光の戦士と暁のベル・クラネルがダンジョンにいるのは間違っているだろうか   作:dukemon

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ベルのライバルはやはりあいつしかいないと思って書きました。
6.2トレーラーのラハブレア爺さんかっこよすぎるだろ
エリディブスがファンになるのも頷ける。

同じく、続かないかもしれない


ベルとミノタウロス

1、

 

「俺は詳しくは知らないが、神時代以前の英雄時代について、お前たちのほうはよく知っているだろ。ああ、神々は目で見てきたそうだ」

 

ここは豊饒の女主人。オラリオにある酒場だ。

で、同席しているのは《ロキ・ファミリア》の幹部陣と神ロキだ。

 

 

 

 

 

ダンジョン50層で探索していた頃、遠征中の《ロキ・ファミリア》と会った。

もともと関わるつもりはなかったが、さすがに襲われたキャンプを見殺しするほど無情ではない。

《ロキ・ファミリア》にとってあの異常事態は危機であるけど、絶境ではないとあとでわかった。

 

でも、それをわからない俺はあの時急に参戦した。

暗黒騎士のジョブを使い、まず襲われかけた人に防御魔法(ダークナイト)を使って、砲撃魔法(シャドウブリンガー)で前方範囲の敵を一掃した。

そのまま、モンスターの大群に突っ込もうとしようとした時、後ろから詠唱を聞こえて、守りに入った。

結果、敵は塵一つ残さずに焼き尽くされた。

 

九魔姫(ナイン・ヘル)》の魔法について聞いたことがある。

それは噂通り、いや噂以上のものだった。

それから、なんだかんだ彼らと同行して、地上に帰ることになった。

名高き《ロキ・ファミリア》の探索を直近で見た俺は彼らを高く評価している。

フィンはもしアーテリスにいたら、ガレマール帝国の軍団長になれるほどの指揮能力と人望を持っている。

現場の判断と後進の育成をバランスよくこなしている。

力押しで50階層に到着した俺と違い、《ロキ・ファミリア》の探索は安定している。

たとえ自分が助けなくても、彼らは損傷を受けながらも危機を乗り越えられただろう。

 

そんなファミリアでも少してこずったイレギュラーは16階層で発生した。

ロキ・ファミリアは下っ端の団員に経験を積ませるために、ミノタウロスの群れを討伐させようとした。

しかし、半分殲滅した時、ミノタウロスたちは逃げた。

全員は数瞬あっけにとられたが、すぐさまに猛追した。

正真正銘、人命にかかわるほどの事態だった。

 

俺はロキ・ファミリアと一緒に走りながら、ひそかにリンクシェルでベルを連絡した。

 

「ベル、今ダンジョンにいるか!」

 

「ええ、5階層にいま……」

 

「すぐに、13階層に降りて!イレギュラーだ!」

 

ロキ・ファミリアがそれを全部討伐すれば杞憂でしかなかったけど、これは最悪を避ける一手。

 

 

結果、自分がかけた保険は最悪な状況を避けた。

12階層と13階層と繋がる階段を駆け上がったミノタウロスたちはちょうど降りてきたベルに会った。

ベルは流れたように、槍でモンスターたち全員の魔石を貫いた。

早すぎるから、相手は何の苦痛もなく塵と化しただろう。

 

ベルの技量がさらに進化したことに感心している間、まずいことを気付いた。

 

そう、ベルはロキ・ファミリアの幹部陣の前で、それをやっていた。

 

謝意を伝えてくるフィンの前で、ベルは《ヘスティア・ファミリア》のレベル1冒険者だと自称した。

竜騎士の力を使ってなくても、あれは絶対にレベル1の動きではない。

 

 

 

 

 

そして今、俺はロキ・ファミリアの打ち上げパーティーに招待された。

手間をかけた謝罪のためにベルにも招待されたが、ヘスティア神とロキ神の仲は悪いから遠慮した。

話題は自然にベルのことになった。

自分とベルは師弟関係だと、ミノタウロスの事件後で紹介したから、当然彼のことについて聞かれた。

 

「ベルが隠すつもりはないから言おう。彼が先日見せた強さは一切反則など使っていない。スキルも使っていないようだ。実際、お前たちもよく知っている現象だ。特に、ロキは嫌になるほど見たと思う」

 

「うちが?」

 

