「よし! これで全員縛り終わったな」
エダが置いていった蔓製のロープで海賊どもを全員縛り上げると、教会の鐘の音が聞こえてきた。
いつもは鳴らない時間だし、音も随分と乱暴だな。まさか、エダのやつ鐘を撃ったのか!?
カヤの事を見守りたかったんだが、ヤソップにも会わなくちゃいけねェからアイツに任せたんだが……。
「エダ!
「そうですね」
アイツ、何か粋な演出でもしたのか? 戦い方を見る限り派手なことが好きそうだしな。
崖を崩した時は驚かされたが、良く見ると崖上の地面は崩れずに残っていて生えている木々も無事なようだ。半円形に抉れた岩壁は、元からこういう地形だったと思わせる程に
瓦礫も表面を見る限りでは、細かい石と砂が堆積してるだけで岩などは含まれていないな。アイツ岩盤を細かく粉砕したのか?
おっと、ナミが言ってたように一雨来そうだな。あんなに早く天候が荒れるのを察知するとは恐ろしい才能だぜ。
丁度、
石の山を滑らないように登っていき、出来たばかりの岩壁の窪みへ避難すると大雨が降ってきた。
「「おお、危ねえェ。ギリギリセーフ!」」
ん?
「ヤソップ! もう来たのかよ!」
「何だよオヤジ。駆けつけてやったのに文句か?」
コイツまた髪を染めたのか前は金髪にしてたのに今は茶髪だ、それに騎士らしからぬ程に軽装だな。おれだって兜くらいは被ってたってのに。
鎧を着てる他の騎士連中は、港で大雨に降られて船の中に引き返してるようだ。
「いや、丁度いい。お前に話しておかなきゃならねェ事があるんだ」
おれは、ここで起きた顛末を話した。
「ほーん、能力者が味方に居たのか。この瓦礫の山が邪魔で面倒だったぜ?」
「よく言いやがる。キッチリ狙撃してたじゃねーか」
「へへっ、んで? この崖崩れは
それなんだよな。この雨が降ってくる前に騎士団は崖が崩れてるのを確認してるしなぁ。
ナミが怪力で壊した事にするか?……さすがに無理があるか?
「なんだよオヤジ。考えてねェのかよ! じゃあ、おれが適当に
相変わらず便利だなぁ
だが、これが最後だ。
「なぁヤソップ、おれは海に出ようと思っている」
「……そうか」
「お前も海に憧れがあるのは分かってる。だが……
「言うなオヤジ。先に行ってこいよ。漸く決心したんだろ? ここで行かなきゃジジイになっちまうじゃねェか」
街を守る役目もあるしな、とヤソップは続ける。
どうしてそんなに街を守りたがるのか聞いたら、守りたい
それからいくつか、他愛もない事を話した。おれが正気に戻ってからもコイツと話す機会はそうそう無かったから話が尽きる事はない。
にわか雨だったのか、1時間も経たずに雨足は弱まってきた。
そろそろ騎士団の連中も出てくるかもしれないな、最後の用事を片付けておくか。
「ヤソップ。おれを殴れ」
「どうした突然、それはもうやっただろ」
「あの時は正気じゃなかった」
「でもよ、覚えてるんだろ?」
「ああ、おれの乗ってた船の
「オヤジが船長じゃなかったのか?」
「なに言ってやがる。おれは
「はっは! そりゃそうだ!」
結局、ヤソップが殴ってくる事は無かった。ケジメだと言ってもコイツは折れなかった。
終いには、冒険をして帰ってきたら殴ってやると言い放ち仲間の騎士団の元へ帰っていった。
それから少しして騎士団時代の後輩、いま来ている部隊を任された隊長がおれに事情を聞きにきた。
「ウソップさん! 崖を崩落させた
あの野郎!
オレのメンタルが回復する頃には雨も上がったみたいだ。
多分カヤ以外はみんな徹夜してるのに、ナミさん達は楽しそうに話している。ペローナも騎士団のある都まで行っていたから疲れてるハズなんだけど。
海を挟んだ先に都があるなんて不便だよなぁ。何かあった時、わざわざ呼びに行かなくちゃ……?
そうだ! なんで電伝虫を使わなかったんだ!?
まさかこの世界には存在しないのか? 死ぬ前に見た最新刊で、ナミさんの番号が出てきたから覚えてるっていうのに!
「あ、復活したのね」
まあ、目の前にいるから番号とかどうでもいいか。それより電伝虫の事を聞いておかないと。
「電伝虫ってある?」
「
「ホロホロホロ! 随分カワイイ言い方するじゃねーか!」
「生まれ変わったらカタツムリになりたいんですか?」
なんか上手く伝わらないなぁ。あとカヤが天然なのか、ドSなのか分からなくて怖い。
そうだ! アレなら伝わるだろ。
「プルプルプルプル、ガチャ。ってやつ」
我ながら会心のモノマネだ! 前世でもこれで大ウケだったんだ。
あれ? 3人とも
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次にオレが立ち直った時には、教会にみんな集まっていた。
「「おれの船に乗ってくれねェか?
