──"天才"は存在する。そして私は
恵まれた身体能力、師匠の剣術さえ見切る動体視力と一万人に一人とすら言われた魔力の量。
この時点で既に大盤振る舞いなのに、更に顔とスタイルも生まれつき良いのだから私という人間はとんでもなく恵まれている。
ハッキリ言おう、
『こんな田舎にいるのが勿体ない』『城下町で生まれていたら引く手数多だろう』『まだ剣術と魔法を合わせても私に勝てんのか?』──そう、全て私への称賛の言葉である。最後のはちょっと違うようにも見えるが、先を見込まれているという視点で見ればまあ褒め言葉だろう。言われたの十歳の頃だし。
さて、これまで私の才能、そこに努力を積み重ねて成長していった無敵の私について話したわけだが、当時の子供で夢見がちな私はこう思っていた。
『こんなに美しくて強い私なのだから、いつかイケメンの強い男と出会って恋することになるだろう』と──何度か師匠に鼻で笑われた言葉だが、わりと当時の私は本気でそうなるだろうと思っていたのだ。
十歳の時点で龍すら一人で殺せる私を国が放っておくわけがないと思っていたし、そもそもこんな美女を見て放っておける人間などありゃしないとすら思っていた。
貴族やイケメン冒険者が私の存在に気づいたが最後、間違いなく私の取り合いが始まるのは考えるまでもなく当然だと、本気でそう思っていたのだ。
一対一の純愛も悪くないがイケメン達が私を取り合うハーレムも悪くない。師匠が聞いたら笑いを堪えきれなくなるような、そんなことを思っていた訳だが──何年たとうとそんな状況は起こりはしなかった。
まあ、それは仕方ないことである。どれだけ私が美しくて強くてもここは城下町まで馬車で一ヶ月はかかるド田舎。しかも、何か珍しい鉱石がとれるわけでもここでしか育たない薬草や果実があるわけでもないという来る理由が一つもない場所。そんな場所にいる子供の才能を見抜く貴族や冒険者などいないのだ。
世界一美しいダイアモンドがあったとしても、海の底に沈んでしまえば見つかることはない。私はいわばそれだった。
こんなド田舎に居ても私の望みは叶うことはない。それに十五歳になってようやく気づいた私は旅をすることにした。
表向きは師匠のように世界を見て回りたいという理由で、家族や村のみんなを説得して許可を貰ったのだ。
まあ、実際はもっとやましいことを考えていたが、表向きの理由も一応嘘ではない。嫌いではないとはいえ、何も物珍しいことがなくてつまんない場所でずっと暮らしてたら、嫌でも外の世界に興味が向くというものだ。
さて、旅をしたいという私は美しいて強いわけだが子供は子供だ。その情報を踏まえれば当然、親も師匠も私の心配をする。
『女が一人だと舐められるから男装をした方がいい』という親のアドバイスと『女一人で舐められてるうちに殺せ』という師匠のアドバイス。『いや、両方共旅するのは止めないんかい』という素で出かけた突っ込みを抑え、私はその二つのアドバイスを天秤にかけた。
相反する二つのアドバイス。物騒なのと面倒なのどちらをとるかという究極の二択だったが『男の姿の私、めちゃくちゃイケメンだな……』と気づいた私は師匠のアドバイスを蹴って、男の姿で旅立つこととなったのだ。
知らない料理、師匠から話を聞いただけのダンジョンやその場所でしか見られない景色、そして一番大事なイケメンとの出会い。そんな様々な期待を胸に抱いて、抱いて──
「あー!!何勝手に座ってるんですか!!彼の隣は私のものなんですけど!?」
「違いますー私のものですー」
「……うるさい二人共、本が読めない」
「あんさん、しれっと隣に座っといてよお言えるなぁ……」
──周りの光景を見ながらどうしてこうなったと一人思う。元気に私の隣を奪い合う
恐らく、全員私のことが好きで、私を取り合っている女達。
まあ、これだけならまだ良いのだ。なにも良くないが、本当にこれだけならまだ良かったのだ。
「強いが、それだけじゃあ私の敵じゃござらんな!!」
「タネがこれだけのわけねぇでしょうがよ!!死ね!!」
「うわぁ、誰か助けてー」
「彼の為の料理を摘まみ食いした癖に逃げるな!!って、そっちは普通に危ないから別の方向に逃げなさい!!」
問題なのはこういう女が
今を暇な時間と判断したのか少し離れた所で戦っている
そうやってどこを見ても私追っかけの女がいる。なんなら、仕事などで居ないだけでまだまだ何十人も居たりするのだ。マジでなんなんだこの状況。
旅をする前はイケメン男を侍らせて周囲から嫉妬の目を向けられるのはまあ仕方ないよなー、なんて考えていた私も、流石に美少女を侍らせて嫉妬の目を向けられるのは全くもって想定していない。
どうしてこうなってしまったのか、という理由は明白だが私はあえてそこから目を逸らす。男装している私の顔マジで良いし。
ただただ、私はいつも空を見上げてはこう思うのだ。
──百合ハーレムは望んでいないんだが???
