ゴジラに転生したので愚かな人間どもを滅ぼそうと思います。    作:よよよーよ・だーだだ

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5、エンドタイトル:Godzilla (feat. Serj Tankian) ~『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』より~

 

 その後の話だけれど。

 地下空洞の巣穴を喪ったぼくは、南洋の無人島で監視されながら暮らすことになった。国連対怪獣防衛前哨基地(Outpost)第94号。島の名前はバース島、またの呼び名を〈怪獣島:ゴジラアイランド〉。

 

 勝手に住み処を区切られて監視されるのは正直窮屈ではあるけれど、出掛けようと思えば外出は自由だし、メカゴジラの一件で人間たちも懲りたのか地下空洞の寝床までは踏み込んでこないようなので、とりあえずぼくは妥協することにした。ちょっと不便だけどセキュリティがついたと思えば、むしろ良いことかもしれない。

 ……人間から見張られているのが不愉快でないと言えば嘘になる。はっきり言ってプライバシーの侵害だ、勘弁して欲しいと思わなくはない。

 

 しかしこれが止むを得ない事情で、人間に出来る精一杯なのだということも、ぼくは理解していた。

 核爆弾を撃ち込んできたのもメカゴジラを造ったのも結局のところ、人間たちはぼくたち怪獣のことが怖くてたまらないからだ。たとえ気休めでもせめて見張りの一人や二人くらいは置いておきたい、というのも当然の心情だと思う。

 ぼくの立場からしても、何の前触れもなくいきなり核爆弾を撃ち込まれるより、常時見張ってもらって何の後ろ暗いこともないことを理解してもらった方がずっとマシな気がする。

 

 そんなぼくを見張るための常駐監視員として赴任してきたのが、メカゴジラの頭にパイルバンカーをブチこんでくれたあの〈大尉殿〉だったのには流石に驚いてしまった。というか大尉殿、あの状況でよくまあ生きてたよね。人間は案外しぶとくてなかなか死なないものだというのをぼくは長年の経験で知っていたけれど、メカゴジラを跡形もなく吹っ飛ばしたあの凄まじい大爆発の中を生き残るとは、この大尉殿もなんとも悪運が強い男である。

 大尉殿――余談であるが、彼の名前が〈サカキ=ハルオ〉であるのをぼくはこのとき初めて知った――の仲間たちの話を聞くかぎりだと、どうやら大尉殿は独断でメカゴジラを破壊した責任を問われ、この前哨基地へと異動になってしまったらしい。

 

「こんなのどう見たって『左遷』じゃないですか、あんまりです!」

「あのときメカゴジラは暴走してたんでしょう? その土壇場で地球を救ってくれた英雄にこんな仕打ち、やっぱり酷すぎる!」

「今からでも遅くない、おれたちが抗議してやるから一緒に戻ろう、サカキ大尉!」

「ハルオ先輩!」

 

 着任当初、見送りに来ていた大尉殿の後輩や仲間たちはそうやって口々に憤慨していたのだが、当の大尉殿は「いや、いいんだ」と平気な顔をしていた。

 

「勲章だの英雄だのなんてガラじゃあないしな。それに地球を救ったのはおれじゃない」

 

 そして大尉殿は、遠浅の海を泳いでいるぼくの方を鋭く睨んでこう言った。

 

「たとえ世界がゴジラを忘れても、おれは絶対に目を離さん。それがメカゴジラを破壊したおれの責任だ」

 

 ……正直に言ってしまうのだが、実はぼくはこの大尉殿のことが嫌いではない。変わり者、変人だとは思うがメカゴジラ討伐の件では借りもあるし、決して悪い奴ではないというのはよくわかる。さっきは『見張られるのが嫌だ』とは言ったけれど、その見張りについたのがあの大尉殿だというのは悪くないと思うのである。

 こうしてゴジラのぼくと、人間の大尉殿:サカキ=ハルオによる奇妙な同居生活が始まったのだった。

 

 

 

 

 大尉殿との共同生活を続けてゆくうち、ぼくはある発見をした。

 日頃からハードボイルドでストイックな大尉殿。けれど、そんな彼にもどうやら『弱点』があるみたいなのだ。

 