ワシを船に乗せてくれねェか?」」
顔を見合わせ、ルフィと
まあ、ちょっと早いけど原作通りウソップは
「ししし、これで
「至れり尽くせりだろ。アホ」
おお! 原作セリフ! 原作から乖離した別世界だと思った途端にコレだよ!
それから、いくつか話を聞いた。
倒した海賊達は騎士団が連行したらしい。
崖はキハーノさんが火薬を使って壊した事になったそうだ。ちょうど作ってた大玉の花火を騎士団に渡して誤魔化したんだとか。
崖崩れに関しても騎士団が片づけてくれるようだ。スマン。
海賊達の証言からオレが能力者だってバレない内に、島を離れた方がいいとも言われた。
能力者に対しての偏見は結構キツイみたいだなぁ。ペローナもバレない様にしてるらしいし。
ふぁ〜。そろそろお昼頃かな? 徹夜明けだし、さすがに眠いなぁ。
「それじゃ、私は家に戻って船が出航できるように準備を頼んできますね」
「私も久々に
「ああ、ワシも着いてくぞ。メリーにも会っておきたいしな!」
なんか、お開きになったみたいだ。モリア神父は不在だけど、ペローナが言うには勝手に泊まっていって良いらしい。
出航は明日だって話だし、オレも今日は寝ておくか。
ー 翌日 南の海岸にて ー
「ゴーイング・メリー号でございます」
「キャラヴェル!」「うおー!」「へぇ」
良かったぁ、メリー号は原作通りみたいだ。これで船首がクロネコにでもなってたら立ち直れなかったよ。
執事の方のメリーも初めて見たけど原作通りかな? 松葉杖を突いてるから足を怪我してるみたいだけど、クラハドールに襲われた訳じゃなさそうだ。
見送りに来てくれたカヤとペローナの後ろでクラハドールがニコニコしてるし。コイツのキャラが謎なんだよなぁ。
ナミさんが船の詳しい説明を聞いている。
キハーノさんは腕組みして頷いてるから既に知ってんのかな? あの一件を考えると、知ったかぶりの可能性も否定出来ないんだよなぁ。
でも、オレ達は話を聞いても分からないから人の事言えないんだけどね! あとでナミさんが操船に必要な作業方法だけ教えてくれるらしい。
あ! そうだ。ここまで流れで着いてきちゃったけど、きちんと一味に入れてもらわないと!
「ルフィ! オレを船に乗せてくれ!」
「おう! いいぞー。ししし、早く乗ってみようぜ!」
サンジを差し置いて4人目に入った! なんかやけに軽かったのが気になるけど、ブルックもあんな感じだったし大丈夫だろ。
でもニュアンス的に、この世界が仮に物語だったらサブタイトルで〝4人目〟って出てないぞきっと。
真に仲間入りするのは先送りとして、今はルフィと一緒に船に乗り込むか! 何を隠そう、オレは子供の頃にも
あれ? ちょっと違うなぁ。構造が違うのか? そう言えばオレが乗ったやつは空島帰りバージョンでボロボロだったんだ。
綺麗な状態のメリー号は新鮮だなぁ。海賊旗の代わりに羊の旗が付いてるし。おお! もう花壇はあるのかぁ。まだ、みかんの木は無いから土が入ってるだけだけど。
内部も凄い! 食料や航海に必要な道具が全部揃ってる。実質半日で準備したんだよな? メリーさんは怪我してるし、クラハドールがやってくれたのか? 謎キャラとか思ってゴメン。
部屋はラウンジに船倉、男部屋と女部屋にユニットバス! もう一度言おう、ユニットバス!
やけにリアル志向な世界だから無いんじゃないかと思ってたけどお風呂はあるらしい。無人島でも簡易シャワーは作ったけど、太陽光で水を温めなくちゃいけないから面倒だったんだ。
でもこれ、原作みたいに海水を汲み上げて、尚且つ
「なんだ? 風呂が気になんのか? おれ嫌いなんだよなー、力でなくなるし。エダもそうだろ?」
そっか、ルフィって週に1回しか風呂に入らないんだっけ? 確かに湯船に浸かったらオレも動けなくなりそうだなぁ。スコールでも動けないけど、水圧が低めなら大丈夫だったしシャワーで我慢するか。
「お! さっそく目を付けたな! これがワシとメリーの大発明。〝水汲み上げマッスィーン〟だ」
「なんだそれ?」
「甲板の階段下に機械があっただろ? あれを漕ぐと海水を汲み上げたり、〝アツアツ棒〟で温めたりできるんだぜ!」
キハーノさんが作ったのか!? この人、発明家を名乗った方がいいんじゃないの?
