光の戦士と暁のベル・クラネルがダンジョンにいるのは間違っているだろうか   作:dukemon

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光の戦士と英雄の卵たち

1、

 

「先に言っておくが、俺の弟子になってもいきなり強くなれない」

 

ロックは至って当然な真理をリリに告げた。

 

「お前への指導はあくまで基礎で、あとはどれほど成長できるかはお前次第だ」

 

「はい、わかりました」

 

ロックは手にもっている羊皮紙に目を通した。

リリのステイタスだ。

 

「よし、まずは簡単な試合をしよう。俺も力をレベル1中位くらいに抑えるから、気楽に行こう」

 

「はい!」

 

リリとロックは向かい合う。

 

「じゃあ、始めよう」

 

ロックは剣を構えた。

 

リリは槍を構えた。

先手を打ったのはロックだった。

素早く踏み込んで横薙ぎの一閃を放つ。

リリは咄嵯に防御する。

だが、勢いを殺しきれず後方に吹き飛んだ。

それを見逃さず、ロックは追撃した。

上から下へ振り下ろした剣を、リリは辛うじて左側に躱したと同時にバックパックから爆弾を投げた。爆発が起こる。

爆風を受け、ロックは大きく後退した。

リリはすぐに立ち上がり、間合いを取る。

 

(思ったよりやるじゃないか)

 

感心しながら、ロックは再び攻めに転じた。

上段からの一撃を繰り出し、防いだところで下段からの切り上げを狙う。

リリは後ろを跳んでそれを避け、クロスボウを構えて、矢を撃った。

 

「おっと」

 

ロックは左足を半歩後退してそれを避ける。

そして今度は前に出た。

リリはすかさず距離を取りながら矢を撃ち続ける。

その全てをロックは最小限の動きで回避し、リリとの間合いを詰めていく。

 

「これで終わりだ」

 

ロックは剣柄でリリの肩を軽く突いた。

 

「参りました」

 

ロックはリリとの模擬戦を振り返ると、結論を出た。

 

「ベルが大金を使って、お前の第二魔法を発現させたのは正しい判断だ。俺でもそうする。あと、俺とベルの戦い方の相性もいい。お前は化けるぞ」

 

「え」

 

 

リリは自分ができることを完璧にやれる人で、自分ができることを組み合し、できないこともやってのける人だ。

目と判断がいい。上層部の敵の動きを先読みできるが、身のこなしは改善点が見られている。

ステイタスが低いから、敵に与える損傷も少なかったが、ベルが彼女に発現させた魔法がこの欠点を補った。

ゆえに、アーテリスに連れて、各種族や各戦闘職との模擬戦でひたすらに回避、先読みと判断を磨いた。

五日後、リリの目は死んでいるが、実力がかなり上げたはずだ。

ダンジョン上層部に帰還した途端、ちょうどいい獲物を見かけた。

翼がない四足で地を這う『小竜(インファント・ドラゴン)』、上層部最強と呼ばれるレア・モンスターだ。

普通の小竜(インファント・ドラゴン)は体長が4M(メドル)くらいだけど、今ロックとリリの目の前に現れたのは5M(メドル)以上で、おそらく小竜(インファント・ドラゴン)の中でも強力な個体だ。

周辺に獲物を奪い合える冒険者はいないと確認すると……

 

「よし、そいつを一人で倒してこい!リリならできるはずだ!死にそうになったら助けるから!」

 

「ふざけないでください!自殺行為ですよ」

 

「これはお前の判断か、それでも思い込みなのか?」

 

「なんですって?」

 

小竜(インファント・ドラゴン)を倒すのは本当にお前ができないことなのか?俺はそう思わないぜ」

 

「……わかりました。でも、死にそうになったら絶対に助けてください!」

 

リリは戦闘態勢を取って、小竜(インファント・ドラゴン)に襲い掛かった。

ロックは悠然と観戦しながら、周りのモンスターを蹴散らしていく。

 

「おい、あれで大丈夫なのか?」

 

リリと小竜(インファント・ドラゴン)との戦いを見た冒険者の一団が聞いてきた

今すぐリリに加勢しそうで、見ず知らずの他人に助けようとする良き冒険者たちだ。

 