さて、この世にはダンジョンと呼ばれる場所がある。それは遥か二千年以上も前の遺跡跡だったり、単なる洞窟が魔物によって堀り進められた結果できたものだったりするのだが、ダンジョンというものを定義するルールが三つある。
一つ、幾つかの層があり、下へ下へと道が続いていくということ。二つ、魔物が自然発生するようになっていること。三つ、ボスと呼ばれる魔物が存在すること。
その三つの条件さえ満たせば人口物であれど自然発生したものであれどそういう構造を持つ場所がダンジョンと呼ばれ、魔法研究院の管理下に置かれことになる。
「なあなあ、旦那さんってダンジョンには何の用があるん?」
「観光じゃない?彼は珍しいアイテム探しにダンジョンに潜るような人じゃないし、このダンジョンは古代遺跡に魔物が自然発生するようになってできたものだもの」
「そうかい、あんたには聞いてないんやけどな……」
「あら、感謝も言えないの?育ちが悪いわね」
「悪いけどやっすい喧嘩はウチは買わへん主義や」
ダンジョンは下の階層に降りれば降りる程、強力な魔物が現れる。そしてその魔物の皮や角、骨などのパーツは魔法の研究において必須アイテムとして高値で取引されるのだ。
だから、一攫千金狙いでダンジョンに潜る者は結構多く、あまり大人数をダンジョンに入れないためにちょっとした手続きが必要だったり、一度に入れる人数に制限があったりする。
まあ、私の場合は単なる観光目的で、そんな魔物の死骸に用はない。適当に最下層まで潜って少し観察してからパパっと帰ってしまおうというのが今日の予定だ。面倒か一人だから手続きも簡単──
「一触即発雰囲気、恐怖感情取得」
「別にそんな怖がらなくていいんじゃないかな?別に本気って訳じゃあないだろうし」
「そうかい?地元じゃこんな言い合いよく聞いたし、案外本気なんじゃねぇの?」
「汝、少々壊頭」
「……キレていいか?」
「その、言葉足らずなだけだから許してあげて?」
──と、そろそろ現実から目を逸らすのを止めて、受付の人と手続きをしながらチラリと後ろを見る。
パッと見えるのは盾女と貴族女。その横に普通女と片言女に喧嘩女が並んで、更にその後ろにもズラズラと並んでいる。
明らかに他の客の迷惑になのだが、よく見ればその他の客の姿が見当たらない。こんな満員な場所に入ろうなんて考えないのだから、当然と言えば当然なのだが。
さて、手続きもあとは名前を書けば完了、そこまで来たところで受付の人が口を開いた。
「あの、同時に入場できるのは一度に六人までとなっていますがどの方が入られるのでしょうか」
そこでペンを動かす指が止まる。最初は私一人の名前を書いて、私一人入ればいいと思っていた。彼女らは勝手についてきているだけで私のパーティーだとかそういうものではない。
だからこそ、そういう考えだったのだが──
「あー、そういえばそういうルールもあったなぁ。別にええんちゃう、旦那さんの周りにいる私達で」
「其意見、文句登場明白」
「あら、だったらあなたの枠を他の人に譲ればいいんじゃない?それな文句も減るかもよ?」
「いやいや、それにしたって一枠しか空かないんだし文句は出るよ。ちゃんと話し合いで決めるとかじゃないと……」
「話し合いとかまどろっこしいな、喧嘩して最後に残ったやつがついていけばいいんじゃねぇか?」
ちょっとした議論が始まったのを見ながらどうしたものかと考える。この状態で当初の予定通り行こうものなら非難轟々、厄介なことになるのは間違いない。
なんとか彼女らを納得させて私一人で中に入る方法はないか──私の天才的な頭脳は一瞬でその方法を閃いた。
「周りの奴らは気にしないでくれ、入るのは俺だけだ」
自分の名前のみを書いた書類を受付の人に渡しそう言いきる。それに先ほどまで熱く議論していた彼女らはポカーンと思考を停止して、こちらを見ている。
