光の戦士と暁のベル・クラネルがダンジョンにいるのは間違っているだろうか   作:dukemon

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ベルと怪人

1、

 

「指名依頼か………」

 

ベル、ヘスティア、リリとロックは一枚の羊皮紙を何度も読んだ。

その羊皮紙は今朝、鳥型の魔道具から届いたものだ。

 

24層で怪物の大量発生、その異常事態の調査あるいは鎮圧。

報酬は高額で、依頼人は不明。

明らかに怪しい。

 

「どう思う?俺から見れば、1割は罠かな」

 

「僕はそう思います」

 

「罠だったら、もっと怪しまれない方法で依頼すると思います。リリだったら、ギルドを経由して依頼を出して、罠をはめます」

 

「ボクも罠とは思えないけど、たぶん難易度が報酬に見合っているほど高いよ」

 

ベルは即断した。

羊皮紙に参加する旨を書いて、魔道具の鳥に渡した。

 

「この任務は僕がやります。ロックさん、リリの訓練は頼みますよ」

 

「ああ、わかった」

 

今日、ロックはリリを訓練するためにここに来た。

動きを少し見ると、彼女をアーテリスに連れて、数日特訓すると決めた。

ちなみに、仁竜の救出は順調で、すでにビッグスⅢ世に連絡を取った。

後は専門家のシドとネロに任せた。

 

明日、ベルは17階層でロックとリリと別れ、単身18階層に向かった。

 

2、

 

『黄金の穴蔵亭』

それは依頼書に書いた合流地点だ。

フードロープで顔を隠したベルは地図に沿って、街の北部にある水晶の谷間が形成された群晶街路に踏み入れた。

酒場の看板が飾られた入口から階段に降りて、空洞に到着すると、そこには大勢の冒険者がカウンター席に近くで何かを語り合っているようだ。

 

「援軍はあと一人いるそうです」

 

と、水色の髪をして、碧眼の女性が言ったのを聞いた。

 

(ヘルメス・ファミリアの団長、アスフィさんだ)

 

おじいちゃんと連絡を取るために、ベルは数週前に彼女に依頼したことがある。

 

「申し訳ありません。隅から六番目の席を座りたいです」

 

と、ベルはカウンター席を囲む人々に言った。

 

「注文は?」

 

「ジャガ丸くん抹茶チョコ味」

 

そう言って、ベルはフードを脱げた。

 

「「「「「ベル・クラネル!?嘘だろ!!!!!」」」」」

 

 

 

 

アスフィは一ヶ月前にベル・クラネルと初めて会った

しかし、彼のことは数年前に知っていた。

 

白髪、赤目の子供。

ゼウスとヘラの系譜。

《静寂》アルフィアの縁者。

 

こんな背景を持っている八歳の子供が失踪した。

ヘルメスが血眼になって探すのも頷ける。

完全にいつ爆発するか、わからない不発爆弾のようなものだ。

 

もし、闇派閥の手に落ちたら。

もし、ゼウスとヘラに恨みを持っている者の手に捕まったら。

絶対に、ロクなことにならない。

 

しかし、あらゆる手を使っても、情報は一切ない。

三年も調査した結論は、ベル・クラネルは外出中モンスターに跡形もなく食い尽くされたというもの。

それを受け入れないゼウスはヘラに追いかけられながら、世界を巡って義孫を探しているそうだ。

 

 

 

そして、一ヶ月前、ベル・クラネルは普通にヘルメス・ファミリアのドアを開けて、義理の祖父に手紙を送ろうとした。

文字通り、ヘルメス・ファミリアがひっくり返った。

 

ヘルメスは手持ちの案件をすべて切り上げて、全速でオラリオに帰って、さらにベル・クラネルの情報を収集するようと指示した。

 

ヘスティア・ファミリアのレベル1冒険者。

18階層のリヴィラの街で目撃されたから、レベル偽装の疑いがある。

軽鎧を装備し、槍を主武装とする。アスフィの見立てでは最高級の第一級武装。

ロックという男性とは師弟関係で仲間。

そのロックを監視したファルガーは「二度とあの化物に関わるな」と警告した。

 