「危なかったら、俺は助けに行くから、手出しは無用だ」

 

「いや、充分に危なかっただろ……え」

 

小竜(インファント・ドラゴン)の攻撃はリリに当たらない。

尻尾の薙ぎ払いを、跳んで避けながら煙幕を張って、追撃を防いだ。

さらに、小竜(インファント・ドラゴン)の死角に回り込み、クロスボウを連射した。

リリの狙いは正確だが、小竜(インファント・ドラゴン)は素早く目を閉じて眼球を守った。

 

ステイタスだけなら、リリはレベル1の中でも中の下。

彼女は小竜(インファント・ドラゴン)の攻撃を先読みをして誘導しているから、これほどの戦いができた。

 

この戦いを観戦している冒険者は段々と多くなっていく。

 

2、

 

《ロキ・ファミリア》は今日、遠征のためにダンジョンへと出発した。

後続部隊が安全に進行できるように、団長フィンが率いた先行部隊には主戦力が集中し、先にダンジョンに入った。

そして、12階層で冒険者の一団を遭遇した。

約十名の冒険者たちは大広間の外で、その中央に起きていることをずっと注視している。

 

「なんか、面白いことがあるね。声かけてみよう!」

 

興味に惹かれたティオナはそう言った。

 

「やめなさい。ダンジョン内では他所のパーティは基本不干渉よ」

 

「ねえ、どうしたの?」

 

「バカたれ」

 

姉のティオネの制止を無視して、ティオナの声が冒険者に届く。

 

「な、なんだお前、げぇ、【大切断】!?」

 

「ティオナ・ヒリュテぇ?」

 

「ロキ・ファミリアの遠征!?」

 

大広間の中にいる黒髪の男性は声を聞いて振り返った。

 

「あれ、ティオナとティオネ?フィンもいる。また遠征か?」

 

数週前に、《ロキ・ファミリア》と共に深層から帰還した謎の戦士ロックがそこにいる。

彼はそう言って、また広間の中央に注目した。

ティオネとティオナが彼の視線に沿って、同時に目を見張った。

小人族の少女は単独で上層最強の小竜(インファント・ドラゴン)と戦闘している。

いつの間にか、フィンも、リヴェリアも、アイズも、ベートも、ロキ・ファミリアの先行部隊はその戦いに見入っている。

 

「ロック、その子は一体?」

 

フィンは驚きを露にする。

 

「俺の弟子だ。まあ、大したことを教えていない。先読みだけをひたすら磨いただけだ」

 

少女は三歩後退し、紙一重で小竜の爪を避けると、攻撃の隙に素早く接近し、口の近くに槍を差し込もうとしたけど、硬い鱗に阻まれた。

その瞬間、少女はバックステップで距離を取った。

小竜(インファント・ドラゴン)の尻尾は彼女にいた場所を通り過ぎた。

 

「力のステイタスは足りねぇ。もう少し上げると、一撃離脱で勝てる」

 

「判断は上手だ。ほとんど最適解を選んできた。五手、いや、六手先も読んでいるが……ダメージを与えられない限り勝てない」

 

ベートとリヴェリアはそれぞれの感想を述べた。

双方の実力差は歴然。この場にいる全員はそれを理解している。

しかし、目が離せない。

彼女の戦いはロキ・ファミリアから見れば稚拙な戦いだった。

技なんてありはしない。

能力値も凡百の冒険者と同じだ。

 

「完敗だ。僕はレベル1の中の下だった頃、彼女のように小竜(インファント・ドラゴン)と戦えない」

 

僅かな悔しさを胸に、フィンは苦笑した。

少女の苦難の日々は決して無駄ではないと、都市最大派閥の団長がそう認めた。

 

「でも、もうすぐ道具が尽きる」

 

アイズの指摘は正確だ。

クロスボウの矢は使い果てた。

爆弾と煙幕も一つしか残っていない。

 

「これは最後の機会だ。頑張れよ、リリ」

 

