えるが、真骨頂ではない。

しかし、今日のロックはロッドを持ち、真っ白な魔法衣を纏っている。

 

「ロック、その姿は……」

 

「ん?ああ、今の俺はヒーラーだ。今度の戦いは前衛が足りるけど高位の治療師が足りないと思うから、後衛に移行すると決めた」

 

確かにそうだが、フィンは頭が痛くなった。

 

2、

 

「その【ホーリガ】というふざけた攻撃魔法は何なんだ!後衛のヒーラーだろ!?なんで普通に敵に突っ込んで、スタンさせるんだ!?」

 

探索し始めた十分後、ベートは爆発した。ロキ・ファミリアの全員も同じ感想を抱いた。

【ホーリガ】、それなりの攻撃力を持つ範囲攻撃魔法。ロックが白魔導士として愛用しているもの。

敵味方を識別できるし、最も恐ろしいのは五秒間の強制停止(スタン)が与える追加効果だ。

今のところ、冒険者たちは棒立ちしているモンスターを倒すだけだ。

 

「おい、ロック!お前は本当にヒーラーなのか!?」

 

ベートの言葉にロックは苦笑した。

 

「失敬な。敵を倒すのついでに味方を回復するれっきとしたヒーラーだ」

 

軽口を交わしながら、冒険者たちは自分たちの無駄な緊張感がかなり軽減したのを感じた。

現在、彼らが応戦した敵はモンスターだけ、闇派閥の構成員に会わなかった。

無論、地図作成は進んでいるし、鍵があるからいつも撤退できる。

しかし、闇派閥の奥の手はこのグノッソスだけじゃないと、暗黒期を生き抜いたロキ・ファミリアの古参は思った。

そして、分かれ道を見た。

手持ちの鍵は、本物と複製品それぞれ一つしかない。

フィンはすぐに部隊を再編し、二つのチームに分けた。

複製品の鍵は分隊のリーダーであるカレスに渡した。

ロックはフィンのチームに入って、ベルはガレスとアイズと同じチームに入った。

 

歩き続けると、広間に似ている正方形の空間に出てきた。

すると、真正面の登り階段の先に、足音が聞こえた。

全員は警戒していると、階段の上から一人の女性が数名の部下に従えて現れた。

ギルドで保管している闇派閥の資料を閲覧したロックは、彼女がヴァレッタということを知っている。

オラリオ史上有数の犯罪者で、闇派閥の指揮官。

彼女とフィンとの話を聞き流しながら、ロックはお互いの距離を測った。

 

(この距離では殺せるが、捕縛するのは無理だ。どんなに早く接近しても、腕一本切り落とした瞬間扉が落ちて逃げられる)

 

ロックはフィンと視線を交わし、頭を振って密かに囁いた。

 

「殺せるが捉えない」

 

「やれ。彼女は無防備で僕たちの目の前に出るわけがない」

 

ロックは、白魔道士の最大の一撃を使った。

 

【ハート・オブ・ミゼリ】

 

奇襲は完璧だった。

無属性の衝撃波はヴァレッタの足元から発生し、彼女を部下諸共粉砕するはずだが。

ヴァレッタの周りにいきなり障壁が現れた。

衝撃波は障壁を突き破り、彼女を吹っ飛ばした。

 

「ヴァレッタ様!馬鹿な!レヴィス様が精霊に命令し作った防壁が!?」

 

「ぐっ、貴様!」

 

フィンの慧眼は瞬時に次の一手を打った。

 

「そのまま押し切れ!あれほどの防御魔法を簡単に用意できるはずがない!」

 

ベートは突進し、ロックは次の詠唱を用意した。

重傷のヴァレッタは部下に支えられ、扉を落とした

それと同時に、広間の左右の扉が開かれ、モンスターたちがなだれ込んでくる。

 

「後ろにもモンスターが」

 

フィンがさらなる指令を下す前に、レフィーヤの呼び声が聞こえた。

 

