夏とタイムマシンのブルース   作:秋時

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第3話

「先生!ここです!この中にあるはずです!……あれ、有咲大丈夫?」

 

「だ、大丈夫だけど……ここまで普通歩くか?」

 

隣町まで歩いてきた。1時間近く歩いた。日は暮れ始め気温が下がってきて暑さはマシになったがなかなかキツかった。

 

「交通費、節約しないと資金尽きちゃう」

 

「それもそうか。仕方がねえ」

 

「でも、結構歩いたせいで喉乾いちゃった。飲み物買ってくるね」

 

「あ、それおたえに任せよう。その間に私達がレコードを買ってくる。そうすればおたえが店員さんに見られない。多分レコードを買おうとする女子高生って珍しいから印象に残ると思うし同じレコードをさっき買った人が探してるってのはちょっとおかしい」

 

「あー、なるほど。確かに店員さんに『もしかして若い子達の間でレコード、流行ってる?それともブルースの時代がまた来た?』って言われちゃったし多分店員さん私と会ってない。流石名探偵」

 

ふふふ。名探偵。やっぱ悪くない響きだ。

 

「おたえ、どういうレコード買ってくればいい?あ、これ飲み物のお金」

 

「ありがとう。えっと、あの人のなら何でも大丈夫。多分1つしか残ってないし。それじゃ、よろしくね」

 

 

 

CDショップに小さく設けられているレコードのコーナーで目当ての物を探す。

 

あった。

 

早速レジに並んで購入する。おたえのお父さんへのプレゼントということなので持ってきていたカバンに大切にしまっておこう。

 

確かにこの人の曲はかっこよかった。また聴きたい。

 

なんせ悪魔と契約したなんて逸話が生まれるくらいには魅力的だ。

 

私達はタイムマシーンに乗ってピックを、このレコードを手に入れた。

 

本当は手に入らない物だったはずだ。

 

なんだかタイ厶トリップというものに今更怖さを感じてしまう。こんな便利な事をこんな簡単にやってしまって大丈夫なのだろうか。何かとてつもない対価が必要になるとか。

 

バタフライエフェクトなんて言葉も聞いたことがある。

 

私達がこういう事をして未来が大きく変わってしまったりとか。

 

「有咲、どうしたの?」

 

「いや、何でもない」

 

ふとこんなことをしていいのか不安になる。

 

結果的に何も矛盾は起こってない。でも、もし私達が気が付かない間に取り返しのつかない事になっていたらどうしよう。

 

「あれ、有咲?香澄?どうしたの?」

 

おたえがこちらへ向かってくる。

 

「あ、おたえ。なあ、取り返しのつかない事が起きちゃったらどうすればいいかな」

 

思わず不安を口にしてしまう。

 

おたえは少し不思議そうな顔で私をみて、それから答えてくれた。

 

「うーん……。難しいよね。でも、有咲は一人じゃないよ。みんなで一緒にどうにかする方法を考える。有咲、前にみんなが私にしてくれたときみたいに。でしょ?」

 

そ、そうだ。あの時だって、いつか私がイライラしてしまった時だって、みんながいた。みんなで乗り越えた。私は一人じゃない。別に不安になることなんてない。

 

それに、もし大事が起きるとしてもあんなガラクタのようなタイムマシーンが原因だと思うと肩の力が抜けてしまう。

 

「そうだよな。ありがとう」

 

「どういたしまして……?ところで、二人は何してるの?」

 

「え?」

 

あ。あれ。な、なんだ?いくら不思議発言の多いおたえでもそんなこと言うのはおかしくねえか。さっきまで一緒にいて。ていうかこのCD屋に行く話だっておたえが言い始めたことだし。どういうことだろう。

 

「ね、ねえ有咲。おたえ、別のおたえみたい」

 

驚いたような表情をしている香澄が耳打ちしてくる。別のおたえ?あ、まさか。

 

そういえばよく見ると服装が違う。ということは!

 

遠くの方にペットボトルを3本持ったおたえがこちらへ向かってくる。

 

このままだと鉢合わせになってしまう。それだけは避けなければいけない。だってタイムパラドックスだ。

 

ヤバいヤバいヤバい!どうする!?どうすれば!