最後の攻撃を開始した。

まずは、この戦いではすでに無用な長物となったクロスボウを投げた。

小竜(インファント・ドラゴン)の注意がそちらに向いて、少女は全力疾走した。

彼女は自分の体に鞭を打ち、限界を超えて走った。

ついに槍が届く範囲まで近づくと、彼女が見たものは小竜(インファント・ドラゴン)の醜悪な笑顔だ。

小竜(インファント・ドラゴン)もこの戦いで学習している。

わざと注意を惹かれるような仕草をし、煩わしい敵を仕留めようとするモンスターの駆け引き。

大きな顎を開け、無力な小人族を食らい尽くさんとするモンスターに、少女は嗤った。

 

「残念でした」

 

次の瞬間、モンスターの口に爆弾が爆ぜた。

小竜(インファント・ドラゴン)は痛みで暴れている。

追い打ちの煙幕は小竜(インファント・ドラゴン)の視線を遮断した。

煙が晴れると、モンスターが必死に忌まわしい敵を探している。

 

少女は大広間でモンスターと最も離れている隅にいる。

怒り狂っている小竜(インファント・ドラゴン)は一直線に彼女に突進した。

 

【赤き狼煙、血の涙】

 

手にある槍は光を纏った。

恐ろしいモンスターが迫ってくる。

でも、少女が動けない。

すべては勝つためだ。

 

【炎を消し、涙を拭いた勇気に、我が槍を捧げる】

 

最後の一文は小竜(インファント・ドラゴン)の爪が届くより僅かに早い。

 

騎士栄華(ナイツ・オブ・フィアナ)

 

光の槍は小竜(インファント・ドラゴン)の魔石を貫通し、大広間の壁に突き刺さって、光の粒子となって消滅していく。

小竜(インファント・ドラゴン)は声も出さずに灰となって絶命した。

大広間にいた冒険者達は一斉に歓声を上げた。

小人族の少女は疲れ切ったのか、座り込んでしまった。

 

 

リリは歩いてくる同族の姿を見て、絶句した。

 

「ぶ、【勇者(ブレイバー)】!?」

 

「見事な戦いだった。名を聞かせてくれないか?」

 

「リ、リリルカ・アーデです……」

 

「勇気ある同族の名を心に刻もう」

 

「誤解です。それはリリの勇気ではありませんよ」

 

なぜだが、リリはそれを訂正しなければならないと思っている。

 

「信じてくれた恩人の後押しを得て、止まったままのリリはようやく最初の一歩を踏み出しただけです。貴方はリリから勇気を見出しましたら、それはリリの勇気ではありません。彼らのものです。リリはまだ自分の勇気で恩人に報っていません」

 

「勇気を報いようとする想いも、『真勇』に違いないよ」

 

フィンはそう言って仲間の場所に帰った。

聞きなれない言葉にリリが首を傾いた。

ロックは口を挟んだ。

 

「真勇は詩人リュールゥが古代の英雄、フィアナ騎士団に讃えた言葉だ。諸説あるけど、一般的には人の心を震わせ、前に進ませる勇気を『真勇』と称える。その英雄譚を読んでいないのか?」

 

「あ……リリはそういうのは……ちょっと」

 

「お前の詠唱の一部はフィアナ騎士団の誓約だから、それを聞いてフィンも『真勇』という言葉を使っただろ。興味があったらベルに聞こう」

 

3、

 

ヘスティア・ファミリアの本拠地に帰ったリリはすぐにステイタスを更新した。

 

「サポーター君、昇格(ランクアップ)できるよ!」

 

「な、なんですって!!!?」

 

「リリ、おめでとう!」

 

ロックはまじまじと、リリのステイタスが記した用紙を見つめている。

口を出すべきかどうかを悩んだ。

 

「ロック。なにが言いたいことがあるのかい?」

 

ヘスティアはロックの表情から、事情を察した。

 

「ああ!まだ伸びしろがあるから……昇格(ランクアップ)するのはもったいない……」

 

ベルはもう一回用紙を見て、ロックが言いにくいことを話した。

リリにとって、レベル2になるのは長年の望みである。

その喜びを冷や水に浴びせるのは気が引けるけど、ベルは派閥の長として客観的にアドバイスをしなければならない。

リリもそれをよくわかっているから、レベル1でもう少し鍛えようと決めた。

 

「それとロックさん、もう一つ大事なことがあります。リヴァイアサンのイデアを破壊しました」

 

「本当か!」

 

「ええ、前の依頼でアイズさんとベートさんに助けられて、それを砕きました」

 