「団長、殿は私とフィルヴィスさんに任せてください!」

 

「頼んだよ、レフィーヤ」

 

信頼できる後衛に、背後を任したフィンは決断した。

 

「総員、進め!」

 

 

ベルはガレスのチームと共に進んで、周辺の情報を報告していく。

 

「みんな、気を付けてください。前には人の気配があります。一人だけだから、なんらかの罠があるかもしれません」

 

そして、彼らはフィンたちと似たような広間に踏み入れた。

通路奥から現れたのは陰気な男。

 

「お初にお目にかかる。ロキ・ファミリアの冒険者と英雄ベル・クラネル」

 

ティオネとティオナの姉妹が叫んだ。

前にメレンで探している似顔絵の男だ。

 

「闇派閥の幹部ですか?」

 

いきなり襲ってくることはないから、ベルはまず交渉を試そうとした。

そして、誤った判断をしたと、すぐに理解した。

足元の地面が一瞬で消え去った。地面はまるで扉のように開いて、落とし穴となった。

 

「っ!」

 

ベルは反射的に、最も近いティオナの手を握って、空を蹴って飛び上がった。

そして、槍を壁に刺さった。

 

「縄をこちらに投げて!ティオナさん、お願い!」

 

「わかった!」

 

しかし、落とし穴は無情に閉じていく。

縄や爪などの道具は落とし穴の蓋に阻まれた。

完全に閉じる前にアイズが風を纏って飛んで脱出した。

 

アイズとティオナが敵がいた場所を見た。

男がいた場所は落ちた扉しか残っていなかった。

彼はベルが飛び出した瞬間で撤退を選んだ。

 

「みんな!」

 

「アイズさん、少し落ちづいてください。ガレスさんは鍵を持っています。正直に言うと、遭難しているのは僕たちです。」

 

「まあ、気を取り直そう!アイズ、アルゴノゥトくん。こちらはレベル6二人、レベル8一人。なんとかなるよ!」

 

「いや、僕レベル2ですよ。一応、フィンさんのチームに報告します」

 

ベルはリンクシェルを起動し、ロックと連絡した。

僅かな対話の後、表情はかなり険しくなった。

 

「ああ、わかりました。ご武運を」

 

『あちらは頼んだぞ』

 

通信を切って、ベルはロキ・ファミリアの別チームの状況を共有した。

 

「フィンさんはレヴィスに襲われて、さっきのような落とし穴に押し落とされました。ベートさんと数名の団員もそうです」

 

「団長は鍵を持って……」

 

「持っていません。フィンさんは落ちる前にラウルさんにそれを投げて、指揮権を渡しました。フィンさんらしい判断です」

 

フィンの強さについて、ここにいる三人は良く理解している。

それでも、彼でも鍵なしで、この人造迷宮から脱出できない。

 

「あと、今の状況じゃなければ素直に祝える話が……フィンさん、昨日レベル7に昇格しました。今の彼なら、レヴィスに後れを取らないはずです」

 

「団長がレベル7!?」

 

「また、差が開けられた」

 

「詳しい話はガレスさんとリヴェリアさんも知っているそうです。脱出してから聞きましょう」

 

三人はまず移動を始める。

グノッソスの壁には魔力感知を邪魔する素材で作られたから、ベルの魔力感知はあまり遠くに届かない。

それでも、奇襲が彼に通じない。

 

黒一色の装備を身について暗殺者の集団は無音で隠し通路から三人に襲い掛かってくるが、彼らが目にしたのは真っすぐに暗殺者の集団に睨んでいる冒険者たちだった。

 

「本当にアルゴノゥトくんの言われた通りだね」

 

裏をかかれた暗殺者たちは秒で制圧された。

自害用の毒薬もベルに奪われた。

 

「鍵を持っているのか?」

 

「………………」

 

黙り込むと決まっている暗殺者に、ベルはその目を見ると

 

【竜の眼よ】

 

