光の戦士と暁のベル・クラネルがダンジョンにいるのは間違っているだろうか   作:dukemon

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アストレア・レコード3。素晴らしすぎます。


ベルと正義

1、

 

虚無界から帰って数日後、ヘスティア・ファミリアに対する遠征の強制任務(ミッション)を発令した。

探索系ファミリアは税金が安いが、一定の等級(ランク)に達すると一定周期で『遠征』に向かう義務がある。

公式的に、ベルの到達階層は大神災を撃破した35階層。

36階層に到着し、指定数量のドロップアイテムを得たら、遠征が完了する。

ベルはソロ遠征の用意をしている時、ヘスティアが慌てて駆け込んでベルに告げた。

 

「リリが昨日ダンジョンに行って、そのままホームに帰ってこない!」

 

「何ですって!?パーティメンバーは!?」

 

リリとパーティを組んでいる人は、ヘファイストス・ファミリアのヴェルフとタケミカヅチ・ファミリア。

この前、彼女はパーティメンバーをベルに紹介したことがある。

 

「ヘファイストスも、タケミカヅチも焦って探している!幸い、恩恵の数が減っていないけど、このままじゃ危険だ」

 

「ぐ、最近中層の13階層まで降りても大丈夫でしたから」

 

二日前、リリは器の限界に至って、昇格(ランクアップ)した。

レベル2の冒険者三人があるパーティなら、中層の浅層部を無事に探索できると、ベルは自分の判断ミスに歯を嚙み締めた。

 

「ベル君のせいではない!冒険が異常事態(イレギュラー)にあうのは日常茶飯事だそうだ。それより、早く探しに行こう」

 

「もちろんだ。ヘファイストス様とタケミカヅチ様にも連絡してください!あと、ダンジョンで救援活動するのは初めてので、僕が報酬を出すからそのような経験がある上級冒険者を一人や二人を雇ってください。ヘファイストス様の伝手があればすぐに見つかるはず!」

 

「わかった!」

 

ヘスティアは本拠地から飛び出した。

それと同時に、ベルはリンクシェルでロックに連絡した。

 

『ロックさん!リリは中層で失踪しました!』

 

『なんだと!?くそ、間が悪すぎる。今、俺は二人パーティを組んで、61階層を探索している!さらに謎の精霊たちに襲われている。敵を倒してパーティメンバーと共に安全階層の50階層まで帰るのは少なくとも2時間半かかる……おい、アステリオス、突っ込むな!』

 

さらに、ウルティマ・トゥーレを経由して、17階層に帰るのは少なくとも2時間かかる。

 

『【たとえ今は天地に隔て、心隔たれていようとも】』

 

アゼムの召喚術を詠唱している声を聞いて、ベルはロックが正真正銘、全速全力を出していると理解した。

ロックが絶対に四時間半後、17階層に到着する。

逆に言うと、それ以上早くするのは不可能だ。

 

30分後、ベルはギルドでヘスティアが連れてきた助っ人を見て、目が丸くなった。

 

「アスフィさんとヘルメス様。それと……まさか、リューさん?」

 

この前に共に冒険したヘルメス・ファミリアの団長、と行きつけの酒場のウェートレスの冒険者正装に、ベルは唖然とした。

リューが元冒険者ということは、ベルは前から知っていた。

けど、そのレベルは4と聞いた時はさすがに驚いた。

アスフィは前の冒険で、レベル4であることを知った。

レベル8の実力を持つベルと、歴戦の冒険者でレベル4のアスフィとリュー。

中層でリリ達を探すためなら、完璧な布陣だ。

 

「やあ。ベル君。この前アスフィとオレの子供たちが世話になったようで、今回、リリちゃんの救出に手を貸そう」

 

「本当にありがとうございました!」

 

ベルは深々と頭を下げた。

救出団がダンジョンの第一層に踏み入れてから、ベルは後ろに振り返った。

 

「ヘルメス様、見送りはここまででいいです」

 

「何を言っている。オレも同行する」

 

救出団はそれを聞いて固まった。

 

「何を言っているんですか!」

 

アスフィは絶叫した。

リューも顔をしかめた。

 