監視班全員はロックを追ってダンジョンの21階層に踏み入れた途端、気絶させられて捕縛された。

「闇派閥のタナトス・ファミリアの者か?」と聞かれて、「違う」と答えたら、解放された。

正直にベル・クラネルの調査をしていると言ったら、彼は自分とベルは師弟で仲間だと快く答えて、「それ以上のことはヘスティアに聞くといい。信頼できる相手なら、彼女は答えるだろう」ロックはそう言って姿を消したそうだ。

 

それからしばらく、神々は密かに大神災と呼んだ災厄が起きた。

ベル・クラネルは黒き猛牛を倒し、最新の英雄となった。

 

民衆はベル・クラネルを讃えているが、実際に彼の戦いを見たものは皆無だ。

ゆえに、その実力を疑うものもいるが…………

 

「右手の通路からモンスター。ホブゴブリン10体、剣鹿(ソード・スタッグ)5体、蜥蜴人4体。2分後ここに到着!さらに五分後、左側の通路からモンスターが生まれます!」

 

「魔剣を用意!後衛は詠唱を開始!」

 

キッチリ二分後、ベルが宣言したと同じ数の敵が現れた。

アスフィから見れば、ベルの感知能力はダンジョン探索において使い勝手が良すぎる。

恐ろしいことに、モンスターが生まれる時点もある程度予測できる。

 

【灯火の光よ、傷を癒せ】

 

ルルネが回避を失敗して、太ももが蜥蜴人の刃に切り裂かれた。

その途端、ベルの回復魔法がそれを完全に癒した。

 

【鎧となれ、悠久の聖火】

 

火の鎧がファルガーの全身を纏い、易々と剣鹿(ソード・スタッグ)の突進を受け止めた。

 

【我が同盟者に、聖火の加護よ】

 

さらに、周囲の味方に全能力上昇魔法をかけた。

彼の支援を受けたヘルメス・ファミリアは難なく敵を殲滅した。

 

事前の戦力確認において、ベルは神会で公表しようとする魔法について話した。

詠唱文によって効果が変動するという、常識を破壊し尽くした魔法。

理論上、彼が使える魔法の数は無限。

本人によると相性というものがある。攻撃魔法より、回復や強化など味方を守る魔法のほうが使いやすい。

『あと、僕はもし共通語以外の謎の言語で詠唱し始めたら、すぐに退避してください。詳細は話せないけど、あの黒いミノタウロスと戦った時使った攻撃魔法です』

 

十数種の魔法を使いこなすことに、アスフィは心から驚嘆した。

 

 

「ベル、あの黒き猛牛の強さはいったいどれほどなのか?ギルドの発表はあやふやで、よくわからないよ」

 

今回の依頼が示した食料庫に近づくと、ルルネが好奇心を耐えずに聞いてきた。

今まで、ベルは後衛を徹し、パーティに支援してきた。

その頼もしさに身に染みるヘルメス・ファミリアには誰一人もベルの実力を疑っていない。

 

24階層に来て、消耗を減らすため、アスフィの頼みで《剣姫》がほとんどの敵を受け持った。

ベルは後ろで強化魔法と回復魔法をかけただけで、彼女は戦乙女のごときモンスターを殲滅していった。

ベルはかなり楽だと思うから、もっとチームに貢献したい気持ちもある。

 

「あの戦士か……………えーと、アスフィさん、次の戦闘を僕に任せてくれませんか?説明より実演するほうがわかりやすいと思います」

 

「ルルネの好奇心に応じる必要なんてありません。それに、もうすぐ食料庫に到着するから、その時こそ貴方の出番です」

 

「はい、わかりました。あれ、食料庫に繋がる通路は変です」

 

数分後、パーティが緑の壁の前に立ち竦んでいる。

試しに槍で刺したが、すぐに修復された。触ると、生き物のように熱がある。

虎人(ワータイガー)のファルガーが率いる調査班は他の場所も同じような物体が壁を覆っていると報告した。

 

「メリル、魔法で壁を壊しなさい。ベル、壊したら氷の魔法でそれを氷結させ、修復を阻みましょう」

 

「はい」

 

「わかりました」

 

小人族(パルゥム)の魔導士とベルは言われた通りに魔法を放った。

緑肉の壁を破って、ベルたちは前に進んでいく。

 

「……止まってください」

 

ベルの言葉に、パーティの動きが止まった。

 

「なにか気づいたことがありますか?」

 

「前方の上にはモンスターがいます。さらに、この場所は緑肉に覆われた通路があって、多数のモンスターがその中に待機しています。床と天井も同じです。それと、壁に魔道具が埋め込んでいます」