「うわわわわわわわわ!!!?も、持っていない!?俺たちは持っていない」

 

「よろしい」

 

そういうと、ベルは魔法を解除した。

 

「アルゴノゥトくん、さっきのは?」

 

「相手に恐ろしい幻影を見せた魔法です。レベル3以上の者は素で抵抗されるから、こういう相手にしか使いません」

 

ニーズヘッグが使ったものにかかれば、光の戦士でさえ混乱状態になる。

ベルはこの魔法に苦手だから、本当に必要な時でしか使わない。

 

ベルは全員に聞くと、同じ答えを得た。

そして、彼は一つの発想を思いついた。

 

「なあ、あなたたちが知っている、ここにもっとも近い重要な場所はどこにいる?」

 

「…………そ、それなら、倉庫に繋がる道は……」

 

聞き終えたら、ベルは相手を気絶させた。

 

「相手は僕たちを消耗し、始末しようとします。なら、僕たちは自分の気力を有意義なところで使いましょう」

 

「っ!相手の急所を粉砕する」

 

「はは、気が合うね。アルゴノゥトくん!」

 

「僕が結構脳筋になったと、仲間によく言われていましたよ」

 

倉庫を突撃した三人はまず中にある物資を物色する。

すると。

 

「高級回復薬はたくさん……エリクサーは三本もある!」

 

「保存食の数も多い……保存食のジャガ丸くん!?」

 

「……補給してからここを焼き払いましょう。想定以上の数でした」

 

物資の豊かさに、ベルは驚いた。

三人は急に一週間の食料と薬を持ち出して、そこに火をついた。

 

【アク・モーン!】

 

次に、闇派閥の自爆兵を捕らえ、食人花の繁殖場を聞き出した。

前衛のアイズとティオナによる守りを得て、ベルは悠然と詠唱した。

 

【アク・モーン!】

 

グノッソスを荒らした三人に、闇派閥は多種多様な手段で排除しに来たが、圧倒的な強さに手も足も出ずに破られた。

ベルは情報を聞き出した後、襲撃者たちを丁寧に気絶させた。

倉庫、繫殖場、武器庫、鍛冶場などを潰しまわると、仲間と会った。

 

「リーネ!」

 

「ティオナさん!」

 

ロキ・ファミリアの治療師・リーネは数名の団員と共に通路の一つから現れた。

彼女は爆音を聞いてここに来たのだ。

幸い、傷者は少ない。

仲間と合流することで、士気も上がった。

 

「よし、一歩前進です。このまま人を集めましょう」

 

「さっきの人はモンスターを捕らえる場所を話した。都市外に売りさばくか、あるいは調教して闇派閥の戦力をするか」

 

「とにかく今まで通り、ぶっ壊せばいいね」

 

ベルはそのモンスターの中に異端児がいないと祈りつつ、モンスターが捕らえられた場所に走って行った。

近くに行くと、魔力感知の結果に、顔を引き攣った。

 

一行が目にしたのは、黒牛(アステリオス)蜥蜴人(リド)歌人鳥(レイ)石竜(グロス)をはじめにして、十数名のモンスターだ。

 

 

闇派閥の指揮官、ヴァレッタは冒険者と異端なるモンスターの戦いを見て嗤った。

人生最悪の日が最高の日に変わるのを感じた。

 

「さっすか、ヴァレッタちゃん。まさか、ウラノスの私兵をロキ・ファミリアと英雄にぶつけるとは」

 

ロキ・ファミリアが突入した後、捕まえられた同胞を助けるため、異端児たちは18階層の扉を探し出してから、救援に向かった。

 

闇派閥の構成員や暗殺者たちなどは恐怖に堕ちた。

異端児たちは戦力だけなら、二大派閥とほぼ同じ。

さらに、鍵を持っているから、異常なスピードでグノッソスを駆け抜ける。

 

しかし、ロックによって重傷を受けたヴァレッタだが、その戦術眼と計略こそ警戒すべきものだ。

 