英雄時代について話し始めた時は、ロキ以外の幹部陣が今の話と何の関係があるのかと頭からはてなを浮かべた。

ロキだけが唖然とした。

 

「ベルは六年前から冒険をしているが、恩恵を得たのは二週前だ。だからレベル1に違いない」

 

「待て!あいつは……限界突破を何回した」

 

ロキは食い入るような顔でこちらを見つめた。

 

「力と耐久はそれぞれ一回、たぶんレベル2ぐらいかな。器用は二回。敏捷は……だいたい三回か?四回の可能性もある。魔力は……正直わからない。測る方法はないから」

 

「化物やん……」

 

「まだわからない人もいるからヘスティア神から聞いたことを簡単に説明しよう。古代の英雄が恩恵なしでモンスターを戦えるのは精霊の加護と限界突破があるから。で、限界突破は現代の昇華に近いが効率がすこぶる悪いということだ」

 

「どういうことだぁ」

 

ベートが聞いてきた。

 

「まず、限界突破も偉業が必要だけど、恩恵より厳しい。さらに、恩恵は全能力値が上げるに比べて、限界突破はせいぜい一つか二つの能力値が上げる。だから効率もバランスも悪い。現に、ベルは敏捷だけがレベル4、あるいはレベル5に近い領域に至ったが、力と耐久はレベル2しかない」

 

ちぐはぐだろうと笑いかけるが、その場にいる全員は黙り込んだ。

 

「ちなみに、恩恵の説明を受けたベルは『これ反則じゃないですか!』と恐れ慄いたけど、『いいか、キミが常識と思っていることは異常なんだよ』とヘスティア神に叱られたぞ。あいつはどこに行っても自覚が足りない」

 

ため息をして、もう一回酒を飲んだ。

 

「あんなステイタスじゃ下層と深層の探索など危険すぎるから、中層まで留まっている。まあ…………スキルを使えば深層の探索も可能だけど、デメリットが大きすぎるから、俺とヘスティアから禁止されている。あ、スキルについては口封じされたから、すまん忘れてくれ」

 

苦笑しながら、焼き肉を酒と共に飲みこんだ。

おいしいな。

 

「それなら、ランクアップはどうする?あのステイタスじゃ、普通の方法で昇華できない。一生下級冒険者だという場合もあり得る」

 

さすがフィン、大事なことを一瞬で考え付いた。

だが、ベルは普通に想像の斜め上へ行った。

 

「あいつ、初めてゴライアスを見た時はひとりで討伐しようと言い出した」

 

「「「「「「「バカか!!」」」」」」」

 

ほとんど全員はこう叫び出した。

けど、アイズだけは、なるほどこんなやり方があるんだという表情を見せた。

おいおい、やめろよ。

 

「しかし……よく考えると相手はゴライアスしかいないよ」

 

ティオナはそういうと、全員は考え込んでいる。

 

「……チームで何回討伐すれば、たしかに偉業になる。というか、中層ではこれしかない。階層主あるいは強化種相手は危険ながら昇華のきっかけでもある。しかし、レベル1のランクアップ相手はゴライアスとはおそらく神時代以来の異常事態だ」

 

「フィンがそういえばそうだろう。頃合いを見て、俺がサポートしてベルにゴライアスを討伐させるよ。彼が言い出した時はたとえ倒しても、ランクアップできないから止めた」

 

「その時は僕も個人的に助けるよ。ミノタウロスのこともあるんだ」

 

「ありがとうな。それじゃ、部外者はここで離れよう。仲間同士のパーティーをこれ以上邪魔したくはない」

 

そういうと、俺は店を出た。

あの時、ベルがレベル2になる偉業はあんなものだと想像もつかなかった。

 

2、

 

『これぞ、終焉の竜詩!!』

 

「リミットブレイク!蒼天のドラゴンダイプ!」

 

俺とニーズヘッグの全力で、ダンジョンの道が開いた。

 

「行け、光の戦士!ベルはまだ戦っている!」

 

俺は無言で頷き、全速でダンジョン17層を駆けぬいていく。

 

 

 

酒場の一件から二日後、俺はベルの手紙を渡しに行くためにアーテリスに行った。

ニーズヘッグに訪れ、ベルの近況を報告している時、緊急報告が入った。

 

