星と繋いだ証の炎【完結】   作:ササキアンヨ

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念のためガールズラブのタグを入れました


③愛ゆえに

 

 広々としたダイニングに透太(とうた)芽久(めく)はいた。芽久は昨日初めて使った筋肉が痛いらしく腰の辺りを手のひらでさすっている。

 高級感の漂うテーブルにはベーコンとキャベツ入り目玉焼きが置かれている。3人分のごはんからはうっすら湯気が立ち昇る。ネギ、玉ねぎ、わかめが入った味噌汁はアツアツだった。

 

「いただきます」

 

 この朝餉を用意したのは葉火瀬(はかせ)玄羽(くろは)。透太の義理の妹だ。黒髪をポニーテールにして煌鉄(こうがね)高校の制服、特にスカートを改造しており、えげつないスリットを入れている。スカートも短く、日々の手入れを欠かさない脚線美はセクシーだ。

 

「ウマイですわ!」

 

「どんどん食べてくださいね。芽久先輩は未来のお姉ちゃん候補なんですから。それはそうと、昨日はお楽しみでしたね?」

 

「おや、拗ねているのかい。それなら今夜は玄羽と芽久、2人を可愛がってあげようかな」

 

「ん? 玄羽ちゃんは妹なのでは?」

 

「義理の妹さ。もちろん血が繋がっていたのだとしても、この愛は変わらないけどね。芽久も初めてにしては上手だったし、俺も2人を楽しませてみせるから期待していてね」

 

 芽久は詳しく質問することを避けた。それにどちらにしても、昨日のようなお遊びが毎日続くとなると、日々の生活に影響が及ぶ。生贄は自分と玄羽だけではむしろ少ないかもしれないと考え、そこで透太の“狙い”に思い至った。

 

 とろとろの目玉焼きを頬張り、温かいごはんを食べる。こんな安穏とした食卓を囲むことは芽久としては久しぶりであった。玄羽がすりおろしたリンゴジュースを飲み、一息つく。

 透太は彼女の幸せそうな顔を見て煌びやかな笑みをこぼす。

 

「さて、俺は昨日死渡(しわたり)グループの会長を殺した。これで殺し屋たちに支払われる金は無くなった。いや、依頼そのものが消滅したと言って良い。だけど、俺にはまだ用事があるんだ」

 

「分かっていますわ。女の子の殺し屋についてでしょう。爆瀬(ばくせ)厘須(りんす)。銀髪の小さな女の子ですわね。彼女も星巫女(ほしみこ)であることは判明していますが、どの星と契約したかは不明ですわ」

 

 透太の頭の中は女の子のことでいっぱいだ。単なる性欲と片付けられるものではなく、それは信念もしくは生きていく上での指針と言っても良い。

 彼のことを熟知したルリヲや玄羽はもちろん、透太の行動理念は把握している。けれど、会ってからたったの1日しか経っていない芽久がここまでの境地に達しているのは驚くべきことだ。

 玄羽(くろは)は打てば響くような芽久の言葉に感心した。

 

「一応聞いておきたいんだけど、芽久さんは他の殺し屋についての情報は有るんですか?」

 

「そうですわね。呼び出されていた中での最強はバブルフェイス。彼も星者(リアクター)で、土で作ったゴーレムを使役しているとか。あと、悪行罪業なんでもござれの脈宮空(みゃくみやくう)。警戒すべきはそのふたりですわ」

 

「情報ありがとう。芽久お姉ちゃん!」

 

「お姉ちゃん!? まぁ、そうですわね! いずれ、わたくしと透太さんが結婚するのは目に見えていますし。なんだか興奮してきちゃう」

 

「今の日本の法律では重婚は出来ませんが、お兄ちゃんのため、ルリヲお姉ちゃんのため、芽久お姉ちゃんのため。ボクはいーっぱいお金を稼いで法律を変えちゃいますよ!」

 