下手な罠は普通に突破される。

モンスターたちにこちらの切り札を使うのはもったいない。

それなら、敵同士を戦わせるだけだ。

 

鍵を持たない冒険者の誘導など容易い。

そして、彼女の意のままに、敵と敵がぶつかった。

 

英雄の槍は闇派閥が決して届かない鎧の一部を砕けた。

ヴァレッタとタナトスは歓喜した。

怪物の斧は闇派閥が掠ってもしない英雄の体を傷ついた。

ヴァレッタとタナトスは哄笑した。

 

 

アイズはミノタウロスの突進を躱しながら舌打ちした。

レベル6となった彼女はオラリオにおいて最高峰の戦士。

だが、そんな彼女をもってしても、目の前の黒牛は別格だった。

何しろ、その攻撃はどれも一撃必殺級。

しかも、こちらの攻撃が鎧に防がれ一切通じない。

防具の上からとはいえ、剣が完全に効かない。

魔法は効かない。

どうしようもないほどに強敵だ。

 

ティオナは双剣使いの蜥蜴人と激戦している。

双剣の技でティオナの攻撃を受け流す蜥蜴人。

超につくほどの重さを持つ両刃剣を振り回し、相手を粉砕しようとするティオナ。

 

ベルは石竜と歌人鳥と戦いながら、全戦場を支援している。

おそらく、この中でもっとも焦っているのは彼だ。

 

【なんでここにいるのですか!?いや、それより僕は隙を作るから、この場から撤退してください!】

 

幸い、ベルは簡単な竜詩を異端児たちに教えた。

それを使い、戦いの途中でなんとか異端児たちに発信できた。

 

「【死の輪よ、わが敵を灰燼と化せ】みんな、後退してください!魔法を使います!」

 

その魔法の威力を知っている全員は後退した。

異端児たちも一人を除き、下がっていく。

 

【アク・モーン!】

 

黒牛は斧を挙げ、真正面から炎を受け止めた。

 

「ブモオオオオオ!!!」

 

心の中で「よし」と言っているベル。

 

「ベルの炎が吸収された!ベートの靴と同じ」

 

「まずい、解き放たれるよ!」

 

そして、黒き炎を纏った斧は地面に振り下ろされた。

オリハルコンで作った床は粉砕され、部屋にいるモンスターたちは落ちた。

開いた黒い穴を見て、冒険者たちは追撃を諦めた。

 

3、

 

 

『謎のモンスター以外、こちらの敵は大したものではありません。ガレスさんが残った印も見つかりました。もうすぐ彼と合流できるはずです』

 

ベルはリンクシェルのチャンネルを異端児たちと共有し、攻略組と異端児たちをかち合わないように情報を横流した。

ロックも情報交換のついでに、異端児たちに必要な情報を伝えた。

 

「俺たちもついさっき、フィンとベートたちと合流した。それから、フィンはこのグノッソスからいったん撤退しろと言った。マッピングはある程度進んでいるし、破壊工作も確かに闇派閥に打撃をもたらしたそうだ」

 

『わかりま……これは!?』

 

その黒い風に、最初に反応したのは経験者であるフィン。

 

「…………バカな。それほどまで狂っているのか、闇派閥!」

 

「この毒は!?【エスナ】」

 

その黒い風を受けたロックは冷静に判断した。

彼は解毒魔法を唱えて、全員の毒を癒そうとしたが、何回かけてようやく解毒した。

 

「何という猛毒だ」

 

「僕としては、この場で解毒ができることに驚いた。これはベヒーモスの毒だ」

 

「ベヒーモスって、あの猛毒の王、陸の覇王なんですか!?」

 

「ベヒーモスが倒した日こそ、《グランド・デイ》。なんでここにすでに死んだモンスターの毒があるのか!」

 

混乱している団員たちに、フィンは一声で意思統一をした。

 