「せんぱーい!」

 

 数週間に一回、この島の様子を見に来るGフォースの〈査察官殿〉だ。なんでも大尉殿とは幼馴染で、しかも同じ訓練学校の先輩後輩の間柄であるらしい。

 

「ハルオせんぱーい! お元気でしたかー!」

 

 そうやって砂浜の向こうから駆け寄ってくる査察官殿を見ながら、大尉殿は苦虫を噛み潰した顔で「……ユウコのやつめ」と査察官殿の名前をつぶやいていた。どうやら査察官殿から『先輩』と呼ばれるのが気恥ずかしいらしい。

 大尉殿は生真面目な性格だからか、どうやら女の子の扱いは苦手みたいだった。二枚目だし結構モテそうなのになぁ。

 苦々しい様子で大尉殿は言った。

 

「先輩、って……もうそんな呼び方しなくていいんだぞ。中央に行ったおまえと左遷されたおれ、今じゃあユウコの方が立場も階級も上だろ」

「もう、そんな意地悪なこと言わないでくださいよ。先輩は先輩なんですから……そんなことよりホラ!」

 

 じゃーん!

 査察官殿は羽織っていた制服をいきなり脱ぎ捨て、大尉殿の眼前で仁王立ちした。

 

「……どうです?」

「どうです、って……なにがだ」

 

 素知らぬ顔をする大尉殿に対し、査察官殿は「もう先輩ったら!」と頬っぺたを膨らませた。

 

「『水着』ですよ水着! ほら!」

 

 そして査察官殿は、その場でくるりと回ってみせる。

 ……どうやらこの査察官殿、『脱ぐとスゴイ』タイプだったらしい。全身満遍なく鍛え抜かれた体幹とキメの細かい滑らかな肌、すらりと長くて細い手足。それでいてボディラインはメリハリに富んでおり、肉感豊かなバストとヒップは布面積の少ないビキニでぷるんと支えられている。

 そんな自身のプロポーションを見せつけている査察官殿、その頬は恥ずかしげに赤らんでいるけれど、にんまり笑んだ表情は得意気だ。

 

「ふふん、どうです? わたしとしてはちょっと『攻めた』つもりなんですけど」

「…………。」

 

 そんな蠱惑な魅力たっぷりの水着姿を見せつけられ、大尉殿は何も言わないままなんとも言えない顔をしていた。口を真一文字に結びながら遠い目をした仏頂面? 無我の境地を目指して荒行してる修行僧? まぁそんな感じである。

 

「反応薄いですね。なんか言ってくださいよ」

 

 口を尖らせている査察官殿に大尉殿は無言に徹しようとしていたものの、感想をせがまれて観念したのか渋々口を開いた。

 

「まぁ、いいんじゃないか」

 

 是とも非とも、どうとでもとれそうな無難な感想。だけど査察官殿は不服なようだ。

 

「もおっ、そこは嘘でも『可愛いよユウコ』とか褒めるところですよ! はいもう一回!」

「…………ノーコメント」

「そんなにイヤなんですかわたしを褒めるのが!? うわーショック! わたしだって傷つくときは傷つきますからね、これでもオンナノコなんですから!」

「……やれやれ」

 

 ぷんすこ不満を並べ立てる査察官殿だったが、大尉殿はそんな彼女に呆れてしまったようだった。眉をしかめた呆れ顔で、大尉殿は言う。

 

「おまえ、任務で来てるんじゃあないのか。ここはリゾートでもプライベートビーチでもないぞ」

「まあまあ、いいじゃあないですか。どうせ先輩とわたしの二人っきりですしぃ?」

「ユウコ、中央行ってから変わったよな……」

「えへへ」

「いや、褒めてない。ホントに何かあったんじゃないよな? 相談乗るぞ?」

 

 心配そうに訊ねた大尉殿だったけれど、査察官殿は「いえ、別に?」と事も無げに答えた。

 

「ただ『無意味に我慢するのは辞めよう』って決めただけです。我慢しているうちにゴジラに滅ぼされちゃったら、死んでも死にきれないですからね」

「我慢? 何の話だ?」

「さぁ、何の話でしょうねえ。そんなことより海ですよ海! ひと泳ぎしましょ、先輩!」

「お、おい、引っ張るな、わかったわかった、一緒に行くから……!」

 

