ヒロインは青髪年上巨乳と
赤髪下品お嬢さまと黒髪の妹と銀髪ののじゃロリを予定しています!
足元の灯りが僅かにその先を示す鉄製の廊下。真昼であるにも関わらず、ここは海底のように暗い。狙撃対策、諜報対策にしてもやり過ぎだ。
殺し屋のバブルフェイスがここに訪れるのは6回目だった。最初に来たときは目が慣れず、廊下にいくつも置かれている観葉植物の鉢を蹴倒してしまい、ずいぶんと焦ったものだ。
鋼鉄製の扉を開け、無造作に置かれた椅子のひとつに座ったバブルフェイスは同じく席に着いている者たちを見る。若いルーキーもいれば、仕事で殺し合ったことのあるベテランもいる。
異常な光景だ。人を殺すことを生業とした異常者どもが大人しく顔を伏せている。
それほどまでに彼は恐ろしい。
しばらく経ち、慌ただしく扉が開けられた。新顔らしい。時計を見るまでもなく、指定の時間は過ぎている。殺し屋にとって、時間とは絶対に厳守しなければならないものだ。
隠された地下通路をいくつも抜け、ダミーの扉に騙されず来る必要があるとは言え、集合場所に時間通りに着けないやつは無能な殺し屋だと相場が決まっている。
扉の対角線上、車椅子に座った骨と皮ばかりの老人がくつくつと笑う。老人の後ろには大きな肖像画が置かれ、近くにある立派な観葉植物と共に威圧感を放っている。
「ここに呼んだのは7分遅れのきみで最後だよ。最近困ったことに孫娘が死体撃ちにハマっていてね……。きみは死体になってもらう。連れて行きなさい」
老人の言葉に動揺を隠せない新顔であったが、ろくな抵抗もしないまま、老人の傍らにいた男たちに連れて行かれてしまった。
「さて、仕事の話だ。ここからは楽にしても構わない。知っての通り、私は若者の軽口を聞くのが好きでね。どんどん質問しなさい」
老人……
「彼は
けれど、その異能には大きな弱点があった。彼らは夜にしかその力を発揮出来ない。ゆえにいくら強力な星者が現れたとしても、現代兵器で昼間に奇襲すれば簡単に殺せるのである。
死渡界蔵が口に出した“聖女”もそのひとりだ。だが、彼女の異能は多くの国や紛争地域に大きな利権を産む。他の者をいくら巻き込もうとも、彼女だけは殺してはならない。それが裏社会の暗黙の掟なのだ。
「死渡グループに泥をつけた……確かにそれは死に値します。ですが、
複数の殺し屋を集めて、互いに競わせながらたったひとつの標的を始末する。
それには界蔵の道楽も含まれているにせよ、これまでその対象と言えば組織であった。相手が個人であれば、界蔵の私兵だけで殺せるだろう。
複数の殺し屋に情報を与えて、多額の報酬を支払う必要は無いはずだ。
「バブルフェイスくんの言いたいことは分かるよ。だけど、どうもこいつはただの星者ではない。娼館をひとつふたつみっつと踏破し、情報網を構築。そして最初にボスの首を取って混乱した幹部たちをひとりずつ殺してゆく……。時間をかけてくれたおかげで私も情報を得られたけど、正面からでは相手したくないね」
「ひゅー。娼館を3つ踏破? そいつはとんでもねー絶倫なんですな。しかしですよ、ボス。現実的に考えるなら、そんな手段を採れるやつがひとりだとは考えにくい。今回の標的は竜噛透太の一派ということですかい?」
白いハンチング帽をかぶる殺し屋、ローガが質問した。彼は凄腕の狙撃手だ。相手が複数であるならば、当然採るべき選択は変わってくるし、妥当な疑問であった。
「いや、ひとりだよ。彼はその国の大統領の娘と警察の長官の孫娘と諜報機関の長の妹に手を出していたらしく、追放されることになったんだ。いやはや、国を救ったヒーローの種くらいありがたく頂戴しておけばいいのにね。そういうわけで彼はひとりで日本に帰国。そのあとは“聖女”のツテを使って
さすがに呆れた状況だ。死渡グループの恩恵を受けた組織を潰すとなれば、多くの協力者が必要不可欠。女を籠絡させるのは常套手段ではあるが、自分の首を絞めているようでは本末転倒。
ディスプレイに映し出されている金髪の少年からはあどけなさすら感じる。そう言えば、この場には女性の殺し屋がいない。絶対数は少ないが、いつもなら数人はいるはず。
いや、正確には女はいるのだ。バブルフェイスの斜め前に座る少女……いや、童女だろうか。漆黒のレザースーツを身に纏う小学3年生くらいの銀髪の女の子。
いくら標的が女狂いだとは言え、彼女が籠絡されることはないと界蔵は判断したのかもしれない。
「な、なるほど。理解しやした。ひとりってんなら狙撃でカタがつく。今回の報酬はオレのもんだ」
「やれやれ、相変わらずおめでたい頭をしているのだな」
そうやってローガの早すぎる勝利宣言に待ったをかけたのは上から下まで真っ青の服を着たメガネの男だった。
ローガよりも年季の入った殺し屋である
「んだと」
「その写真をよく見たまえ。そいつは会長の言う通り、ただの星者ではない。言葉通りね」
「ああ……!? 何言って……ん? この写真、ずいぶん明るい。炎で照らし出されてるわけじゃない。……昼間だと!?」
「ようやく気付いたか。分かるかね?