「経緯を考えているより、今すぐ発生源を潰さなければならない!()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。遅れれば、オラリオは文字通り猛毒の都と化す」

 

「風は今でも吹いている。発生源に進むぞ!」

 

ロックは声を上げた。

その瞬間、ベートは気づいた。

自分たちの背後に、複数の足音が迫っていることに。

振り返ると、そこにいたのは白装束を着た覆面の男達。

その数7人。

全員が武器を抜いており、殺意を振りまいていた。

ロックは即座に理解した。

これは、おそらく暗殺者だ。

目的は明らかだ。冒険者たちを足止めして、猛毒で力尽くするまで待てばいい。

時間が足りない、そう判断したロックは広域攻撃を展開した。

ジョブを召喚士に変えた。

一瞬で姿を変えたロックに、暗殺者たちは呆気にとられた。

 

「来い、イフリート」

 

全員の前に、それが現れた。

全身に炎が纏って、ニ足で立っている蜥蜴のような精霊が現れた。

 

「【地獄の火炎】」

 

次の瞬間、すべてが終わった。この一帯の全通路に潜んでいる敵、モンスターは火炎の奔流に飲まれた。

ベヒーモスの毒でさえ焼き払った。

 

「走るぞ!」

 

ロックの声に従い、冒険者たちは黒い風を沿って走り出した。

だが、その背後には炎の波を潜り抜けた一人の刺客が追っていた。

赤い髪の女剣士。レヴィス。

 

【ルインガ!】

 

ロックの光弾は避けられ、アダマンタイトでできた壁に大穴を開けた。

たとえレヴィスが再生能力を持つ怪人でも、これを受けたら重傷を負うに違いない。

ゆえに、彼女は攻撃をせずに、ただ冒険者たちの後ろを追走するだけ。

黒い風の発生源と一緒に冒険者たちを挟み撃ちつもりだと全員が理解した。

 

「なるほど、さすがエニュオが言っていた光の戦士。しかし、これで詰みだ」

 

「それはどうかな?来い、タイタン」

 

炎の蜥蜴が消え、今度現れたのは岩石でできた巨人。

 

「【大地の怒り】」

 

破壊は後ろに放たれた。

巨人の一撃でグノッソスの壁、床が粉砕した。

まるで爆弾でも爆発したかのように、地下全体が揺れた。

そして、床が崩落し始めた。

レヴィスはそれに巻き込まれて落ちていく。

 

ロックはもう一回追撃しようとするが、フィンに止められた。

 

「これ以上破壊すると、上にも崩落しそうだ」

 

フィンの言う通りだった。

グノッソスの内部は広いとはいえ、この破壊具合では崩れるかもしれない。

そうなったら、味方たちも生き埋めになる。

ロックは追撃を諦めた。

そして、彼らは黒い風を辿りながら、ついに発生源の場所に辿り着いた。

 

 

そこに最初に到着したのは、ベルと合流したガレスのチームだ。

 

「精霊の分身に、ベヒーモスのドロップアイテムをあげたのか!」

 

ガレスは叫んだ。

無数の怪物の屍が融合し、一塊となって蠢いている。

その上に、数えきれない人の顔がうなり声を上げた。

そんなモンスターを見て、数名の団員は思わず嘔吐した。

 

モンスターの上に、漆黒の女性が立っている。精霊だ

黒き風は彼女から放たれている。

その心臓は、ベヒーモスの心臓だ。

それを視認した途端、ベル、アイズ、ガレス、ティオネとティオナは一斉に駆けだした。

時間が経てば経つほど、こちらの戦力が毒に蝕まれて力を失う。

全員はこの初撃ですべてを賭ける。

 

その意志を感じ取った黒き風の中心に立つ女も、自らの魔力を解き放った。

 

【荒ベ天ノ怒リヨ】

 

超短文詠唱。

それでも、ベルなら間に合うだろう。

精霊が立っている足場、その異形のモンスターが動かなければ。

無数の触手が伸びて、攻撃してくる。

ベルは瞬く間にそれを解体し精霊に迫ったが、遅かった。

 