「神ヘルメス、私が聞いた依頼内容は違いますよ」

 

怒りを抱いた声に、ヘルメスはそよ風を浴びたように受け流した。

 

「なあに、これほど充実な戦力があれば、神の一人や二人を簡単に18階層まで送られるだろ」

 

「ヘルメス様。つまり、あなたは大神災で百回ほど死にかけた僕に、神であるあなたと共に中層に行くとおっしゃっているのか?神災を起こすかもしれませんのに」

 

「ベルたちの力を信じているので、それとオレは絶対に神威を使わない、誓ってもいい」

 

神威を使うか使わないという問題ではないだろって、ベルは叫びたかった。

一刻も早くリリたちを探し出さなければならない状況で、ヘルメスはダンジョンにいる全員に危険を晒そうとする。

その無責任さに、ベルはキレた。

 

「わかった。ヘルメス神。貴様を連れて行ってやる」

 

青筋を立てて口調が変わったベルに、周りの二人と一柱の神は気圧される。

ベルがヘラの系譜であることを思い出したヘルメスは顔が青ざめた。

 

「べ、ベル君?落ち着いてくれ、いや、くださいませんか?」

 

「僕は至って冷静だ。貴様と言い争う時間や謝罪を受ける時間さえ惜しい」

 

そして、ベルは縄でヘルメスを自分の背中にきつく縛っていく。

 

「い、痛い。もうちょっと優しくしてくれないか。お、折れる!」

 

「黙れ。貴様はまだわからないのなら、もう一回言ってやる。時間が、惜しい、のだ」

 

ヘルメスを固定すると、ベルは高速で通路を走っていく。

アスフィとリューは彼の後ろについて行く。

ヘルメスは上級冒険者の動きをついてこれずに吐きそうになった時。

 

「貴様が吐いたら、お婆さん(ヘラ)にヘルメス神が不潔な体液を僕に浴びらせたと報告する。あと、これ以上僕の手を煩わせたら、お義母さん直伝の福音拳骨(ゴスペルパンチ)を見舞ってやる」

 

ベルの話を聞いて、怯えきったヘルメスは必死に口からあふれ出そうとするものを飲み込んだ。

その時、ゼウスが言っていたことが、彼の頭に浮かべた。

ヘラ・ファミリアの中で、もっとも怒らせてはいけない者は女神ヘラではなく、【女帝】ではなく、【静寂】ではなく、ベルの母親であるメーテリアだ。

心優しいメーテリアの怒りは女神ヘラでさえ正座して許しを求めるほど、【静寂】すら死を覚悟しなければならないほど。

18階層でリリたちを探し出した時、身をもってその理由を知っているヘルメスはすでに恐怖のあまりに気絶した。

 

 

18階層で、ベルは仲間と再会した。

彼の笑顔を見て、リューは彼との出会いを思い馳せた。

 

リューが初めてベル・クラネルと会うのは、彼が自分が働いている酒場『豊穣の女主人』に来た時だ。

あの時の彼はオラリオに来てまた数日しか経っていない。

街中で同僚のシルにこの酒場を紹介されて、晩ご飯を食べに来た。

最初に抱いた印象は、気が弱くて優しいそうな少年だったが、その食いぶりに衝撃的すぎた。

なんと、メニューにあるすべての料理を注文した。

 

「えーと、先で支払うから、食い逃げを心配しないでください」

 

「本当に、食べられるのか?」

 

「うん、昔、家族に言いつけられたです。食べられる時はいっぱい食べろって」

 

それから、彼は宣言通りすべての料理を平らげた。

のちに、彼本人はなかなかの美食家で、料理も一通りできると知った。

女将のミア母さんと料理談義に盛り上がったこともある。

 

ベルが言うと、彼の師匠と仲間の一人は料理に精通して、そのせいで舌が肥えた。

 

仕方なく、自分が満足できるほどの料理を作れるようになった。

数回会話を交わしただけだが、彼が掛け値なしの善人だと知っている。

 

しかし、リューは初めて彼と会った時からなぜか苦手意識があった。

理由はわからないけど、彼に近寄りたくなかった。

 