 玄羽の好きなものは金だ。しかし、金を稼いだ先のことはしっかりビジョンに入っている。自分の好きな人を枷から解放すべく、身を粉にして働いている。

 ルリヲが“聖女”と持て囃されるのは対価を取っていないからだ。一方、玄羽はルリヲが知らないところで彼女が生み出す利権を両親と共にコントロールしている。

 

 貧しい者が水と食料と安全を得たら、次は衣服と住居、そして学問と娯楽。人々は同じものに満足しない。もっといいものを貪欲に求める。その先を見据えて、玄羽は商売をしているのだ。時には法外な値段で売り付け、わざと怒りを買って血生臭い戦いに持ち込むこともある。

 

 ゆえに玄羽は“悪女”と蔑まれている。だが、玄羽には信念がある。夢がある。完遂するためならば、どんなことでもしようとする覚悟があった。すべては愛ゆえに。

 

「気合十分だな、玄羽。よし、芽久も聞いてくれ。これから俺は爆瀬厘須(りんす)と戦いに行って、仲間にしてくる。その間、玄羽はバブルフェイスと脈宮空(みゃくみやくう)について詳しく調べておいてくれないか。玄羽は戦い慣れていないから、芽久には彼女のガードを」

 

「ラジャーですわ!」

 

「お兄ちゃんたら、またボクを子供扱いして……。まぁ、いいか。芽久お姉ちゃんには馬車馬の如く働いてもらうからね!」

 

 

 透太が玄関から出ると芝生の庭にいくつもの彫像が立っていた。光り輝く黄金だ。数えてみると6体。

 サラリーマン風の冴えない男。小太りの女。いかにも身を持ち崩したのであろうチンピラAと不幸にも逃げ遅れたチンピラB。銃を構えたスーツ姿の中年男性もいた。死渡グループの殺し屋だろうか。ふと、見たことのあるやつもいた。煌鉄高校の男性教師だ。気持ちの悪い顔をしている。

 

 玄羽の悪癖には透太も顔を引き攣らせる。玄羽は金星の星巫女である。有する異能は『相対価値(ゴールド・ストーン)』。触れた固体か液体を純金に変える。相手が人間であろうと戦車であろうとお構いなしだ。金の彫像と化した人間に意識が無いことを祈りたい。

 

 今回の大目標は爆瀬厘須(りんす)の懐柔。けれど、星巫女(ほしみこ)たる彼女と戦うためには夜であった方がいい。異能が使える状態で勝たないと相手の心を折れないからだ。

 

 まずは時間までの暇つぶし。死渡グループの息のかかった殺し屋を雑魚から殺してゆく。道に生えた街路樹、飛び回る蠅、そのすべてを『生命の呪縛(バイタル・カース)』で制御し、彼らが感じ取った物事をこちらの脳味噌で理解する。

 

 誰がどの道を曲がったのか、どこの家で住人を殺害して仮の住まいとしているのか。

 会長が死んだことで死渡グループは大きく混乱している。透太はその隙を突いて、殺し屋を焼き尽くす。焼き滅ぼす。街のチンピラが集まるところに放射能を発生させ、強制的にその場所から引いてもらう。

 

 玄羽のバックアップのおかげで残存戦力はあと1割ほどだろう。時刻は19時。夕食を食べるのを忘れていた。力の抜けた状態で勝てるほど甘い相手であればよいが。

 

 彼の目の前には銀髪赤目の童女がいた。体のラインがよく分かるピチピチのレザースーツだ。人払いも兼ねてここまで追い込んだのだが、どうやら、向こうもそれは分かっているみたいだ。

 

「やぁ、厘須(りんす)ちゃん。なかなか個性的でかっこいい服を着ているね。スーパーマンみたいだ」

 

「ワシのコンセプトを一目で見抜くとはやるのお。しかし、女狂いと聞いていたんじゃが、ひとりか?」

 

「厘須ちゃんとはサシで勝負してみたかったからね」

 