【カエルム・ヴェール】

 

魔法名と共に、雷光が迸れる。

精霊は殴ってきた。

ベルは精霊の拳を槍で防ぐが、両手が感電し後ろに殴り飛ばされた。

壁にぶつかりながら、彼は叫んだ。

 

「あれに触らないでください!毒の稲妻です」

 

激痛が両手から伝わって、ベルは自分の竜の血が解毒し始めたと感じた。

だが、解毒が終わる前に、次が来る。

 

放電(ディステル)

 

魔法名を叫ぶと同時に、精霊を中心に雷撃が飛び散った。

ガレスは後ろにいる団員を守って、数筋の雷電に当てられた。

アイズは風の防壁を張って、辛うじてそれを逸らした。

ティオネとティオナは躱そうとしたが、躱しきれなくて体に掠めて毒に侵された。

 

雷霆は壁や天井に当たり、そこから黒の煙が噴き出した。

毒の霧。

それが視界を奪い、精霊の姿を隠す。

全員が毒の嵐に飲み込まれた。

 

【聖火よ、癒しの加護を!】

 

ベルはとっさに広域の回復魔法を全員にかけた。

それはないと、第一級冒険者以外の人は猛毒によって全滅しただろう。

普段なら撤退するだろうが、この精霊は放置できない。

この毒が外に漏れたら、オラリオは崩壊する。

だからこそ、ここで倒さなければならない。

ベルは毒に蝕まれた体に力を入れて立とうとする。

 

【霊泉の炎!】

 

その時、黄金の炎が一面に満ちた。

毒の霧が晴れて、全員の毒が癒された。

そこにいたのは、ロックとフィンが率いたロキ・ファミリアの構成員だ。

ロックの後ろに黄金に輝く不死鳥が羽ばたいている。

援軍を攻撃してくる精霊は、ロックに阻まれた。

 

【ルインガ】

 

彼女は超短文詠唱の魔弾を躱したが、接近できなかった。

 

「報告!」

 

「敵精霊が毒の発生源。魔法攻撃が猛毒そのものだ!」

 

「肉塊がこちらに攻撃し、精霊への攻撃を邪魔してきた!」

 

「精霊はそれなりの技と駆け引きができます!さっき不意につかれました」

 

ガレス、ティオネ、ベルの報告を聞きながら、フィンは考えた。

 

「僕、アイズ、ベートは敵精霊を討つ。他の者は肉塊を潰せ!」

 

アイズとベート、ティオナ、ティオネは返事をして飛び出した。

黄金の炎により、彼女たちは黒い風の毒を対抗できる。

だが、黒い風は止まらず、むしろ勢いを増した。

毒がさらに濃くなる。

そんな中で、フィンは槍を振り下ろした。

精霊は拳で受け止めるが、威力に押されて地面に叩きつけられた。

稲妻は槍から伝わって、フィンの手を焼いたが、傷はリーネとロックに回復された。

動きが止まった精霊に、ベートとアイズの追撃が来た。

 

だが、精霊は体を横にずらして、二撃とも回避する。

それと同時に並行詠唱が完成した。

 

【サンダー・レイ】

 

浮かび上がる魔法陣から雷光が迸れ、稲妻の砲撃魔法は放たれた。

ベートとアイズは左右に分かれて避けたが、その攻撃はただの目くらましだった。

本命の攻撃は、精霊自身の蹴りだった。

防御は間に合わなかった。

ベートは腹に直撃を受けて壁に激突し、アイズは吹き飛ばされて地面の上を転がった。

そして、精霊の着地と同時に、ロックの魔弾が彼女に迫っていった。

だが、それはフェイントだ。

彼女の後ろから、フィンが神速で迫っていた。

そして、フィンの槍はベヒーモスの心臓を砕いた。

精霊は灰となり、崩れ落ちた。

 

