ゴジラに転生したので愚かな人間どもを滅ぼそうと思います。    作:よよよーよ・だーだだ

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4、メカゴジラをやっつけろ ~『ゴジラ対メカゴジラ』より~

 

 ゴジラ対メカゴジラ。

 ゴジラ同士による地球最大の激突は、()()()()()()()()()()()()()

 

 メカゴジラと対峙したぼく:ゴジラは逞しい腕を振るい、迫りくるメカゴジラ目掛けて右ストレートのメガトンパンチを叩き込んだ。メカゴジラも右アームでこれに応戦、大怪獣同士の拳と拳が正面からぶつかり合う。

 ドゴオォーン……ッ!

 一万トン以上の巨体が激突し響き渡る轟音、そして衝撃波が周囲へとぶちまけられて、辺り一帯の人間の街が一斉に崩れ落ちてゆく。

 途端、悲鳴を挙げて後ずさるメカゴジラ。

 殴り合いで勝ったのはぼく:ゴジラの方だ。ぼくのパンチを受けたメカゴジラの右拳は手酷く変形してしまっている。メカゴジラの機体を構成するナノメタルはとても頑丈だったけれど、ゴジラが繰り出す猛烈パンチには耐えられないようだ。

 右手を潰されたメカゴジラが怯んだのを受け、ぼくは続けて尻尾を振り回した。全長80メートル以上、背の丈よりも長くて強力な尻尾の一撃(テールハンマー)が、メカゴジラの胴へと叩き込まれる。

 メキッ、ギャリギャリィ……ッ!

 金属フレームが擦れてひしゃげる耳障りな音が響き渡り、メカゴジラの肋骨を叩き潰して胸郭に深々と陥没を築き上げる。

 どうやらこのメカゴジラは格闘では防戦一方、怪獣プロレスが苦手のようだ。対するぼくは怪獣王ゴジラ、怪獣プロレスのチャンピオン。伊達に毎日キングコングと殴り合ってはいないのである。

 

 肉弾戦のプロレスにおける不利を悟ったらしいメカゴジラは、ロケットブースターを吹かしてぼくから距離を取ると、背鰭を赤く光らせ始めた。先ほど人間の軍隊を薙ぎ払ったあの強力なビーム光線、プロトンスクリームキャノンを撃つつもりだ。

 ……いいだろう、受けて立ってやる。

 ぼくも対抗して背鰭を青く光らせ、放射熱線を発射する準備を整える。ぼくが繰り出す渾身の放射熱線と、メカゴジラのプロトンスクリームキャノン、どちらが強いか勝負と行こうじゃあないの。

 ゴジラとメカゴジラ、同時に放たれるフルパワーの必殺技。轟く爆音、青と赤、交わり合う二つの光芒。それらは強烈なフラッシュとなって炸裂した。

 

 一帯に大爆発が巻き起こる。

 

 ……おっとっと。

 互いの強力な必殺技をぶつけ合った反動で思わずぼくも引っ繰り返ってしまったけれど、体を起こして見てみるとメカゴジラの方はもっと悲惨だった。

 ぼくは咄嗟に受け身を取って衝撃を受け流すことが出来たけれど、メカゴジラはそうもいかずに爆発の余波を逃がしきれず直撃を喰らってしまったようだ。先ほど殴り合いで潰れた右腕は根元から吹き飛んでしまっているし、胴体はより深々と抉れてしまっていて、プロトンスクリームキャノンを発射した口に至っては下顎が高熱で融け落ちてしまっている。

 ……メカゴジラの奴、人間たちの最終兵器であるわりには随分と呆気なかったな。それとも暴走したことからわかるとおり、実際の出来は粗雑であまり大したことはなかったのかもしれない。そんな風に勝利を確信しながらトドメを刺そうとしたときである。

 

 

 どこからか銀色の塊が飛んできた。

 

 

