植物好き(仮)と麦わらの一味もどき   作:浅学寺のえる

12 / 57
※作中に宗教を匂わす表現がありますが、実在の宗教・団体・個人とは一切関係がありません。フィクションです。


第12話〝誰がために〟

 ー 夜明け前 南の海岸 ー

 

 さっきまで出ていた月も見えなくなってきた。夜明けが近いな。

 

 長かったおれの任務も、ユリカーの誘導に成功したことで漸く終わりが見えてきた。

 以前の潜入任務の時に使っていた〝ホカホカ海賊団の副船長〟なんて肩書はアイツに接触するのにピッタリだった。

 

 頭に()()()()で生えてきた花。

 その花粉には人を瞬時に眠らせる効果があるとは聞いていたが、あそこまでとはな。

 世の中には稀に〝悪魔の実シリーズ〟に匹敵する異能を持った奴がいるが、アレもその一つだろう。

 まあ一般人の感覚からでは、おれ達の()()も異能と思われるのかもしれないがな。

 

 頭の花が原因でかつて迫害を受けていたユリカーへ、親近感を持たせるためにゴハンの入った茶碗を頭に乗せる。

 我ながら上の命令とはいえ良く受け入れたものだ。効果はあったがアイツと会う度にメシを用意しなければならない。

 お前の好きなゴハンなんだから丁度いいじゃねーか。とは上司の言葉だ。

 確かに好物ではあるが、食わずに頭へ乗せているのは()への冒涜だろうに。

 

 潜伏して三年になるこの街、かつて前線砦があったこの地は五年前の戦争で一度その(ことごと)くを破壊されたのだが、今では嘘だったかのように復興している。

 むしろ以前の街よりも発展している気さえする。まだ都の方が栄えているが、あの男が毎日のように言っている()()になる日も近いのかもしれん。

 

 そう、あの男〝英雄キハーノ〟だ。

 今では牙を抜かれた獣のようなあの男。腑抜けたふりをしているのか、はたまた本当に腑抜けているのか。

 ユリカーにはああ言ったが、三年間観察してもついに判断は付かなかった。

 明日、海賊の襲撃で明るみになるだろう。どちらにせよあの男が死ぬことに変わりはないが、報告の為には検めなければならない。

 腑抜けたまま死ぬならば名誉の戦死

 腑抜けたフリをしていたならば教会への背信行為とし処分

 

 民衆にはもう英雄は必要ない。もう一人の英雄と同じように消えてもらわなければならない。

 街の人間も多少死ぬだろうが、崖から落ちて死んだ小僧同様 秩序の為に必要な犠牲だ。

 

 

 「おやおや。街を海賊に襲わせ、ご自身は高みの見物ですか?」

 

 街の教会の神父か!? いくら暗いからと言っても気配に気付けないとは、おれも勘が鈍ったな。

 こいつは広い意味では同業者だがどう答えるべきか。

 

 「大方()()()()()()()()()は北の港から上陸し、()()()()()()()は南のこの場所から街へと襲撃する。いわゆる()()()()()とでも言いくるめて相手の船長()()()()を納得させたのでしょう」

 

 こいつ、一体何処まで知っている!?

 

 「しかし実際は、()()()()()()()などというものは存在しない! あなたは海賊でも、ましてや〝めし屋〟の店主でもない。あなたは、英雄キハーノを調査及び、場合によっては処分するため街に潜伏していた異端審問官ですね!」

 

 「だからどうした。背信者を放置すれば()()に反する事になる。それに、一介の神父よりもおれは強い権力を持っている。いいから黙って道を空けろ!」

 

 「権力うんぬんは置いておいて、()()と来ましたか。私達教会の人間が何故信徒達を導き、アド・オリーチェの教えを伝えているのか分かりますか? いいですか()()とは迷える信徒の心を晴らす為の、ただの道標(みちしるべ)でしかありません! 決して殺人の言い訳に使って良いようなものではありませんよ!!」

 

 「お前に教義を説かれる謂れはない。命令だモリア神父、道を空けろ。これが最後だ。次は処分する事になる」

 

 「く、何を言っても無駄なようですね。ならばばばばば……!」

 

 なんだ!? 黒いモヤのようなものを出して急に震え出した。それに、身体が膨張している!?

