ごめんなさい!
「あ、有咲。起きた?おはよ」
「おはよう、有咲」
香澄とおたえの声が聞こえた。もう朝か。今、何時だろう。
「おはよう。あれ、沙綾は?ってか今何時だ?」
「えっとね10時くらい」
「うわ!寝坊だ!だ、大丈夫か?」
「うん。私と沙綾はお店の時間に起きたんだけど2人はまだ気持ちよさそうに寝てたから沙綾が起こさないようにって」
「そのあと私が起きて、着替えてたら有咲が起きた。あ、そこのパン朝ごはんに食べていいって」
塩パンが二つ置いてある。美味しそう。
「じゃあ、せっかくだし、いただきます」
一つ手に取り頂く。サクッという食感と共にバターの風味が広がる。程よい塩気とやがてくる麦の甘い香りが絶妙だ。
やっぱおいしいな沙綾の家のパン。
「やっはりおいひいねさあやのはん」
わたしより少し前くらいに起きたであろうおたえも一緒に食べていた。
「ちゃんと食べてから喋れよ」
「あ、美味しすぎてうっかり」
「それにしても寝坊しちまうとは……」
「仕方がないよ昨日まではサマータイムだったから。あれ、逆サマータイムか。これからがサマータイム」
「私達の夏はこれから!」
イエーイなんて言って二人がハイタッチする。能天気だな。でもそうだ。私達の夏は始まったばっかり。せっかく生徒会の仕事を片付けたってのにモヤモヤを残しておくわけにはいかない。
「今日は13時に学校集合!そこで多分色々決着がつく」
「最後の事件がついに」
「先生!事件については教えてくれないのですか?」
「それは……ヒミツ」
2人のえーという抗議の声が聞こえる。最後の事件の結末は後になって知るものだし仕方がねえだろ。いや、滝に落ちるつもりはないけど。っていうか間違えてたらめちゃめちゃ恥ずかしいし。
「とにかく、13時に学校集合!時間ぴったりに来いよ。私やお前らにあったりしないようにな。私は一回帰る!」
昨日……ていうか今日は帰ってからばーちゃんにあってねーし多分一度帰っても変には思われないはずだ。
「じゃあ一時解散だね。私もそろそろ出かけてると思うし一回帰ろうかな」
「私も。アイスは食べに行かないようにしないと」
まだ食べるつもりだったのか……。
沙綾と沙綾の家族にお礼を言って沙綾の家を後にする。
眠ったおかげでだいぶ疲れが癒えたようだ。
ただ、今日も暑い。いや、暑いのは知ってたんだが。
身に覚えのある暑さと聞き覚えのあるセミのけたたましい声がおおよそ24時間前の出来事を思い出させる。
しかしそんな出来事なんてどうでもよくなるほどに暑い。歩いているだけで汗をかいてしまう。
シャワーくらい浴びてから行こうかな。
ちょうどそのくらいでちょうど良いだろう。
「ただいまー。シャワー浴びてもいい?」
「有咲。早かったね。」
そうだった。私が家を出て2時間程度しか経っていない。
「今日友達呼んでてさ。ちょっと早く帰ったんだよ。あ、でもすぐまた学校行く」
これから学校に行くんだからこの言い訳はちょっと下手だったかもしれない。
「また行くなら浴びなくてもいいんじゃない?」
「今日めちゃくちゃ暑いから汗びっしょりでさ。ばあちゃんはちゃんとエアコン効いた部屋にいてくれよ」
ばあちゃんを適度にエアコンの効いている部屋に押し込みなんとか誤魔化す。
さて、シャワーを浴びて最後の事件解決させますか。
13時。約束の時間になる。2人とも、私も合わせると3人か。3人とも律儀に13時ちょうどに集合場所に現れた。
「みんな時間ぴったりだね」
「なんとなくぴったりに来た方がいいのかなって」
香澄とおたえは制服に着替えてきている。ま、学校に入るんだから当然か。
「あ、有咲良い匂いする!」
「ホントだ。良い匂い」
「や、やめろ!匂いを嗅ぐな!」
二人に挟まれる形で匂いを嗅がれる。
「シャワーくらいしてくるだろ!」
「それはそうかもね」
「私も浴びてきた」
それに……アイツにもし変に思われたら少しは傷つく。意識しているわけでは無いけど。