大神災の前日。

彼はいつも通り、『豊穣の女主人』に来て、食事をしている。

だが、様子は変だ。

眼が赤くなって、ついさっきまで泣いているようだ。

それとなぜか、普段の食事以外、酒を大量に注文した。それもドワーフの火酒などのきつい酒ばかり。

彼は閉店時間まで、食べて飲んで続けている。

 

「は、はは。普段は簡単に酔えるのに、本当に酔いたい時は酔えないな」

 

ベルが何かつぶやいたが、何を言っているか聞こえない。

彼以外の客が全員帰った時、彼はやっとそれを気づいて立ち上がった。

 

「あ、もう閉店時間なんですか?」

 

「そうです。ご会計を……何があったのですか?」

 

リューが彼の異常を気づいて、少し心配になった。

 

「……数年前行方不明となった家族は死んだ……」

 

ベルはそのまま泣き崩れた。

彼は嗚咽する声がして滂沱とした涙を流した。

そんな彼の姿は年相応の少年そのものだった。

しばらくしたら、彼は涙を拭いて謝罪した。

 

「みっともない姿を見せて、申し訳ございません。ここは酔うような場所じゃないと知ってたのに、他に酒を飲めるいい場所が知りませんでした……」

 

「お悔みを申し上げます」

 

リューが弔いの言葉を述べた。

 

「いいえ、心配してくれてありがとうございます。それでは」

 

その時、ミアお母さんの声がした。

 

「坊主、ザルドとアルフィアの墓はヘルメスが建てた。墓参りしたいなら、あいつに聞け」

 

絶対悪の名前を聞いて、リューははっとした。

彼女はベルに対する苦手意識の理由を理解した。

ベルは顔立ちがアルフィアと似ているから。

 

「知っていたんですか……」

 

「ああ、アルフィアの妹が子供を産んだという噂があってな。さらに、食いぶりはザルドに似てる。彼の子供か?」

 

ベルは苦笑した。

 

「それなら、ザルド(伯父さん)アルフィア(お義母さん)に殺されてしまいますよ。ザルド(伯父さん)は父と同じゼウス・ファミリアだから、色々教えてくれただけです。ミアお母さん。墓のことを教えてくれてありがとうございます」

 

そういうと、ベルは扉を押して外に出た。

そして、翌日。

神々が大神災と称した災いが起きた。

 

下界の危機に、『豊穣の女主人』の元冒険者たちも要請を受け出動した。

 

冒険者たちは最短期間で自分ができる最善の準備を整って、ギルド前の広場で集合した。

フィンはそこでウラノス神が感知した災いの概要と、生還者からの証言を話した。

17階層で三大冒険者依頼と同格のモンスターが現れた。

そのモンスターは一度18階層に行って、その場で《ヘスティア・ファミリア》のベル・クラネルと交戦し、そのまま19階層に落ちていく。

リューは知人の名前を聞いて耳を疑った。

 

ギルドが依頼したいのはそのモンスターの撃破。

もし倒せないと封印が破れ、下界は暗黒期よりずっと厳しい暗黒時代に逆戻りする。

 

相手の現在階層を冒険者たちに教えるため、ウラノス神も出し惜しみをせずに秘蔵の連絡用魔道具『眼晶』をフィンに渡した。

 

「ベル・クラネルは今、単身で黒きミノタウロスと戦って、それをダンジョンの下へと突き落としていく。これはウラノス神も感知した事実だ」

「生還者は、彼が地上の人々のために時間稼ぎをしていると言っていた」

「彼がいなければ、僕たちはここで作戦会議を開くことなく、ダンジョンの悪意に直面しているだろ」

 

それから、冒険者たちは全速で道を進んでいく。

17階層の地獄を見て、冒険者たちは未知の前に震え上がる。

 

古代、数多の英雄が犠牲になって倒した黒きウダイオス、フィアナの蹄跡でようやく滅んだ黒きバロール。

そして、リューにとって忘れ得ない【破壊者】がダンジョンの加護を得て、再び彼女の前に立った。

リューは恐怖した。

しかし、彼女がわずかな勇気を振り絞って【破壊者】の性能を叫んだおかげで、後衛の総崩れを防いだ。

 