 

「調教師……レヴィスがいるかもしれません」

 

「【剣姫】、もう一度確認しましょう。彼女はレベル6上位の力を持っていますね」

 

「はい、前回の交戦は魔法を使って、やっと倒しました」

 

アイズが【怪人】レヴィスと食人花の特徴をみんなに説明してから、パーティは前に進んでいく。

前方の敵は動き出す前にアイズに切り捨てられた。

ベルは魔道具を抉り出して、アスフィに鑑定させた。

 

「これは監視用の魔道具で、私たちの動きが筒抜けされています」

 

次の瞬間、周辺の緑肉はみるみるうちに枯れた。

 

「みんな気を付けてください!周辺の力は何かに吸い込まれています。緑肉だけじゃなく、ダンジョンからも。階層主のような何かが生まれる前兆です」

 

「撤退!全速で離脱します!」

 

ベルの報告を聞いたアスフィは撤退を指示した。

幸い、出口に近いから、パーティは一人も落とさずに外に脱出した。

そして、大きな衝撃が見舞われた。

 

振り返ると、そこには完全に崩壊した通路と食料庫の広場があった。

緑肉に浸食されたダンジョンの壁はもともとチーズのように穴だらけだから、支えを失うと壊れる。

被害を受けなかった場所は大主柱を持つ食料庫だけだ。

後ろから、二人のエルフと一人の狼人が走ってきた。

 

「アイズさん!」

 

「レフィーヤ、それとベート?どうしてここに」

 

「あんな手紙を送ったら、ロキの奴は当然援軍を派遣するだろか……なんだぁ、ありゃあ」

 

ベートは広場の中心を注目している。

そこに、白髪の男性は赤髪の女性と言い争っている。

 

「何をやっている、レヴィス!どうしてせっかくのプラントを枯らした。これじゃ迷宮都市を滅ぼせないじゃないか!」

 

「黙れ、必要なものはすでにエニュオに渡した。それにこうしないと、全員あの化物に殲滅される」

 

赤髪の女性はベルを見つめている。

そして、レフィーヤと共に来た黒髪のエルフは震え始めた。

 

「……どうして」

 

彼女の視線は男性に集中している。

 

「フェルヴィスさん、あの男を知っているのですか?」

 

「オリヴァス・アクト……」

 

「オリヴァス・アクトって……【白髪鬼(ヴェンデッタ)】か!?嘘だろ!」

 

ルルネは悲鳴に近い声をあげた。

ヘルメス・ファミリアの人々は目の色を変えた。

アスフィも動揺を耐えずに叫んだ。

 

「馬鹿な!なぜ死者がここにいる!」

 

その叫び声と共に、地面が爆ぜた。

 

3、

 

先に動き出したのはレヴィスだが、先手を取ったのはベルだ。

神速の一撃はたとえ宿敵(黒きミノタウロス)でも、初見では避けきれない。

ゆえに、レヴィスの足が切り落とされるのは必然と言える。

 

「ぐっ」

 

しかし、吹っ飛ばされるのはベルだ。

レヴィスの足は落とされた瞬間、再生して元の姿に戻り、その足で意表を突かれたベルを蹴った。

彼女が吸い取った力をすべて自己強化と再生に回ったと、ベルは判断した。

 

【聖火よ、彼女に加護よ】

 

目覚めよ(テンペスト)

 

ベルは吹っ飛ばされた瞬間、走り出したアイズと視線を交わした。

今回選んだ魔法は炎の付与魔法(エンチャント)

炎嵐を身に纏ったアイズは紅の翼で飛翔し、見たこともない強敵に突進した。

レヴィスは真正面でそれを迎撃した。

 

「どうした【アリア】。それだけか?なら死ね」

 

片手剣で悠然とその一撃を受け止めたレヴィスの姿が炎の中から現した。

 

吹き荒れろ(テンペスト)

 

【聖火よ、燃え上がれ】

 

二人はさらに、付与魔法(エンチャント)の出力を上げた。

さすがのレヴィスも真顔となった。

二人の剣士はもう一度激突し、アイズは押されているけど、辛うじて持ちこたえた。

アイズは能力値の差を魔法と技量で補足しようとしたが、まだ足りない。

 

「暴れろ!食人花、巨大花(ヴィスクム)」!こいつらを食らい尽くせ!」

 