ベルは簡単に前の冒険を説明した。

人とモンスターの異種混成【怪人】。

イデアの魔力吸収によるモンスターの作成。

新たな敵【エニュオ】。

そして、オラリオを滅ぼす目的。

 

「イデアが処分しても、事件が終わっていないな」

 

「イデアの魔力で作られたモンスターもどこにいるのかがわかりません……」

 

「少なくとも、タナトス、エニュオなどの犯神や犯人を捕まるまで、事件が解決しない。それと、大きな借りがあるからな」

 

ベルが死にかけたことに対して、ロックを含めてアーテリスで出会った友人たちを驚かせた。

もちろんベルのことは心配している。

でもそれ以上に怒ってるんだ。

闇派閥という犯罪者たちをボコボコしないと気が済まない。

 

「まあ、その前にリリの祝いをしなければならないな。ヘファイストス・ファミリアの店に行ってくるぞ」

 

 

「……小人族の武具自体が少ないな。自分で作るほうがいいかな?」

 

ヘファイストス・ファミリアの武具売り場に行き、下級冒険者向きのコーナーで探しているが、なかなか見つからない。

鎧の森で10分くらい彷徨っていると、カウンターの近くに怒鳴り声を聞いた。

 

(鍛冶師か?)

 

炎に連想させる赤い髪、ベルよりすこし年上に見える少年だ。

軽装のパーツが積まれたボックスは彼の前にあるカウンターの上にある

会話の内容を聞いて、どうやら自分の作品がいつも端っこに置かれたことに不満があるようだ。

 

「よかったら、その軽装は見せてくれないか?俺は弟子に贈る軽装を探している」

 

「え、ああ」

 

赤髪の少年は少し緊張しているようだ。

少し検分すると、やはり既製品はリリのサイズに合わないようだ。

しかし、質がいいし、下級鍛冶師の作品の中でも上位だ。

 

「俺の弟子は小人族で、これに着れない。専用装備(オーダーメイド)をお願いできるか?」

 

「う、受ける、いや、受けます!」

 

彼に誘われて、八階にある小さな休憩所に入った。

中で依頼について話し合っている。

注文は動きやすい軽鎧、短槍一本と投げ槍数本。

素材を取るためのナイフも欲しい。採寸は後日でヘスティア・ファミリアの本拠でする。

大仕事を受けた年若い鍛冶師ーーヴェルフ・クロッゾはかなり興奮しているようだ。

 

「でも、俺から見ればお前の鎧は悪くない。なんで売れないのか?インゴットの精製も問題に見当たらないし、劣化しやすい関節部も丁寧に三種類の金属で工夫し耐久度を上げた。華がないけど、質実剛健というべきいい出来だ」

 

「!鍛冶の知識があるのか?」

 

「冒険するために必要な技術は一通りできるぞ」

 

そう言いながら、ロックは自分のガンドレッドを外して、ヴェルフに見せた。

それを見た彼は息を呑んだ。

 

「すげぇ……変哲もないガンドレッドに見えるが、技術だけならおそらく椿以上だ。それほどの腕を持ちながら、なんで弟子の武具を外注するか?」

 

「贈り物に手を抜くなんてできないから、今の彼女は俺の武具を手に入れたら振り回される」

 

極論、ロック謹製の槍を装備したら、リリは小竜(インファント・ドラゴン)の要害に一刺しすれば勝てる。

それじゃ成長できない。

ベルのように地道に経験を積んだこそ、一流の冒険者になれる。

ロックは自分なりに彼女を指導してきたつもりだが、それでも足りないところはある。

それに、彼女の力を引き出せるのは彼女自身だけだ。

 

「お前さんなら、俺の魔剣を見ても揺るがないだろ」

 

「魔剣?あの爆弾のような武器?」

 

「ふ、はは!ば、爆弾って!そういう言い方は初めて聞いたぞ!」

 

ヴェルフは大笑いをしている。

 

「魔剣は爆弾と同じ消耗品だ。そもそも、魔法を発動する魔力を内包するという構造上、耐久度は著しく下がる。俺から見れば少し頼りない感じがする……まあ、その欠点は改善できるけど、今の魔剣より優れるとは思わない」

 

「改善って、どういう?」

 