 飛来したのはナノメタル製の機械部品、メカゴジラのパーツだ。

 飛んできたパーツたちは損壊したメカゴジラの胴と腕、そして顔面へと引っ付くと、破損個所を繕い始める。

 ……まさか、こいつ。ぼくが次の手を繰り出しあぐねているうちに、メカゴジラのパーツたちは仕事を終えた。

 

 出来上がったのは、新品同然のメカゴジラ。

 

 メカゴジラのパーツ修理は完璧だ。つい先ほどまであった派手な腕や胴、顔の破損は、今やその名残すら見受けられない。

 ……そういえば、とぼくは思い至る。先ほど捻り潰された人間の将軍によれば、メカゴジラのボディにはキングギドラの頭蓋骨が組み込まれているのだという。そして、欠損した部位が生え変わるほどの異常な再生能力はキングギドラの特性だ。そんなキングギドラの転生者であるメカゴジラもその再生力を受け継いだのだろう。

 かくして完全復活を遂げたメカゴジラは、得意気に吠えた。

 

 ――ゴジラに転生したので、愚かな人間どもを滅ぼそうと思います!

 

 肩と顎の調子を整えたメカゴジラはまさに準備万端、雄叫びを挙げながら拳を振り上げてぼくの方へと向かってくる。

 ……今度はメカゴジラの方から格闘戦を仕掛けるつもりだろうか。メカゴジラの思わぬ反応に戸惑いつつ、ぼくも応戦する。再び衝突する大怪獣、ゴジラとメカゴジラ。

 今度勝ったのは()()()()()()()()

 

 ……こいつ、パワーアップしてる!?

 

 ゴジラとメカゴジラによる真正面からの組み打ち。先ほどと同じ条件ならぼくが勝っているはずなのに、今度はメカゴジラに押し負けてしまった。

 たとえばさっきパンチ一撃で潰れてしまったはずのアームだけれど修復された後の強度はその数倍、いや数百倍、とてもぼくのパンチで壊せそうにない。

 さらにぼくは先ほどと同じようにメカゴジラの肋骨へ尻尾を打ち込んでみたけれどこちらも同様だ、力いっぱい尻尾でぶん殴ってみてもメカゴジラのボディには傷一つつかない。

 パワーアップしたのはボディ強度だけじゃない。最初にぶつかり合ったときのメカゴジラはどこかぎこちなくどんくさく見えたけれど、修復後は先程とは比べ物にならないほど機敏で、ぼくが繰り出す格闘攻撃を巧みに躱してはすかさずカウンターを打ち込んでくる。

 メカゴジラの奴、土壇場でぼくのパワーと攻撃を分析し、それらに対応できるように自分のボディを改良したに違いない。いや、改良なんて生易しいもんじゃない、もはや『進化』だ。

 闘いながら進化してゆく恐るべき破壊者、メカゴジラ。その驚異のメカニズムに、ぼくはただ驚愕することしか出来なかった。

 

 

 メカゴジラとの対決は終始こんな調子だった。

 腕だの脚だの顔だの、せっかくぼくが苦心してメカゴジラの部位破壊に成功してみても、周囲に築き上げられたナノメタルの支配地からすぐさまパーツ補給が入り、あっという間に修復されてよりパワーアップしてしまう。

 こうなるとぼくはいよいよ不利になってくる。ぼく:ゴジラは疲労しダメージを負ってゆくのに対し、ロボットであるメカゴジラは疲れもしないし苦痛も覚えない。ぼくはいつか力尽きてしまうかもしれないが、メカゴジラは自己増殖し続けるナノメタルから無限にエネルギーを補給してゆくので、その気になれば未来永劫いつまでも戦い続けることが出来る。

 

 しかもこのナノメタル占領地、何がいやらしいって『メカゴジラの味方をしてくる』ところなのね。いきなり地面が抜けてトラバサミでぼくの足を掬おうとしてくるし、ナノメタルから生えてきた無数のレールガン固定砲台やらミサイルランチャーやらが四方八方からボカスカ一斉砲撃を撃ち込んできたりするのだ。

