妖獣跋扈のショウタイム   作:斑田猫蔵

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ショウタイムの閉幕

 地元の妖怪を遊び半分に殺していた葛城と、その友達だとかいう大学生の男はそのまま自警団の妖怪たちに引き渡された。もちろん、囮役を買って出た俺たちとは連携済みだ。

 というよりもこの事案があった時に、俺と島崎先輩が囮役として名乗りを上げたという裏事情があるんだけどね。俺も島崎先輩も雉鶏精一派に所属しているんだけど、時々こうして自警団の仕事を請け負う事がある。言ってみれば副収入ってやつさ。別に上司たちからは黙認どころか奨励されているから、俺たちは気兼ねなく小遣い稼ぎに勤しめる。別に、本業の給料が少ないとか、そういう事じゃあないけれど。

 葛城の方は妖怪たちの間でも罪状を調べあげたうえで罰を受けるらしいけれど、ツレの方はどうなるのかは解らない。とはいえあいつもあいつで後ろ暗い事があるらしいから、それこそ人間の警察のお世話になるんじゃないかって島崎先輩は言っていた。

 人間社会も俺たち妖怪の社会とあんまり変わらないって事だ。

 

「二人ともご苦労様。大変な仕事だっただろう」

 

 何とはなしに二人が護送されて車に乗せられていくのを眺めていると、年かさの狸妖怪が俺たちに声をかけてきた。この妖は自警団の幹部とかでまぁ地位のある妖怪だ。声をかけられたからきちんと返事をしないと。そう思った途端に俺は少し緊張してしまった。仕事自体はそんなに疲れる事はやってないのに。

 そんな風に思って俺がへどもどしていると、島崎先輩がまず口を開いた。

 

「いえいえ。無理を通して僕たちに仕事を譲っていただいて感謝しているくらいなんですから。ええ。僕たちは大丈夫ですよ。何せ僕自身は玉藻御前の末裔ですし……」

 

 島崎先輩は愛想のよい笑みを浮かべ、はきはきとした様子で話しかけている。彼の弁舌爽やかな様子に俺はちょっと面食らっていた。島崎先輩は年長者を相手にしている時の方がむしろ生き生きとしているような所がある。末っ子だったからという事もあるんだろうけれど。

 そんな事を思っていると、島崎先輩が俺のふくらはぎに尻尾を当てた。あ、と思っている間にも島崎先輩が言葉を続ける。

 

「それに雷園寺君も協力してくれましたからね。ご存じかと思いますが、彼も雷園寺家の次期当主という身分ですから……」

「あくまでも僕は、雷園寺家次期当主候補の一人って事ですからね」

 

 はっきりとした口調で俺は言い添えた。そんな俺の姿を、化け狸のおじさんは優しい眼差しで見つめている。何となく恥ずかしくて居心地が悪いが仕方がない。あの悪たれ小僧の雷園寺もマトモになったんだとでも思っておいでなのだろう。恥ずかしかったけれどそうした視線を受けるしかない。今は真面目にやってるけれど、ヤンチャばっかりやっていて、それこそ自警団の世話になりかけた過去は消えないんだから。

 

 

「雷園寺雪羽君、だね」

 

 声をかけてきた男の人を見た俺は、思わず引きつった笑みを浮かべてしまった。尻尾の毛も逆立ってしまったし。

 自警団の面々に隠れるように佇んでいたこの人は葛城という。下の名前は忘れたけれど、確か今は当主の座についていたはずだ。俺たちが今しがた懲らしめて自警団にしょっぴいて貰った若い方の葛城の、実の父親に当たる人だ。ついでに言えば、目の前にいる葛城さんがうんと若い頃に、俺は何度か会った事がある。この人は若い頃から真面目な人だった。

 

「お、お久しぶりです葛城様……」

 

 挨拶をする俺の声は少し掠れていたと思う。隣の島崎先輩は少し不思議そうな表情を浮かべていた。そして葛城さんは、懐かしそうな笑みを俺に見せていた。

 

「雷園寺君。君の事はどうにもヤンチャな暴れん坊だって言うイメージが付きまとっていたけれど、君も随分と礼儀正しくなったみたいじゃないか。まぁ、最初に会った時からもう二十年も経っているからねぇ。妖怪は人間よりも長生きと言えども、それでも全く変わらないという訳でもないだろうし」

 

 島崎先輩は何も言わず、驚いたような眼差しを向けているだけだ。無理もない話だ。人間の血を受け継ぎつつも妖怪らしい島崎先輩だけど、まだ二十数年しか生きていない。見た目は俺の方が若いけれど、俺はもう既に五十年近く生きている。その辺の食い違いが、島崎先輩の中にはあるのだ。

 

「ご子息の、事ですよね」

 

 取り繕ったりせずに、俺は葛城さんに問いかけた。葛城のどら息子がやった事は赦せない事だ。既に縁を切ったとはいえ知り合いを殺されてもいる。だけど目の前の葛城さんにとっては息子である事には違いない。この人が俺たちに襲い掛かるとは思えない。それでも恨み言の一つや二つをぶつけに来たのだろうと思っていた。

 

「今回は君もよく頑張ってくれたと思うよ。正直な話、息子が君に殺されていてもおかしくないと思っていたからね」

「…………」

 

 葛城さんの言葉は思いがけない物であり、俺はどう答えれば良いのか戸惑ってしまった。とりあえず俺のやった事に葛城さんが腹を立てていない事だけは解った。だけど、悪事に悪事を重ねたとはいえ、息子が亡き者になっていても構わないという葛城さんの言葉の厳しさが俺には少し怖かった。

 そんな事を思っているうちに、葛城さんはいなくなっていた。それでもぼんやりしている俺を見て、島崎先輩は気にするなと声をかけてくれる。

 

「身内に甘い保護者もいるけれど、身内の悪事には一切容赦しない保護者だってこの世にはいるんだ。あの葛城さんとやらもそう言う人だったんだろうね」

 

 島崎先輩の言葉はあっさりしたものだったけれど、妙に説得力を伴う言葉でもあった。それはきっと、島崎先輩の親族も妙に厳しい事があるからだろう。

 

 

 途中微妙な空気になってしまったけれど、それを払拭しようという事で二人で打ち上げを敢行する事がたった今決まった。ファミレスか喫茶店にしゃれ込んで飲み食いしようという事だ。丁度お腹もすいて来ていた頃だし、まだ夕方だから遅い時間でもないし。

 何処に行こうかと二人であれこれ見回っている時に、俺は見慣れた人影を発見した。真面目でちょっと気弱そうなその若者は、以前俺たちを泊めてくれたハラダさんその人だった。

 ハラダさんは一人でぶらついているみたいだったけど、何か良い事でもあったのか明るく元気そうな足取りで歩いていた。どうという訳じゃあないけれど、俺は少し嬉しくなって笑みを浮かべていた。

 ハラダさんはもちろん俺の笑みには気付く事なく、そのまま雑踏の中に紛れ込んだのだった。

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