ダンジョンは転移門の先に通じる通路を壁で塞いだそうで、その中から強大な気配を感じている。

そして、ベルは今日この時間リヴィラの街に滞在している。

事情を聞いた俺はニーズヘッグに乗せられて現場に急行した。

俺たちは全力で四時間もかけて、ついに壁を破壊した。

今回、ダンジョンは本気だ。

 

 

18階層に向かう途中、激しい戦闘の音が聞こえる。

今は一秒の時間でも積み上げた黄金より貴重だ。

俺はその方向へに向かって、大剣で一振りをした。

第一世界で、大罪喰いを討伐した時、空の果てまで光を断ち切ったあの技だ。

 

ダンジョンの壁は消滅して、戦場へと続く道は拓かれた。

それを走って、戦いの場に到着した。

 

冒険者たちは広間で三体の怪物と戦っている。

 

黒きバロールは《猛者(おうじゃ)》単独で何とか持ちこたえる。完全に守りに入った猪人は要塞より堅牢だが、攻勢に回せない限り勝機はない。この戦場で一番安定している戦いをしているのは彼だ。

 

対して、黒きウダイオスはこの戦場で一番多くの冒険者たちと戦っている。この戦場で一番人が死んでいるのはここだ。推定レベル5中位のスパルトイの軍勢と視界から湧き出す逆杭に葬られた冒険者達の死骸が見かけた。

それでも、《フレイヤ・ファミリア》、《ロキ・ファミリア》、《ガネーシャ・ファミリア》を主力とし、《戦場の聖女(デア・セイント)》が回復役をして、フィンが指揮している冒険者たちは辛うじて持ち堪えている。

 

最後は知らないモンスターだ。装甲を被っている黒き恐竜の化石のように見える。こちらは《女神の戦車(ヴァナ・フレイア)》とベートが戦っている。というか、彼ら以外では対応できない速さだ。

六本の爪は二人の第一級防具を容赦なく切り裂かれた。機動性と切断に特化するモンスターだと判断する。

こちらは一番危険だ。完全に綱渡りのような戦いをしている。

抜かれたら、ほかの二つの戦場は完全に壊滅するから気力で持ちこたえるだけで、《戦場の聖女(デア・セイント)》と魔導士たち狙いの動きを対応するのは手いっぱいだった。

 

 

一秒足らずで状況を確認した俺は即座に恐竜のモンスターが着地しようとする天井をさっきの技で壊した。

さらに、同じ技で空中で身動きできない相手に同じ技をぶち込んだ。

 

 

着地できずに空に一瞬浮かんでいる恐竜が最後見たのは自分の体を衝撃波で粉砕する漆黒の剣だけだった。

 

「次だ」

 

竜騎士の装備に換装し、俺は冒険者とスパルトイと戦っている戦場の上を跳びぬけた。

 

『天竜点睛』

 

ウダイオスは地中から剣のようなものを持ち出して攻撃を防いだが、剣が砕いた。

スパルトイを俺のほうに向かわせるのを感じたが、それは悪手だ。

この戦場の指揮官はフィンだぞ。

 

 

前衛の圧力は消えた途端、冒険者たちは死に物狂いに攻勢に打って出た。

待ちに待った反攻の時を逃す者はいない。

魔導士たちがスパルトイを凍らせ、砕き、焼き払っていく。

前衛たちは道を開いた。

幕を引く一撃を放ったのは狂戦士と剣姫。

 

【リル・ラファーガ!】

 

【魔槍よ、血を捧げし我が(ひたい)を穿て】

 

 

防御態勢を取った両手が烈風に断ち切られた黒き骸骨が最後に見たのは、己の魔石に迫ってくる魔槍と小人族の英雄だ。

 

 

黒きバロールは同族が殺されるのを見て、完全に俺を見ている。

さらに、隻眼から光線を放った。

だがそんなものは関係ない。

俺は空を蹴った。

回避された光線はダンジョンの天井を貫通し、16階層まで届いた。

相手はもう一度光線を発射しようとするが、その選択は大間違いだ。

猪人はこの隙を逃さず、全力の一撃でバロールの足を断った。

バランスを失ったバロールの光線は再び天井に向かって、誰もいないところを虚しく通り過ぎた。

侍に換装し、一度刀を鞘に納まり、抜刀して技を放った。

 

『乱れ雪月花』

 

 

黒きバロールは何も見えていない。ただ己の魔石と体が両断されるのを感じた。

 

 

 