ただ、それも今だけで思考が追いついてしまえば私に非難の嵐が飛び交うことになるだろう。だから、私は先んじてこう言った。
「残り五人は誰が選ばれようが別の場所から文句が生まれるだろ?だったら、最初から俺一人だけでいけばいい」
そう、それは私だけで行くけど?という身勝手な理由ではなく、お前達のことを思って平等にするために私一人で行くという選択をしたということにすること。
まあ、彼女らは恐らく私に惚れている女達である。だからお前達のことを考えての部分がクリティカルヒットし、全員が全員納得してくれるは──
「いや、旦那さん。一度に入れる人数は決まっとるんやし一気に入れるだけ入らんと他の客に迷惑やで?」
「文句登場、当然。逆接、其永遠継続可能性、皆無」
「その五人に入れればそりゃあ嬉しいけれど、それが全てという訳じゃないのよ?だからそこを気にする必要はないと思うけど……」
「普通に五人選んだ方が丸く収まると思いますよ……?」
「まっ、その判断もあんたに全員のヘイトが向くって意味では丸く収まりそうだが……やっぱり喧嘩して選ぶ方がよさ──って逃げやがった!!」
「逃亡速度、超高速……」
「旦那さんの得意技やなぁ……」
──たとえ天才的な頭脳が生み出したアイディアでも上手くいくとは限らない。そんなことを学びながら、来るであろう非難の嵐から逃げるべく私はダンジョンの下へ下へと潜っていくのだった。
適当に魔物を狩って下へと降りていくこと、ダンジョン階層十五階。階段を下りたその先にその女はいた。
赤い短い髪に青色の目。四つ袖がある特徴的な白衣なのにそのうちの二つしか使っていないその女は、ダンジョン内だというのに無言で何かの機材と睨めっこをしていた。
「……科学者女、お前何してんだ?」
「実験ってやつだよ。君なら見て分かるものだと思ったんだがね」
「ここがダンジョンの中じゃなければな、一瞬目を疑っちまったぞ」
「ダンジョンの中、だからこそだよ。君も大気中の魔力は下に向かえば向かう程濃くなるというのは知っている筈だが?」
「だからってこんな場所ではしねーよ」
科学者女の言っていることは事実だし、魔法の研究のためには大気中の魔力の濃度は大抵の場合濃い方がいいので、地面を下へ下へと掘っていってそこに研究室を作る魔法研究員も存在はする。中には確かにダンジョンに潜って実験を行う人も存在するだろう。
だが、だからと言ってだ。
「しかし、
「予定通り……なんだなんだ?俺を目的としてこのダンジョンに籠ってたのか?」
「いや、あくまでもダンジョン内での実験が本目的ではあるがね。君が来そうなダンジョンをピックアップしてそのダンジョンで実験を行っていたわけさ」
「……うわぁ」
「おいおい、引かないでくれよ。傷つくぞ?」
「……」
「えっ、まってそんな怖いことしたかな???ちょっと何が行けなかったか教えてくれたりするかい???」
いや、普通に怖いだろ……そう思いながら科学者女から一歩後退る。つまりは私の所在を離れていながらも把握しつつ、その上で近くのダンジョンの中から私が来る一つを当てて見せたということである。
ここが古代遺跡がダンジョンとなったものという観光客が多い場所だという情報を加味してもそもそもわたしがダンジョンに来ない可能性だってあるのだ。
いくらここに私が来るというのがサブプランに近いものだったとしても、実際に来たところに予定通りと言ってくるのは怖くないだろうか。いや、怖い。
「……まあいい、少し体を借りるぞ」
「体を借りるってな──うわっ」
一気に距離を詰められ強引に地面に座らせられる。そして科学者女は私の膝に頭を置いて寝転んだ。
「あぁ……至福だねぇ」
「至福って……俺は一応、観光目的だからさっさと動きたいんだが?」
「いいじゃないか別に。久しぶりにあった友人とゆっくり話そうとは思わないのかい?」
「たまにお前が俺に引っ付いてくるだけで別に友人ではないだろ」
