「おっ、お腹が空いた……」
バタリ、と倒れた腹ペコ女を見てもうそんな時間かと時計塔の方を見る。時刻はピッタリ十二時、相変わらず正確な体内時計だと思った。
「あんたねぇ……三日分の携帯食料は渡しといたでしょ?」
「そんなものもう全部食べたよー」
「全部食べておいてそれなの!?」
「貴女作成料理、全部美味。故、早期食事完了等理由推測」
「んー、多分そうー」
「くっ、料理人のしては嬉しい理由ではあるわね……!!」
コック女、流されやすいんだな……と思いつつ、周りを見渡して食事処を探す。すると、小さい店はぽんぽんといくつも見つかるのだが、私達全員が入れそうな店は見当たらない。
勿論、毎回全員で食べているわけではないし、いつものように一旦離れて食べれば良いのだが──独断からの逃亡劇を果たした事や研究者女一人だけ膝枕した件について色々と言われている今、そのいつも通りの選択肢が選びにくい。故に、どうしたものか……と、頭を悩ませていた時だった。
「ヘェーイ、安イヨー旨イヨー。ウチノ店ココ辺リデ一番ネェー」
聞こえてきたのは抑揚がほぼ無い棒読みにも近い声。内容はなんかめちゃくちゃ怪しい客引き。本来なら、無視しても良いのだが生憎
その声の方へと振り向けば、そこにいたのは予測通り、私の知り合いだった。
一切風で靡かない鋼鉄でできたピンク色の髪っぽいものに目を覆い隠す黒い謎のゴーグル。肌は色は本物っぽいがやけに角々しくてまるで機械のようだ──まあ、というか機械そのものなのだが。
「ドウダイ兄サン達?兄サン達相手ナラ更ニ安クスルヨー?」
「……機械女、その喋り方何?」
「ンー?客引キハコウイウ感ジデ喋ルト良イト聞イタゾ?」
「誰から聞いたのかは分からないけど間違ってると思うな……」
「なんかめっちゃ怪しい喋り方になってるであんた」
普通女と盾女の突っ込みに「アー、ソウナノカ……」とがっくりしている機械女。一切表情が動いていないのに動きから感情がなんとなく分かるのは不思議な気分だった。
「ふーん、よく分かんないけどこの人の所でお昼ご飯食べれば良いんじゃない?」
「私は食えるならどこでもいいよー」
「静かな場所ならどこでも……あまり人と関わりたくありませんし……」
「ヨーシ、ナラ決マリネー。エット、一、二、三……マアイイヤ。イッパイゴ案内ー!」
エルフ女、腹ペコ女、箱女とその他大勢もわりと機械女の店に乗り気らしく、道を案内しようと先頭を歩き出す機械女についていく。
まあ、私としても全員が乗り気ならわざわざ否定するつもりもない、問題としてはこれだけの人数が入れる店なのかという事があるが、まあ機械女もそこは普通に考えているだろう。
だから私は安心して機械女の案内する道をついていく。繁華街を出て、住宅街を通って、街を出て、森の中へと──
「
「ウワッ、兄サン急ニ五月蝿イネ」
「五月蝿いじゃないだろ!!どこなんだよお前が案内する店ってのは!!」
既に案内されること一時間。そう考えるとたいした時間ではないのだが、場所が場所だ。繁華街を出るのはともかく既に街まで出てしまっている。
既に腹ペコ女は意識を失い箱女の上に乗せられ、エルフ女も何度も何度も「まだー?」と文句を繰り返している。
他の女も大体同様で、店があるなんて嘘だったんじゃないか?と疑っているのだが、機械女はやれやれ分かってねーなという感じのムカつく動きをしてくるだけだった。
「歩行損、私怒感情取得」
「マッ、歩カセ過ギタトハ思ウガ……安心シロ、モウ着イタゼ」
「着いたぜってだからどこに──!?」
「待タセタナ。今度コソイッパイご案内ー」
機械女がそういうと