 まあぼくだって曲がりなりにもゴジラだから、ちょっとやそっとのミサイルや落とし穴くらいなら別に痛くもないんだけど、それが四六時中メカゴジラの手助けをするように、そしてぼくの邪魔をするタイミングを狙って仕掛けてくるから本当に鬱陶しい。

 ……こんなのズルだ、インチキ(Cheat)だ! そう泣き言を喚きたくもなる。

 

 極めつけに悪いことには、このぼくに猶予はさほど残されてはいないってことである。

 ぼく自身の体力もあるけれど、それよりも問題なのは、周囲で着々と増殖し続けているナノメタルの占領地だ。戦いが始まった当初はメカゴジラが焼き払った範囲ぐらいでしかなかったけれど、わずか数十分の戦いの合間に街一つをすっかり呑み込みつつあった。

 往年のスペースゴジラと同様、ナノメタルの占領地内でならメカゴジラは無敵だ。そしてこのナノメタルの占領地が拡がり続けていったら、それこそ取り返しがつかなくなってしまう。

 メカゴジラから拡がるナノメタル攻撃で次々と銀色の構造物へと作り替えられてゆく人間の街並み。まるでメカゴジラを中心とした鋼鉄都市(シティ)を造っているかのようだ。

 そんな有様を眺めていた人間たちの一人、先ほど将軍にメカゴジラの状態を説明していた科学者の男が呆然とした表情で呟いた。

 

「これはまさに、メカゴジラ=シティだ……」

 

 決戦機動増殖都市:メカゴジラ=シティ。メカゴジラによる史上最大の侵略、都市規模レベルにまで拡大したナノメタル大怪獣による星を喰う者:グレイ・グー。

 ……いやそんなトンチキな台詞言ってカッコつけてる場合じゃあないでしょうよ! ぼくが戦ってるあいだにさっさと停めろよこのバカ! ぼくは思わず心の中でツッコんでしまったけれど、生憎この愚かな科学者の男に伝える術がない。

 

「おい、キルヒナー博士!」

 

 そのとき、近くにいたGフォースの若い男の軍人――階級は大尉のようだった――が、科学者の男へと声をかけた。

 

「緊急停止コードはどうなってる!? あいつを、メカゴジラを止める方法は!?」

 

 おお、ぼくの代わりに言ってくれたか、名も知らぬ大尉殿。というかこのキルヒナーとかいう科学者の男、メカゴジラの開発者だったのね。

 キルヒナーと呼ばれた科学者の男は、詰め寄ってきた大尉殿に力無く首を振って答えた。

 

「……駄目だ。受け付けない。今のメカゴジラは完全な暴走状態、こちらからのコマンドはロックアウトされてて一切受け付けないんだ」

「ふざけるなっ!」

 

 大尉殿は、科学者の男の襟首を掴み上げて怒鳴った。

 

「じゃあ、どうすれば停められる? このままだとあいつは街を、いいや地上のすべてを呑み込むぞ。そして、この星(すべ)てを喰らい尽くすまで停まらない!」

 

 鬼気迫る形相の大尉殿から喝を叩き込まれた科学者の男は、「し、しかしだね」と言った。

 

「制御処理を行なってる中枢系生体電子頭脳、キングギドラの頭蓋骨はメカゴジラの本体にある、だから停めるならメカゴジラ本体を破壊するしかない。だがメカゴジラを破壊するのは不可能だ。もう無理だ、もはやどうすることもできない……」

「……くそう!」

 

 返ってきた答えに大尉殿は悪態を吐き捨てる。けれどすぐに立ち直り、再び科学者を問い質した。

 

「じゃあ中からの操縦は? メカゴジラには整備用のメンテナンスブースがあったはず、そこから入って中から制御できないのか?」

「……そ、そうか! たしかに、首筋に生体電子頭脳へ直接アクセスできるメンテナンスブースはある……」

 