「そんなことより、ちょっと急いで校内に入るぞ!ちょっと遅めの集合にしすぎたかもしれねえ」
「了解です!先生!急がないと!」
「急がなきゃってことは今日は廊下走ってもいいんですか!?先生!」
「いやダメだろ。それは」
校舎に入ると容疑者はすぐに見つかった。が、ちょっと厄介な状況だった。
「あなた、誰なんです?何故学校へ入ってるんですか」
紗夜先輩に捕まってしまったようだった。
「いや、忘れ物を取りに来て……」
「ここは女子校です。男子は通常入れないのに何を忘れてくるんですか」
「あ、やべ。そうだった」
「紗夜先輩!」
紗夜先輩の尋問に割って入る。
「市ヶ谷さん。先程の男子とはこの方のことですか?やはり怪しいようですが」
「そ、そいつ香澄の従兄弟みたいなんです!香澄の忘れ物を代わりに取りに行かせちゃったみたいで……な!」
わざと香澄の名前を強調する。うまく合わせてくれよ……。
「……そ、そうなんすよ!聞いてねーよ香澄ねーちゃん女子校に取りに行くなんて!」
「……あー、ごめんごめん。だからこうして助けに来たんだよー」
なんとか話に合わせてくれた。これで話は通ってる……よな?
「なるほど、そういうことでしたか。なら何故早くそうならそうと言わなかったんですか」
「いや、先輩チョー怖いんすもん」
いやいやいや。なに言ってんだコイツ!失礼だろ!……確かに初めてお会いしたときはちょっと怖かったけど。
「怖い……ですか……高圧的に見えたのであれば申し訳ありません……」
あれ、ちょっと落ち込んでいるのか。
「いや、紗夜先輩が怖いわけないですよ」
「そうでしょうか……一応気を付けてはいるのですが……」
結構気にしてる……。
「とにかく、今回は見逃しますが次回からは必ず受付で要件を伝えて入るようにしてください。戸山さんも、ここの生徒じゃない人を簡単に入れないように」
「すんません」
「ごめんなさい」
「とりあえず先生に見つからない内に外に出るぞ。先生に見つかったら大変だし。紗夜先輩、ご迷惑をおかけしました」
「いえ。不審者という訳では無いようで私も安心しました。お気をつけて」
紗夜先輩にお別れの挨拶をして外に連れ出す。
「香澄の従兄弟さんの名前はなんていうの?」
「お、おたえ。香澄の従兄弟ってのは誤魔化す為の嘘だったんだよ」
「え!?そうだったの……。きっと紗夜先輩も気が付かないね」
今思えばだいぶ無理があったような……。
「いやー、助かりました。すっげえおっかなかったっすよあの先輩」
「紗夜先輩はおっかなくねーよ。私達からすると女子校にいるお前のがおっかねーよ」
「そ、そうっすよね……。マジでやらかしました」
受け答えの様子を見るとやっぱわざと侵入した不審者という訳ではないようだった。
となるとコイツが……。
「よし、ズバリ聞くぞ。……正直に言えよ。お前、未来人だろ」
「!?そ、そんな訳ないじゃないっすか」
「先生!目を反らしました!この人、嘘をついてます!」
「正直に言えって。私達は流星堂って質屋の倉にタイムマシーンがあるのを知ってんだ」
少しだけ考えるような素振りを見せ、ついに未来人は答えた。
「つい、出来ごころだったんです」
「つまり、お前がこの時代に来たのはちょっとした観光のつもり。学校にいたのは自分の母校を見ておきたかったって事か」
「そうなんすよ。そういえば昔……いや、今か。今女子校だったって事忘れてたんすよ」
「へ〜、未来では共学なんだ〜」
「きっとぎゅうぎゅうだね」
「大した用事がないならさっさと帰ってくれ。タイムパラドックスみたいなのが起きたらやべーだろ。っていうかなんで観光なんかでこの時代に来たんだよ。なんか気楽に過去に行っちゃいけませんみたいな法律とかあるだろ」
一家に一台タイムマシーンの時代なのであれば何かしらルールが決まっているはずだ。そもそもそんな時代が来るのかは知らないが。