「フィン!この数時間オラリオで何か起きた!俺がついさっきまでここにいないから状況を教えてくれ!あと、ベルはどこだ!」

 

俺はこの場にいる知り合いで、最も状況を把握しているフィンに聞いた。

だが、彼はまだ狂化状態だ。

 

「…………」

 

「フィン!」

 

「っ!すまん、ロック。今、回復した」

 

 

元の碧眼に戻ったフィンが言うと、現在オラリオは厳戒態勢に入った。民間人と神々と下級冒険者は安全地帯に即時避難は進行している。

はじめはウラノスがギルドを使って、オラリオ全域に緊急警報を発した。

ある神がダンジョンの17層で神威を使い、神殺しのモンスターを生み出そうとした。

問題は刺激を受けたダンジョンが今まで例を見ないほど完全に暴走した。

生まれたモンスターは三大冒険者依頼と同等の危険性を持っている。

 

「ダンジョンから出た冒険者の証言によると、そのモンスターは黒きミノタウロスの姿をしている。それはまず18階層のリヴィラの街に降り、そこの人間を殺しつくそうとしたけど、当時街に滞在していたベル・クラネルの応戦により、床が崩壊し、ベル・クラネルと黒きミノタウロスが19階層に落ちた。その隙に、リヴィラの街にいる冒険者はダンジョンから脱出し、この件を報告した。急に討伐隊を纏め上げた我々は17階層に到着したあと、見たのはあの三体のモンスターだ」

 

情報を整理している俺に対し、フィンは聞いた。

 

「全員の証言は『どちらも想像を絶する強さを持っている』。中には深層部を探索したことがある冒険者もいる。ベル・クラネルの強さはいったいどれほど?今は個人情報を秘密にする段階を超え……」

 

「恩恵なしの素でレベル7最上位。恩恵があればレベル8。対モンスターはスキルの助けもあってレベル9。対終末の獣……いわゆるさっき戦った漆黒のモンスターに対する特攻を持っている。先日見たあれはいわゆる封印状態だ」

 

「……」

 

俺は考えているフィンに言い続けた。

 

「戦い方は高速の魔法戦士。こちらの言い方に言えば、最も高いステイタスは敏捷。スピードは俺以上。次は筋力、魔力、器用。耐久は最も低い」

 

「どのような魔法が使える」

 

「リヴェリアが先日見せてくれた魔法より規模が小さいが、威力が数段高い攻撃魔法。威力はそれより低いが範囲はそこそこの攻撃魔法。恩恵がある時は強化魔法や回復魔法なども使える。正直に言うと、ここにいた三体のモンスターはベルと戦えば瞬殺されるだろ。相性は良すぎる」

 

あの恐竜のモンスターより速いベルはあれに苦戦するビジョンが浮かべない。

他の二体は魔石に一撃で死ぬ。

 

「つまり、ベル・クラネルは実際対モンスターにおいて、レベル9だ。さらに、下界最強クラスの攻撃魔法が使えて、下界最速の足を持っている……そんな彼でさえ勝ちきれない相手は今回の黒きミノタウロスだ」

 

「いや、ベルはおまえが想像したほどの化物じゃないよ。耐久が低い、そして軽鎧しか着れないから、攻撃が掠っても致命傷になりかねない。並行詠唱という技術の精度はあまり高くはないから、高速戦闘しながら使える魔法は短文詠唱と慣れた魔法だけだ。現在、彼が性能を完全に発揮させるには敵の攻撃を引き付けられる前衛が必要だ」

 

「アイズやベートのような前衛、中衛タイプか……」

 

一瞬の思案の後、フィンは結論を出した。

 

「レベル5上位以上の冒険者だけが参戦できる。ほかの冒険者はオラリオに帰り、治療を受け…………」

 

その時、フィンの懐から声が聞こえる。

 

「ウラノス神より通達。神殺しのモンスターは35階層にて討伐された!繰り返し!モンスターは討伐された!動ける冒険者は今すぐ35階層に向き、今回の功労者を救出せよ!最優先任務だ!」

 

それを聞くや否や、俺は18階層にある、ベルが破った穴を飛び降りた。

 

 

3、

 

一体、どれほど戦っているのか?