「よし、次は」

 

フィンは視線を肉塊のモンスターに移すと、信じられない光景を見た。

肉塊から、さっき倒した精霊が再誕し、詠唱を始めた。

 

 

【カエルム・ヴェール】

 

雷の衣を纏いなおした精霊を見て、ベルは感知でそのからくりを分析し、答えを得た。

 

「精霊と肉塊を同時に倒さなければならないです!肉塊がたとえ魔石が砕かれても精霊の心臓に再生されます。同じく精霊とその心臓は肉塊に生産されます」

 

「なんだこりゃ!」

 

ベートは思わず叫んだ。

肉塊は精霊によって再生し、精霊は肉塊によって復活を繰り返す。

無限ループの完成だ。

そんなことになれば、オラリオは崩壊する。

 

「ベル、お前は先日見せたあの魔法が肉塊の再生を阻害できるか!」

 

「試してみます!」

 

フィンは宣言した。

 

「僕は精霊の足止めをするよ。皆、肉塊の魔石を砕け」

 

全員はうなずくと、それぞれの武器を構えて駆け出した。

ティオネは双剣で貫こうとしたが、それは叶わなかった。

肉塊は触手で防いで、逆にティオネを吹き飛ばした。

しかし、それは隙となった。

ティオナは触手ごと本体の一部を潰した。

 

【ベル・クラネルが第十四席の権能をお借りします】

 

【地上の太陽、繋ぐ絆を司る光。どうか、力を貸してください】

 

 

ベルは詠唱をしながら、肉塊に突撃していた。

この魔法は消耗が高いから、あまり使いたくはない。

それでも、オラリオを守るためには使うしかなかった。

 

【終末を平らげた炎。どうかこのひと時に我が槍に宿ってくれ。】

 

【ドラゴンソング・エルピス】

 

アイズはティオナが与えた傷口を狙った。

風を纏う彼女は加速した。

だが、肉塊はその攻撃に反応して、迎撃した。

まるで、アイズが来ることを知っていたかのように。

アイズに攻撃が当たる寸前に、ベートの蹴りが着弾した。

それは肉塊に命中して、触手を砕いた。

 

父神(ちち)よ、許せ、神々の晩餐をも平らげることを】

 

同時に、アイズが切り開いた穴にガレスが飛び込んだ。

そして、その奥にある魔石を捉えた。

魔石を貫いた瞬間、肉塊の動きが止まり、崩壊が始まった。

しかし、予想通り、崩壊はすぐに停止し、魔石と傷の再生が始まった。

 

【貪れ、炎獄(えんごく)の舌。喰らえ、灼熱の牙!】

 

「退け!!!!」

 

旧友の詠唱を聞いたガレスは即座に仲間と共に肉塊から離れた。

 

【レーア・アムブロシア】

 

極大の炎柱を槍に纏って、ベルはそれを投げだした。

かつて、ベヒーモスを滅ぼした一撃が地下深くで再現した。

魔力を使い尽くしたベルは、その場で倒れ込んだ。

肉塊の再生と魔法の焼却が拮抗している。

 

【水ヨ来タレ、】

 

「させるかよ!」

 

ロキ・ファミリア最速のベートがとっさに精霊に妨害を仕掛けた。

ベートのナイフを避けると、精霊は詠唱を中断して、後ろに高く跳躍して距離を取ろうとした。

だが、アイズはその時、すでに彼女の後ろに移動していた。

空中で身動きができない敵に、アイズは最大の一撃を放った。

 

【リル・ラファーガ!】

 

放電(ディステル)

 

稲妻と暴風がせめぎ合い、白き風が黒き雷光を打ち破った。

辛うじて即死を免じた精霊だが、彼女は雷の防御が消える上で、片手で切り落とされた。

 

「アリアぁぁぁ!」

 