 

 

 「キーシシシ!! もう準備は完了だ。交代の時間だぜェ()()さんよぉ!」

 

 神父の身の丈は二階建ての家屋程度まで大きく膨張し、風貌も悪魔を思わせるそれへと変化している。

 

 「お前!悪魔憑き(ゲーティア)か! なんと悍ましく邪悪な姿だ!」

 

 「手前ェらの呼び方じゃそうなるな! おれが食べた実は〝カゲカゲの実〟。さっきまで手前ェと喋ってた神父はおれの〝影法師(ぶんしん)〟だ!」

 

 名前から能力の推測が出来ない! 何かされる前に動かなければ!

 

 「(ソル)! ガッ!?」

 

 何故、空に()()がある!?

 

 「キシシシ。無駄だ無駄、手前ェはもう〝箱〟の中だ。もうすぐ夜明けだっていうのに、いつ迄も暗いままで不思議に思わなかったのか?」

 

 クソ! おれは閉じ込められていたのか!? この壁を破壊しなければ……!?

 

 「ぐ、空気が……急に。こ、この背信者、め……」

 

 「安心しな。殺しはしねぇ、神父風に言うなら〝然るべき裁き〟ってやつを受けてもらうだけだぜェ! キシシシシ!」

 

 裁きだと? 悪魔がこのおれを裁く? ずっと教会へ尽くしてきたおれが一体何をしたと言うんだ……

 

 


 

 

 「キシシシ。もう気絶したか〝六式使い〟なんて言っても呆気ねェもんだぜ」

 

 『我々に有利な状況でしたからねぇ。昼に戦っていれば多少は苦戦したでしょう。それより先程、僕の事を分身と仰いましたが些か語弊がありますねぇ。君と僕は、飽く迄()()()()。二つある人格の表と裏ではありませんか』

 

 「細けェ事は良いだろ。おれはコイツの影を切り取って例の場所に放り込んでおく。そのあとは、オマエが教会に戻ってペローナの相手でもしてやれ」

 

 『仕方ありませんねぇ。1()()()騎士団を呼びに行かせてしまったので機嫌が悪い事でしょう。君、代わりに相手をしてもらえませんか?』

 

 「ペローナはまだ、おれの事知らねェだろうが! それにあの小せェ教会じゃおれの身体が入らねェ!」

 

 コイツはたまに真面目に話しているのか冗談を言ってるのか分からなくなるときがあるぜ。

 コイツとおれは〝二心同体〟だ。元々の人格はおれだが、悪魔の実を食った時からコイツの人格が現れやがった。

 おれとは正反対な人格。善良で正義を信じ、秩序を重んじる勤勉なヤロウだ。

 普段はコイツが表に出て活動している。おれ達は表に出る人格を交代すると、肉体まで変化する。仕組みは分からねェが便利な能力だ。

 巨大すぎるおれの身体じゃ潜伏するには目立ち過ぎるしな。いつかあの国へ帰る為にも、今はひたすら準備をしなければいけねェ。

 その為の活動が、コイツの理念と一致してるのは都合が良かった。

 

 教会や騎士団に巣食う〝悪人〟をおれの能力で()()。簡単に言えばこんな所だ。コイツは偉そうに裁きだの教義だの言っちゃいるが、実際はかなり過激な考えを持ったヤロウだ。

 秩序なんてもんが呆気なく消え失せがちな今の世の中じゃ、コイツとおれの考えは一致する部分も多い。

 

「モリア様、小僧が1人向かって来てるぜェ」

 

「随分早ェな、神父に戻ってる暇がねェ。一先ずおれごとまとめて()()にしろ」

 

 朝日が射し込むのと同時に、麦わらの小僧が来やがった。

 

 「あれ? 誰も居ねぇぞ? おっかしいなー。誰かいた気がすんだけどよー」

 

 


 

 

 結局、オレが何も出来ずにいる内に全て解決していた。

 アイツ、チューリップ? いや、ツノハゲ? いや、ツノさえ無くなったから何て呼べばいいのか分からないけど。

 とにかくアイツはキハーノさんが〝鉛星〟で倒した。パチンコもちゃんと持ってたんだなぁ、先に言ってよ。

 ツノが折れた理由はキハーノさん曰く、騎士団に所属している息子が超遠距離から狙撃したから。らしい、息子さんヴァン・オーガーじゃないよね?