「ほう、おぬしはなかなか分かっとるやつじゃ。顔も良いし、ワシが勝ったら貴様を奴隷にしてやってもいいぞ、クフフ」

 

「じゃあ、俺が勝利したら厘須ちゃんは俺の奴隷になってくれるってことかい。良い話だ」

 

 夜の公園で戦いは始まった。厘須は銀の髪を一気に伸ばす。伸ばした髪はもこもこと弾力のある素材に変化していくようだ。彼女が取り出したのはデリンジャー。奇襲性の高い小型の拳銃だ。もう片方の手では切れ味の鋭そうなナイフを持っている。

 

 ナイフで髪を切り落とした。髪……いや、それはもう綿であった。綿は透太に接近し、彼を窒息死させようとする。けれど、彼は手を軽く振るだけで綿は燃える。どうやら、透太の異能の相性と厘須の異能の相性はすこぶる悪いらしい。

 

「やってられんの。この綿はあらゆる打撃・衝撃・斬撃を弾く絶対防御の盾! しかし、炎には滅法弱いんじゃ」

 

 厘須はベテルギウスの星巫女だ。無限に髪を伸ばし、伸びた部分が綿になる。綿は水や雷を防ぎ、物理攻撃すらもろともしない。唯一、炎を除いては。『黒羊白魔(デーモン・シープ)』、それが彼女の異能であった。

 

 そして、厘須はお手上げのようなポーズを取った。

 

「俺の勝ちだ。いいかい、今日から厘須は俺の奴隷ってことでよろしく」

 

「よかろう、ぬし様。これからどうするんじゃ?もし予定が空いているのであれば、ワシの専属料理人がやっとる店に行かんか」

 

「……いいよ」

 

 戦いはあっさり終わり、2人はラーメン屋〈三郎〉に着いた。客はいない。というか、表には休業中とあったのに。厘須は無愛想な店主に「ニンニクヤサイアブラマシマシメンカタカラメ」と呪文を言う。

 透太にとっては全く意味の分からない言葉の羅列である。彼は小ラーメンを頼んだ。

 

「ここはワシだけの店じゃ。任務が終わったらここのラーメンを食べることが日課でのう」

 

「それにしても厘須はずいぶんと古い言葉遣いをするんだね。かわいいよ」

 

「これはトラディショナルでジェンダーフリーな大人の言葉遣いじゃ。気に入ったら真似してくれて構わんぞ。おお、既に良い匂いがしてきた」

 

 ニンニクの匂い、豚肉の匂い、スープの匂いが漂う。しかし、透太はこれだけでお腹がいっぱいになってしまいそうだった。

 

「用事はこれだけかい?」

 

「まさか。脈宮空がぬし様の妹を狙っておる。それを伝えたくてのう。どういうやつか知っておるか?」

 

「聞いておきたいね」

 

「狂人じゃ。殺し屋の界隈でも鼻つまみ者よ」

 

「強い?」

 

「残念なことに頭が回るタイプのクズで強い。生粋のロリコンでのお、年端もいかぬ少女から眼球を摘出し、己のコレクションとしておる」

 

「許せないね……!」

 

「うむ。ぬしさまが普通の感覚を持っていると知って嬉しいのお。とは言え、やつの居場所は分からん。こちらから攻めるのは不可能じゃろう。囮でも使って誘い込む手段しか取れまい」

 

 ラーメンが届いた。厘須の前にあるラーメンからはひどく濃厚な香りがした。もやしが山のようになっており、小ラーメンを頼んだ透太の状況判断能力は優れていると言えよう。

 厘須は緩やかにうねる銀髪を紐でくくり、ラーメンを食べるための臨戦体制に移る。小さな体躯は湯気に晒されて艶めく。

 

「厘須は俺が炎使いだと知っていただろう? キミの綿とは相性が悪いと事前に分かっていたはず。なぜ戦いを挑んだんだい。奴隷になりたかったのかな?」

 