精霊は絶叫したが、その手を再生していない。

再生する力がほとんど肉塊の再生に回した。

ロキ・ファミリアはそのまま追撃した。

一糸乱れぬ連携で精霊の詠唱を封じ、心臓を砕いた。

 

4、

 

満身創痍の調査隊が地上に戻って、オラリオの被害状況を聞いて絶句した。

ベヒーモスの毒がわずかに地上に流れ込んだ。

開いた扉がある一区画に住んでいる民衆たちは全員退避した。

何十人がベヒーモスの毒を受け、《ディアンケヒト・ファミリア》に緊急搬送された。

幸い、ベヒーモスの毒とはいえ、彼らはそれをごく微量を吸い込んだだけで、アミッドの魔法で治せる。

汚染された区域を何十年かかって除染する予定を聞いたロックは即座に飛び出し、不死鳥の炎によって毒を焼き払った。

ロキ・ファミリアの団員たちは後始末に追われていた。

そして、ベルは地上に戻ったその日の夜、ダンジョンに向かった。

モンスターの大量発生を討伐するため。

 

「異端児たちの状況はどうですか?」

 

「魔道具で報告した通り、死者がないけど傷者が多い。休憩が必要だ。あと、行方不明のグレイはまだ見つからない」

 

ベルの問いにフェルズが答えた。

異端児は捕まえた仲間たちをほとんど救出したが、グレイはその前に檻から脱走し、オラリオの地下に消えた。

リドたちは探そうとしたが、その前にベヒーモス精霊の事件が起きた。

彼らは参戦していないが、敵の増援を完全に食い止めた。その戦いで、精霊の分身を二体も撃破した。

だから、彼らの功績は大きい。

しかし、負傷者も多く、今は休息が必要となった。

その間、ベルは彼らの仕事を代行する。

 

「しかし、まさかベヒーモスの毒をこうも易々と浄化したとは」

 

「相性が良すぎただけですよ。他の毒ならそう簡単に浄化できないはず」

 

ベヒーモスが内包した終末はドラゴン族のもの。

その毒はドラゴン族の毒とオミクロンの汚染物質、両方の特性を持っている。

ロックがウルティマ・トゥーレで各種族と接触したから、それを浄化できる力を得た。

 

「しかし、グレイはいったいどこに行っただろう」

 

心配しながら、ベルはモンスターの掃討を始めた。

 

 

同じ頃、バーバリアンのグレイは鍛冶場で金槌を振るっている。

正真正銘、命がけの仕事だ。

 

彼は地下水道に逃げ込んで、敵と冒険者たちの追跡をかろうじて振り切って、ある水路と隣接する部屋に出た。

そこは鍛冶場で、一人の老神が剣を鍛えている。

グレイはその高すぎる技量を見とれて、相手に気づかれた。

すぐに逃げようとした彼を、老神は呼び止めた。

 

「この炉で槍を打て、鍛冶師なんだろ......いや、モンスター相手になにを」

 

「そ、そうなんですが、僕は鍛冶師になってまだ数週間しか経っていないです」

 

老神は目を見張って言い続けた。

 

「構わぬ。少し確認したいだけなんだ。槍を打ったら見て見ぬふりにしてやる」

 

そして、グレイは自分の命を守るため、何より師匠の名を汚さないため、慣れない道具で槍を鍛えた。

それが今、完成しようとしている。

老神はそれを持ち上げ、まじまじと眺めると言った。

 

「お前、うちのファミリアに入らないか?」

 

「え」

 

鍛造系ファミリアにおいて、最高峰の入団難易度を誇る《ゴブニュ・ファミリア》

この日、その主神であるゴブニュは、密かに新しい眷族を一人迎え入れた。

 




グレイ

『Lv1』 

力:0

耐久:0

器用:0

敏捷:0

魔力:0

スキル

巡る太陽(ライト・オブ・アゼム)
鍛造時、発展アビリティ『鍛冶』『神秘』の一時発現。
鍛造時、『力』『器用』の補正。
補正効果はLv.に依存。
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