界蔵がくつくつと笑う。もちろん彼は竜噛透太が昼間に異能を使えると知っていただろう。愚かに突っ込んでカウンターで殺される者が現れれば面白いと期待していた、と見るべきか。
そして。この場にいる誰も気付かなかったが、死渡界蔵と彼からの依頼を受けている殺し屋たちの会話を盗み聞きしている者が存在した。とは言え、殺し屋たちにそれを想定しろというのは酷な話だ。
パチパチと爆ぜる暖炉の炭の下にお粗末な盗聴器が仕掛けられているとは誰も思うまい。
「す、すごい話を聞いてしまいましたわ。おじいさまがマジで危険に考えていらっしゃる
惜しげもなく晒した美しい裸体に真紅の髪が垂れていた。彼女の名は
「なんか途中で聞こえなくなりましたけど、問題ありませんわ。マフィアを潰した男をわたくしの愛銃でド派手にブチ殺し、その死体を煌鉄高校の校舎に飾り立てる……。ふふふ、こんな実績を立てれば、おじいさまやおかあさまと同じく、煌鉄高校の生徒会長になれること間違いなしですわー!!」
もっとも頭脳までは受け継げなかったようだ。杜撰に設置されていた盗聴器が暖炉の炎で完全に機能を停止し、芽久が聞くことの出来た会話は竜噛透太が煌鉄高校に入るまでであり、ローガと
「ふふふ! 楽しみ! クラスのみなさまと死体を的にしたゲームを開催する手もありますわね。でも、その場合は死体が足りなくなる。おじいさまにもーっとねだらなくちゃいけませんわ」
キラキラと純粋に目を輝かせる
空。プライベートジェットの揺れで少年は、竜噛透太は目を覚ました。アイマスクを外し、数多くの女性を虜にしてきた泣きぼくろが外気に晒される。そんな透太のチャームポイントに見惚れているのは彼の横に座っている女性。
ふんわりとした純白のドレスはまるで
透太が起きたことに気付いた彼女は慌てて顔を反らせ、飛行機に乗り込む前と同じく「怒っていますよ」というポーズをとる。
透太は手を伸ばし、彼女の青い髪をピアニストのように白い指で空いてゆく。
「ルリヲは怒っている顔もかわいいね。でも、そろそろ機嫌を直してくれると嬉しいな」
「むー……透太くん、ぜんぜん反省してない。あたしの仕事が忙しくて退屈に思うかもしれないって事前に言ってあったよね?」
「そうだね。でも、ルリヲは慢性的な水不足に苦しめられている国の人たちを救うという仕事に取り組んで来たんだ。その退屈さすら愛おしかったさ」
「女の子と遊ぶためのお金もあげたよ。毎日、高級娼婦を買っても1年は保つくらい」
「うん。ルリヲの心遣いのおかげで俺は毎日のように楽しい日々を過ごせた。それは間違いない。……途中で足りなくなったけど」
「知ってるよ。言ってくれたら出したのに、透太くんは
「ごめんね。でも、話が逸れてるよ」
「あたしは苦しむ人たちを助けたかった。彼らが水不足に喘いできたのは国の高官たちが汚職に塗れ、それらを助長してきたシャイタンファミリーのせいだった。だけどね、あたしは彼らを殲滅しろだなんて言ってないよね!?」
「女の子たちがあまりにも酷い職場で働いてたから、つい。それに今回は皆殺しにしてないよ。仕方なくマフィアに属していた人は見逃したさ。そのせいで死渡グループに目をつけられてしまったかもしれないんだけどね、あはは」
「人ごとだなぁ、もう……!」
破天荒な透太の行動に怒っているのはルリヲ・レイン・アンダーバー。水星の