 問い詰める大尉殿に科学者はぶつぶつと考え込んでいたが、次にその表情に浮かんだのはやはり深い苦渋と諦念だった。

 

「……いや、やっぱりダメだ。見たろう、あの自己進化能力を。きっと制御系も大掛かりに作り替えられてるはず、メンテナンスブースに乗り込んだところで操縦できる保証はない。内部へアクセスできたところでどうせ即座にファイアウォールで防がれてシステムを再構築されるだけ、もはや誰にも停められはしない……」

 

 自分で説明しているうちに絶望で感極まったのか、「嗚呼っ!」と科学者の男はその場へ泣き崩れてしまった。

 

「ぼくはただ、大好きな本物のゴジラにも負けないような、強くてカッコいい『ぼくのかんがえたゴジラ』を創ろうとしただけなんだ! なのに、どうして、こんなことに……っ!」

「諦めるなッ!!」

 

 見ろっ、と大尉殿は声を張り上げて、ぼく:ゴジラの方を指差した。

 

「ゴジラでさえ戦ってるんだぞ、おれたち人間が諦めてどうする! 諦めたらそこで終わりじゃないかっ!!」

 

 そう言って、挫けてしまった科学者の男を叱咤し続ける大尉殿。

 あるいは、こんな大尉殿みたいな心の強い人たちばっかりだったら、きっと世界はもっと良くなっていたかもしれないのに、とぼくは思った。

 ……もちろん、科学者の男が言うことは正しい。メカゴジラを止めるには、今こうしてぼく:ゴジラが闘っているようにメカゴジラの本体を破壊する他に手はない。けれどメカゴジラの本体は際限なく自己進化を続けていて、今やぼくでもちょっとやそっとじゃ傷一つ付けられないほどに絶大なパワーアップを遂げている。

 

 だがしかし、である。

 

 だからといってここで諦めちゃあいけない。大尉殿の言うとおりだ、諦めたらそこで終わりじゃあないか。

 そしてぼく:ゴジラも諦めない。チートで無敵で最凶最悪のメカ転生者であるメカゴジラだけど、あいつも所詮はロボット、人間が作った機械に過ぎない。きっとどこかに付け入るスキはあるはずだ。そう思って奮起しようとした刹那。

 

 

 ぼくの胴体を、鋭い一撃が刺し貫いた。

 

 

 直後、全身に灼けるような激痛が走り、苦痛のあまり体に力が入らなくなる。

 何が起きたのかわからなかったぼくが自身の体を検めてみると、ぼくの腰に太く長い鉄杭が深々と突き刺さっていた。まるで銛、ハープーンだ、それも怪獣サイズの。

 

 背後を振り返ると、ハープーンを発射したのはメカゴジラではなく、メカゴジラの周囲に展開されたナノメタルの占領地――科学者の男が呼んだところの〈メカゴジラ=シティ〉――だった。人間のビルを丸ごと呑み込んだメカゴジラ=シティは、建物を丸ごと造り替えてナノメタルの槍を発射できる固定砲台へと改築してしまっていた。そしてそこから放った鋭いハープーンで、ぼくの腰を串刺しにしたのである。

 ……まったく、なんてやつだ。

 足に力が入らなくなりその場へ崩れ落ちてしまったぼく:ゴジラを、メカゴジラは満足げに見下ろしていた。その両腕は既に巨大な斧へと変形されている。それはまさしくゴジラサイズの断頭斧、きっとあれでぼくの首を叩き斬るつもりだろう。

 メカゴジラはぼくの方へとおもむろに歩み寄りながら、相変わらず狂った世迷言を喚き続けていた。

 

 ――ゴジラに転生したので、愚かな人間どもを滅ぼそうと思います! ゴジラに転生したので、愚かな人間どもを滅ぼそうと思います! ゴジラに転生したので、愚かな人間どもを滅ぼそうと思います!……

