夏とタイムマシンのブルース   作:秋時

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タグに付けている舞台が原作の映画の影響を大いに受けております。
また、書き始めたのが2年前なので香澄たちは2年生です。
基本的には有咲、香澄、おたえで物語が進みますがオリキャラを出しちゃいます。
苦手な方は私の他の作品見てみてね!


第1話

7月23日

 

今朝見た天気予報曰く今日を大暑というらしい。大きい暑さ……。どうりで暑い訳だ。

 

けたたましく鳴き続けているセミの声がいい加減鬱陶しく感じる。そして何よりも暑い……。気晴らしにと思って窓の外の部活動をしている人たちを見る。

 

こんなにも暑いのによくあんな動けんな。

 

今まで無縁だったため新鮮に感じられていた部活動の掛け声に耳をしばらく傾けていたが、段々暑苦しくも感じてしまう。やはりこんな日はエアコンの効いた部屋でネットサーフィンするのが良い。

事実昨年までの私ならそうしていたと思う。でも今年は……。

 

 

「……お疲れ様です。これで新学期になって準備不足で悩むことはないと思います。市ヶ谷さん、暑い中ありがとうございました」

 

「お疲れ様です。燐子先輩はまだ残られるんですか?」

 

今年は生徒会の仕事がある。貴重な夏休みを使って暑い中登校するなんて今までの私なら考えられない。だけど、最近は学校活動に費やす夏も悪くねえかも……とも思い始めている。

 

影響されてんのかもなぁ。

 

「はい。あと少しだけ書類を処理してから帰ります」

 

「暑いですから体調に気を付けて下さい。先輩、夜更かししてそうですし。何か手伝うことありますか?」

 

昨日から生徒会長である燐子先輩の好きなオンラインゲームのイベントが始まったのだ。多分夜遅くまでやっていたのだろう。あくびをしている様子を何回か見た。少し眠そうだ。

 

「ありがとうございます。……あ、ではそこにある書類を職員室に持っていてくれませんか?」

 

「分かりました。では、お先に失礼します」

 

それくらいならお安い御用だ。さっさと持って行ってしまって帰ろう。香澄とおたえも来るし。

 

 

 

あ、あつい……。生徒会の執務室はエアコンの効いた部屋だったのでだいぶマシだったが廊下がめちゃくちゃ暑い。

 

「もう溶けちまう……。というか溶けた。……うわ、階段登るのか。キッツ」

 

思わず独り言が出てしまう。でも、家の前の階段のが辛いんだよな……。文句言ってないで登ろう。

 

意外と書類の束が重い。こんな状態で寝不足な燐子先輩が登っていたらきっと倒れてしまう。手伝えてよかったかもしれない。それにしても暑い。汗で制服が背中に張り付いてキモチワルイ。廊下にも冷房を付けてほしい。いや、もういっそ日本全体に冷房を……。

 

「……わ!」

 

あ、しまった。暑さで頭がぼーっとしていた。階段の最後の段を踏み外してしまう。なんとか転ばずに済んだが書類が散らばってしまう。

 

「あっぶねえ。……あー、もう」

 

「先輩、大丈夫っすか?俺拾いますよ」

 

「サンキュー。助かるよ」

 

散らばった書類を通りがかった後輩(?)の男子が拾ってくれる。美少年というわけではないが、話しかけやすくて人柄のよさそうな顔立ちの子だ。それになんとなく親近感を感じる。

 

「はい、どうぞ。転んだんすよね?ケガは……なさそうっすね。良かったっす」

 

「あ、どうもありがとう」

 

書類を受け取る。……あれ?後輩の男子……?

 

ここは花咲川女子学園。『女子学園』。

 

「ていうかうち、女子高なんだけど……。お前、まさか不法侵入!?」

 

「あ、やべ!忘れてた!すんません!忘れてください!」

 

男子は階段を急いで駆け下りていった。

 

「ちょ、おい!待て!」

 

……いや、まあいっか。悪い事してるやつだったら私に話しかけてきたりしないだろうし。それに追いかけるにしても暑すぎる。

 

「どうかしましたか」

 

声をかけてきたのは風紀委員の紗夜先輩だ。私の声を駆けつけて来てくれたようだ。

 

「あ、紗夜先輩。実は」

 

紗夜先輩にさっきあったことを話す。

 

「学校に侵入者が……。それは危ないですね。先生に伝えておきましょう」

 

「あー、なんか悪いことしようとしてる訳じゃなさそうでしたので。できれば先生に伝えて大事にしたくないんですけど。助けてもらったし」

 