幼い頃から弱き者のために頑張っている姿は黄金の瞳と果てのない空のような青い髪も相まって絵になる。
煌鉄高校を卒業してから4年。現在は無職の“聖女”だ。彼女の働きによって生み出される利権はルリヲの両親や透太の義理の両親に管理されている。それがまた新たな火種になっていることに彼女は目を瞑りつつ、世界に平和をもたらしてきた。
目下の悩みは幼馴染の透太があまりにも女の子に甘いことである。このぶんでは日本でも大きな事件を起こすだろう。いつの間にか髪から胸の辺りに移動している彼の指を掴み、小さく睨む。
「あのね、透太くん。煌鉄高校では大人しく出来るよね? 日本の女の子は怖いから気を付けないといけないよ」
「え? でも、煌鉄高校に通う女の子たちはいわゆる名家・資産家の子供たちなんだよね。つまりは上品なお嬢様、そう、“大和撫子”だって玄羽から聞いてるよ」
「そんなのはごく一部。甘やかされてて常識が無くてお馬鹿で容易く破滅的な道を選ぶ者が大半。透太くんがまんまと騙されて酷い目に遭うとは思えないけど、今回みたいに適当に遊んでポイってわけにはいかないよ。人生についてまわる汚点と化すよ」
ひどい言いようだが、これはルリヲが煌鉄高校で3年間過ごした正直な感想であった。
「えええ……。心外だな。俺は適当に遊んだつもりはないよ。確かに今回は国を追われることになって、ルリヲの手を煩わせてしまったけど、いつも本気さ」
「なお悪い!!」
「怒っている姿もかわいいとは言ったけど、俺はルリヲの笑顔が好きだ。きみには笑ってほしいな。煌鉄高校では普通の男子高校生として目立たないように頑張るつもりだよ」
「ぜんぜん信用できないよ。玄羽ちゃんで我慢出来ない? あの子クラスの美少女は煌鉄高校にはいないんだから、それでいいでしょう?」
透太の本妻を自称するルリヲは彼が禁欲など到底出来ないと理解しており、受け入れられるボーダーラインをいつも設定している。
高級娼婦しかり、義理の妹しかり。
「かわいい女の子、美しい女の子、かっこいい女の子、スタイルのいい女の子、でも女の子の魅力っていうのはそれだけじゃないんだ。俺ならその範疇に収まらない子でも愛してみせるさ」
「なお悪い!!」
「大丈夫。避妊はしてるから」
それだけはルリヲも心配してはいなかった。世界には多くの
「……はぁ。もういいよ。透太くんに本気で自制を求めるのは酷だよね。あたしが頑張って香川県の仕事を早めに終わらせて、夜を拘束したらいいだけの話だし」
「あれ、次の仕事って日本なんだ?」
「そうだよ。3年前に行ったときは大量のうどんを茹でるために水を生み出してくれって言われて怒りそうになったけど、今回はそうでないといいな」
「“聖女”って大変だね」
ルリヲは透太の言葉に力なく頷き、大きくため息をついた。しかし、こんな依頼が来るということは日本が平和である証だと言えよう。平和な国では透太がトラブルを起こすキッカケなんて色ごとに限られる。
“悪女”と名高い玄羽が何かに巻き込まれる恐れはあるが、それもまた透太絡みだとも言える。実際、彼が日本から離れている間は何も起きていない(金相場を崩壊させかけたこと以外)。
きっと日本であれば平和に日々を過ごせるはず、そうルリヲは思い込むことにした。
竜噛透太(17)
金髪。
ルリヲ・レイン・アンダーバー(22)
青髪。