 

 ぼくは、ゴジラは、こんなイカレた殺戮マシーンに倒されてしまうのだろうか。そのときぼくは、ゴジラとして生き抜いた二度目の生涯のことを思い返した。

 ……考えてみれば異世界転生ってだけでも幸運なのに、それもゴジラみたいな最強のチート怪獣に転生できるだなんてまさに夢のような生涯だった。

 戦いもしたし、人間に迷惑を掛けられたり大変なことは沢山あったけれど、キングオブモンスター:怪獣王としての仕事はやりがいもあった。『わが生涯に一片の悔いなし!』なんて威勢の良いことを言う気にはなれないものの、前世ではごく普通の平凡な人間に過ぎなかったぼくにとって、ゴジラへの転生は身に余る幸福な『二度目』だったと思うのである。

 ……ああ、いけないな。いつになく感傷的になっているのはいわゆる走馬灯、きっと死期を悟ったからだろう。そう、ぼくはこれからメカゴジラに殺される。

 でもさあ、神様。どうせならチートだけじゃあなくって、カワイコちゃんに囲まれた楽しいハーレムも欲しかったヨ。もし『次』があるのならそこらへんよろしくね、神様。

 そんなことをぼんやり思ったときだった。

 

 

 メカゴジラの背後に、小さな影が飛びつくのが見えた。

 

 

 それがぼくの死に間際の幻なんかじゃあないことは、途端にメカゴジラがジタバタとのたうち回り始めたのを見て理解した。

 メカゴジラの首筋へと飛び移ったのは小型ロボット、人間たちが使っている〈パワードスーツ〉という奴だ。たしか人間が乗り込んで操縦する作業用のロボット兵器で、『怪獣黙示録』の頃によく見かけた覚えがある。

 メカゴジラは首筋に取り憑いたパワードスーツを払い落とそうと両腕を振り回しているが、パワードスーツの方もまさに死に物狂いの様相でメカゴジラの巨体へ懸命にしがみついている。

 だけど、どうして。一体、誰が。

 ぼくの疑問は、続いて聴こえてきた科学者の男の声で解消された。

 

「何をしている大尉!」

 

 そう呼びかける科学者の男に、パワードスーツの中から男の声が返事をした。

 

「メカゴジラの電子頭脳を破壊する!」

 

 メカゴジラの首筋にぶらさがっているパワードスーツ、それに乗り込んで操っているのはさっきの大尉殿だった。なんて無茶をするのだろう、あの大尉殿はパワードスーツでメカゴジラの首に飛び乗ったのである。

 「な、なんだって!?」と驚愕している科学者の男に対し、大尉殿はパワードスーツを操縦しながら冷静に答えた。

 

「こいつの生体電子頭脳はキングギドラの頭蓋骨なんだろ? だったらメカゴジラの首筋メンテナンスブースからアクセスして、キングギドラの頭蓋骨をぶち壊す! いくらボディを自己再生できようが、頭脳であるキングギドラの頭蓋骨までは流石に再生できないだろうさ!」

 

 そう説明する大尉殿のパワードスーツのアームには、これまた大仰な機械仕掛けの槍が装備されていた。あれはロケットで加速して打ち込む超合金の鉄槍、フルメタルパイルバンカーだ。コンクリート塊の三枚重ねを容易く貫き、その気になればこのぼく:ゴジラの皮膚さえ抉るほどの破壊力を誇る、格闘戦の必殺兵器である。

 それを察知したメカゴジラはもがいた。

 

 ――ゴジラにッ、転生したのでッ、愚かなッ、人間どもをッ、滅ぼそうとッ、思いますッ! ゴジラにッ、転生ッ、したのでッ、愚かなッ、人間どもをッ、滅ぼそうとッ、思いますッ!……

「このっ、大人しくしろっ!」

 