食糧庫の大主柱にまとわりついた何体のモンスターは蠢く、震え、毒々しい花びらを冒険者に向かった。

それぞれの身長はまるで階層主のように、何十M(メドル)ほど。

さらに、数え切れない食人花は崩壊した通路から現れる。

レヴィスの号令と共に、無数のモンスターが潮のように冒険者を飲み込もうとしてきた。

 

「行け!この神聖な空間を足を踏み入れた冒険者たちを皆殺しにしろ!」

 

オリヴァスはモンスターを命令しながら、冒険者に攻撃を加えようとした。

 

「てめーが先に死ね」

 

ベートはナイフと体術を駆使して、敵に猛攻している。

冒険者たちはモンスターに囲まれて、乱戦の態勢となった。

 

 

アイズはレヴィスに集中している。

魔法を反応し、彼女に触手の雨を降り注ごうとする食人花は全部、ベルに切り裂かれて灰となった。

アイズとレヴィスの実力差は歴然。

一方はレベル6のなり立て、もう一方は新しい力を得てレベル8に近い化け物。

しかし、レヴィスの圧勝ではなく、アイズは今でも戦っている。

その原因は……

 

(彼女の注意力は半分ベルに向かっているから)

 

アイズでさえ、ベルの初撃を見えなかった。

レヴィスの異様な再生力がなければ、あれで決まったはず。

ベルは今でも虎視眈々と絶殺の機会を睨んでいる。

相手がそれを警戒するのは当然だが、アイズの心から沸き上がるのは無視された屈辱感と戦意。

剣の冴えはますます上がって、まさに過去最高。

 

「…少し舐めすぎたようだ」

 

やがて、アイズの銀剣はレヴィスの体を捕らえた。

胸甲が切り裂いただけ、魔石があらわしたけど傷はない。それでも一歩前進だ。

そして、彼女は一つ奇妙なものを見かけた。

レヴィスの肩が、水晶のようなものを埋め込んでいる。

 

「何…それ」

 

 

ベルはできるだけ冷静に三つの戦場を捌いている。

 

一つは、アイズ対レヴィス。

一つは、ベート対オリヴァス。

最後は、ヘルメス・ファミリア、レフィーヤとフィルヴィス対食人花と巨大花。

 

「【盾となれ。悠久の聖火】【縛り付け。大地の鎖】…危ない!ゲイルスコグル」

 

レフィーヤに狙っている食人花の進撃を炎の盾で止め、巨大花の触手を大地から飛び出した鎖で縛りついた。

さらに、アイズのミスを遠距離攻撃でカバーした。

ついでに、襲い掛かってくる食人花を解体した。

 

(これ、キツイ。竜詩以外の並行詠唱の精度をもっと上げたら、こんなに苦戦しないだろ)

 

三つの戦場にケアをしながら、自分の戦闘をしなければならないベルの頭がパンクしそうだ。

 

オリヴァスは約レベル6くらいだが、ベートもレベル6だ。

それに、場数と才能はベートのほうが上。まともに戦えばベートの圧勝だ。

ゆえに、オリヴァスは巨大花の支援を受けて、持久戦を仕掛けている。

 

アイズはレヴィスと一対一の様相を呈した。

一瞬のうちに何回の駆け引きをして、高度的な戦いをしている。

両者の能力差を見れば、アイズが持ちこたえただけで称賛される偉業だ。

ベルから見れば、周辺から力を徴収したレヴィスはレベル8に手を届くほど。あの再生力も脅威だ。

ベルは強化魔法(バフ)付与魔法(エンチャント)をかけ続けなければ、アイズはすぐに切り捨てられた。

 

ヘルメス・ファミリアは食人花を駆除していくが、数が多すぎる。

数えきれない食人花は四方から攻めてきて、乱戦となった。

フィルヴィスは魔法剣士で、まだ大丈夫だけど、レフィーヤとメリルのような後衛は真価を発揮できずにいる。

最悪なのはこの混戦では、四体の巨大花を撃破できない。

 

ベルは攻撃してくる食人花を切り捨てながら、詠唱を続いている。

もし、隙を見せれば、レヴィスは多少の傷を無視して切りかかってくる。

戦況分析、詠唱選択、攻撃、防御、警戒。五つの動きを同時にしなければならない。

 

(どうすればいい!)