 ……ふふ、微笑ましいなあ。

 でもまぁ良かった。いつもしかめ面をしていることが多い大尉殿だが、この査察官殿が来ているときだけは、いくらか表情や心持ちがほぐれているようにぼくには思えた。それに、流石の大尉殿でもこんな辺境の島でずっと一人、それも怪獣と同居生活だなんて頭がどうにかなってしまうかもしれない。

 けれど、大尉殿にはこうして気に掛けてくれる仲間が沢山いる。これならきっと寂しくはないはずだ。

 

 

 仲間と言えば、ぼくにも出来た。

 まずアンギラスだ。

 

 ――ゴジラの旦那ァ!

 

 こうして人懐っこく接してくれる若いアンギラス。

 先代のアンギラスは気難しくてぼくとは折り合いがあまり良くなかったのだけれど、跡継ぎの二代目は人当たり(怪獣当たり?)の良い温厚な性格で、ぼくの『平和主義』に共感を示し、真っ先にぼくへ恭順してくれた。今やアンギラスは、ぼくのことをまるで親分みたいに慕ってくれている。

 

 ――アンギラス、偵察にゆけ!

 ――OK!

 

 こんな塩梅で、ぼくの代わりに偵察まで引き受けてくれる。まったく頼もしい女房役にして相棒である。

 次いで服従の意を示したのは空の大怪獣、ラドン。

 

 ――どもども、新たなキングオブモンスター、地球の支配者(ルーラー・オブ・アース)、ゴジラ様!

 

 そうやって歯の浮きそうな御世辞で媚び諂いながら、ぼくに向かってヘェコラ平伏してみせるラドン。

 

 ――あの機械人形をぶち壊したあのときの度胸、その強さにこのラドン感服いたしました! いよっ、まさに怪獣王、って感じですわ~。

 

 ふーん。調子の良いこと言ってるなあ。

 ぼくの白けた反応に気づかないのか、ラドンはヨイショヨイショとお追従を並べ立てている。

 

 ――どうかこのラドンめを是非とも配下に加えてくださいませ! 露払いから身の回りのことまで総じてこのわたくし、ラドンめにお任せあれ!

 

 なるほど。情勢がいよいよ固まってきたから、ぼくに売り込みに来たってわけか。

 ……ふゥん、手下になりたい、ねえ。

 でもキミ、たしかキングギドラが攻めて来たときはキングギドラ側についたよね。

 

 ――ぎ、ぎくぅっ!?

 

 なんかバトラがこっちにきたタイミングでちゃっかり寝返ってたけど、キミはあのときの清算、済んでたっけ。

 

 ――さ、さあ、なんのことやら。夢となく現となく、前後忘却をいたし、一向に存じおりませんが……?

 

 それにメカゴジラを倒すところを見てた、っていうのならぼくが苦戦してたのも見てたってことだよね? それなら加勢してくれても良かったのに、キミは一切来てくれなかったね。どういうことなのかな。

 ぼくからの釘刺しに、ラドンは滝のような汗を流している。

 

 ――あ、えっと、それは、そのお……。

 

 苦しい言い逃れをしようとするラドンを前に、ぼくは深々と溜め息をついた。『強い方につく』のは怪獣として当然のことだし、特にラドンは要領の良い奴だから次があったらまたやりそうな気がする。

 ……ま、いいけどね。

 熟慮の末に、ぼくはラドンのことを赦してやることにした。困った奴であるラドンだけれど、ちょっとセコいだけで根は気の良い奴なのもわかっている。わざわざ敵に回すこともないだろう。

 

 ――……ほっ。。。

 

 ぼくから呆れられているのに気づいているのかいないのか、とにかく処刑だけは免れたのでラドンは安心したようだった。

 かくしてラドンはアンギラスに次ぐ第二の舎弟ということで、毎日地球の空をパトロールしてくれている。

 

 

 ぼくの周辺関係で一番大きな変化だったのは、モスラのことだ。

 宇宙怪獣絡みで共闘するとき以外は好敵手であったはずのモスラだけれど、ぼくがメカゴジラをやっつけたことでどうやら考えを改めたらしい。

 モスラはぼくのことをこう呼ぶようになった。

 

 ――キング!