助けてくれたのもそうだし、どうにもアイツが悪い事をしそうな気がしない。だったら大事にはしたくない。

 

「……まあ、それでもいいでしょう。ちなみに服装はどのような格好を?」

 

「ブラウンのズボンに白いワイシャツでした。制服みたいな感じの」

 

「ブラウンのズボンですか。制服だとしたらこの辺では見ませんね」

 

「そういえばそうですね。ところで、紗夜先輩はどうして学校へ?」

 

「白金さんを手伝えればと思って来たのですが、念の為に一度見回りしようと思います」

 

紗夜先輩は厳しい人ではあるけど優しい人でもある。もしアイツが迷っていただけだったとしてもうまく解決してくれるだろう。

 

「お疲れ様です。悪い奴だとは思えませんでしたけど、お気をつけて」

 

「ありがとうございます。市ヶ谷さんも外はとても暑いのでお気をつけて」

 

 

 

さて、友達が、香澄とおたえが家に来るんだ。早く帰ってしまおう。さっきまでと変わらず暑い。いや、外で日光を直接浴びている分さらに暑いはずだが職員室まであんなに重く感じられた一歩一歩が帰りは軽く感じられる。友達と約束があるってだけなのに不思議だ。多分高校生になる前はこんな気持ちになることはなかっただろう。

 

不意に携帯の通知音が鳴る。香澄からだ。

 

『有咲!大変!早く倉に来て!』

 

なんだろう。香澄のことだからいうほど大したことではないのだろうけど。というかもう来てたのか。きっとばあちゃんが入れたのだろう。

 

『大変だよ有咲!早く!』

 

今度はおたえからだった。なんだ、二人とももう来てたのか。

 

『分かったから。もう生徒会の用事終わってうちに向かってるからあと10分くらいで着く』

 

『早く来て!待ってるから!どっか行っちゃうかも!』

 

どこかに行く?生き物でも見つけたのだろうか。珍しい鳥とか。ツチノコとか。虫だったらちょっとやだな。なんにせよちょっと早歩きで帰ることにしよう。

 

 

 

「な、なんだこれ!」

 

帰ると2人の姿と倉の横に見知らぬ機械が目に映った。……いや、機械というより乗り物だろうか。座席みたいなのがある。

 

「これどこで拾って来たんだよ!」

 

正直ガラクタにしか見えないし邪魔だ。元の場所に戻すしかない。

 

「拾ってきてないよ。有咲の家で預かったものじゃないの?」

 

「預かるか!こんなもの!」

 

「有咲が知らないとなると本当にタイムマシーン!?」

 

「すごいすごい!」

 

「はぁ?タイムマシーン?こんなガラクタが?」

 

どこからどう見てもガラクタだった。ガラクタでなければ現代芸術作品とでもいうべきだろうか。なんにせよこれにそんな魅力を感じない私からすればガラクタだ。それにタイムマシーンって車の形だったり引き出しの中に入ってるものじゃないのだろうか。

 

「ガラクタじゃないよ。ほら、ここにタイムマシーンって書いてある」

 

おたえの指したところを見ると確かに『The Time Machine』と表記がある。……いや、安直すぎるだろ。

 

「それにほら!ここ!今日の日付になってるでしょ!きっと誰か乗ってきたんだよ!」

 

操縦席のような所にあるメータを見ると今日の年と日付、それと時刻が表示されている。10:35。私が家を出て1時間くらいだろうか。

 

「よくわかんねえけど偶然だろ?たまにあるんだよ。うちの質屋によくわかんねぇものが来ること。ほら、そこのブルーシートでかぶさってる『変なの』もいつの間にかあったし。現代芸術作品かなんかだろきっと」

 

「えー?でもさっき有咲預かるか!って言ったー」

 

「預かったんじゃなくて譲り受けたのかもしれない。ほら、練習するんだろ?」

 

「えー。試してみたりしないのー?」

 

心残りがありそうな二人を無理矢理いつもバンドの練習をしている倉に押し込む。

 

 

 

「ねえ有咲、練習の前に持ってきたCDちょっと聴いてみない?」

 

おたえがCDを持ってきた。だいぶ昔のものらしい。

 

「お父さんが持ってたCDなんだけど。かっこよくて。2人にもちょっと聴いてほしくて」

 

おたえがCDを流し始める。洋楽だった。ブルースってやつらしい。派手さは全然ないけどアコースティックギターの音とボーカルが心地よく聞こえる。

 

「かっこいいね。こんなにうまく弾けたらなー」

 