突然のことに私含む誰もが呆気にとられて、誰もが無言の不思議な時間が流れている。ただ、機械女は反応に満足いかなかったのか残念そうな動きで喋り始めた。
「ナンダヨ、反応ガ薄イナー。隠レタ名店ッテヤツダゼー?」
「いや、これは……」
「流石に隠れ過ぎですわね……」
「これ案内されんと誰も分からんのちゃう?」
「……エッ、マサカオープン以来誰モ客ガ来ナカッタノハ立地ノセイダッタノカ……?」
「間違いなくそうだろ、誰も気づかねえぞこんな場所」
「エー!?」と驚く機械女を余所目に階段を観察する。ただどう見たって普通の階段で、最初からそこにあったかのように存在している。
魔法が使われた形跡もないのでどういう仕組みなんだ……とさえ思ってしまう。
「着いたの?なら早く早く!!お腹がペコペコで頭と足がくっ付きそうだよー」
「腹と背中な。それやと、ペチャンコになるやないかい」
「えっ、急に騒がしくなったんですがもしかして上に誰か乗ってます?」
ただそんな異様な光景も腹ペコ女には関係内容で、箱女の箱を叩きながらそう騒ぎ始める。その声にショックを受けていた機械女もハッとしたようで「エット、マアアレダ。着イテキテクレ」と先に階段を下りていく。
それについていくと、階段を降りた先には結構広い洒落た居酒屋のような場所が広がっていた。席も充分用意されていて、私たち全員が座れそうである。立地さえ良ければ悪くない店だなと感心してしまった。
「私ドモー。イッパイ客ヲツレテキタゾー」
「見レバ分カリマス。ドウモ、オ客様。自由ニ席ニオ座リクダサイ。メニューガ机ノ上ニ置イテアリマスノデ」
「オシボリハソコノ机カラオ取りクダサイマセー」
そして来店した私たちをそう出迎えたのは
機械だしそんなこともあるか、と自分を納得させ席に座る。メニューを見てみればわりと豊富な品揃えで、本当に立地以外は全部よいなこの店、と感心してしまった。
「ナアナア、ドレヲ注文スル?私ハコノ『焼肉セット』ニスルツモリダガ」
「……お前も食べるのか?」
「ソリャア丁度昼時……トイウニハ少シ遅イガ、客引キの仕事デ疲レタカラナ。機械ダッテ栄養補給ハ大事ダゼー?」
「へー……あっ、この『鮭のムニエル』とか良さそうじゃん。これにするか」
「聞イテキタ割ニハ興味ガ無サスギルダロ、オイ」
機械女の苦言を無視し、ウェイターの機械女へと注文を伝える。周りの女達も注文しているようで『大食いチャレンジ丼』、『機械作成健康サラダ』、『蜥蜴の踊り食い』、『チャンペティウス』など様々な料理の注文を──いや待って、今トンでもないゲテモノ頼んでる人いなかった???
そう思ってもう一度耳を澄ませてみるが、注文の繰り返しはないらしい。このままではどんなゲテモノ料理なのかも分からず、なんとなくモヤモヤするはめになってしまう。
こうなったらメニューからゲテモノっぽい料理を探すしかない。あらゆる部門で才能を発揮する私ならば、名前も書いてある場所すら分からなくとも
「ふっ、この勝負もらったな……!!」
「アンタハ突然何ト戦イ始メタンダ???」
困惑する機械女を差し置いて、私の戦いが今始まる──!!
「この『チャンペティウス』、めちゃくちゃ旨そうだな。こっちにするべきだったか……?」
「結局、アンタハ何ト戦カッテタンダ……?」
「うんうん、『鮭のムニエル』ってやつも美味しいー」
「は?なんか俺の料理食べられてるんだが!?」
「寧ロ、気ヅイテナカッタノカ……」
──普通に負けたし、いつの間にかやってきていた料理は「食べないなら私が貰うー」と言ってたらしい、腹ペコ女に食べられている。
どれだけ天才でも才能がない部門もある、お腹を空かせた私の今日の学びだった。
──あなたはだあれ?
