ゴジラに転生したので愚かな人間どもを滅ぼそうと思います。 作:よよよーよ・だーだだ
遠浅の海に浮かび上がったのは、巨大な背鰭。
一枚当たり数メートルもあろうかという鋭利な刃を備えた三列の背鰭たちは、青い光を湛えながら
背鰭の主の名はキングオブモンスター:ゴジラ。つまりこのぼくである。
ぼくが向かう先にあるのは、人間たちの街。
湾岸に面した人間たちの街は、もう夜も遅く更けているというのに煌びやかなネオンと人工的な電灯で照らされていて、おかげで満天の星空よりも眩く輝いて見える。
……夜分遅くまで
このお話はゴジラになったぼくが人間を滅ぼそうとする話である。
今から人間の世界へ上陸して街並みを放射熱線で焼き払い、高層ビルを筆頭とする建造物たちを巨体で徹底的に踏み砕き、逃げ惑う人間どもを一人残らず捻り潰す。サーチ・アンド・デストロイ、そしてジェノサイド。ぼくが手を染めようとしているのはそういう大量破壊行為だ。
とはいえ、ぼくが人間たちを滅ぼそうとしているのは、別にぼくが凶暴なゴジラだからじゃあない。そもそもぼくはゴジラとしては温厚な部類に入る、優良物件ならぬ優良ゴジラだったはずである。
そんなぼくが、人間の街を滅ぼす。それは相応に理由があってのことなのだ。
ぼくの前世と来歴について、そう取り立てて特別なことはない。
怪獣が暴れ回っている世界で、怪獣のいない国に生まれて平穏に育ち、そして突如街を襲撃した怪獣に踏み潰されて死んだ。ぼくの生まれたあの世界、『怪獣黙示録』の時代においてはありふれたごく普通の人生だったと思う。
そんなぼくがどうしてゴジラに転生してしまったのか。神様の気紛れにしては随分と意地が悪い気がするし、『どうせ転生させてくれるのなら怪獣のいない異世界でチートとハーレムでもつけてくれりゃあいいのに』と恨み言をぼやくことしきりなのだけれど、まあ実際はそうならなかったのだし、いくら不満を垂れても現状は変わらないのだから受け容れるしかない。『あるわけないじゃん、異世界転生なんて』と前世では一笑していた異世界転生、でもいざ我が身に降りかかってみてその認識を改める羽目となった。
運が良かったのは、前世を思い出したときぼくがちょうど人里から隔絶された場所にいたことだった。そのときぼくがいたのは深い海の底、マリアナ海溝をも超えた地下深くの地下空洞。言うなればゴジラの巣穴だ。おかげで自分の気持ちが落ち着けるまで、じっくりと静かに過ごすことが出来た。
これが『人間の街を壊しているとき』や『他の怪獣とプロレスしているとき』じゃなくて本当に良かった。もしそういう状況だったらパニック状態、何が何やらわからないまま街を壊したり暴れたりして、きっと大変なことになっていたに違いない。
そういえばチートオリ主の転生物で『気づいたら転生してました』っていうのがよくあるけど、ぼく個人的にアレには凄く異議があるんだよね。
『朝起きたら女の子になってました』とか『死後、神様に選ばれました』とかならともかく『気づいたら』って何さ、『気づいたら』って。どういう状況なのそれ。いくら本題じゃないからって省略し過ぎじゃない??
ぼくはたまたま自分の巣穴だったから良かったものの、『気づいたら~』のパターンでいきなり転生した人たちは唐突に状況が激変してて混乱したりしなかったんだろうか。たとえばクルマの運転中とか全国統一テストの最中とか、あるいは料理中で火を扱ってるタイミングとかだったら危ない気がする。せっかく異世界転生したのにそれで二度目の人生を台無しにしちゃったりしたら笑えないよね。閑話休題。
まあとにかく、ゴジラに転生してしまったこの現状をなんとか受け入れたぼくは、次なる考えを巡らせた。
ぼくの頭の中で繰り広げられた脳内Gサミット、最重要議題は『これからどうするべきか』だ。さてゴジラに転生したとしてこれからどうする。ゴジラらしく街を壊しに行ってみる? それとも怪獣とプロレスしてみるとか?