「香澄、悪魔と契約しちゃうの!?」

 

「え!?悪魔!?」

 

「この人は悪魔と十字路で契約してギターテクニックを貰ったんだって。それで魂を売っちゃったから早くに亡くなっちゃったらしいよ」

 

「え!?それはヤだな……」

 

「私も嫌。香澄、有咲、沙綾、りみとずっと一緒に弾いてたい」

 

「おたえー!」

 

「香澄ー!」

 

香澄とおたえが抱きつく。私は苦笑いで見守るしかない。

 

「ほら、有咲も」

 

「有咲もいっしょだよ」

 

巻き込まれてしまう。

 

「暑いだろ!離れろよ!」

 

「いいからいいから」

 

結局二人のペースに飲まれてしまう。そりゃ、本当に嫌なわけじゃねーんだけど……。ホントはちょっと嬉しかったり。

 

「そういえば、有咲と香澄、昨日は一緒にどこ行ってたの?」

 

ふいにおたえが私達に問いかける。昨日は家の外には出ていなかったと思うが。

 

「え?私たち昨日は会ってないよ」

 

「あれ、でも昨日一緒にいるの見たし話したよ?でも様子がおかしかったような……あ、もしかして駆け落ち!?」

 

「んなわけあるか」

 

「そうだよ!おたえを置いてどこか行ったりしない!」

 

「香澄!」

 

「おたえ!」

 

二人が抱き付き合う。またこのやり取りか。

 

「でも、人違いじゃなかったと思うんだけどなー。変なの」

 

「そういえば私も変なことあったよ。さっき彩先輩が働いてるハンバーガー屋さんで期間限定メニューのアイス食べてたんだけど『それ、昨日も食べてたよね?やっぱり気に入っちゃった?』って言われて。私今日初めて食べたのに。あ、でも美味しくてまた食べたくなっちゃった」

 

「人違い。流行ってるのかな」

 

確かに妙だな。香澄によく似た人がいたとか……。でもおたえは話したって言ってるし……。

 

「あ、あとそういえばピックがなくなっちゃたの。気に入ってたんだけど……」

 

「それはうっかりだろ」

 

「ううん、ちゃんとしまったの。昨日探したんだけど見つからなくて」

 

「いつから無くなっちゃったの?」

 

「昨日の午前中に練習したときはあったから、そこから夕方の間」

 

「家の中じゃ誰も盗らないだろうし家の中に落としたんだろ」

 

家に侵入してピックだけ盗む泥棒なんているはずがない。いたとしてどれだけピックに執着してるんだ。

 

「よし、じゃあピック探しに行こう」

 

「え?うちに来るの?」

 

「うん。昨日の香澄の家に」

 

「は?何言ってんだ?」

 

全く突飛な事を言い出す。んな事できるわけが……。

 

「もしかして、タイムマシーン!?」

 

あ。そういえばさっきのガラクタがタイムマシーンなんだったか。

 

「そう!試してみよう!」

 

「やってみよう!」

 

「はいはい。いってらっしゃい」

 

「有咲も!」

 

「暑いしもう外出たくな……あ、ちょ、二人でひっぱんな!」

 

 

 

2人に強引にタイムマシーン(?)の席に座らされてしまう。

 

私は不本意を態度で表すように肘をついているが二人はお構いなしだ。

 

「どうやって動かすんだろ」

 

「あ、ここに注意書きがあるよ」

 

おたえが指すところを注意してみてみると確かに注意書きがあった。

 

『・携帯電話や金銭は置いていくこと』

 

『・4人以上で乗らないこと←「匹」も合わせて3まで!』

 

『・過去の動物を元居た時間から数えて1日以上未来に持ちこまないこと』

 

『・大きく過去に影響を与えることをしないこと』

 

『・タイムパラドックスを決して故意に起こそうとしないこと』

 

『・禁煙!!!』

 

……なんだこれ。途中までそれっぽかったのに禁煙って……うさんくせー。

 

「禁煙だって。なんか、それっぽくない?」

 

「きっと使ってなきゃこんなこと書かないよ」

 

「そうか?胡散臭さしかねぇよ」

 

「でも、昨日に行くのは問題なさそうだよね」

 

「携帯とお財布は倉の中に置きっぱなしだし、未来はダメみたいだけど、過去は大丈夫だもんね」

 

確かにピックを探しに行く分には問題がないようだ。動くわけねーけど。

 

「どうやって動かすんだろ」

 

「この辺じゃね?」

 

どうせ動きはしないと思い『主電源』のトグルスイッチを動かしてみる。

 

すると、日付の表示を照らすようにランプが点く。

 

あ、動いた。いや、でもそれだけ!?