「私は知り合い程度でも久しぶりに会ったゆっくり話すタイプだ──それに嫌なら力ずくで振り払えば良いだろう?」
「やっていいの?」
「すまないやっぱりさっきの無しで。私の我が儘に付き合ってくださいお願いします」
「……はぁ」
私にこの状態を維持する利はない。しかし、私は優しい人間である。わりと疲れているのは事実っぽい相手が幸せそうに癒されている所を壁にぶん投げるなんてことはできないのだ。
全く、仕方ないやつである。そう思いながら私はもう少し、もう少しだけ科学者女を膝の上で休ませてやることにした。
後に私に追いついた盾女達に「私も!!私も!!」と言われ「数が多いわ!!」とまた逃げ出すのは別の話である。
マホウ・エライジンの作った技術、魔法基盤によって魔法というものは選ばれし人しか使えないものから多少の魔力さえあれば誰にだって使えるものとなった。
そのため魔法の種類は劇的に増え、魔法研究院が作られた頃にはその種類は似たものは同じとしてあつかったとしても十万は余裕で越えるだろうとすら言われていた。
──
魔法とは魔力によって
だが、
その理由はとても単純。
ならば、そんないくら調べても分からないかもしれないことを永遠に調べ続けるよりもより効率よく魔法を使う方法や新たな魔法を考えて組み上げら方が世のためになる。
魔法研究院はそんな考えが多数派で──私は少数派だった。ただ、それだけの話だった筈なのだ。
私を無駄研究をする馬鹿なやつだと蔑む人がいる。私に回した所で無駄な研究に使われるだけだからと支援金や魔物のパーツを自分の所で使う人がいる。中には私を研究院から追い出さそうと模索していた人もいた。
それでも私は魔法の原理を解き明かそうとしていた。誰もがそういうものだからと思考を止めているものの正体をハッキリさせてやりたいと思っていたから。
非難なんて実験に没頭することで無視した。研究費はなんとかやりくりして、必要な魔物のパーツも自らダンジョンへと赴いて手に入れていた。追放案は魔法研究院に新たな魔法や効率を突き詰めた魔法の論文を発表するなりして乗り越えた。
そんなに努力をしても私の研究は誰にも認められなかった。当然だ、まだ結果がでていないのだから。私のことを認めてくれている仲のよい魔法研究員だって、恐らくはその研究をやめて新たな魔法をバンバン作ってくれたら良いのにと考えている。
一人は嫌いではなかった。辛くとも我慢はできた。ただ、これがずっと続くのか?そんな考えが徐々に大きくなって──
『魔法の原理を解き明かすね……いいじゃん』
──
『魔法に関する三本指に入る偉人なんてよく言われてるけどさ、結局の所マホウが凄くて他二人は大したことないんだよな。魔法基盤がなければ名が挙がることもなかっただろうし』
ダンジョンで油断し魔物に殺されかけた。そこを彼に助けられた。探せば誰かが体験してそうなシチュエーションだけど、それが彼との初めての出会い。
『でも魔法の原理を解き明かすなんてさ、マホウですらできなかったことだろ?それが実現できればさ、その二人を追い出して二本指に入る魔法の偉人なんて言われるようになるんじゃね?』
魔法研究員がダンジョンに潜るなんて珍しいと話した貴方に全てをぶちまけた。きっと、そのときの私は死にかけたことでもう限界がそこまで来ていたのだ。
『だからさ俺は応援するぜ?いつか凄い研究者に出会ったことがあるって言えるようになるかもしれないからな』
認めてくれたのが嬉しかった。その言葉に救われた気がした。思わず泣いてしまって、彼に困惑されたのを覚えている。恥ずかしい思い出だが、同時に大切な思い出だ。
だから私は今日も研究を続ける。彼の言葉に応えるために。いつか魔法歴の二本指に入る偉人としてマホウ・エライジンと肩を並べるために。そして、そして──
──いつか貴方にこの思いを伝えるために。
笑わなかったのは貴方だけ。そしてそれが私のきっかけなのだから。