 

 ……それ、やめてほしいんだけどなあ。ぼくは単にやるべきことを出来るかぎりにやっただけだ。王様(キング)なんてガラじゃあないよ。

 モスラの王様扱いについてぼくは辞めるように再三頼んでいるのだけれど、モスラは「いいや、あなたこそ王の中の王、King of Kings、キングオブモンスターですから!」と言って聞かなかった。温厚そうに見えて彼女、意外と頑固だよね。

 しかも来てくれたのはモスラだけじゃあなかった。

 

 ――ちょっとちょっと!

 

 身を寄せようとするモスラを制してぼくとのあいだに割って入ってきたのは、モスラの双子の妹に当たる戦闘破壊獣:バトラだ。

 かつてキングギドラ側に就いてモスラと仲違いしてしまったバトラだけれど、どうやらその後和解したらしく、今はモスラと一緒に平和維持活動に従事しているようだった。

 バトラは見た目通りの刺々しい表情でぼくに言った。

 

 ――姉さんにあまりべたべたしないでください。あなたのことはまだ信用してないんですから。

 

 ……バトラって、いつもこんな感じなんだよな。

 モスラとバトラ、姉妹は仲直りできたようだけど、流石にぼく:ゴジラとはまだ距離感があるのかバトラはツンケンした態度を崩さなかった。バトラとは『妖星ゴラス』を巡って確執もあったりするし、距離感とか価値観はそれぞれだから良いけれど、全部終わったんだからこれからは仲良くしたいんだけどな。

 そのことを指摘すると、バトラは不満げに答えた。

 

 ――勘違いしないでくださいね、わたしはモスラ姉さんの付添で来てるだけなんですから。

 

 そうやってフンッと不機嫌そうにそっぽを向いたバトラ、そんな彼女をニマニマと横目で見ながらモスラが言った。

 

 ――とかなんとか言ってますけどバトラちゃん、ここに来るの楽しみにしてたんですよね。

 ――!?

 

 え、そうなの? ぼくが聞き返すとモスラは得意気に教えてくれた。

 

 ――ここに来る前、翅と角の艶とかしきりに気にしてましたし、インファント島だとキングの話ばっかりしてるんですよ。

 ――ちょっ、ちょっと、姉さんっ!

 

 へえ、そうなんだ。

 

 ――まったく、バトラちゃんったら、もっと素直になればいいのに~。

 ――くぁwせdrftgyふじこlp……!

 

 モスラもバトラも、何かにつけてぼくのいるこのゴジラアイランドに来てくれているけれど、言われてみればバトラもいつも文句を言う割にはここへ来るのをやめたりしない。大変なのになあ、ポリネシア海域のインファント島からこのゴジラアイランドまでは相当距離がある気がするのだけれど。

 モスラの指摘を受けてバトラのことが気になってしまい、ついつい目線をやってしまう。

 

 ――あ、あんまり見ないで下さい……っ。

 

 ああ、ごめんね。

 ぼくが興味津々に眺めていたら、バトラは慌てて視線を逸らしてしまった。バトラって案外シャイなのかもしれないな。

 ……そういえばバトラって、見た目が如何にも悪者っぽくて厳つい殺気を放ってるから誤解されがちなんだけど、根はどうも凄く真面目な性格みたいなんだよね。

 たとえば、破壊を司るバトルモスラとして生まれついた出自から人間たちからは『戦闘破壊獣』とか『破壊魔獣』だなんて仰々しい二つ名で呼ばれているものの、それは『地球から授けられた役目に忠実』ってだけでバトラ自身は破壊が好きな乱暴者ってわけではない。かつてキングギドラとの戦いで姉のモスラと対立してキングギドラ側に就いたこともあったけれど、それだって『キングギドラの下で人間を滅ぼすのが地球のためになる』とバトラなりに真面目に考えたからだ。