 

戦場の維持すら手一杯だったベルにはこの膠着状況を破るすべはない。

誰も死なせない理想はまだ遠い。

 

 

レフィーヤは自分が足手まといということを自覚している。

魔力を狙って攻撃してくる食人花にとって、後衛の魔導士は恰好な餌だ。

詠唱する隙も無く、レフィーヤはただ杖術と体術で攻撃を躱すしかなかった。

 

そして、攻撃を躱し損ねた時、炎の盾が現れ、それを阻んだ。

これで都合四回。

エルフの少女は何もできずに前衛よりの中衛に助けられた。

 

(その人、まともに後衛の訓練を受けていない)

 

ここにいる冒険者の中には、たぶん長らくリヴェリアと共に戦ったロキ・ファミリアの三人だけがその事実を気づいた。

ヘルメス・ファミリアが彼の多種多様な魔法に目に奪われたが、三つ以上の魔法を行使できるレフィーヤだけは彼の苦境に体感できる。

すなわち、手札の多さによる混乱。

ベル・クラネルは膨大な戦闘経験と優れている読みで正答を選んでいるが、最適解ではない。

それでも、誰も死なせないために歌い続けるしかない。

 

「レフィーヤ!そこはてめーが何とかしろ!」

 

ベートの怒鳴り声が聞こえた。

たぶん今の戦場で、もっとも余力があって、もっとも焦っているのは彼だ。

彼がオリヴァスを倒せば、勝利と同義だ。

レベル6の力は簡単にレフィーヤがいる戦場を制圧する。

 

「てめーはそれでいいのか!守られ、あの野郎の足を引っ張って、中衛に後衛の仕事に奪われて悔しくはねぇか!」

そう、悔しい。

レフィーヤは自覚した。相手は英雄とか天才とかそういうものと関係ない。

未熟な後衛に助けられ続けるのは悔しい。

 

「理解しろ、あの野郎はおめーをただ守るべき対象と思っている!今、踏み出せねぇとてめーは一生雑魚のままだ!俺たち、ここにいる全員に吠え面をかかせてみせろ!あのクソババアを超えて見せろ!!」

 

「っ!」

 

最新の英雄と都市最強の魔導士を超えるという荒唐無稽な目標。

それでも、ベートが本気だ。

それは、強さを飽き足らずに求め続ける餓狼の本心だ。

仲間の本心を触れ、心の悔しさを戦意に変え、レフィーヤは宣言した。

 

「私を守ってください!ベル・クラネルも協力して!」

 

「わかった!」

 

 

(さすが、ロキ・ファミリアだ。ロックさんが称賛したとおり)

 

ベルは少女の指揮に聞いて、安心した。

後は、単純に詠唱完了まで持ちこたえるだけだ。

これは何の作戦もない状況より、はるかに楽だ。

その宣言を聞いても、レヴィスは少女の決意を無視し、アイズとベルの動きに注視している。

彼女はそれを雑魚の戯言だと思っているだろう。

 

【至れ、妖精の輪。どうか――力を貸し与えてほしい。エルフ・リング】

 

ベルは魔力の動きで、彼女が使うのは召喚魔法だと勘付いた。

 

【木霊せよ、心願を届けよ。森の衣よ。集え、大地の息吹――我が名はアールヴ】

 

(他人の魔法が使えるのか!?)

 

【ヴェール・ブレス】

 

パーティ全員は緑光に包まれた。

 

(物理、魔法の防御力上昇。さらに回復効果もある!アイズさんとヘルメス・ファミリアの守りは代わりにやってくれた)

 

レヴィスでも、強力な防御魔法を受けたアイズを瞬殺できない。

ヘルメス・ファミリアは魔法の支援を受け、戦いが安定していく。

さらに、円陣がまだ維持している。詠唱している魔導士の守りは万全だ。

 

そして、ベルは全速を出した。

オリヴァスの近くにいる巨大花と食人花を一撃のもとに葬って、驚いたオリヴァスの顔面に殴りこんだ。

ベートの追撃は彼の魔石を粉砕した。

 

「馬鹿な……」

 

灰になりつつある敵をよそに、ベートはまっすぐにアイズのところへ向かった。

この数瞬の間、レヴィスの猛攻を受けているアイズはすでに傷だらけとなった。

 

ベルはベートを追い越し、レヴィスに攻撃を仕掛けた。

狙いは肩に埋め込んだイデア。たぶんそれを改造して、魔力吸収装置として使っている。

 