「……クフフ、実はワシは脈宮空と同盟を結んでおるのじゃ。ぬしさまの足止めをする。それがワシの役割よ。女の誘いを中座して戦いへ赴くほど、ぬしさまは無粋ではなかろ? ……まぁ、小ラーメンを頼むとは思わなんだが」

 

「つまり、俺がこのラーメンを食べ終わったら玄羽の救援に向かっていいわけだ。まったく、悪い子だね? ベッドでたっぷり可愛がってあげるから覚悟しておくといい」

 

「……は? ワシはまだ10歳じゃぞ? もしかして手を出す気でおるのか!? このケダモノめ!」

 

「ははは、大丈夫さ。最後までいかなくとも愉しませる術はある。俺のかわいい妹を狙った殺し屋の仲間なんだ。それくらいの横暴は許されるだろう?」

 

「むむむ、分かった。覚悟しておく。……むちゃくちゃドキドキするんじゃが!?」

 

 厘須は山盛りのもやしを前に悶えていた。彼女はそこらへんの同年代の女子よりも遥かにハードな経験をしてきた。

 けれど、そういうのは初めてだ。年頃になれば標的を色仕掛けで落とし、殺すという仕事も甘んじて受け入れるつもりであった。だが、まさかこんなに早く……己が身を捧げるハメになるとは、予想もつかなかった。

 

 赤くなる顔を隠すように厘須は小さな手のひらで透太からの視線(彼はいまラーメンに夢中であったが)を隔てる。

 事前に確認しておいた情報よりも男前な透太の顔を指の間からチラチラと盗み見る彼女は年こそ幼くとも間違いなく女であった。

 

 

 港にほど近い場所。貸し倉庫が並ぶ一角で脈宮空は“商談”を行なっていた。相手は2人。

 漆黒の髪をポニーテールにしてうなじからは色香を漂わせる少女。煌鉄高校の制服は半ば切り裂かれ、脇腹には血が滲んでいた。

 もうひとりは真紅のロングヘアを冷たい倉庫の床に垂らした少女。彼女は力なく横たわっており、右腕は折れ曲がっていた。

 彼女たちが身じろぎするたびにジャラジャラと大きな鎖が鳴る音がする。

 

「痛ェですわ……」

 

「暴れすぎだよ、お嬢さんたち。上を見たまえ。もはやここはほとんど屋外だ。頼れる部下も巻き込まれて死んでしまったし、私の損害はかなりのものだ。これはもう、お嬢さんたちの眼球だけでは補填が効かない」

 

 芽久(めく)は骨折の痛みに耐えながら脈宮空(みゃくみやくう)を睨む。透太に玄羽(くろは)を守るように言われていたのに、こんな事態になってしまったことを彼女は恥じていた。

 真っ青なスーツとズボンに身を包む目の前の男は少女の眼球に性的興奮を覚える変態だ。芽久と玄羽を前にしてもなお、彼は眼球をコーティングした赤いマフラーを撫でている。

 

「玄羽クンには私と専属契約を結んでもらいたい。キミが齎す黄金は私の糧になる。死渡グループが潰れてしまったいま、殺し屋たちを教え導くほどの存在は私しかいまい」

 

「何を偉そうに。ボクたちをこんな目に遭わせて……地獄の劫火に焼かれたいのかな」

 

 玄羽が憎まれ口を叩く。だが、彼女はいま、触れたものを黄金に変えるという異能を半ば封じられていた。手錠で拘束され、その最強の手は空を切っている。

 “商談”のためか玄羽は大した怪我は負っていない。だが、横で転がっている芽久は重傷だ。右腕だけではなく、あちこちの骨が折れているに違いない。交流して僅か1日の仲ではある。けれど、同じ星巫女、同じ男に恋焦がれ、そして玄羽を目掛けて落ちてきた流星をその身を挺して庇ってくれた。

 そんな人を死なせるわけにはいかない。

 