 キングギドラを撃退したあともこのぼく:ゴジラとは『どちらが妖星ゴラスを迎撃するべきか』で競い合ったりもした。今にして思えばそれもバトラなりの『使命感の裏返し』だったんだろうな。

 そんなわけでぼくはバトラのことがそれほど嫌いじゃない。むしろ仲良くしたいとすら思う。

 

 そういう個人的な心象を差し引いても、モスラとバトラは今や大事な仲間だ。

 モスラとバトラはぼくの代わりに各地を回って、敵対的な怪獣たちを説得して回ってくれた。ぼくは別に王様なんかになりたいわけじゃあないのだが、これは正直助かった。ムートーのように、かつてのキングギドラとの戦いからずっと遺恨が残ってしまった怪獣だっている。だけどモスラとバトラはそういう連中とぼくとの橋渡しをしてくれたのだ。とにもかくにも、モスラとバトラの姉妹には感謝しきれない。

 

 ――ありがとね、モスラ、バトラ。

 

 ぼくはお礼を言いつつ、モスラとバトラの姉妹に向かって手を差し伸べた。するとモスラは満面の笑みを浮かべて前脚を差し出し、バトラは少し恥ずかしそうにしつつも握手に応じてくれた。

 

 ――これからもよろしくお願いしますっ!

 ――……ふん。どうも、よろしく。

 

 こうしてモスラに続いてバトラまで、ぼくの下へ馳せ参じることになったのだった。

 そんなモスラ・バトラ姉妹を見ていたアンギラスとラドンは、こんなことを言った。

 

 ――なんだか通い妻みたいっすね、旦那!

 ――あのモスラとバトラで姉妹丼ハーレムとは流石は怪獣王、いやあ、パネエっすね!

 

 うっさいよ。だいたい通い妻とかハーレムとかそういうのじゃないし、モスラとバトラに失礼でしょうが。

 ぼくが窘めているのを尻目に、モスラとバトラもアンギラスたちの冷やかしに反応した。

 

 ――通い妻、ハーレム……なるほど、いい響きです! 本当にそうされるなら是非わたしたちも入れてくださいね、キング!

 ――は、ハーレムだなんて、『そういう関係』だなんて、そんな……いや、しかし、でも……。

 

 ……いや、モスラもバトラも真に受けなくていいんだからね? ただの冗談なんだから。

 なんだか自分の世界に入り込んでもじもじしているモスラとバトラ、その二体を見ながらヒューヒューと余計なことを囃し立てているアンギラスとラドン。

 とりあえずぼくは、アンギラスとラドン両者の頭を軽く引っ叩いておいた。

 

◆     ◆     ◆     ◆

 

 ……え?

 結局人間は滅ぼさなかったのかって?

 

 まあね。メカゴジラを倒したときはぼくも怒り心頭で『捻り潰してやろう』なんて思ったりもしたよ。もしもあのときモスラとバトラが制止に入ってくれなかったら、メカゴジラに代わってこのぼくが人間たちを滅ぼしていただろう。

 今だってそうだ、ときどき迷惑をかけられては『こいつらをまとめて放射熱線の一撃で吹っ飛ばしてやったらどれだけ胸が()()か』なんて考えが頭をよぎったりもする。

 たしかに人間は欲深で、浅はかで、底無しに愚かだ。何度も似たような過ちを繰り返しては決して改めないし、今後もきっとそうだろうと思う。

 

 だけど、そればっかりじゃあない。

 

 欲深で、浅はかで、愚かな人間たち。けれど、良いところだってきっと沢山あると思うのだ。

 優しくて思いやりのある善い人もいるし、大尉殿みたいに窮地を切り抜ける勇気と知恵と強い心を持った人だっているだろう。それに何よりぼくの前世は人間、ぼくだって間違いは沢山するし、この世界の人間を偉そうに見下して愚か者呼ばわりできるほど立派に人間が出来ちゃあいない。

 あるとき、いつもの査察官殿が大尉殿に「そういえば先輩に会ったら聞こうと思ってたことがあるんですよ」と訊ねたことがある。

 

「どうすればそこまでゴジラが好きになれるんです?」

「……好き、だと?」

 