「オレも知らないんすよ。なんか、いつもバンド練してるところに突然タイムマシーンが置いてあって、仲間にノリで乗せられて、ノリで動かしてみたら過去に来ちゃって。せっかくなら観光でもすっか!って思って」
軽すぎんだろ!なんだよノリって!……いや、冷静に思い返せば私達も大概だな。
「タイムマシーン、君のじゃないの?」
「オレのじゃないっすね。まずタイムマシーンなんてあったら未来の世界っすよ」
「私達からしたらお前がいた世界が未来の世界だわ」
「あ、そっか」
「ねぇねぇ、バンドやってるの?私達もこれからバンド練習するつもりだったんだけど、ちょっとだけ合わせてみない?」
香澄が突飛な事を提案する。
「え、先輩方もバンドやってるんすか!是非やらせてくださいよ!」
そしてその突飛な提案を軽々と了承する。流石ノリで生まれたタイムトラベラー。……私達もそれだった。
「楽器は?何ひくの?」
「オレはキーボードっす」
「あー、有咲と被っちゃったね」
「いいよ、私は。見学で」
「そんなのダメだよ!せっかく未来の人と演奏できるのに。……あ!有咲歌ってみたら!?」
「わ、私が!?」
「私とおたえがギターで、後輩くんがキーボード、有咲がボーカル!」
「有咲の声、私も好きだしいいと思う。ベースとドラムはどうしよっか」
「低音強めにしてCDのインスト流せばいいんじゃね?雑だけど」
「即興バンドだし仕方がないね」
「有咲が歌うの楽しみ!」
「オレも昔の人とセッションできるなんて感動モノっすよ。帰ったら自慢するしかねえ」
「そ、そもそも何やるんだよ!?未来の曲なんて知らねーし、今の曲やってもわかんねーだろ」
「そこは大丈夫っすよ。テキトーに合わせるんで」
「即興!?すごい!」
「すごい!変態だね」
「まあすごいんで……って変態!?そこは天才肌で」
「女子校に不法侵入する奴は変態でしかないだろ」
「ちくしょー!何も言い返せねー!」
「あれ……ここっすか。先輩方の練習場所」
未来人を倉には連れてくる。ブルーシートを被せたタイムマシーンもここにあるし都合がいい。
「そうだけど家の倉に文句あるのかよ」
「なんでもないっす」
なんだか倉に連れてきてから未来人の様子がおかしい気がする。
なんというか挙動不審だ。ま、まさか。
「お前、なんか隠してるのか!?なんかタイムパラドックスになっちゃうような物を落としたとか忘れたとか」
「大変!」
「まだなんとかなる……よね?」
「あ、そういうわけじゃなくて……先輩方いつもここで練習してるんすか?」
「ん?そうだよ」
「たまにスタジオ練とかもするけど大体倉練だね」
「うーん……こんな事もあるんだな……ま、いっか。何の曲やるんすか?」
「なににしよっか」
「じゃあ、あれは?有咲が好きだって言ってたやつ」
「あれなら多分、歌える……かも」
最近みんなで少し練習してる流行りの曲だ。気に入っている曲なのでたまに鼻歌を歌ったりもしてる。でもそれくらいだしやっぱ歌える自信はない。
「なあ、やっぱ私がキーボードで……」
「何いってんすか。俺ボーカルやれないっすよ。それに昔の曲分かんないっすよ」
昔の曲……。いや、未来人からしたらそうかもしれないが流行りの曲が昔の曲と表現されるとちょっと寂しい。
「じゃあ香澄と一回合わせるから、有咲は軽く歌ってみて。後輩くんも合わせられそうか聴いてみて」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。歌詞探す」
CDで買ったからこの辺にしまったはず。CDプレイヤーの近くにディスクが空のCDケースを見つける。あったあった。
「それじゃあ、いくよ!」
香澄の合図で曲が始まる。恥ずかしいし、小声で歌ってみる。ちょっと楽器の音が大きく出るように設定もした。
……案外、できるかもしれない。歌いやすいし。
「有咲、いけそう?」