「……分かったよ。黄金だけで済めばコラテラルダメージだと受け取っておこう。ボクとボクの両親はおまえに従う。それでいいかな。良しとするのなら、救急車を呼んでくれ」

 

「ダメですわ……玄羽さん。こいつはどうしようもない悪。一度捕まったら二度と離さない。それに黄金だけで済むわけがない……!」

 

 脈宮はメガネを光らせ、にこりと笑う。そして思い切り、芽久の折れ曲がった右腕を蹴り飛ばし、何度も何度も踏み付ける。彼女はその痛みで絶叫する。

 

「やめろ! 芽久お姉ちゃんを傷付けるな!」

 

「“悪女”とあろうものが情けないですね。芽久クンの言う通りですよ。口約束など何の意味も無い。あなたは今から私に心を折られるんです。芽久お嬢さんの眼球を奪い、空いた穴に私の●●●(ピー)が突き立てられるのをたっぷり鑑賞していてください」

 

「なっ。やめろ! やめて! やめてください!」

 

 玄羽は悲痛な声を上げる。脈宮は嗜虐的な笑みを浮かべて己の殺し屋としての本能がくすぐられるのを感じた。

 

「玄羽クンったらかわいくなっちゃいましたね。そちらの方が私好みですよ」

 

「ふふふ、上ッ等ですわ! テメェの汚ェナニがわたくしに入った瞬間、雷撃でおファックしてやりますわ! 覚悟しておいてくださいまし!」

 

 折れた肋骨が肺に突き刺さり、口から血液を吐きながらも芽久は吠える。実は彼女にはもう異能を使うほどの余裕は無い。あまりの痛みにすぐにでも意識を手放してしまいそうだ。

 だが、彼女は少しでも時間を稼ぎたい。そうすれば透太が助けに来てくれる。流星を降らす脈宮は強かったが、彼が負ける姿は想像がつかなかった。すべては愛ゆえに。

 

「いいですねぇ! いつまでその気概が保つかどうか、試してみますか!」

 

 今から芽久は死よりもひどい結末を迎える。最悪な終わりを覚悟して、いや、出来なくて玄羽は怖さのあまり震えた。

 

 

「助けて。助けて。お兄ちゃん…………!」

 

 

 瞬間。脈宮と芽久の間に鋼鉄の如く鋭く重い壁が走った。ふわふわと柔らかく浮く壁は透明で三者三様の驚いた顔が互いによく見える。

 

 これは水だ。

 

()()()()()が助けにきたよ」

 

 ルリヲ・レイン・アンダーバー。“聖女”として香川県の水不足を無償で救ってきた彼女が天女の如く神々しく舞い降りる。操る水を浮かせてそれに乗っているのだ。

 

「まさかそちらが来るとは……。港の近くで事を及んだのは失敗でしたか。しかし、ここで引き下がることは出来ませんねぇ」

 

 脈宮はマフラーから眼球をぶちゅっと取り出す。ふわふわと浮遊する少女の目は恨めしそうに脈宮を見ている。目の周りに次々と見えない壁が押し付けられて苦しげに圧縮されてゆく。

 

「少女たちの命の輝きを見よ……!」

 

 巨大な岩塊と化した眼球がオレンジ色の火炎に包まれて周囲の水を薙ぎ払う。ルリヲは冷静に飛び退き、芽久と玄羽が繋がれた鎖を高圧力のウォーターレーザーで切り裂いた。『王たる雫(ティアラ・ドロップ)』。それがルリヲが水星と契約した証である。

 

 眼球は……いや、流星は倉庫のあちこちを暴れ回るように高速で移動した。弾丸のように殺到する水の雫を回避し、倒れて動けない芽久に向けて落ちてくる。

 

 流星を破壊出来ないと判断したルリヲが水の層を幾重にも張り巡らせた頑強な壁で防御する。壁は流星が発する熱で瞬く間に蒸発した。けれど、ルリヲは消滅した端から水を無から生み出して壁を構築し直す。すると、ぶちゅっと音がして眼球が粉砕した。