「舐めるな!」

 

レヴィスは間一髪でイデアが壊されるのを避けたが、ベルの槍はしっかり肩に刺しこんだ。一度抜き出さないと、動きは制限される。

炎嵐をもって追撃したアイズを、彼女は剣で受け止めた。

 

「よこせ、アイズ!」

 

アイズの背中から、炎嵐が揺らぎ、疾走しているベートのメタルブーツに吸い込まれた。

狼人はそのまま全速、全体重を乗る蹴りを怪人を見舞った。

彼のブーツから吸収した炎嵐が迸れ、それを受けたレヴィスは真後ろに吹っ飛ばされた。

 

「ちっ、外された」

 

「でも、力は大幅に低下したと思いますよ。ベートさんの攻撃は肩にあるアレを破壊しま……」

 

足元に展開している超大型魔法陣に、この場にいる冒険者たちは凍てついた。

見覚えがある魔法陣は何の魔法の前兆を思い出したベルは青ざめた。

 

「イデアの破壊を発動条件(トリガー)にしたのか!!精霊魔法です!すぐここから逃げてください!」

 

「撤退できるなら、とっくにそうしたいんだ!このモンスターの大軍はどうやって切り抜ける!」

 

レヴィスもモンスターに紛れて撤退したのを見て、ベルは叫んだ。

 

「僕は魔法を使います!」

 

そして、竜詩はこの空間を響き渡る。

 

【ニーズヘッグが眷属、ベル・クラネルが命ずる!】

 

「ベルは前に言った魔法です。退避しなさい!」

 

【死の輪よ、わが敵を灰燼と化せ!アク・モーン!】

 

五回の爆炎は食糧庫の中央で爆ぜた。

余波の爆風を浴びた冒険者たちも悲鳴を上げた。

【ヴェール・ブレス】がなければ、重傷者が出るほどの威力だ

食人花と巨大花は直撃を受け、灰燼すら残らずに焼き払われた。

食糧庫の床も大穴をあけた。

あまりの威力に、人々は目を見張った。

 

「精霊魔法の威力と規模はこれの十倍以上ですよ!」

 

それを聞いた全員は死に物狂いに来る道を逆走する。

 

「その魔法の名前はタイダルウェイブ。津波を起こす魔法。陸上で使えば、オラリオの半分以上を水底に沈ませるほどの威力があります」

 

殿をしているベルは迫りくる危機を走りながら説明した。

 

「つまり、この階層自体は射程圏内」

 

「そうです。だからできるだけ遠く離れて、高所を探して避難します」

 

4、

 

ルルネが来た時に発見した宝石樹の位置を覚えているのは幸いだった。

宝財の番人(トレジャーキーパー)木竜(グリーンドラゴン)は第一級冒険者三名に襲われて、なすすべもなく倒された。

宝石樹の枝に座って、冒険者たちは下の激流を見て肝を冷やした。

 

「英雄譚の騎士は怒り狂った水精霊に殺しかけた時の気持ち、少しわかった気がする」

 

「いや、今の僕たちはたぶん巻き込まれた住民たちの気持ちに似てますよ。こんな激流、水精霊の護布を装備しても一溜りもありません」

 

ダンジョンの壁が水の衝撃でバラバラになったのを目にした時、泳げないアイズは少し震えている。

 

「水は止むまで、まずは情報を整理しましょう。あのオリヴァスという男は誰ですか?僕も指名手配の犯罪者について調べているけど、彼の名前を見たことはありません」

 

それを答えたのはフィルヴィスだ。

 

「オリヴァス・アクト……27階層の悪夢の首謀者。私の仲間を殺した張本人だ」

 

「27層の悪夢。僕もその事件について聞いたことがあります。つらい記憶を思い出させて申し訳ありませんでした」

 

「いいえ、自分の手で仲間の無念を晴らせないのは残念だが、仇を討ってくれた貴方と【凶狼】に感謝を」

 

「しかし、オリヴァスは27層で下半身の残骸を見つけたから、死んだとされています。あの傷で生存する可能性は皆無です。恐らく、怪人はなんらかのモンスターによって蘇った者でしょう」

 

「【白髪鬼(ヴェンデッタ)】はまだましだ。【殺帝(アラクニア)】が蘇ったら洒落にならねぇぞ。あいつはフィンの野郎でも手こずる狂人だ」

 