「た、たぶん。下手でも笑うなよ」
「笑わないよ。後輩くんは?」
「まあ、余裕っすよ」
「すごい。……やっぱり変態だ」
「だから、天才肌!……あ!なんか録音するもんないっすか?せっかくの記念のお土産に」
「ねーよ。女子校に侵入する変態キーボードに貸す録音機器なんて」
「ひでー!だからその件はマジで手違いなんですって!」
恥ずかしいし、録音機器なんてぱっと出るもんじゃない。どこにあるかなんてなんて分からない。
「あ!あったよ!」
香澄がカセットテープレコーダーを持ってくる。そんなもん家にあったのか。余計な事を。
「うわ、いいっすね!なんか昔っぽい!っていうかめちゃくちゃ昔じゃん!」
「私達にとってもだいぶ昔の物だよ!」
「えー、本当っすか?あ、でもこのキーボード使いやすいっすね。馴染み深いというか」
「鍵盤の形は変わらねーだろ。今も昔も未来も」
「ギターはどうかな」
「きっと弦が7本が普通になるよ」
「流石にならないっすよ」
「ほら、さっさと始めるぞ。早く未来に帰してやらないと大事になっちまったらたまらねえ」
「「「はーい」」」
おたえがレコーダーを操作し録音を開始する。
少し緊張で心臓の鼓動が速くなるのを感じる。ダメダメ、落ち着かなきゃ。キーボードを弾くときとは別の緊張だ。香澄がこちらを見てくる。演奏を始めて良いかというアイコンタクトにコクリと頷き答える。香澄の合図で演奏が始まる。
おたえと香澄の演奏が後ろから聴こえてくる。そうか。いつも私は後ろでキーボードを演奏して、たまにみんながこっちを見てくれてって感じだけどこうしてボーカルをやるとなると一人でマイクと向き合わなきゃいけない。
みんなが演奏しているのを後ろから見て、演奏して、ではなく私がマイクの前に立って一番前で歌わなくてはならない。
なんだか……寂しい。
あぁ、演奏中の香澄が頼もしくて、カッコよく見えるのがなんでか分かった気がする。
でも、後輩の未来人にカッコ悪いところを見せるわけにはいかない。下手っぴでも、お腹から声を出して歌って、さっさと未来に帰ってもらおう。
歌いだしはいつもよりお腹に力が入ってしまったようだったが声が震えることもなく歌いだすことができた。案外歌えるもんだな。
歌いだすと初めて周りの音に気を向けることができた。おたえのギターはめちゃくちゃかっこいいし、香澄のギターも一生懸命でなんとなく暖かく感じる。未来人のキーボードは……あれ?ちゃんと弾けてる。本当に天才肌なのか!?
歌いだしてみれば全然寂しくない。きっとりみや紗綾がいればもっと心強いのだろう。きっと私も力になれているんだろうか。
思っていたより私は歌うことを楽しめた。あっという間に曲が終わってしまう。
でも、しばらくボーカルはやらないでいい。香澄に歌って欲しい。
きっとその方が私達はカッコいい。
「有咲!上手だった!」
「やっぱり有咲の歌もいいね!昨日と今日は有咲デーだね!」
「あ、ありがとう。でも私はやっぱキーボードがいい。その方が落ち着く。ところで、お前この曲知ってるのか?上手かった」
「まあ、自分結構上手いんで。でも、なんで知ってんだろ……」
未来でも人気なのだろうか。だったら少し嬉しい。
「そういえば私達お互いに自己紹介してなかったね。私、ギターの戸山香澄!」
「リードギター、花園たえ!」
「「そして、ボーカルのー」」
「……市ヶ谷有咲。もうボーカルはしばらくやらねー」
「えー、なんでよー」
「戸山先輩、花園先輩、市ヶ谷先輩……いや、まさかそんなこと……」
私達の茶番のようなやり取りをスルーして未来人が何やらブツブツとつぶやいている様子だ。未来では変な名前なのだろうか。
「あ!」
未来人が声を上げる。あまりにも突然で思わずお喋りをやめて未来人を注目してしまう。
「ど、どうしたんだ?」
「い、いや。もしかしたら早く帰らなきゃいけないかもしれない用事ができたっす」