 査察官殿から投げかけられたそれは大尉殿にとって思ってもみなかった質問だったらしく、怪訝な顔で聞き返していた。そんな大尉殿に、「だってそうじゃあないですか」と査察官殿は続けた。

 

「年がら年中ゴジラゴジラゴジラゴジラって……先輩はゴジラのこと以外、考えたことないんですか? たとえば……好きな女の子のこととか」

 

 そう言って査察官殿は、目線をちらりと背けていた。頬にはうっすら紅が差し込んでいる。

 ……どうでもいい話だけど、こんな可愛い女の子からここまでわかりやすくアプローチされてるのにちっとも気づきもしない大尉殿って、意外と鈍感というか天然のきらいがあるんじゃないかって気がする。端から見ているぼくからすれば、こんなふうに健気な乙女心を袖にしてチートハーレム作ってるような唐変木の朴念仁どもなんて馬に蹴られて死ねばいいと思うね。閑話休題。

 査察官殿の質問の裏に籠められた真意には気づいていないのか、大尉殿は遠くを見ながらこう答えた。

 

「ゴジラが好き、か……自分では考えたこともなかったが、的を射ているかもしれないな」

「えっ、本当に好きなんですか、ゴジラが?」

 

 動揺そのまま聞き返した査察官に対し、大尉殿はこんなふうに答えた。

 

「ゴジラのことを知ってから思い起こせば二十四年、寝ても覚めてもゴジラのことばかり考えてる人生だった。長年Gフォースでゴジラと戦ってきた連中はきっとみんなそうだったろうし、あるいはメカゴジラを創ったキルヒナーも、道を踏み外しただけで元々は同じだったんだろう。信仰する神、越えるべき目標、人生の宿敵、おれたちにとっちゃあゴジラはそんなちゃちな言葉では言い表せない存在だった。それを敢えて言葉で言い表そうとするなら……」

 

 と、ここで一呼吸おいてから、

 

「……それは『好き』っていうのかもな」

 

 ……まあ、ゴジラからすれば、おれたち人間なんて取るに足らない虫けらに過ぎないんだろうがな。

 そう言いながら大尉殿は自嘲気味の笑みを浮かべていて、査察官殿は「……はあ。男の人ってそういうもんなんですかねぇ」と何かを諦めたような、だけどどこか満足げに笑っていたのだった。

 

 

 

 

 ぼくにとっての『人間』というのは、この大尉殿のそれとよく似ているように思えた。

 大尉殿は自分のことを『虫けら』と言っていたけれど、それは違う。ぼくにとって大尉殿はもちろん、あらゆる人間は取るに足らない虫けらなんかじゃあない、むしろ掛け替えのない大切な存在だ。

 欲深で、浅はかで、底無しに愚かで、どうしようもないほどうんざりさせてくる人間たち。しかしかといってすぐさま滅ぼしてやりたいかというとむしろ逆で、その一生懸命な営みは何だか健気でいじましくて、気にしないようにしてもついつい気になってしまう。

 曖昧で、朧気で、だけど確かにそこにある、上手く表現できなさそうなそういう気持ちを敢えて言葉で言い表そうとするのなら。

 

 ぼく:ゴジラは『人間』のことが好きなのかもしれない。

 

 そんな風に思ったりもするのである。

 




おしまい。エンドタイトルは、『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ(通称KOM)』公開時にゴジラ界隈で伝説を築いた怪ソング。原曲はブルー・オイスター・カルトのカバーで原曲はカラオケに入っているものの、KOM版は入っていないのが実に惜しい。お気に入りの曲なので最後はやっぱりコレで〆たいなあって最初から思ってました。

感想とか書いていってもらえると嬉しいです~。
タニ=ユウコちゃん

【挿絵表示】

次はどの怪獣の話が読みたい?

  • アンギラス
  • チタノザウルス
  • バトラ
  • スペースゴジラ
  • デストロイア
  • オルガ
  • メカゴジラ=シティ
  • カネゴン
  • ケムール人
  • バルタン星人
  • ガヴァドン
  • ジャミラ
  • メトロン星人
  • ミャクミャク(いのちの輝き)
  • 大魔神
  • ガメラ
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