……いやまさか。理由もないのにそんなことをするほど、ぼくはバカじゃあない。
前世のぼくを踏み潰した『怪獣黙示録』の怪獣たちが一体何を考えていたのかは知らないけれど、ああいう乱暴なことをする奴らにだけはなるまい、とぼくは心に決めた。それにせっかくゴジラになったのだから、どうせだったら『ぼくの考える理想的なゴジラ』になりたいと思う。
ぼくの考える理想的なゴジラとは『平和主義的なゴジラ』である。
ゴジラといえばとかく問題を起こす厄介者として嫌われているけれど、ぼくが目指すべきはその逆、人間たちとトラブルを起こさない平和主義を信条とする平和的ゴジラだ。
たとえば人間の街へ攻め込んだりなんかしないし、原発だのプラズマクリーンエネルギーを叩き壊したりもしない。人間とも出来るだけ仲良く共存するように努力する。そういう優しいゴジラに、ぼくはなりたかった。
平和主義的ゴジラを目指すにあたって懸念となるのは『エネルギー問題』であった。
エネルギー、つまり食事だ。いくらゴジラと言えども霞を喰ってる仙人じゃああるまいし何か食べ物を食べなければならない、でなければ巨体を維持できずに死んでしまう。
あるいは『怪獣黙示録』の怪獣たちが人間の街を襲っていたのも、このエネルギー問題が原因だったのかもしれない。原発、原潜、核兵器。地上には怪獣の餌になるエネルギー源が豊富にあるので、あるいは怪獣たちはそれらを目当てにして地上へ攻め込んでいたのかも、なんてことも思ったりした。ぼくだって、いくら平和でも飢え死は困る、さてどうしたものかとぼくは思案を巡らせることになった。
しかし、そんなぼくの懸念は杞憂に終わった。
ぼくが棲んでいる地下空洞を隅々まで探索してみたところ、怪獣がエネルギー源にできるエネルギー性物質がたんまり地中に埋まっているのを発見した。エネルギー源だけじゃない。肉、魚、野菜、ビタミン、etc……地下空洞には独立した生態系が成立していて、ゴジラ一匹が慎ましく暮らす分には有り余るほどだった。この地下空洞こそ、神話に出てくるアダムとイブが暮らしていたという極楽の園:エデンそのものだったのだ。
これなら人間に攻撃されるリスクを負ってまで地上へ攻め込む必要なんて全くない、地下空洞でのんびり平和に暮らせばいい。むしろ『怪獣黙示録』の怪獣たちが何故人間の世界に攻め込んだりしていたのか、甚だ疑問である。
あと、人間との関係性についても考え直してみた。前世の『怪獣黙示録』のゴジラみたいに人間の街を踏み潰して回る? 論外だ。
ぼくの前世は人間、だから踏み潰される側の気持ちもわかるつもりである。ゴジラが踏み潰しに来るから人間たちも抵抗するのであって、ゴジラの方から何もしなければ人間もわざわざ攻撃しては来ないだろう。『人間と仲良く友達になる』なんてのは流石に難しいと思うけれど、相互不干渉の隣人くらいにはなれるはずだ。
気儘に喰っちゃ寝!
平和主義!
人間とは相互不干渉!
悠々自適の優雅な暮らし!