「タイムマシーンに乗るんだから時間なんて関係ねーだろ」
「いや、その……あれなんすよ。門限が……」
「だから、門限前を指定して帰ればいいだろ」
「じ、実はき、急用を思い出して。忘れないうちに帰ろうと……」
分かりやすい嘘をつかれてしまい、少しムッとするが早く帰ってもらえるならそれに越したことはない。
「まあ、早く帰ってくれるならそれでいっか。そういえば名前、なんていうんだ?こっちが名乗ったんだからそっちも名乗れよ」
「いつまでも未来人さんじゃかわいそうだもんね」
「未来の名前ってどんな感じかな」
いや、今も昔も未来もそんなには変わらないだろ。
「あ、えっと……自分の名前は……忘れちゃった……かな……」
「え、思い出せないの!?大変!」
「タイムスリップの衝撃で記憶喪失……」
「んなわけねーだろ。誤魔化してんだよ」
「と、とにかく早く帰らないと!」
急いで未来人が外に出る。
何があったんだかよく分からねーけどとにかく帰ってくれるならそれに越したことはないということにして自分を納得させる。
外に出ると忙しない様子でタイムマシーンに乗って準備をしている。
とりあえず設定は間違えないように入念にチェックさせる。
って言っても私達が分かるわけじゃないんだけど。
「ダイヤルを合わせてっと……よし。それじゃ、短い間でしたけどお世話になりました」
「おう、元気でな」
「もう不法侵入とかしちゃダメだよ」
「あれは、事故っすよ。もう無いっす」
「また、一緒にセッションしよう!」
「是非!……あ、最後に未来人から先輩方みなさんにアドバイス」
アドバイス。なんだろう。下手なことを聞いちゃまずい気もするがちょっと気になる。
「すごいよ有咲、未来からのアドバイス!」
「絶対当たる占いみたいだね」
「そう。絶対当たりますから。えっと、『年下には優しく接すること』ですよ。もう、甘やかしまくりで」
「本当に占いみたいに曖昧だな」
「それが未来のスタンダードなんすよ。あ、これちゃんとベースの方とドラムの方にも伝えといて下さいね。とにかくひとまずこれでお別れです。お元気で。体に気をつけてずっと健康でいてくださいよ。それじゃ!」
「あ、おい!テープ忘れてる!……行っちまった」
声をかけたときにはすでにタイムマシーンのスイッチを押しているところだった。
お騒がせなタイムマシーンとちょっと失礼な未来人は閃光と共に元の時代に帰っていった。
「ほ、本当に!?」
家族旅行から帰ってきたりみのお土産話を聞いたあと、タイムトリップのお土産話をお返しする。楽しんでくれたようで良かった。
「本当だよ!名探偵有咲!」
「次々と難問を解決!」
「原因はだいたい私達だったけどな」
「すごい!タイムトラベラーと会ったの?どんな人だった?」
「えっとね、あれ……?男の子で……」
「茶色のブレザーの制服着てて……」
「お前らそれだけしか覚えてないのかよ。キーボード弾けて……あれ」
おかしい。もうちょっと覚えててもいいと思うんだけど顔も出てこない。
日に日に記憶があいまいになっていくようだった。
「あ、そうだ。有咲がちょっと気に入ってたよね」
「はぁ?」
「そうなの?有咲ちゃん?」
「いやいやいや、ないない。だって顔もよく覚えてないんだぞ」
でも、なんか話しかけやすかったんだよな。……キライじゃなかった……かも。
「初対面の人相手だと有咲が変な感じになるもんね」
「変な感じで悪かったな。最初くらいは丁寧に接しようと思ってるんだよ」
「ごめんごめん。でも緊張して話してるでしょ?それがなかったんじゃないかなって」
確かに。香澄の言う通り変に緊張して話すことはなかったな。
「誰だったんだろうね、あの人」
「なんか花咲川の生徒だって言ってた」
「あれ、男の子なんだよね?」
「未来だと共学になるんだって」
「そうなんだ。じゃあ後輩だったんだね」
「そう、後輩。……でも、ちょっと気になることあるんだよな」