 ギャオンギャオンと唸りを挙げて暴れ狂うメカゴジラの首に取りつきながら、大尉殿はパワードスーツに備わった溶断トーチなどの工具でメカゴジラの装甲板を的確にむしり取り、着実にメカゴジラの破壊準備を進めてゆく。

 そして首周りの装甲全てが剥ぎ取られて内部機関が剥き出しになったところで、大尉殿の奮戦を眺めていた科学者の男が「……だけど、いいのか?」と問いかけた。

 

「メカゴジラはゴジラ打倒のために残された最後の武器、人類最後の希望だ。だけどそれを破壊してしまったらもう二度とゴジラを倒せなくなるんだぞ? 『ゴジラに打ち克つこと』、それがキミの念願だったんだろう?」

「…………!」

 

 科学者の男の言葉に、大尉殿は一瞬迷ったようだった。

 ……この大尉殿がどういう人なのか、ぼくは知らない。けれど、この科学者の男の口ぶりからするとこのぼく:ゴジラを倒すことに相当のこだわりがあったらしい。

 あるいはぼくが知らなかっただけで、大尉殿の方はぼくのことを『人生の宿敵』くらいに思っていた可能性もある。かつてスペースゴジラと一緒に戦ってくれたMOGERAのパイロットは、実際にそういう人だった。この大尉殿もまた同じタイプの人なのかもしれない。

 

「…………。」

 

 大尉殿は黙って考え込んでいた。

 このままメカゴジラを好きにさせておいたら人間の世界は滅ぼされてしまう。しかし、それくらいしないと『ゴジラを倒す』なんてことはできないかもしれない。そんな葛藤が、大尉殿の中に生じたようでもあった。

 

「……いや、違う」

 

 けれとそんな逡巡は一瞬のことだった。大尉殿はすぐさま迷いを振り払い、力強くこう吼える。

 

「おれたち人間が()すべきことは『“人として”ゴジラに打ち克つこと』だ。こんな危険でおぞましい機械仕掛けの化け物が人類最後の希望だと? ふざけるな、そんなわけあるかッ!」

 

 いいぞいいぞ、言ったれ名も知らぬ大尉殿!

 ぼくが密かに声援を送る中、大尉殿はパワードスーツのパイルバンカーを高々と掲げた。

 狙う先はハッチを外されて開放状態になったメカゴジラの首筋、その後頭部に張り巡らされた配線コードの動脈、更にその奥深くで脈打ち思考するメカゴジラの生体電子頭脳。つまりは、キングギドラの頭蓋骨だ。

 

「こんなもの! うおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!」

 

 そして大尉殿は雄叫びと共にパイルバンカーを思い切り振り降ろし、ガキィンッ!という鋭い金属音と共にメカゴジラの後頭部を深々と刺し貫いた。

 

 ――ゴジラに転生したので、愚かな人間どもを滅ぼsO縺?→諤昴>縺セ縺……

 

 途端、ぼくの目の前にいるメカゴジラの動きが一気に鈍くなった。

 人間で言えば、脳味噌を直接攻撃されたようなものだ。小さな血管の破裂に過ぎない脳溢血が人体にとって致命的になるように、受けた傷口は小さかろうとも効果は抜群だった。

 まずぼくへ絶え間なく集中砲火を浴びせ続けていたメカゴジラ=シティの固定砲台どもが一斉に砲撃を止め、先ほどまで元気いっぱいに暴れ回っていたメカゴジラ自身もまた脳震盪を起こしたように両目の光が点滅し、やがて足取りまでもがふらふらと覚束なくなってゆく。

 

 ――ゴジラに転逕溘@たので、愚かな人間どもを貊?⊂縺昴≧縺ィ思います! ゴジ繝ゥ縺ォ霆「逕溘@縺ので、諢壹°縺ェ莠コ髢薙←繧を滅ぼそうと思います! 繧エ繧クラに転生したので、愚か縺ェ莠コ髢薙←繧ゅr貊?⊂そうと思い縺セ縺!……