「それに、レヴィスも……こんな短時間でレベル6中位からレベル8になるなんて、いくら強化種でも不可能です」

 

アイズの疑問を、ベルは答えた。

 

「レヴィスはダンジョンから直接に大量の力を吸い上げました。魔石を食うより効率が格段にいい方法です」

 

「それをどうやって?」

 

「彼女はイデアという神器を使いました。レヴィスの肩にあるあの水晶です」

 

いきなりの爆弾発言に、ここにいる全員は唖然となった。

 

「僕とロックさんは二つのイデアの行方を追ってここに来ました。それの破壊あるいは封印こそ、僕たちがオラリオに来た目的です」

 

「穏やかじゃねぇな。その神器はどういうもんだ」

 

「イデアは記録媒体で、設計図に似ています」

 

「設計図?」

 

「たとえば、ヘファイストス様はある傑作を作り出しました。それをヘスティア様を見せると、ヘスティア様もそれを譲って欲しいと言ったら?その時はイデアの出番です。その傑作をイデアで記録し、ヘスティア様に渡せばまったく同じなものを作り出せます。神器とか、建物とか、都市一つでも、イデアがあれば創造できます。無論、神が下界でイデアを作ることも、使うこともできません。しかし、下界にあるイデアは膨大な魔力で起動できます」

 

ベルはヘスティアに神々が使う創造魔法について聞いた。

それをそのままみんなに話した。

あと、ヘスティアの説明によると、この星とアーテリスの環境は違いすぎるから、創造魔法を使うための魔力も天井知らずに跳ね上げた。

 

「なるほど、ベルが探しているイデアは精霊魔法を記録しましたか」

 

「正確的には精霊の肉体です。えーと、これはヘスティア様が言ったことだが、精霊は魂と肉体二つの要素で構成されます。魂と冥界は神々でも軽々しく干渉できない領域で、冥府に管理する神々もそこの理を手出すことができません。ゆえに、新しい精霊を作るのは人が子供を産むように、授かりものです。あのイデアはたぶん魔法と魔力吸収二つの機能だけを残して、他の情報を抹消したでしょう。作るのは不可能だが、神だったら機能を消すのは簡単です」

 

「つまり、精霊のイデアがあと一つオラリオに存在していますか?」

 

「いいえ、もう一つは一ヶ月前に僕が破壊しました。さっき、ベートさんが壊したのは最後です。あと、犯神かどうかはわからないが、闇派閥のタナトス神は確実にイデアを盗んだ者と繋がっています」

 

「ああ、だからロックはあの時タナトス神のことを聞いた」

 

「あれ、ファルガーさんはロックさんに会ったことがありますか?」

 

「……聞かないでくれ」

 

「あ、はい」

 

色々察したベルは聞き出すのをあきらめた。

数時間後、水が消えると全員は18階層に向かい、そこで解散した。

別れる前に、ベルは前に聞かれたことを思い出した。

 

「あ、ルルネさん」

 

「……ど、どうした?」

 

「前の質問について、あの黒きミノタウロスはさっき僕が放った攻撃をすべてカウンターできますよ。僕の槍捌きなんて一度見たら、まったく同じ、いや僕以上の技を繰り出せます。昇格(ランクアップ)した今でも、あの戦士に勝った実感はありません」

 

翌日、依頼の報酬はしっかりとヘスティア・ファミリアに届けた。

ベルのはじめての指名依頼はこれで終わりを告げた。

 




盗まれたイデアはイフリートとリヴァイアサンのもので、イフリートのイデアは魔力吸収機能がついていないから、試しに魔石で起動させたが、ロックとベルに瞬殺されました。
実はそのまま続くと巨大爆弾となって爆発してしまう可能性もあるが、おそらく爆発する前にオラリオにいる精霊に気づかれて冒険者たちによって消滅されます。

イデアの魔力吸収機能はもともと精霊の分身などのモンスターを作るために使っていたけど、ベルの襲来を目にしたレヴィスは独断に自分の強化に使いました。
漆黒のミノタウロスの脅威を正確的に認識し、それを打ち破ったベルを最大限に警戒したからの行動です。

あと、大神災は邪神たちにとっても予想外です。
終末の残り香がアーテリスから漂ってきた時、邪神はちょうどベルの力を試そうとして神威を開放しました。
それで、大神災は始まりました。
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