 

黒きミノタウロスはダンジョンの苦悶を感じた。

彼は母なるダンジョンより神の抹殺と蓋の破壊に命じられて、生み出した最強の戦士。

そう、戦士だ。

 

超深層の階層主に匹敵する性能。

素の身体能力だけなら、レベル9クラスのモンスターに認定されるだろ。

以前ダンジョンで探索した冒険者たちをモデルとして、至高の才を彼に与えた。

魂でもダンジョンが生み出した子供たちの中で最も猛きものを選んだ。

最後は、破壊本能を加えた。

 

これはかつてダンジョンが生み出した災厄と全然違うものだ。

すなわち、成長する災害だ。

一度地上に上げれば、戦い続ける彼はやがてかの黒竜もを凌ぐ終焉の紡ぎ手になるだろ。

それでも、彼はいま、たった一人の槍使いと泥試合を繰り広げている。

 

 

たしかに、ほかの有象無象よりかなりマシな戦いで、初見では俺でも躱しきれない技を使ってくるが、それも過去のことだ。

 

 

【灯火の矢よ、わが敵に貫け!】

 

黒きミノタウロスを射抜かんと、数百本の光矢がそれぞれ違う軌跡を描いて、敵に迫っていく。

 

初見の魔法だが、問題ない。

 

黒きミノタウロスは冷静に判断した。

手にしている剣で、それを完全に撃ち落とした。

ついでに後ろに回ってくる槍使いを吹っ飛ばす。

 

数合で動きと癖が完全に見切られた槍使いはすでに何度もこのように地に叩き付けられた。

だけど、この敵は何度も立ち上がって向かってくる。

唯一、己より優れている速さを活用して、致命傷を受けないように立ち回った。

 

 

【ニーズヘッグが眷属、ベル・クラネルが命ずる!死の輪よ、わが敵を灰燼と化せ!アク・モーン!】

 

五回の爆炎が落とされた矢を誘爆し、地面が再び裂け、ミノタウロスと槍使いは下に落ちていく。

 

 

ミノタウロスは知らない。

この槍使いはつい最近まで、最高の才を持つ師匠に訓練してもらった。

ゆえに、見切られることは彼にとって想定内のことだ。

槍使いにとって、大事なのはどうやって見切られることを利用することだ。

彼はこうやって、大敵を十数階層も落とし、地上へと遠ざけた。

 

そのことに、ダンジョンは嗤った。

深部に落ちれば落ちるほど、ダンジョンの干渉力が高まる。

35階層となると、新たな力を愛しい息子に授けることさえできる。

 

35階層に落ちると、ミノタウロスは空気が変わったのを感じた。

生命を否定し、無意味と断じる圧力は周りに立て込んだ。

 

黒きミノタウロスは母の命に応じて、地面から黒き大剣を抜いた。

振れば、あらゆるものを無に帰す終末の力。

例え神でも、この剣の前ではなすすべもなく消し去るだろう。

黒き剣はミノタウロスの体も蝕んでいるが、さらなる強大な力を彼に与えた。

 

これで、この槍使いを殺しきれる!

 

そして、ミノタウロスは信じられないものを見た。

終末に満ちたこの空間が照らされ、光に変えていく。

暖かくて、雄々しく盛り上がる光だった

終末と同質でありながら、正反対の性質を持つもの。

その源は槍使いだった。

 

「ダンジョンよ。なぜ、自分の子供のことを信じていないのか?なぜ、彼の未来を閉ざそうとしているのか?」

 

ミノタウロスは人語が分からぬ。

眼前の敵の迫力に気圧されても、すべてを虚無に還す剣を振るった。

それは光の槍に弾かれた。

その力強さ、その鋭さ、その速さはこの戦いが始まった以来最高のものだった。

 

敵は俺と同格へと駆け上がった!

 

心から沸き上がった歓喜と共に、ミノタウロスは剣を振るい続ける。

体が蝕まれようと、それを構わずに握りしめ、敵に己のすべてをぶつける。

その結末は、あっけないものだった。

 

終末の剣は光の槍に敗れ、砕け散った。

光の槍はそのまま、ミノタウロスの左手を貫通し、左半身を魔石諸共爆散させた。

もし終末に体に蝕まれなかったなら、防ぎきれる一撃だった。

 

命の火が燃え尽きようとする瞬間、ミノタウロスが咆哮した。

 

まだだ!俺はまだ生きている!