 

「ちっ。15歳のモニカでは保ちませんでしたか。やはり、年増はこれだから困る……」

 

 悪辣な呟きと共に脈宮はマフラーから新たな眼球を取り出した。

 

「星巫女ばかりで壮観ですね。私はあなたがたのような恵まれたやつらが大嫌いなのです」

 

「あなたの異能もずいぶん強いと思うけど? 他者の肉を支点にして流星を召喚する……。そんなところでしょう」

 

「私はあなたがたとは違う……!名のある星と契約することが出来ず、仕方なく流星という概念に干渉して架空星求した挙句に異能を、『命短し愛せよ乙女(ストライク・ゾーン・ライフ)』を構築した半星者(デミ・リアクター)。それが私です。あなたがたは私を見下している……。傲慢な女から眼球を抜き出し、私はあなたがたを隷属させるのです!」

 

 自分勝手な物言いにルリヲは呆れたような顔をする。しかし、脈宮は自身を半端者と呼ぶが、その実力は本物だった。ルリヲの力を持ってしても、芽久と玄羽を守りながら戦うとなれば敗北は必定。

 でも、それでいい。彼女はゆっくりと天を指差す。

 

「馬鹿だなぁ。あたしの役割はもう終わった。空を見なさい。最悪の終焉がやって来る。ありとあらゆるものを滅ぼす炎が天を焦がす……」

 

「馬鹿なっ!? まだ爆瀬が足止めしているはず! 定期連絡がさっき来たばかりだぞ!?」

 

 慌てた脈宮が空を見上げる。純黒の夜空に煌めく星たち。いつもと変わらない空だ。だが、倉庫の床を突き破り、地より這い出る劫火が彼の体を覆い尽くす。

 あまりの熱さに転げ回る脈宮が見たのは笑いを噛み殺すルリヲの姿。空を指差して脈宮に隙を生み出してから攻撃させたのだ。

 

「おそーい!!」

 

 ルリヲが怒りを放った先に少年が立っている。女の子に対していつも笑みを湛えている穏やかな姿はそこにはない。彼は暖かな炎を走らせ、傷付いた芽久と玄羽を癒してゆく。

 

「ぐうう! くそ、こんなに早く竜噛透太がやって来るとは。おい、待て、待て、待て! ジェシカ! フレデリカ! 麻里子! アネット! ソフィア! 私のかわいい眼球たちが……! 許さないぞ!!」

 

「……それは俺のセリフだ。言っておくが、おまえはもうまともな死に方が出来ない。生まれてきたことを後悔させてやろう」

 

 最愛の眼球たちを失った脈宮空はこれまで見たことのない黒い炎の繭に包まれた。防御や回避など、到底間に合わない速さであった。繭の中には炎が詰まっていた。

 そして想像を絶するほどの熱さと痛みに襲われ……死ぬ。だが、その1秒後に生き返り、そして死んだ。生き返り、死に、生き返り、死に。絶対に出られない繭の中で彼は生死を繰り返す。

 

 太陽が持つ死の側面『致命の祝福(フェイタル・ブレス)』と生の側面『生命の呪縛(バイタル・カース)』によって永劫繰り返されるループは終わることがない。

 助けてくれ、という叫びが殺してくれ、という嘆きに変化するのはすぐのことだった。しかし、その声は誰にも届くことはない。彼が完全に死亡出来るのは地球が滅んだあとのことだろう。

 透太が開けた地面の穴に黒い繭は蹴り転がされ、ルリヲが水の壁を敷いて蓋をする。

 

 そして透太は治癒が終わった芽久と玄羽に駆け寄る。

 

「よく頑張った! 芽久! 玄羽! 俺が遅かったばかりにこんな目に遭わせて……! 本当にすまない!」

 