 

「おたえ、来ちゃダメ!!!」

 

香澄が叫ぶ。

 

私も思わず手をバッテンにするゼスチャーをして必死にアピールする。

 

少し周りの目が気になるが構うものか。

 

あ、なんとか気がついてくれたようだった。

 

「香澄、有咲どうしたの?」

 

「な、何でもないよ。別のおたえに言ったの」

 

「別の私?」

 

「実は私達も別の私達で、えーと……」

 

「おたえ!……なんか用事があったんじゃなかったか?」

 

「あ、そうだった。CD屋さんに行かないと」

 

「私達も急ぎの用事があるんだ!いきなり変な事聞いてごめん!じゃあまた明日!」

 

「あ、また明日」

 

 

 

「あっぶねー!ヤバかった!今のはヤバかった!」

 

「危なかったね。まさか私と話してたなんて」

 

あー、緊張したせいか喉が乾いちまった。

 

おたえが買ってきてくれたお茶で喉を潤し一息つく。

 

「とにかくおたえが私達に会ったっていうのは解決したな」

 

「おー。そういえばそうだった。挙動不審な有咲と香澄事件も解決だね。流石名探偵。駆け落ちじゃなかったんだね」

 

「当たり前だろ」

 

「だって、いきなり難しいこと聞いてくるんだもん」

 

確かにあれは意味ありげに聞こえるし、タイムマシーンのことを知らない今日のおたえからしたら不思議に思うに違いない。

 

「はい、おたえ。お父さんへのプレゼント」

 

「ありがとう香澄、有咲。大事にお父さんに渡すね。買えて良かった」

 

おたえが嬉しそうに微笑む。なんとなく、やっぱり悪いことは起きないんじゃないかなという気になる。いや、でも。

 

「でも、私達が買わなかったらおたえが買えてたんじゃないか」

 

私達がレコードを買ってすぐにおたえに遭った。ということは私達が買わなければ普通に手に入っていたのではないだろうか。香澄のピックだってあの時持ち出さなきゃなくなることはなかったんじゃないだろうか。

 

「どうだろうね。昨日の時点で未来の私達がこのレコードを買うって決まっていたのかもしれないし昨日の私が買えないってことしか決まっていなかったのかもしれない。でも、何にしてもプレゼントが買えて本当に良かった」

 

そうだ。何にしてもおたえがプレゼントを買えて嬉しそうって事が確かであればそれでとりあえず良い気がする。

 

「まあ難しい事を考えても仕方がねえか」

 

学校のテストじゃあるまいし答えを無理に見つける必要なんてないのかもしれない。答えは風の中だ。

 

「そろそろ帰らない?私なんだか疲れちゃった」

 

「私も疲れた」

 

「今はまだ19時なのにちょっと眠くなってきちゃった」

 

「13時半くらいから昨日の10時半くらいにタイムスリップしたからな。3時間ズレてるんだな」

 

「あ、そっか。サマータイムだね。サマータイムマシーン。」

 

「ちょっとサマータイムにしては長いな」

 

「あ!大変なこと思い出しちゃった!」

 

香澄が突然声を上げる。表情からしてただ事ではなさそうだ。

 

「ど、どうした香澄」

 

「私達……家に帰れないんじゃ……」

 

「あ」

 

そうだ。今日の私達は全員家にいるはずだ。つまり明日の私達、今の私達は今日の家に帰れない。

 

……ヤバい。考えてなかった。野宿する訳にはいかないし3人でホテルに泊まるにはお金が足りない。

 

「有咲の倉とかは……」

 

「鍵、置いてきちまった。入るにはどうにか家に忍び込むしかねえ。リスクがデカいから出来ればやりたくない」

 

家は質屋だ。防犯だってある程度はちゃんとやってる。無理やり忍び込むのは結構リスキーだ。

 

何か無いだろうか。いや、やっぱどうしようもない。

 

夜遅くに出歩くのはちょっと怖いし、私は制服を着ている。警察に見つかったら補導されちまう。

 

待てよ。取り返しのつかない事というにはちょっとしょぼいかもしれない。だけどこんな時はおたえの言ってた通り頼ってしまってもいいのではないだろうか。

 

「迷惑かもっていうか迷惑になっちまうんだが、沙綾の家に行くってのはどうだ?」

 

沙綾には迷惑をかけてしまうだろう。でもきっと助けてくれる。

 