 

残された右手が光の剣が現れ、槍使いの肩を貫いだ。

その時、相手が驚きながらなぜか微笑んでいる。

 

「僕の真名(まな)はベル・クラネル。猛き戦士よ、もし僕たちはまた会って、きみが再戦を望むなら、それを受けよう。今回はいささか横槍が多すぎるから」

 

俺の意識はそこで断絶した。

 

4、

 

「ロックさん……ここは………」

 

「《ディアンケヒト・ファミリア》の治療院だ……アミッド!ベルが目覚めた!早く来てくれ!」

 

35階層の激戦から一週後、ベルは目覚めた。

正直、今回はさすがに無理だと思った。

全身の臓器と骨はほとんど原型に残っていなかった。心臓が辛うじて動いているだけ。

いくらドラゴン族の回復力があっても、これは明らかに限界を超えた。

《ディアンケヒト・ファミリア》と《戦場の聖女(デア・セイント)》は有能だったから、ベルは助けられた。

もし、アーテリスにいたなら助からないだろう。

 

 

「まずは、診断結果を教えます。体自体は完全に回復しましたが……半分以上は別物になっています」

 

「僕の体感ではすでに8割ぐらい元の体ではないようです。多分力が使いすぎたから」

 

「治療のため、ロックさんからスキルの副作用により、あなたの体が段々と別のものに変化するという話を聞きました。私の見立てでは残り時間は二年しかなく、さらにあなたの封印はすでに意味はありません」

 

数日前、ベルの保護者として、アミッドにこのことを教えられた。

ベルは自分の体をある程度よくわかっているから、かなり冷静だ。

 

「不幸中の幸いは、悪化しきっているから、たとえあのスキルを使っても変化の進行はこれ以上早くなりません。私も治療法を考えているが、この安定している状況を打ち破ったらかえって命の危険があるから、手を出せませんでした」

 

「とっくに覚悟したことです。そもそも、この力がなければ前の戦いで死んでいました。だから、気を落とさないでください。今、僕が生きていられるのはあなた方のおかげです」

 

 

 

目覚めてから数日後、ベルはリハビリを終えて退院した。

治療費用は零が九つ並んでいるところを見たベルは気絶しかけたが、ギルドが全額支払ったということを聞いて少しだけ安心した。

 

ベルが治療院から歩き出すと、空に届くほどの歓声が轟いだ。

 

「えーと、ロックさん……これは一体?」

 

「三大冒険者依頼と同格のモンスターを倒したからこれぐらい当然だろ」

 

「ええええ!あいつ、三大冒険者依頼と同格!?………いや、考えてみれば、そうかもしれません?」

 

「詳しくはギルドに報告しろ。俺も聞きたいし」

 

 

 

 

戦いの報告を聞いたギルド長は完全にドン引きした。

俺もドン引きした。

 

ギルド長の前でいくばくはぼかしているが、相手のヤバさをぴしぴしと伝わってくる。

なんで近接戦闘の才能がゼノスと同格のモンスターがいる!

どうやってそれを十数階層に落とせるのか!

相手が終末の剣を抜き出し、ベルがデュナミスで作った光の槍を持ってそれを打ち破ったところを聞いて、俺は目が死んだ。

 

黒きミノタウロスは魔石が消し飛ばされるから魔石による討伐証明にはならないが、ドロップアイテムの角があるから無事に報酬を受け取ることができた。

ウラノス神の指示によって、三大冒険者依頼より少し低い報奨金をベルに渡した。

千年豪遊できるほどの大金だが、ベルは半分だけ受け取り、残りの半分はギルドを頼んで黒きモンスターたちが生んだ死傷者に渡した。

残った金は一部《ヘスティア・ファミリア》の引っ越しと教会の修繕に使う予定だ。

金が持ちすぎると経済が淀みを生じるから、早く使い尽くすほうがいいとベルが言った。

 

二日後、ひとまず事後処理を終えたベルは一度、ニーズヘッグに報告したいと言い出した。

ダンジョンに入るのは目立ちすぎるから、俺たちはウルティマ・トゥーレを経由して、アーテリスに帰る。

 

「………ベル、ほかに何を隠しているのか?たぶん、ギルド長の前で話せないことだろ」

 

「………………あのミノタウロスは魔石が壊されても、デュナミスを使い、光の剣を作り出しました。それで僕の肩を貫きました」

 

「凄いやつだな。最後まであきらめない戦士だ」

 