こんな地獄があっていいのか。しかし、理性はこれもまた前哨戦に過ぎないと呟いた。

前哨戦の戦力でも、大穴を封じる蓋を無理矢理にこじ開けるほど。

 

絶望的な戦いは、一人の戦士の現れによって終焉に告げた。

その戦士の名はロック。ベル・クラネルの師である。

瞬く間に【破壊者】を倒し、黒きウダイオスの防御を剝がし、黒きバロールを両断した。

それとほぼ同時に、ウラノス神が大神災の消滅を確認した。

 

大神災の後、ベル・クラネルの名前は下界を轟いだ。彼は家族と同じように英雄となった。

それでも、傷を癒した彼はいつも通り『豊穣の女主人』に現れる。

周囲にチヤホヤされることは何一つ彼を変えていないようだ。

 

「僕にとって、今回、あの戦士を倒すことは誇るようなことではありませんよ。だから、何も知らない人の称えは何とも思いません」

 

リューとの世間話に、ベルは笑って答えた。

 

「黒きミノタウロスを倒すことは誇っていません?」

 

「横槍のおかげで相手を倒すことを誇るほど、僕は戦士として腐っていません。ダンジョンが余計なことをしなければ、僕は死んでいました。まあ、そうしたら、ロックさんは彼を倒したでしょう」

 

そして、ベルは周りを見渡した。

普段通りの『豊穣の女主人』。

冒険者たちが騒ぎ、人々は喜んで飯を食っている。

みんな、心の中で明日へと希望を持って、未来に進んでいく。

ベルは、そんな日常を見て、嬉しくて微笑む。

リューはふっと、自分を苦しめたあの問題を彼に聞きたくなった。

 

「クラネルさん。あなたにとって、正義は何ですか?」

 

言い出すと、彼女は後悔した。

これはただのウェートレスとの世間話でするものではない。

 

「忘れてください!無理に答えなくても……」

 

「心。これは正義です」

 

ベルは即答した。

どこかにその問題を聞いたベルの答えは、アストレア様と似ている。

 

絶対悪(エレボス)の問題でしょう?僕も結構考えましたよ。そして、僕の正義は灯火です」

 

「灯火……ですか」

 

「うん、絶望に沈んだ者の足元を照らせる僅かな光に。怒りと悲しみに自分を失う者に己を取り戻す印に。そんな灯火は、僕がなりたいです……実に思い返すとこの答えは四番目のものです」

 

「四番目?」

 

リューから見れば、ベルが述べたものは素晴らしい正義と理想だ。

 

「そうです。最初の正義は、正しい行いをする恩人と仲間たち手助けしたいです。八歳の時の願いだ。あの時は会計、鍛冶などを学び、少しだけ手伝いをしました」

 

「立派ですね」

 

「敵の襲撃を受けた時、僕は非戦闘員と共に逃げて、あとでたくさんの戦闘員が死に、恩人が捕まえられたと聞いて悔しくなってきました……二番目の正義は守りたいという気持ちです。ロックさんが僕の師匠となったのもその時からです。もっとも、ロックさんは護身用のつもりで教えただけで、僕を戦場に連れていくつもりはありませんけど」

 

「…………」

 

「ある千年に続く戦争に巻き込まれた時、僕は偶然に戦争の始まりを知りました。それはとても、とても哀れな始まりでした。三番目の正義は悲しみを止めたいです……最近はこれまでの旅の総決算で、整理してきた結果はこの四番目の正義です。これから、僕の正義は変えていって、それでも本質は変わらない気がします」

 

ベル自身が気付いていないけど、リューは分かった。

彼の正義は優しさだ。

誰かを慈しむこと、前に進ませること。そして、救うこと。

かつて、アリーゼとシルがリューを助けてくれたように、ベルはきっと手を伸ばし続いていく。

 

「クラネルさん。あなたは尊敬に値するヒューマンです」

 

 

だから、ヘルメスから依頼を聞いた時、リューはミアお母さんから休みを取って彼を助けようとした。

 

2、

 

ベルがリリにこれまでの状況を聞いた。

 