「お兄ちゃん……本当に怖かったよお! でも、ボクはまだいいんだ。芽久お姉ちゃんがあいつに痛めつけられて、ボクを庇ってくれたんだ!」

 

「大したことではありませんわ。淑女として妹を守るのは当然の……うっうっ、でも痛かったですわ……! 透太さん、わたくしを抱きしめてくださいまし!」

 

「そうだったのか。さすが、芽久だ。俺が見込んだだけはある。……ルリヲもおいで。よく時間を稼いでくれた。たくさん褒めてあげよう」

 

「わーい。でもね、ハッキリしとかなくちゃいけないことがあるよ、ね。透太くん?」

 

「なんだい?」

 

「爆瀬厘須と戦っていたにしては綺麗な格好をしているね。それとなんだか美味しそうな匂いもする。……芽久ちゃんと玄羽ちゃんを置いて敵の女の子と何をしていたのかなぁ?」

 

「デートだけど」

 

 ぴきりとルリヲの顔に青筋が走る。天女のような顔が引き攣っていた。そして彼女の拳は勢い良く透太の頭に叩き込まれる。

 

「ちょっとは反省しなさい、このお馬鹿!」

 

「いたっ。いや、待ってくれ、確かに悪かった。だけど、聞いてくれないかルリヲ」

 

「何を?」

 

「厘須は10歳の女の子なんだ。まだ、俺が手を出すわけにはいかない年齢だ。だからね」

 

 ルリヲは空のように青いセミロングの髪を右手で掻き上げた。透太の言葉を聞いて動揺している。後ろで話を聞いていた玄羽は溜息をついた。怒れる天女は落ちてしまうことだろう。

 

「キミにあげる。厘須は殺し屋……つまりは法律の外にある存在だ。ルリヲの好きにするといい」

 

「ほぉー。そーなんですか、へぇ……。透太くんが認めてくれたってことはこれは浮気じゃないってことだよね。その子はとってもかわいいんだよね?」

 

「そうだよ。流れる銀の髪は美しいし、良い感じにウブだ。言葉遣いも面白いし、頭も回る。ルリヲは気に入ると思う」

 

「仕方ないなぁ、それなら許してあげる」

 

 脈宮空は変態だった。しかし、芽久と玄羽を傷付けたこと以外の所業を透太やルリヲは断罪しなかった。その理由がこれだ。

 “聖女”と名高いルリヲ・レイン・アンダーバーはバイセクシャルでロリコンなのだ。彼女が仕事以外で海外旅行する際は透太と別行動する場合が多い。

 透太が自由恋愛(ナンパ)に勤しんでいる間、彼女は娼館へ行って年下の女の子を買う。そして、お金が許す限りたっぷりといじめるのを趣味としている。

 

 何が起こっているのか分からない芽久に玄羽は耳打ちする。その内容に顔を赤らめた彼女だったが、自分の趣味……つまりは死体撃ちと似たようなものだと思い、ルリヲへの好感度は上昇した。

 ヒロインとしては残念なことに彼女たちは同じ穴の狢であった。

 

 夜は更けてゆく。葉火瀬家の邸宅の前で待っていた厘須はルリヲを指して「この年増は誰なのじゃ」と言い放ち、ルリヲがいじめる正当な理由を与えてしまった。

 強引にプレイルームに連れ込まれた厘須はこれまでの行いを恥じ、矯声を上げるのだった。

 




竜噛透太(17)
金髪。太陽の星者。
ハーレムの主。昼でも夜でも異能を使える。

死渡芽久(17)
赤髪。木星の星巫女。
語彙が砕けたお嬢さま。

葉火瀬玄羽(16)
黒髪。金星の星巫女。
お金が大好き。みんなの妹。

爆瀬厘須(10)
銀髪。ベテルギウスの星巫女。
のじゃロリ。

ルリヲ・レイン・アンダーバー(22)
青髪。水星の星巫女。
ロリコンかつバイセクシャルかつドS。
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