ヴェルフは食い入るように聞いてきた。

 

「知り合いの天才鍛冶師が言っていたことだ。外部で魔力を供給するようになったら、耐久度の問題が解決できる。が、威力は使用者の魔力に依存するようになる。一長一短だ」

 

手土産としてアーテリスに持って行った魔剣を見たゲロルトはつまらなそうに、秒で改善の仕方を言い放って酒場に行った。

ヴェルフは口があんぐりと開けた。

 

「……そ、そんな方法があったのか」

 

「まあ、あいつは化け物じみた鍛冶師だからな。魔剣を作ったことはないけど、発想は間違っていないと思うぞ?」

 

「……参考になった」

 

「それはよかった。ところで、お前の魔剣には何か特点でもあるか?」

 

「え?」

 

ヴェルフは少し驚いた表情を浮かべた。

彼の話によるよ、クロッゾの先祖は精霊を助けたことで精霊の加護を得て魔剣を打てるようになった。

その魔剣は海を焼き尽くすという伝承を持ち、計り知れない破壊力を持っている。

神時代以降、先祖から受け継いだ血脈が恩恵によって覚醒し、クロッゾの一族は魔剣鍛治師として名を馳せたそうだ。

結果、ラキア王国という国が魔剣を濫用し、エルフの森を焼いたことで精霊の怒りを買った。

それから、ヴェルフが生まれる前にクロッゾの一族は魔剣を作成出来なくなってしまった。

ヴェルフは現在唯一、クロッゾの魔剣を打てる鍛治師だ。

 

「それほどすごいものなのか?少し観たくなった」

 

「すまない、魔剣を打たないと決めたんだ」

 

「まあ、お前の力だし、使っても使わなくても俺が口を出すことではない。弟子の装備は頼んだぞ」

 

「ああ、最高の作品を仕上げるつもりだ」

 

ロックは立ち上がり、休憩所を出て行こうとする。

すると、背後から声をかけられた。

振り返ると、ヴェルフが頭を下げていた。

彼なりの感謝の形だろう。

 

4、

 

リリの贈り物を準備した翌日。

ロックは一度中層に調査しようとして、単身17階層に来た。

 

「大神災の現場では、何の痕跡もないようだ」

 

一ヶ月前に激戦を繰り広げられた大広間は今や完全に修復された。

ダンジョンの修復力はやはり侮れない、とロックが驚嘆した。

そして、彼はその戦士と出会った。

 

アーテリスと繋がる時空の穴の前に、一人の戦士は佇んでいる。

牛頭人身。漆黒の体躯に鈍色の鎧。

そして、両刃斧を背負っている。ミノタウロスだ。

彼は静かに、しかし威圧的な眼差しで、こちらを見据えている。

 

「母はこの穴から現れたもので、前の自分を作った。それは一体何なのだ」

 

「生を拒絶し、永遠の消滅を願う終末の残骸だ。終焉の獣から誕生した強き戦士よ。お前は生を捨て、歩みを止めるのか?」

 

「違う。自分は約束を守るために生まれ、『夢』で見た唯一の好敵手との再戦のために進んでいく」

 

ミノタウロスの答えを聞き、ロックは満足げに笑った。

ベルが定めた宿敵は確かに彼に相応しい者。

狂おしいほど、前進する意思を持っている。

信念をもって、憧れに邁進する。

 

ロックは背負っている剣を抜き、彼の方へ歩いていく。

彼は無言のまま、武器を構えた。

そして、二人は衝突する。

ロックが両手に持つ大剣を振るい、ミノタウロスの武器を叩き折った。

前世でダンジョンが与えた才能は見る影もない。

 

「どうした!お前の好敵手はこんなものじゃないぞ」

 

「そんなことはとっくに承知した!」

 

素手で殴りかかってくるミノタウロス。

それを躱したロックは大剣を手放し、殴り返した。

2人の拳が激突するたびに、衝撃が迷宮を震わせる。

数刻後、ミノタウロスはすでに満身創痍。

それに対し、ロックはかすり傷しか負っていない。

 

「……なんて、遠い……」

 

ミノタウロスはそれを言って気を失った。

ロックは彼を背負って、18階層に向かった。

 

 