 既婚者だったのにも驚いたけど息子って、オレの知らない事が多すぎる。原作知識なんて役に立たないんじゃないのコレ?

 

 ナミさんからは「あんな滅茶苦茶な戦い方するなら先に言いなさいよね!」と怒られた。

 そりゃお互い様でしょと言いキハーノさんと笑っていたら、オレだけ殴られた。ヒドい。

 

 なんでもナミさんの竜巻は怪力で起こしたんじゃなくて、急に強くなってきた南からの風を利用したらしい。

 「ゾロじゃないんだから竜巻なんて力技で起こせる訳ないでしょ」なんて言ってたけど、風が強い日にグルグル回ったって竜巻は起きないと思う。また殴られそうだから言わないけど。

 

 それで風が強くなった原因だけど、これから大雨が降るらしい。この島は滅多に天気が崩れないんだけど、季節の変わり目には大陸から吹く風で嵐になるんだとか。

 今は、教会へ向かう道すがらナミさんから天気の事を教わっていた。

 

 「それで? キハーノさんはアンタに何を頼んだの?」

 

 「自分の代わりに〝狙撃〟してくれって」

 

 「何を?」

 

 「さあ?」

 

 「何で聞いて無いのよー!! 敵がいたらどうすんのよ!」

 

 また殴られた。なんか斧持ってから怒りっぽくない? けど、本当に何を撃つのかは分からないんだ。

 見れば分かる的な事を言われたけど一体?

 ちなみにキハーノさんは息子さんに用があるらしく、あの場に残っている。騎士団の()()ってやつだと〝悪魔の実〟の能力者とは関わったらいけないらしい。

 キハーノさんと息子さんは気にしない()()らしいけど、他の人にはオレが能力者だとバレない方がいいみたいだ。

 息子さんを一眼見ておきたかったけど、あそこまで真剣に()()を頼まれてしまっては行かない訳にはいかない。

 

 「っと。急ぐわよ! もう雨が降り出しそうよ!」

 

 オレはちょっと暗くなったかな? って程度にしか感じないんだけど、ナミさんが言うんだから確かだ。

 いつでも狙撃出来る様にレティクルとバレルを準備しておくか。

 

 


 

 

 あの女の人、ナミさんに言われ私は朝一番で教会の近くまで来ている。

 私とペローナの事をクラハドールから聞いたナミさんは、私の元へやって来て「明日の朝、教会でペローナが待ってる」とだけ伝えて、詳しい事は語らないまま去ってしまった。

 クラハドールが言うにはペローナとも色々と話をしていたらしい。クラハドール自身が()()()()になっていたみたいで詳細は分からないようだけど、私達の為に動いてくれたのは確かなようだ。

 見ず知らずの人にここまでお膳立てしてもらって、私もここまで来たのだけど外にペローナは見当たらない。

 ウソップさんにあんな事言っちゃったけれど、扉を開ける勇気がなかなか湧いてこない。

 

 

 

カラァーーーン!!   カラァーーーン!!   カラァーーーン!!             

 

 

 その時、教会の鐘が鳴り響いた。

 

 「何だよ。うるせェなぁー、人がせっかく気持ちよく寝て……カヤ!!」

 

 「ペローナ……!!」

 

 「な、そうだったー! 騎士団を呼んできてヘトヘトだったから寝ちまったけどカヤが来るんだった! ゴメンなぁー!!」

 

 今まで話せて無かった事が嘘のように、この子はあの頃と変わらずに話しかけてくれる。

 1年振りに会ったのに、見た目まであの頃と同じようだ。元々、幼く見える子だったけど泣いている今はさらに幼く感じる。

 

 「ううん。私の方こそごめんなさい。こうやってココに来るだけで良かったのに1年もかかっちゃったわ」

 