 

 ……無論、こんなのはわずかな時間稼ぎにしかならない。

 メカゴジラが中枢系制御システムを再起動(リブート)して最適化(オプティマイズ)、動作可能状態へ復元(リカバリ)するまでに必要なのはおそらくわずか数十秒。並みの怪獣だったら弱点として付け入るには僅かすぎる隙でしかなかったろう。

 

 だが、ぼく:ゴジラにかかればそれで充分だ。

 

 ぼくが身を起こしたその刹那、メカゴジラから振り落とされた大尉殿の、激励するかのような言葉が聞こえた気がした。

 

「いけゴジラ! メカゴジラをやっつけろ!」

 

 ……言われるまでもないさ!

 ぼくは腰に刺さったハープーンを引き抜いて立ち上がり、さらに上手く動けないままのメカゴジラを羽交い絞めにすると、頭を鷲掴みにして渾身の力で思いきり捻り上げた。

 ……ぎぎぎ、ががが。

 耳障りな金属音が響き、メカゴジラの首の可動範囲を大幅に超えた角度にまで捩じってゆく。

 全身で力を込めているからか、ぼくの腰の傷口から血が噴き出てゆく。正直痛くて堪らない。

 だけどそんなのかまうものか。

 ぼくはメカゴジラの首を力いっぱい捩じり続けた。

 

 

 ごきん。手応えがあった。

 

 

 同時にぼくが掴んでいたメカゴジラの頭がぽろりと抜け落ち、火花を撒き散らしながら胴体部分と泣き別れになった。とうとうメカゴジラの頭をもぎ取ってやったのである。

 やったっ、と科学者の男が歓声を上げたのが聞こえた。

 

「今なら倒せるぞ、ゴジラ!」

 

 ぼくは、頭を喪って脱力したメカゴジラの機体を蹴り倒し、さらに背鰭を光らせた。背鰭の発光はいつもの青色じゃない、赤い輝き、つまりフルパワーだ。極限まで高められた放射熱線のエネルギーが、横転したメカゴジラ目掛けて放出される。

 

 迸る紅蓮の閃光、バーニング放射熱線。その直撃をメカゴジラはまともに受けてしまった。

 

 ナノメタルで出来ているはずのボディは一瞬で融け去り、そして大爆発。鋼のナノメタルで造られたメカゴジラのボディは跡形もなく焼き尽くされてしまった。

 他方、胴体から引っこ抜かれたメカゴジラの頭は、頭だけの状態でもまだ生きていた。瓦礫の山へと打ち捨てられたメカゴジラの生首は、文字通り壊れた機械となって戯言を喚き続けている。

 

 ――ゴジラに転生したので、愚かな人間どもを滅ぼそうと思います……ゴジラに転生したので、愚かな人間どもを滅ぼそうと思います……ゴジラに転生したので……

 

 ……なんて可哀想な奴なんだろう。

 機械仕掛けのメカ転生者ことメカゴジラ。不倶戴天の敵ではあるけれど、ぼくはこいつのことが心の底から哀れに思った。

 だってそうじゃないか。キングギドラにスペースゴジラ、一度倒されたのに無理矢理復活させられて。死体の継ぎ接ぎで作った機械の体、それもかつて自分たちを殺した敵そっくりの似姿をした殺戮マシーンに転生させられて。いくらチートで最強無敵のメカ転生者でも、こんなのイヤに決まっている。

 まったく『怪獣の死体を使って最強無敵の決戦機動兵器を造ろう!』だなんて、最低最悪のアイデアだ。それがどれだけ残酷なことか気に掛けてくれる人が一人でもいたら、こんなことにはならなかったろうに。

 

 今、楽にしてやるからな。

 