「え、なになに?」
「タイムマシーンがなんで家にあったかだよ」
「あの人が乗ってきたんでしょ?」
未来人が乗ってきた。これは間違いない。問題はタイムマシーンがあったことじゃなくてあった場所だ。
「タイムマシーンには時間を設定する機能しかなかった。設定した時間に移動するだけで場所の移動はなかった」
「じゃあ未来人君は未来の有咲の倉にいたってこと?」
そういうことになる。
「未来の有咲の知り合いかな」
「そうなのかもな」
「未来の有咲かー。どんな感じなんだろうね」
「私がどんな感じかはわかんねーけど私達、未来でも仲良くやってるっぽいな」
「そうだといいよね」
「『そうだといいよね』じゃなくてそうなんだよ。多分」
「あれ、どうして?」
ちょっと決めつけて話してしまった。もちろん根拠はある。
「あの未来人帰る前に未来からのアドバイスだとか言ってただろ」
「そうそう。絶対当たる占いみたいな」
「たしか、『年下には優しく接すること』だっけ?」
「そうそう。私の知り合いなら未来で自分が私に優しくしてもらうために言ってるように聞こえる」
「確かに。未来ではきっとだいぶ年下だよね」
「それであいつ、他のみんなにもそうしろって」
「うんうん。そうだった」
「ってことはあいつは未来の私だけじゃなくて私達5人を知ってるんじゃないか」
「そうかも!」
「その未来人さんが私達と知り合いってことは」
「私達、未来でも一緒ってことだよね!やったー!」
未来のことなんて誰にも分からない。アイツが未来のいつから来たのかだとか本当に未来の私と知り合いなのかもわからない。
でも、私の推理通りだとしたら。
私達が買ったから売り切れたレコードとかとは逆の考えで。
私達が仲良くやってる未来からアイツが来た。
なら私達が仲良くやってる未来は確かって考えてもいいんじゃないだろうか。
アイツの残していったアドバイスは間違いなく『絶対当たる占い』ってことで。
「すごい!ステキ!……でも、せっかくこんなステキなことなのにいつか忘れちゃうのかな」
香澄が悲しそうにつぶやく。
そうだ。段々とタイムトリップでの記憶があいまいになっている。
きっと『絶対当たる占い』のことなんて忘れてしまうのだろう。だけど。
「完全には忘れないだろ。香澄はピックを持ってるし、おたえはレコードがある。りみはタイムトリップと関係ないからこの話が同じように忘れやすくなるってことはないだろ」
「そっか!私もちゃんと覚えておくね!未来人さんのアドバイスのこと」
「そうだね!沙綾にも聞いてもらわなきゃ」
「あれ。でも有咲は?」
「私は……いいんだよ。忘れないように日記につけたし」
「日記!流石有咲!」
ウソだ。日記なんてつけてない。でもこのことは多分忘れないんだろう。
未来人はあの時の演奏を録音したテープを残していった。
未来人のキーボードと私の歌が録られたテープが。
実はなんとなく気に入って今もコッソリ再生したりしてるけど、私達の占いになるならますます嬉しくなる。
恥ずかしいしぜってー誰にも聞かせないけど。
「さ、そろそろ練習しようぜ。アドバイス通りに年下に厳しく指導できるように練習してうまくならねーとな」
完結です。
読んでいただきありがとうございました。
2年ほど前に本作を書き始めましたが、映画があったり進級したり色々進展があってバンドリは面白い!
……どうしてさっさと投稿しなかったんですか?
とにかく、この夏もMyGO!!!!!のアニメがあったり色々楽しみもあってキランキランのドキンドキンですわ。
次はMyGO!!!!!のお話とかも書いてみたいですね。
アニメで各キャラの特徴とか性格とか掴めればやりたい。(ポピパでそれができているかは置いておいて……)
脚本がゆにこ先生みたいなので、その辺は上手く表現されるでしょうし本当に楽しみです。
また機会がございましたら読んでいただけますと幸いです。