彼女たちは竪穴に落ちて、14階層から16階層まで落ちた。

そして、自力で上層に帰還することを諦め、18階層に向かって、ベルの救援を待つことにした。

ベルたちが18階層に到着する前、彼らは18階層についた。

重傷で疲れ果てた彼女たちを救ったのは遠征帰りの《ロキ・ファミリア》だ。

そこで彼女達は治療を受け、ベルと再会した。

 

「やりましたよ、ベル様」

 

「ああ、よくやった。リリ」

 

偉業を果たした家族に、ベルは笑った。

そして、ヴェルフとタケミカヅチ・ファミリアの団員にも謝意を告げた。

 

「いいえ、感謝したいのはこちらです。リリさんが魔法でゴライアスの目を潰さなければ全滅でした」

 

「あの時のリリスケはすごかった……まあ、槍は作り直しだ」

 

「リリの武器は頼みました。これからもよろしくお願いします」

 

そんな風に会話をしている中、ヘルメスだけは少し離れた場所でぼーっとしていた。

ベルのせいで、精神的に大ダメージを受けたヘルメス。

それを見て、アスフィはそっとしておこうと思った。

だが、ベルはヘルメスに近づいた。

 

「よし、ヘルメス。リリたちの無事は確認した。貴様を地上に送ろう」

 

「ひぃ!だ、大丈夫だ。ベル君。オレは18階層でやるべきことがある」

 

引きつった顔で言うヘルメス。

 

「なら言ってみろ。話さないなら地上へ送る。もし神災を起こしたら、貴様の同行を許した僕の責任だ。言え」

 

ベルは本気で怒っていた。

ベルの威圧感に気圧されて、ヘルメスは口を開く。

 

「オレはこの目で確かめ、見極めたいんだ。ベル君。君はこの時代を担うに足る英雄(うつわ)であるのか」

 

ベルは完全に呆れた。

 

「それは理由なのか?」

 

「ベルさん、あなたの怒りは当然のことですが、どうか落ち着いてください。」

 

深呼吸して、ある程度冷静になったベルは言った。

 

「……救援に手助けくれたことに感謝いたします。報酬はこれです」

 

彼は任務報酬である魔導書をアスフィに渡してから、ここから離れた。

そして、ヘルメスはアスフィに聞いた。

 

「今回の救援行動について、どう思うか?アスフィ」

 

「ベルさんは文字通りの世界最速。足枷がなければ、私たちは遭難者が接敵する前にゴライアスを倒したか、あるいは17階層で合流できました」

 

「うわ」

 

「もう嫌です!ベルさんとの関係が悪化したとみんなに報告しなければならない私の心境を考えてください!」

 

前回の任務をきっかけに、ベルと友人になった団員が多い。

アスフィは仲間たちの顔を思い出すと胃が痛くなる。

 

 

翌日、ベルはリューに連れられ、森に入った。

彼女は確固とした足取りで木々と水晶の間に進んでいく。このあたりにはモンスターもいないらしい。

しばらく歩くと、彼女の目的地に辿り着く。

そこには墓場があった。

木の一部を紐で結ばれて作られた十字の墓がいくつも並んでいる。

 

「リューさん、これって」

 

「私が所属していた、【ファミリア】の仲間の墓です」

 

彼女は森で集めた白い花を墓の前に添えていく。

そして、ポーチから取り出した小瓶――お酒を特定の墓に飲ませていた。

ベルが黙禱を捧げようとした時。

 

「待て、まず私たちのことを聞いてください――私が所属していた【ファミリア】は《アストレア・ファミリア》です」

 

ベルは一瞬凍てついた。

そのファミリアのことは知っている。

正義の女神を信仰し、かつてアルフィア(お義母さん)を倒した派閥だ。

そして、残った団員はただ一人。

 

「リューさんはあの【疾風】のリオンですか」

 

「そうです。それともう一つ、【静寂】を倒したことについて、私は一切後悔していません。私の仲間も同じです」

 

ベルは僅かな間、佇んでいる。

そして、墓に黙禱を捧げた。

 

「お義母さんは自分の死に場所を選びました。あなた方は彼女の願いを叶えました。事実はそれだけです。そして、僕は彼女の決断を反対し続けます」

 