その質問に私は名前なら答えることができる。自分の名前という、確かに存在するものを。だが、
私は気づけばとある森に誕生していた。自分は人を模した機械だとハッキリ認識して、私はその森に立っていたのだ。私を作り上げた親も何故作られたのかも分からないまま、頭に残る自分の名前だけを理解して──私はずっとその森で暮らしていたのだ。
釣りや狩りをしたりして人と同じように食事をとったり、木を組み立てて小さな家を作り人と同じように睡眠をとったり──そういう生活をするのに頭の中に入っていた知識は非常に役に立った。機械だから病気にかかることなく、多少のメンテナンスをすればずっと健康に生きていられる。
ただ、ずっと自分の存在意義についての疑問が頭から離れることはなかった。
──あなたはだあれ?
生物ならばただ産まれた、とそれだけで納得できる。だが、私は機械だ。しかも、人を模して精密に造られた機械。そんなものが自然に誕生する筈もないし、なんとなくで造られて放置されたとも考えづらい。
ならば、私には造られた理由があって、何かしらの理由があってこの森に放置されているだけで、その造られた理由こそが私の存在意義なのだと推測することができる。
──あなたはだあれ?
だとしても、そこから先はどれだけ考えても分からない。私を作った人の性格も状況も分からないのだから、推測のしようがない。私の性能から製造した理由を探ろうとしても、私は人を模しているだけで何か役立ちそうな機構があるわけでもない。そう、
そんな結論がでないことを常に考えながら、森の中で変わらない日々を過ごす。一切進捗が見えない思考に焦りを覚えつつ──
『
『知らねぇけど……しいて言うなら、機械?』
──そんな変化のない日々に現れた変化は、一人の男だった。どこからか溢れ出た言葉に、普通に見たまんまを答えた、一人の男だった。
『……イヤ、ソウイウ事ジャネェヨ』
『違うのか?じゃあ、人型機械で』
『ソレモホボ同ジダロウガ!!』
『……こいつ文句多いな』
『聞コエテンゾ、オイ!!』
本気で悩んでいるのに、こちらの事情を知らないとは言え適当な発言をするその男に正直言って腹が立っていた。次も機械に近い発言したら殴るかと考えていたぐらいには私は怒っていて、だからかその男の次の発言に呆気を取られることになる。
『じゃあさ、何を求めてるんだ?』
『……アア?』
『なんて言って欲しいから、そんな質問を俺にしたんだ?』
『ソレハ、エエトダナ……』
そもそも勝手に溢れ出ただけであんたに聞いた訳じゃないとか、分からないから聞いているんだとか、反論のしようはいくらでもある筈だった。
だが、私は反論をせず考え込んでしまう。私はなんて言って欲しくて疑問を溢したのか、それは考え方を変えれば
だって、
『もし、答えがないってなら今のうちに決めておくべきだぜ』
『自分デ、決メルナンテソンナ簡単ニ──』
『簡単だろ、あとになって違うなって思ったら変えたら良いだけだし』
『──ハ?イヤイヤ、ソンナ適当ナノハ駄目ダロ』
『その時その時が適当じゃなければ良いんだって、臨機応変ってやつだよ』
『ソウイウモノナノカ……?』
その考えは私には全くなかったもので理解が追い付かない。最初みたいに適当言っているだけじゃないのか、と疑う気持ちもあった。ただ──
『案外そういうもんだったりするんだよ』
──そう、自信満々に言うその男の事を信じてみたい、なんとなくではあるけれど確かに私はそう思ったのだ。
その後、長年住んでいた森を飛び出し私はその男についていき、外の世界を知った私はもっと自由に外を見て回りたいとその男から離れ、旅をし始める。
自分を複製してみたり、ダンジョンに潜ってみたり、働いてみたり、店を造ってみたり──今の私はそんないろんな事を自由に楽しんでいる。
自分の存在意義が分からないなら、その時その時で決めてしまえばいい。違うなと思っても後で変えれば良いだけなのだから。
「ククク……機械ナノニ柔軟ナ思考ヲ手ニ入レテシマッタモノダヨ」
久しぶりに彼に出会ったせいか、昔の事を思い出してしまった。当の本人は「おい待て!!ご飯代は払えよ!!」「ええー、私なのー!?」とムニエル泥棒の銀髪ゴスロリを追いかけている訳だが、そんな所も彼の魅力に見えてくる。
ご飯を食べ終えたら、久しぶりに誰か一人私を彼に付いていかせよう。勿論、この私でも良いのだが──そんな事を考えながら、最後の焼き肉を口へと入れた。