目が覚めると、洞窟の中だった。

耳に金槌の音が聞こえる。

立ち上がって周りを見渡すと、その時の戦士が金槌を振って鍛冶をしている。

 

「ああ、目覚めたか。少し待ってろ」

 

しばらくしたら、彼は作り上げた両刃斧を自分に手渡した。

驚くほどに手に馴染む。

まるで、自分の身体の一部のように感じる。

そして、その感覚は間違いではなかった。

 

「お前の好敵手からの依頼だ。黒きミノタウロスが残ったドロップアイテムを使って、いつか生まれてくる宿敵のために武具を打ってくださいって言った。まあ、まさかこんなに早く転生したとは思っていなかったな。さて、少しだけ俺に付き合おう」

 

「どこへ」

 

「37階層、鎧の素材を取りに行く。あ、俺はロック。お前の名前は?」

 

「アステリオス」

 

言われたがままに、彼の後ろについていく。

彼は楽しそうに笑いながら、歩き続ける。

同族との闘いの途中、彼は戦い方を丁寧に教えてくれた。

やがて、目的地に到着した。

 

37階層『闘技場(コロシアム)

巨大な広間の中央に、無数の同族は円形闘技場と似ている構造物から無限に生まれ落ちると呼ばれる超危険地帯。

たとえ第一級冒険者のパーティでもここに近づかないと協力者(フェルズ)が言っていた。

同胞たちもここだけは避けろと忠告した。

 

「鎧の素材を取れる場所は構造物の中央。俺が行く。お前はモンスターの注意を引き付けてくれ」

 

「わかった」

 

ロックは構造物に向かって走っていく。

彼が中に入った途端、同族たちは一斉に襲いかかる。

自分も同族の群れに飛び込んだ。

同族の軍勢と戦う時は、殲滅速度は重要視される。

闘技場(コロシアム)も同じだ。

新しい両刃斧を振り回し、同族を葬っていく。

 

五分後、全身が返り血を浴びた自分の前に、ロックは帰ってきた。

彼の手が黒い石を握っている。

 

「すまん、手間を取った。ここから離れるぞ!」

 

ロックは自分の手を掴み、走り出す。

自分は何も言わず、彼に付いていった。

数えきれない同族に追われながら、自分たちは37階層から脱出した。俺たちは息切れを起こし、地面に座り込む。

 

「はぁ……はぁ……。いやー、危なかった。思えば最初あそこに行った時、召喚獣まで使ってようやく素材を収集した」

 

「どんな鎧を作るつもりか?」

 

「ダンジョンにある時自己修復する武具だ。お前がメンテナンスなんてできないし、鍛冶師に依頼できないから、このような武具を用意したいんだ。斧も同じ効果があるぞ」

 

彼が言うと、それらの武具は母との繋がりがあるから、彼女のように修復できる。

これは、ゲロルトという鍛冶師の発明だそうだ。

下層の安全階層(セーフティ・ポイント)で、彼は鎧の作成を開始した。

自分は彼の邪魔にならないよう、周囲を警戒しつつ、武器を素振りしている。

そして、一日後。

彼は完成品を手に取り、確認する。

それは自分が想像していた以上の出来栄えだった。

漆黒の全身鎧。

両手両足にはめたグローブとブーツも黒く染まっている。

兜は赤い牛角がついたフルフェイスヘルム。

ロックは完成した装備品を見て、満足げに笑った。

遠くから自分を呼ぶ声が聞こえた。

 

「アステリオス!」

 

「大丈夫か!」

 

同胞たちはやってきた。

 

 

ほかにも喋るモンスターがいることに少し驚いたけど、異種族と交流すると同じだ。

彼らは自分のことを異端児(ゼノス)と自称した。

アステリオスは今までのことを説明してくれたから、話が変にこじれずに済んだ。

 

「改めて自己紹介をしよう。俺はロック」

 

「オレっちはリド。見ての通り蜥蜴人(リザードマン)だ。初めまして、ロック」

 

リドが差し出した手を、ロックは握り返した。

蜥蜴人は雄黄の目が大きく見張って、破顔した。

それから、ほかの異端児も名乗った。

隠形をしている人間が一人いるけど、おそらく異端児たちが連れてきた協力者だから気にしなくなった。

 