「お泊り会だ。……パジャマ無しパーティーだね」

 

「賛成!沙綾なら話せば分かってくれる!」

 

「と、とりあえずアポ無し突撃は良くないと思うし電話で聞いてみよう」

 

近くにあった公衆電話から沙綾の家のパン屋さんに電話する。

 

香澄が持ってきていた商店街のキャンペーンのチラシに山吹ベーカリーの電話番号が書いてあって助かった。

 

『お電話ありがとうございます。山吹ベーカリーです』

 

沙綾の声だ。それなら話は早い。

 

『もしもし、沙綾?私だけど、香澄とおたえもいる』

 

『有咲?香澄とおたえも?どうしたの?お店の電話に電話なんて』

 

『実は、話すと長くなるからまず率直に頼むんだけど……私達を一晩泊めてほしい!』

 

『え?……随分急だね』

 

『頼む!』

 

『沙綾、お願い!』

 

『お願い!』

 

『うーん……』

 

『そうだ!直接話そう!えっと、20時に公園でどうだ?』

 

『いいよ。じゃあ公園ね』

 

『ありがとう!あ、私達に電話とかメッセージとかはしないでくれ』

 

『あ、うん。よく分かんないけど分かった』

 

『ありがとう。よろしく!』

 

なんとか直接頼めるようにできた。

 

沙綾にはちゃんと話そう。結構無理を言ってしまうんだから。

 

「沙綾にはタイムマシーンの事とか話そうと思う」

 

「うん!賛成!」

 

「名探偵有咲の活躍を教えてあげないとね」

 

「問題は沙綾が信じてくれるかだな」

 

「大丈夫だよ!沙綾だもん!ちゃんと話せば分かってくれるよ!」

 

 

 

「うーん。よくわからないんだけど……本当はどういうことなの?」

 

信じて貰えなかった。

 

まあ、そりゃそうだな。私も信じないと思うし。

 

「本当なの!私のピックが無くなってでも実は私がとったから無くなってて!あと彩先輩が」

 

「香澄、ごめん。何がなんだか分かんない」

 

「タイムトリップと名探偵有咲のおかげでお父さんへのプレゼントのレコードが買えた!」

 

「おたえ、良かったね。でも……それだけ?」

 

「……?……それだけだよ?」

 

「あ、そっか」

 

ダメだこいつら。こいつらじゃ話になんねー。私が上手く……。

 

「今日の私達が昨日に来たせいで……いや、明日の私達が今日に来たから……今日の私達に見られたらマズくて……私の話分かんねーよな」

 

「……有咲、ごめん」

 

ちくしょー!上手く伝えられねー!

 

どうする?一回3人で話し合って上手く伝えられる方法考えるか?いや、待ってくれるか?沙綾は明日も朝早いんじゃねーか?

 

悪い気もする。やっぱやめとくか。

 

いや、でも他にどうにかする方法あるか……?

 

「とりあえず、家でゆっくり聞くよ」

 

「え!?」

 

「3人でこんな頼みなんて珍しいし。ただ事じゃないんでしょ?とーさんとかーさんにはもう話してあるから」

 

「「「沙綾!」」」

 

思わず3人で抱きつきに行ってしまう。

 

私のキャラじゃないかもしれないがこの際仕方がねえ

 

「でも、駆け落ちじゃないよね」

 

またか。

 

「やっぱりそう思うよね」

 

「違うよ!もしどこか行くなら沙綾もりみりんも一緒だよ!」

 

「その下りはもういい。っていうか5人だと駆け落ちじゃねー」

 

「5人で上京だね」

 

「いや、ここ東京だろ」

 

「なら……隠居?」

 

「資産もねーのに……」

 

「じゃあ全国ツアー!」

 

「それイイ!」

 

「だいぶ離れたな」

 

みんなでライブのために全国ツアー。……悪くねーかも。

 

いや、そんなことより。

 

「なあ、そろそろ沙綾の家に向かわねえか?ちょっとくたびれちまった」

 

「あ、そうだね。家でゆっくり話して貰わなきゃいけないし。それじゃ行こうか」

 

なんとか沙綾が家に泊めてくれることになった。やっぱりこんな時に頼れるのは仲間だ。

 

 

 

「3人ともそのまま寝るって訳にはいかないよね。ちょっと待っててね。何か持ってくるから」

 