 ぼくは、メカゴジラの脳天に力一杯の踵落としをぶちこんだ。

 1万トンの超重量を叩き込まれ、ナノメタル製のフレームで構成されたメカゴジラの頭が一気にひしゃげてぐしゃぐしゃに潰れた。足蹴にしたメカゴジラの頭をぼくは力一杯に踏みにじり、内蔵されているであろうキングギドラの頭蓋骨もろとも粉砕する。

 

 ――ゴジ……転……滅…………

 

 そしてトドメ。ぼくは背鰭を光らせると、完全なスクラップと化したメカゴジラの頭へ放射熱線を浴びせてやった。

 

 ――……あり……ガト…………ウ……

 

 ゴジラの放射熱線、その超パワーに焼かれたメカゴジラの頭は一気に焼失、この世から消滅した。

 続けざまにぼくは放射熱線をメカゴジラ=シティへと掃射、一気に薙ぎ払った。メカゴジラが造り上げようとした銀色の占領地、夥しい量のナノメタルは、灼熱の放射熱線で一気に焼き払われてゆく。それこそ一欠片も余さずに、そしてもう二度と人間なんかに悪用されないように。

 放射熱線の超高熱に曝されたメカゴジラの部品は粉々に爆散し、銀色の燃える雪となって廃墟の街へと降り注いだ。

 キングギドラ、スペースゴジラ、そしてメカゴジラ。地球を食い潰そうとした侵略者どもの名残は、こうして全て消し去られたのだった。

 

 

 

 

 メカゴジラの最期、断末魔の大爆発。

 それらが収まり、一帯に回った火の手がようやく大人しくなり始めた頃、隠れていた人間たちの囁き声が聞こえてきた。

 

「……勝ったのか?」

 

 ゴジラとメカゴジラの怪獣プロレス、その巻き添えで大勢の人間が踏み潰されてしまったようだけれど、それでも僅かな人間たちは瓦礫の山に身を隠して生き延びていたようだ。メカゴジラの敗北を見届けた人間たちは瓦礫の下から這い出てきて、恐る恐る状況を確かめ合っている。

 

「あれが、ゴジラが……メカゴジラを倒したのか?」

「ああ、そうだ。間違いない」

「これでもう大丈夫だ。きっとこの世界を守ってくれたんだ!」

 

 ばんざーい、ばんざーい!

 そう言って人間たちはすっかり安堵の表情を浮かべ、互いに喜び合っていた。

 ……まったく、何を暢気なことを。

 どーん! ぼくは苛立ちを込めて、思いきり大仰に足音を立てた。一斉に振り返った人間たちを、ぼくはぎろりと怒りの目線で睨みつける。

 

「ひ、ひいっ!?」

 

 安心して緩み切っていた人間たちも、このぼく:ゴジラから鋭い眼光を向けられて即座に竦み上がった。

 ……愚かな人間どもめ。散々迷惑を掛けられたぼくら怪獣たち、そして可哀想なメカゴジラのことを思えば、到底許してやる気になんかならない。

 

 ぼくは感情に任せて背鰭を光らせると、人間たちへ怒りの咆哮を挙げた。




タイトルは『ゴジラ対メカゴジラ』の劇中ソング『ミヤラビの祈り』のカップリング曲として発表されたもので、昭和後期の敵怪獣テーマソング群、いわゆる「~をやっつけろ」シリーズのひとつ。「やっつけろ」と題しているわりにはメカゴジラを賛美しているような歌詞なのはご愛嬌。ノリの良い劇中メカゴジラテーマを引用してメカゴジラの魅力をコミカルにまとめた名曲です。

次回、最終話。

次はどの怪獣の話が読みたい?

  • アンギラス
  • チタノザウルス
  • バトラ
  • スペースゴジラ
  • デストロイア
  • オルガ
  • メカゴジラ=シティ
  • カネゴン
  • ケムール人
  • バルタン星人
  • ガヴァドン
  • ジャミラ
  • メトロン星人
  • ミャクミャク(いのちの輝き)
  • 大魔神
  • ガメラ
  • ゼノモーフ
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