「で、〝ビリビリ棒〟も使って〝塩取り板〟でグーっと押してやると真水になるんだ!」
「ふーん、〝
うーん、分からん。
そのあとキッチンの説明もしてもらった。冷蔵庫には〝ヒンヤリ棒〟が使われてるんだとか。
これってもしかして〝
「おー! 肉が入ってるぞ! 食べようぜ!」
「ダメだ。食料は計算して消費しないとな!」
「なんだ酒もあんじゃねェか」
「はいはい、早く出航準備するわよ」
気付けばみんな乗ってるな。オレもナミさんから帆の張り方を教わりつつ準備中だ。
「そうだ! 出航前にちゃんと自己紹介しとかねェとな! 今日からワシの名は〝ウソップ・デラマンチャ〟だ。宜しくな!」
「オッサンの苗字はキハーノじゃないのか?」
「そっちは騎士として有名だからな。これから海賊になるんだから故郷に迷惑はかけられねぇ」
「ししし! デラマンチャって何なんだ?」
「ああ! 今いるこの島の名前が〝マンチャ〟って言うんだ!」
「結局、故郷バラしてるじゃない!」
キハーノさん改め、デラマンチャさんか。言いにくいなぁ、もうウソップでいいや。改名とか面倒だからやめてよ……アレ?
「そうだった! これからオレは〝ブランチ〟だ。よろしくな!」
「ぶらんち?」
「〝朝ごはん〟と〝昼ごはん〟を混ぜたんじゃないの?」
え? 枝って意味じゃないの?
「なんだ、お前まで食いしん坊かよ」
「違う! 名前!」
「なら名前が〝エダ・ブランチ〟って事か?」
「メンドウだからよー。狙撃手のエダと副船長のウソップでいいだろ」
んん? オレが狙撃手で、ウソップが副船長!?
副船長なんて麦わらの一味には居ないんだけど! それに、ウソップを差し置いて狙撃手なんて無理!
「よーし! 出航だー!」
え? チョッ、まって……!
「じゃーなー! みんなー! 名を上げてくるぜー!」「ステキな船、ありがとー!」
「今日からおれ達は〝
最後まで慌ただしくして、あの人達は旅立って行った。
突然やってきて私達のゴタゴタをスッキリさせて、あっという間に去っていく。まるで、昨日の朝にやってきた通り雨みたい。
「ホロホロホロ! 最後まで騒がしい連中だったな!」
「うん。皆さん楽しそう! すっかりウソップさんも馴染んでるみたい」
「彼が行ってしまって、お嬢様は宜しかったのですか?」
「もう! クラハドール! ペローナから聞いたわよ。ウソップさんとは、そんな関係じゃないわ」
ウソップさんは、私の憧れで、夢を見せてくれて、ずっと見守っていてくれた。
でも、もう憧れてるだけじゃいられない。私にもやりたい事が出来たんだから。
ねえウソップさん 船はね やっぱりウソップさんが乗らないと駄目だと思うの
だからね あの人と一緒に海へ出れば良いんじゃないかしら
見てれば分かるわ あの人の事 気に入ってるんでしょう
それでね 私 お医者様になろうと思うの
もちろん大変だってことは わかってるわ
でも いつか私が メリーの脚を治してあげたいの
ウソップさんが海に出ている間に きっと治すから 帰ってきたら今度は メリーも一緒に
ペローナの事だって大丈夫 教会まで 私が会いに行くだけでいいんだから
きっと明日には 私達は今まで通り 仲良くおしゃべりしているわ
だから ウソップさんは 何処にいても噂が聞こえてくるくらい 海で自由に冒険してきて
いつも話してくれる 冒険を 今度はホントの事にするの
そうすれば 私も メリーも 寂しくないから
私も 街の皆んなも もう十分ウソップさんに 助けてもらったわ
今まで 私が悲しまないように 見守ってくれて ありがとう
でも もう 私は大丈夫だから
だから
だからウソップさん 本日をもって あなたを 私の騎士から 解任します
沖には小さくなった船が、まだ
もう帰ろうと言うペローナとクラハドールには、無理を言って先に帰ってもらった。
「そろそろ戻りましょう。お嬢様」
今ここにはメリーと私しかいない。
ゴーイング・メリー号が完全に見えなくなるまで、この目で見ておきたい。
それに、メリーにも言っておかなくちゃ。
「メリー、私ね……」
「なんでしょうお嬢様?」
ここはゲッコー諸島 マンチャ島 やがて首都となる街の名は バレッタ
季節は秋へと移り行くが 街の人々の心は夏のまま
激しい戦乱を乗りこえた街は 英雄が去ったのちも 変わらず暖かいままだった
以上で、〝シロップ村(仮)編〟改め〝バレッタの街編〟は終了となります。
次回は幕間〝ブギーの冒険〟と〝設定集①〟になります。