「いいの?ありがとう!」

 

確かにこのまま寝る訳にはいかない。私なんて制服のままだ。

 

「やっと一安心だね」

 

「ああ。でも紗綾んちは朝早いだろ?朝どうするかも考えねーとな」

 

「うーん。やりたいことがあるわけじゃないからなー。有咲、何かない?私たちはやりたいことやらせてもらっちゃったし」

 

「やりたいことっつうか解決させておきたいってことなら」

 

そう。はっきりさせちまいたいことがある。

 

「先生!まだ謎があったんですか?」

 

「ぜひお供させてください!」

 

「でも、朝じゃなくて昼なんだよな」

 

「なら朝の予定は別で考えないとだね。ちなみに先生、最後の事件は何ですか?」

 

「事件ってほどじゃねーし。確信は持てないんだけど……」

 

「事件?何の話?」

 

私達の着替えを用意してくれた紗綾が入ってくる。

 

「名探偵有咲の最後の事件の話だよ」

 

「有咲、滝に落ちるの?」

 

「落ちないしバリツも使えねー」

 

「そういえば、さっきも話してたと思うけど有咲が何で名探偵なの?」

 

「それはね、」

 

沙綾に今日あったことをゆっくり順序立てて全部話した。タイムトリップの話もなんとか信じてもらえたようだった。

 

「すごいね。時間を超える大冒険ってことだね。ちょっと羨ましいかも」

 

「じゃあ次は沙綾も一緒だね」

 

「私はもう懲り懲りだよ。タイムトリップなんて。すっげえ疲れる」

 

「あ、もうすぐ終わりだね」

 

「?何がだ?」

 

「有咲達が日付を跨いだ未来人なのも」

 

沙綾が時計を指差す。

 

目覚まし時計の針は11時57分を示していた。

 

なんだかんだで時間が経ってしまっていたようだ。

 

まもなく昨日がおわる。

 

なんとなく会話も止まり秒針のカチカチという音だけが聞こえる。そして……。

 

「おかえり。有咲、香澄、おたえ」

 

「ただいま」

 

「ただいま、みんな」

 

「ま、まだちょっと帰ってきたっていうのには早いけどな」

 

「でも、上手く言えないけど、日付って大事だと思う。今日は今日の風が吹くって言うでしょ?違う風が吹いてる場所ってちょっと落ち着かないよね」

 

それとはちょっと違うだろと否定しかけたが確かにそうかもしれない。矛盾が起きないようにとか気にする以前になんとなく落ち着かない感じがした気がする。

 

「だけど、明日の昼までは油断できねえからな。それに、私の感が正しければ多分そのあとも」

 

「え?どうして!?私達がタイムマシーンを使った後の時間なら大丈夫じゃないの?」

 

「あ、そっか。タイムマシーンの持ち主」

 

「そう。そいつが余計なことする前に帰さねえと」

 

「でも、誰か分からないよ。未来人なんて」

 

「私に心当たりがある」

 

「なるほど。有咲がやりたいことってそのタイムトラベラー探しだね」

 

「そう。まあ、もし違ったら迷宮入りだし、何も起きないことを祈ってあきらめるしかねーけど」

 

滅多なことしなければ何も起こらない気はする。今までそうだったし。

 

「タイムトラベラーかー。会ってみたいなー。私も会ってみたいけど店の手伝いもやりたいから今度どうなったか聞かせてよ」

 

「うん!沙綾にも絶対聞かせるね」

 

「名探偵有咲の最後の事件」

 

「楽しみにしておく。じゃ、そろそろ寝ようか」

 

「そうだね。おやすみ」

 

沙綾が部屋の明かりを消す。

 

たった一日だったけどやっと帰れるという思いが込み上げてきた。

 

ほんと、長い一日だった。実際3時間くらい長かったんだけど。

 

明日は何時に起きるべきだったっけ。沙綾は早起きだろうから沙綾に合わせねーとな。何時か聞くのはちょっと面倒になってきた。……朝気を付けてみんなにあわせればいっか。もう寝ないと……。

タイムトラベルももう終わりに近いと考えると安心してきた。

沙綾が力になってきてくれて本当に助かった。

私たちはこうやって支えあいながらこれからも……。

段々と意識が遠くなっていく。




次で最終回!
投稿は月曜日……かもです。
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