 「カヤは悪くない! 私が勝手に勘違いして……!」

 

 「勘違い? あのね、私別にクラハドールを踏み付けたりは……!」

 

 「そっちじゃねェ! 私が()()()()()()()()()()()なっちまったんじゃねェかと思ってて」

 

 

 


 

 

 

 これで良かったのかな? ナミさんも嬉しそうにしてるし多分合ってたんだろ。

 

 教会に着いた時、外に女の子が一人いて。その子とペローナが会う約束をしてたらしい。

 けど、その約束の後に海賊が襲って来る話になってペローナが騎士団を呼びに行ったまま不在かもしれないから、ナミさんは事情を話す為に急いでいたみたいだ。

 

 あの子はカヤって呼ばれてるな。少し原作より大人びてるけど扉絵で出てきた二年後のカヤが丁度あんな感じだったかな? ウソップ海賊団の成長具合の方がインパクト強かったけど、確かあんな感じだった。

 中学生くらいのペローナと大学生くらいのカヤ。歳は離れてるけど、確かな友情があるみたいだ。

 

 「鐘も鳴り止んだし、あの二人も落ち着いたみたいね。邪魔しちゃうけど雨が降る前に教会へ入れてもらいましょ」

 

 オレが撃った鐘もようやく鳴り止んだか。っていうかキハーノさん! ノーヒント過ぎるんですけど!

 鐘を撃った理由なんて、原作のサブタイトルで〝誰が為に鐘は鳴る〟って話が丁度今の時期くらいにあったのを思い出して、空島でルフィが大鐘楼を打ち鳴らしたのが頭に浮かんで来たからだ。

 たまたま鐘の音で寝ていたペローナが起きてきたから良かったものの、こっちはペローナが教会に帰ってきてたのも知らないし、カヤとペローナの関係だって今聞いたばかりなんだ。

 

 「で、仲直りはできたのね。早速お邪魔しちゃって悪いんだけど、雨が降りそうなの。教会に入れてもらっていい?」

 

 「ああ、入れ入れ! まだモリア様は帰ってきてねェが、教会は来る者拒まず! だ」

 

 あ、みんな中に入って行くみたいだ。女の子しかいないから気まずくならないかな?

 

 「おい! お前も早く入れよ」

 

 「いま行く」

 

 その時ピシャーーンと雷が鳴ったと思ったら、一気に滝のような雨が降ってきた。

 島でも何度か経験したから分かる、コレ動けなくなるやつだ。

 

 「あばばばばばばばばばばば」

 

 「あああ! 何やってんだお前ェ! さっさと入れよ! 扉が閉められねェだろ!」

 

 「エダ! アンタ動けないの!? もう!!」

 

 大雨の中、ナミさんに引き摺られて何とか教会へ入れてもらった。ありがてぇ、もう怪力なんて言わない。

 結局ナミさんを巻き込んでずぶ濡れになってしまった。

 

 「アビガボウ(ありがとう)バビざん(ナミさん)!」

 

 「何言ってんのか分かんないわよ! まったく、締まらない奴ね」

 

 そう言いいながらも、ナミさんは笑ってくれた。

 

 「ホロホロホロ、しょうがねェ奴だな!お前ェ。ナミの分と一緒にタオル持って来てやるから待ってろ!」

 

 ペローナもお互い能力者だと分かってるからか、どこか優しい。

 

 ふと、カヤと目が合った。

 カヤからすれば知らない男が、女の子をずぶ濡れにさせた上で引き摺られながら現れたんだ。

 最悪の形での初対面だけど、きっと優しいカヤなら大丈夫! ほら鐘鳴らしたのオレだし!

 

 

 その顔は分かりやすい程に()()()いた。その表情(かお)はネガティブホロウ並に心を抉る……。

 

 「ああ、どうせ生まれ変わるなら原作キャラが良かった……」

 

 「え!?」

 

 教会の外では、海賊が襲撃した事実など掻き消してしまうほどに雨が強く降り続いている。

 

 島の季節が〝秋〟へと、変わろうとしていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。