ベルは立ち上がって、リューに見つめた。

 

「どうか、彼女の最後の軌跡を教えてくれませんか?」

 

そして、リューが堕ちた英雄の軌跡を語った。

あの正邪決戦。

 

死の病に侵され。

命の期限を残り僅かとし。

儚く消える雪の結晶のように、己の運命をすり減らしておきながら。

彼女、ベルのお義母さんはあの時、なお『英雄』だった。

ベルは目を瞑った。そして、一礼した。

 

「話してくれて、本当にありがとうございました」

 

「それは私たち、いや、私があの英雄の遺族にできる唯一のことです……彼女の遺言を聞いておきながら、私は復讐に堕ち、正義を失いました」

 

【疾風】のリオン。

家族のことを調べている時、ベルは彼女がやったことを知った。

仲間が失って、彼女はあらゆる手段を使って仇である《ルドラ・ファミリア》を壊滅させた。

疑わしいだけの人々でさえ彼女の犠牲者となった。だが、そんな彼女を責めることはできない。

ベルにとって、大切な家族を失った悲しみは理解できるからだ。

それと。

 

「リューさん……前に話した千年も続いた戦争。それの始まりは誤解による謀殺、そしてそれに引き起こした復讐です」

 

ベルは竜詩戦争を想起する。

 

「その復讐者はエルフのような長命種で、父のように世界の守護者になろうとする孤高の戦士で、一族の長。惨劇の始まりは言葉による僅かな誤解です」

 

「言葉の誤解ですか?」

 

「彼の妹の発言により、『守護者』という言葉は支配などに誤解されました。そして、人々たちはこれまで築けた絆より、その失言を信じ、彼の妹を謀殺しました。その光景を見た彼は狂いました。たとえ彼の仇たちが死に絶えても、その憎しみが消えていません。彼は自分の一族を復讐のために使いつぶし、仇の子々孫々を殺し合うようにそそり立ちました。彼は許せなかったです。仇も、守れなかった自分も、永遠に苦しめばいいと思っていました。永遠の贖罪、あるいは滅亡こそ彼の願いでした」

 

「なんという惨い、救いようがない……そんなものは決して正義ではありません」

 

リューは吐くように言った。

ベルも同じ思いだ。

 

「そうです。彼の正義は家族で、憎しみによって曇っていました……でも、彼は今贖罪の道を歩んでいます。子孫たちを己の憎悪に巻き込むことを悪と思い、そのことについて悔やんでいます」

 

ベルは思わずリューの手を取り、まっすぐに彼女の目を見つめた。

 

「リューさん。彼と同じ、あなたの正義は決して失っていません」

 

「なにを」

 

「復讐は暗い雲のように、正義を覆い隠します。リューさんはその時、それを見失っただけ、そして今、正義はまだあなたの心に輝いています」

 

「違う!」

 

「伯父さんとお義母さんが死んだと知った僕に、リューさんは心配してくれました。それは正義です。僕の家族を助けるために、リューさんはここまで来ました。これも正義です……正義はそういうものでいいんです」

 

ベルはリューの手を離した。

 

「僕を、心配してくれてありがとうございました」

 

リューは目を見張った。

少しだけ晴れた顔でベルに言った。

 

「こちらこそ、ありがとうございます。クラネルさん」

 




ヘルメスの同行について、ヘスティアはあとで激怒した。
彼女は大神災でベルがどれほどの死線を超えてどのような犠牲を払ったのを知ったから、鬼のような顔でベルに対する接触禁止令をヘルメスに言い渡そうとしたが、ベルに止められた。
「《ヘルメス・ファミリア》には友人がいるから、接触禁止令はやめてください。神様の気が済まないなら、ヘルメスが自分の欲望を満足するため僕を付きまとうとするという手紙を、お婆さん(ヘラ)に送りますよ。昔、お義母さんが連絡方法を渡してくれたから、ヘスティア様が許したらすぐに書きましょう」
「ベル君、結構えげつないね」ヘスティアは顔を引き攣った。

その後、ヘルメスはベルが書いている手紙の内容を知って、ヘスティアに土下座して許しを求めた。
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