「よし、それじゃ、アステリオスの専用装備(オーダーメイド)について詳しく説明しよう。まず、アステリオスの前世のドロップアイテムを使ったから、基本的にアステリオスしか使えないものだ」

 

「あ、あれヲ使っタのか」

 

歌人鳥(セイレーン)のレイは再び確認した。

 

「そうだ!まず、両刃斧は魔力吸収機能がある。属性魔法を吸収し、アステリオスの魔力で増幅して付与魔法として発動できる」

 

「す、すけぇ!」

 

リドは目が光らせて興奮した。

 

「次は鎧。基本素材はオリハルコン、そして闘技場(コロシアム)の中央部から取ってきた数種の岩石。さらに、オブシディアン・ソルジャーの体石をたっぶり使ったから対魔法の防御も万全!そして……」

 

「また何かあるのか!」

 

「この武器と鎧はメンテナンスが必要ない!使用者がダンジョンにいれば自動的に修復できる」

 

「「「「「「何だって」」」」」」

 

子供のように感動しているモンスターたちを見ると、ロックも微笑みを浮かべた。

彼らはアステリオスに鎧を着せて、歓声を上げた。

 

「なるほど、お前もそれを見て、彼らを協力しただろ」

 

「やはり英雄の師匠に見破られましたか。フェルズと申します」

 

相手は隠形の魔道具を脱げた。

 

「フェルズ!これすげぇぞ」

 

リドは魔剣を振るい、両刃斧に吸収させた。

それから、アステリオスは付与魔法を発動した。

彼の周りから炎が噴出し、異端児たちは慌てて彼から離れた。

 

「どころで、リド。アステリオスの願いはわかったけど、お前たちの目的はなんだ?」

 

彼らにはアステリオスのような狂おしいほどの戦意はない。

しかし、確実な目的がある。

 

さっきの騒ぎが嘘のように、彼らは静まった。

「地上へノ進出。それガ私達ノ願いです」

 

悲壮を感じる青い瞳で、歌人鳥(セイレーン)のレイが語った。

 

「夢を見るんだ」

 

ぽつりと、リドが言った。

 

「真っ赤な光がでけえ岩の塊の奥に沈んでいく夢……迷宮にはない空が赤く、泣いちまうくらい赤く、段々と染みっていく綺麗な時間」

 

そして、異端児(ゼノス)たちはそれぞれがみた夢を話してくれた。

美しき空。戦いの中で見た様々な人々。

彼らはそれに憧れている。

地上に行き、人間と絆を結びたいと。

殺し合う以外の関係と築きたいと。

 

「自分は……同胞たちと違う。人々と共存する想いはない。この身に宿るすべてはかつて自分を倒した英雄と再戦したいと叫んでいる。自分の存在はたぶん、彼らの夢を壊すだろ」

 

「アステリオス……」

 

「それを知ってもなお、同胞たちはこの自分も手を差し伸べた。自分は人間の善悪がわからない。しかし、それは彼らの憧憬と同じく尊いものだと信じている」

 

ロックの答えはすでに決まっている。

かつて霊峰の頂上で見た英雄(理想を叶えてしまう人)を、彼は生涯忘れない。

 

「……わかった。手を貸そう。お前たちはその幻想を追い求め続けるなら、俺はそれを理想に変わる」

 

しかし、それだけだ。

ロックも、ベルも、他人の理想を代行できない。

 

「勇気をもって、希望をもって、意志をもって、()()()()()()()()()()()




騎士栄華(ナイツ・オブ・フィアナ)
投槍魔法。
レベル及び武器の質を魔法威力に加算。
魔法で使用した投槍が破壊される。

ベルが大神災の報酬を使い果たして買った第一級魔導書(グリモア)を、リリに読ませてから目覚めた魔法。
効果を読んだリリはその金喰い虫のデメリットに卒倒した。


転生後のアステリオスは現在レベル7中位。前世のような才禍クラスの才能はない。
ロックがベルの頼みで作った専用装備はほとんど対ベル専用の性能。
魔法戦士にとって、オブシディアン・ソルジャーの体石で作った装備は面倒極まりない。
両刃斧の魔力吸収はアク・モーンを完全に吸収できる。
それでも前世のほうがはるかに強い。
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