……とまあ、こんな塩梅で、ぼくは平和主義的ゴジラ生活もしくは『地下空洞での引き籠もりスロウ・ライフ』を送ることに決めたわけである。
地下空洞での暮らしはとても楽しかった。
朝起きて、エネルギー性物質のドレッシングをかけた海草サラダと魚介を食べる。食べ終わったら昼寝をして、起きたらまた海草サラダと魚介を食べる。そして夜になったら海草サラダと魚介を食べて眠る。一日三食、栄養バランスばっちりである。
朝から晩まで喰っちゃ寝ばかりだと健康にもよろしくなさそうなので、適度な運動も兼ねて地下空洞の探検に出かけたりもした。ぼくの棲み処にしている地下空洞はマリアナ海溝よりも深いところにあるのだけれど、それでもまだまだ底がある。ふとどこまで続いているのか確かめたくなり、マントルを深く潜っていってとうとう地球の核にまで到達したこともあったっけ。
探検の途中、保養にぴったりな『温泉リゾート』も発見した。エネルギー物質で満たされたマグマ溜まり、そこから流れ出した熱水が滝となって地底湖を形成していた。地下空洞の探検に疲れるとぼくはその地底湖を訪れて、エネルギー性物質のマグマ温泉にのんびり浸かってリラックスしながら、ゆっくりと時間の流れに身を任せるのだった。
トラブルらしいものがあるとすれば御近所付き合い、つまり『他怪獣との縄張り争い』だ。
地下空洞に棲んでいる怪獣はゴジラだけじゃない。ラドンやアンギラス、バラゴン、バラン、ムートー、ワーバット、ヘルホーク、ダグ、カマソッソ、ティアマト、ベヒモス、アムルック……珍しい奴だとリドサウルスなんかも見かけたことがある。
中でも強かったのは巨神:キングコングである。
普段は地上の髑髏島に棲んでいるのだが先祖が地下空洞に棲んでいたらしく(ああ、だからあちこちに変な遺跡っぽいものがあるんだね)、その末裔であるキングコングも地下空洞にやってきてはこのぼく:ゴジラへ喧嘩を吹っかけてくるのである。
自分から喧嘩を仕掛けることはない平和主義的ゴジラであるぼくだけれど、吹っかけられたのなら話は別である。キングコングの猛烈なパンチ・キックを尻尾ではじき返しつつ、ぼくは反撃として放射熱線を浴びせかけて胸毛をチリチリに焦がしてやったりもした。
――おのれ、よくも自慢の胸毛を!
キングコングも負けじと攻撃を仕掛けた。ゴジラ族の背鰭を加工して作ったと思しき手斧:コングアックスのフルスイングを叩き込んできたり、あるいは放射熱線を放とうとしているぼくの口内へアックスの柄を突っ込んできたりして。
――あががが、おごごご……!
そんな感じの泥仕合を何日も続けて、お互い泥まみれのボロ雑巾のようになるまで取っ組み合って、最終的にどちらが勝者なのかもよくわからないまま戦いを終える。
――……やるな、おまえ。
――おまえもな。
最後は互いにそう言い合って、双方の健闘を称えてから別れるのがお決まりのパターンなのだった。キングコング、あいつああ見えて結構気の良い奴だよね。ちょっとスケベで、女の子にやたら弱いのが玉に瑕だけど。
ちなみに、キングコングとの戦いも実は結構楽しかったりした。
地下空洞には沢山の怪獣がいるが、ゴジラに比肩する力を持つ怪獣はそう多くない。そんな中、ぼくが本気で戦えるキングコングというライバルの存在は良い刺激にもなるし、なにより独りぼっちは退屈で寂しいものだ。キングコング対ゴジラ、お互いに高め合うライバル関係としては申し分なかったのである。
食べて、遊んで、戦って。そんな日々を過ごしながらぼくはふと思った。
……ゴジラ転生、悪くないじゃん。
よく食べ、よく遊び、そしてよく眠って暮らす地下空洞での生活。それはまるで楽園のようで、ぼくはいつまでも続いてくれるような気がしていた。
……だけど、アダムとイブが最終的に『失楽園』で楽園から追い出されたように、楽園というのはいつか失われるものだからこそ楽園なんだよね。
その現実をぼくもまもなく思い知るのだけれど、まだ
タイトルは2014年版ゴジラ(通称ギャレゴジ)のタイトルクレジットで流れてる曲から。最強にかっちょよいオープニングなんだけどTV放送ではカットされることが多い…
続きますー。
次はどの怪獣の話が読みたい?
-
アンギラス
-
チタノザウルス
-
バトラ
-
スペースゴジラ
-
デストロイア
-
オルガ
-
メカゴジラ=シティ
-
カネゴン
-
ケムール人
-
バルタン星人
-
ガヴァドン
-
ジャミラ
-
メトロン星人
-
ミャクミャク(いのちの輝き)
-
大魔神
-
ガメラ
-
ゼノモーフ
-
プレデター