 

「すごい!動いた!これ本物!?」

 

「いや、ランプが点いただけでしょ」

 

「日付動かすのは……これかな」

 

おたえがダイヤルを回す。すると、23日から22日へ表示が変わる。

 

「おー。後はこの『GO!』って赤いボタンを押すだけみたいだね」

 

シンプルすぎだろ。ぜってーニセモンだこれ。ちょっと安心する。もし本当にタイムマシーンだったりしたら大変だし。

 

「じゃあ、3人で押そう!」

 

大袈裟に大きい赤いボタンに3人で手をあてる。

 

「せーのっ!」

 

香澄の合図でボタンを押す。

 

推した手応えを感じた刹那カメラのストロボのようなフラッシュがどこからか発せられた。思わず目をつぶってしまう。

 

なんとなく空気が変わる感じがした。新幹線や飛行機から降りたときのような。遠いところに来た感じ。

 

しばらくして目を開けるとそこは全くの別世界……ということはなく変わらない光景があるだけだった。ま、もし本当にタイムトラベルしたとしても昨日だから当然か。そもそもそんな訳あるはずがねーけど。

 

「……なんか、まぶしかったね」

 

「そうだな。暑いし倉に戻ろうぜ」

 

くだらない事に付き合わされちまった。やっぱり暑いしさっさと戻りたい……。

 

「……うーん。もしかして成功しちゃったのかな」

 

おたえが何かつぶやいた気がするが、とにかく戻ろう。

 

 

 

「あれ、携帯がない」

 

「私のも無くなってる!私とおたえのギターも無いよ!?」

 

確かに二人の荷物も無くなっている。泥棒?いや、タイムマシーンみたいなガラクタは倉の近くに置いてあったんだ。泥棒が入る余地があるはずねえ。ってことはここは私達がいた場所じゃないのかもしれない。まさか……。

 

「やっぱり。私たち昨日に来てるよね」

 

「え!?」

 

「さっきのフラッシュのあと景色が少し変わったよ。ブルーシート被ってたやつ無くなってたし、影の位置とかも変わってた」

 

確かにそうだった。あの無駄にでかい『変なの』が無かった気がする。

 

「い、言われてみれば……確かめてみよう」

 

携帯なしで情報を得るにはラジオだ。確かラジオをこの辺に置いておいたはず……あった。電源をつけ、何かしら音が聞こえる周波数に合わせてみる。

 

『いやぁー、今日も暑いですね。場所によっては猛暑日にもなるところがあるんでね、皆様お体にはお気をつけて。でも残念なことに明日からはもっと暑い。明日は大暑って言って旧暦では暑さのピーク。今でいえばこっからが暑さの本番だぜ!ってことだね。そんなたいしょうな暑さに負けないように今日も張り切っていきましょー!』

 

明日が大暑。間違いなくそう聞こえた。ということは……。

 

「本当に昨日に来ちまってるってことか……」

 

「ど、どうしよっか……」

 

マジでどうする……。ここでボーっとしてたら多分昨日の私に見つかる。私は昨日は香澄やおたえに会ってない。ましてや昨日の私が私に会うはずがない。もし私に見られちまったらタイムパラドックスってやつになっちゃうんじゃないか。

 

「あれ、みんなどうしたの?」

 

「どうしたのってどうすりゃいいんだよ」

 

「香澄の家、行くんじゃなかった?」

 

「マ、マジで行くのか?」

 

「本当に昨日に来ちゃったのはびっくりしてるけど、せっかくならピック探しに行こうよ」

 

過去に来ちまったってのにおたえは動じていないようだった。

 

「そ、そうだね!ここにずっといるわけにはいかないもん!」

 

倉にあったガラクタみたいなタイムマシーンに乗って私達は昨日に来てしまった。

これはもう認めるほかない事実だ。

動揺してても仕方がねえか。

注意するべきことはちゃんと分かってる。このタイムスリップにフィクションのような大層な任務なんかもない。7月23日も7月22日も暑いことには変わらない。

こんな状況でも明るくふるまえる香澄とそれに軽々とついていけるおたえ。この二人と一緒なら7月22日を再び過ごすくらい何とかなる。

……すっげー疲れることになると思うけど。




元ネタの映画が好きだったのであんな感じの緩いのがやりたかった次第です。
あと3話程度で完結予定の短めの作品の予定なので続きも読んでくれれば幸いです。
2話は明日投稿します。
お仕事で残らされたりしなければ。
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