思わずに感心しました。

終末から生み出されるものは確固なる自我を持ち、命の在り方を示した。とても難しいことだ。

 

「だから、この結末に少し不満があるのです」

 

「不満?」

 

「ダンジョンの横槍がなければ、もっと戦えるでしょう。ダンジョンがデュナミスを使わなければ、僕も使えません。そして、あのミノタウロスが僕よりはるかに強いし、成長し続けます。そのまま戦えば、僕の負けになる可能性が高いけど、本当に勝機はないか?少しモヤモヤしています」

 

「不完全燃焼っていうのか?」

 

「そうですね。まあ、僕はあいつに再戦の誘いをしました。千年以上の寿命を持つ僕なら、いつかまたあいつに会えるだろから、あとからの楽しみということです」

 

「はは、まさかベルもそういう一面があるのか!」

 

「僕も一応戦士で、ニーズヘッグの眷属。戦いの結果に不満があるから再戦を求めるのは自然なんですよ!」

 

俺たちの笑い声が果ての地を響き渡った。

 

 

ベルのライバルが俺の弟子になるまで、あとわずか。

 

 

ベル・クラネル

『Lv1』 

 力:2016

 耐久:1508

 器用:1857

 敏捷:2304

 魔力∶1956

 

魔法

 

ドラゴンソング・エルピス

 

即興詠唱。詠唱文による効果変化

 

 

 

スキル

 

 

 

竜星の終焉を切り開く者(ドラゴンスター・エルピス)

対竜種、対モンスター超域強化

 

終末の獣に対する特攻

 

 

 

果てを歩く者(エンドウォーカー)

 

デュナミス干渉可能

 

 

 

旅人の加護

 

魂に対する全異常状態の無効化

 

 

 

竜血励起(ドラゴンブラッド)

 

竜詩使用可能

 

竜化可能

 

肉体能力強化

 

自己進化

 

封印により任意発動

竜化の進行により強制発動

 

 

 

 

英雄憧憬(ゾディアーク・アゼム)

 

早熟する

 

英雄に対する憧れが続く限り効果持続

 

憧れの丈により効果向上




設定解説

ベルの残り時間は二年。竜騎士ジョブが解禁した。
エスティニアンとヒ光の戦士は近接戦闘専門の竜騎士、それに比べてベルは竜詩と近接戦闘の竜騎士だ。
近接戦闘が完全にエスティニアンの下位互換と理解しているから、ベルが自分なりに考えた戦い方はこれだ。



今年の怪物祭は取り消された。
さすがに、災厄を退けた英雄がベッドに眠っている状態で祭りを開催できない。
その代わりに、ベルが目覚めてから白兎祭を開催した。(リハビリがあるから、祭典の情報はアミッドに遮断された)
後で知ったベルは恥ずかしさのあまりに悶絶した。

さらに、ガネーシャ・ファミリアは闇派閥のタナトス・ファミリアが暗躍していることをロキ・ファミリアとフレイヤ・ファミリアに伝わった。
今回の神災ではタナトス神が最有力の犯神だから、この情報を共有するほうがいいと判断した。

ロキ・ファミリアは今回の事件により、幹部陣がレベル6になった。
フレイヤ・ファミリアのほうはガリバー兄弟がレベル6に昇格可能。ステイタスはまだ伸びしろがあるから、フレイヤに待ったをかけた。事件の後はダンジョンに潜る毎日だった。

アシェンとオメガのせいで、総合的な科学力と戦闘力はアーテリスのほうが圧倒的に強い。
だが、恩恵によるスキルと魔法はアーテリスの技術を超える可能性が秘められている。アミッドの全癒魔法はアーテリスでもチート扱いだ。

牛くんの才能について、近接戦闘全振りのアルフィアのような感じ。
実際、ダンジョンが彼女を参考にして、黒きミノタウロスを作成した。
ベルが彼を35階層に落としたが、あれは限界だ。
ダンジョンがデュナミスが満ちた環境を作り出さないと一撃で死ぬ。
生きて戦いたいと思っているから、世界と自分を滅ぼうとする終末との相性がすごく悪い。
ぶっちゃけ使わないほうが強い。
しかし、使わないと神を完全に殺せないので、ダンジョンは目的のために終末の力をあげた。

光の戦士は彼に勝てるが、一人ではそれなりに苦戦する。
無論、アゼムの召喚術を使えば余裕だが………

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