〝ブギーの冒険〟
〜 二十年前 〜
「すまねェブギー! おれが舟で植物を育ててたばっかりに、こんなことになっちまって」
独立してから最初に出来た仲間が謝ってくる。コイツは海に出て世界中の植物を見て回りたいなんて目的で着いてきた変わり者だが、操船ができる上に異様なほど怪力だ。
本名はあるが、長ったらしいから〝カイリキ〟と呼んでいる。
まだおれを含めて実質二人で旅してるようなもんなんだが、コイツが趣味で育てている鉢植えが多すぎるせいで、船室が狭くなってやがる。
「……仕方ねェ、アレは誰にも想像できねーよ。だがまいった、アレ以来メシを食ってくれねェ」
カイリキの育てていた鉢植えの一つに突然、〝悪魔の実シリーズ〟の何かの実が現れやがった。
部屋が狭いのが災いしたのか、運悪く近くで寝かしていた
もし、おれの口に入ってたらと思うと恐ろしいぜ。
コイツも何かの能力が身に付いてるハズなんだが、相手が赤ん坊じゃ聞くわけにもいかねェ。
見て分かる変化と言っちゃ、わずかに生えてる黒かった髪の毛が緑色になったくらいか。
「ブギーも昔、〝バラバラの実〟を食べたんだろ? 物凄くマズいって話だったが」
「確かにありゃ二度と食いたくないマズさだった。
「ん? 齧ってないのか?」
「ああ、丸呑みだったからな。そんな事よりいくらマズいからって、こんなに長くメシを食いたく無くなるほど口に残る訳じゃねェ」
まだ歯が生えてないコイツにはココナッツの果汁くらいしか今は用意できねェんだが。口に入れても吐き出しちまう。
いくら
「やっぱり牛乳じゃないとダメなんじゃねーのか? 俺もよくわからんが」
「クソ、この前までは飲んでたんだ。やっぱりあの実のせいなのか?」
男二人で悩んでいると一つの島が見えてきた。
「お、ブギー島があるぞ! あそこで食いモンを調達しようぜ」
「いや、ここからじゃ分からねェだろうが、あそこには木一本生えてねェ」
「なんだ行ったことあんのかよ。さすがガキの頃から海賊のやつは経験が違うな」
そう、おれはガキの頃から海賊に育てられたんだ。だから海賊のおれでもコイツを育てられると思ってたんだがなぁ。
そういやぁ、おれがガキの頃に熱が出て食いモンもロクに食えなかった時に、すり潰した魚を食わせてもらったことがあったな。
「よし、上陸するぞ」
「え? 何もないのに寄ってくのか?」
「ああ! コイツに美味い魚を食わしてやらねェとな」
舟を漕ぎ島へと向かう。
さっき見えた岩山の周りを時計回りに漕いで、ちょうど反対側まできた場所に岸壁の窪みがある。
ここは一見するとただの岸壁にしか見えねェが、細い窪みの先には砂浜があったハズだ。
「上陸してみたがホントになんもねえな。んで釣りでもすんのか?」
軽々と荷物を下ろしながらカイリキが言う。コイツ一人で全部の荷物を持っちまうんだから、改めて相当な怪力だと思わされるぜ。
「ああ、だがその前にコイツも下ろしてやらねーとな。久々の陸地だ存分に味わえよ」
両脇を抱えたまま地面に下ろしてやる。まだ立てないコイツでも地に足を着けるって感覚を覚えさせてやらねェとな。
「!ふぎゃー、ふぎゃぁ!」
「どうした、急に暴れ出して」
地面に下ろした瞬間、コイツは急に泣き出しやがった。あのクソマズい実を食っても泣かなかったくせに一体どうしたんだ?
「ブ、ブギー! 腕に!」
「ん? なんじゃこりゃー!?」
おれの左腕に何か細いものが刺さってやがる。咄嗟に赤ん坊が無事か確認するとコイツの足にも細い何かが刺さっていた。
急いで抜いてやらねェとマズい!
「ダメだ! 引っ張っても抜けねェ! なんなんだコレ!?」
「ブギー! 落ち着け! そいつは赤ん坊の足から出てきてんだ。さっきウネウネ動いてお前の腕に巻きついてくのが見えた!」
「じゃあ何かの
「ちょっと待て! なんか前に図鑑で……」
こっちは、ナイフで切ってコイツが怪我しねェのか考えてるっつーのに。カイリキのやつがブツブツと何か言ってやがる。
「そうだ……あの木についた実で、あの模様、緑髪に、植物の根っこみたいなもの……!? ブギー! 今すぐ左腕を切り離せ! 急げ!」
必死な叫びを聞き、咄嗟に腕を切り離す。
危ねェ、いつの間にか肩の近くまできてやがった! あのままだと首まで巻き付かれてたぜ。
クソッ! 手首だけは無事だったと思ったが、
残った手首を浮かせて、赤ん坊を見ると驚いたことに立ってやがる。いやちげェ、良く見ると足から出ている細いヤツが何本も地面に刺さって体を支えてるのか。
「ブギー。そのまま、ゆっくり舟まで戻ってこい」
「ダメだ! まだコイツが」
「落ち着いて聞いてくれ! ソイツが食っちまった実がなんなのか思い出したんだ!」
「ソイツが食ったのは〝ヒトヒトの実〟幻獣種 モデル〝まだ内緒!〟だ!」
カイリキがおびえているのにおれも合点がいった。幻獣種っていえば悪魔の実シリーズの中でも最上位クラスの能力だ。
しかもまだ内緒!っていやぁ、人を喰っちまう伝説がある化け物じゃねェか。
「だがコイツを置いてくわけにはいかねェ! そんな事したら、おれはあの人に顔向けできねェ!」
「馬鹿! よく見ろ! もうお前の腕を喰っちまってるぞ。赤ん坊に制御できる代物じゃねーんだ!」
「ぐっ、だが……」
「ほっといたって死にゃーしない! もっとも生命力が高い実って話だ。何しろ
さっき下ろした荷物は完全に根っこに飲まれてやがる。このままじゃ舟まで根っこに飲み込まれちまう!
決断を強いられた おれは────
〜 それから 十年後 〜
「ようやく帰ってこれたな〝キャプテン・ブギー〟」
「呼び捨てで良いって言ってんだろカイリキ」
「そうはいかねェ、おれ達ももう大所帯だ。
「おめェは
「それもあと僅かの話だ。おれよりスゲェ奴も増えた。カバジにゃ頭で敵わねェし、モージなんか若ェのに、おれより船員を纏め上げるのがよっぽど上手いだろ?」
こいつの言うように、いつの間にかおれ達も大所帯になった。
船は新しく建造し、あの小さな舟に乗ってたのが嘘だと思うほど大きな船で航海している。
船員の中にはカイリキが言った様に、才能のある奴が何人かいる。
一番古株のこいつが納得してるなら副船長は別のやつに変えるべきなんだろうが、それはこの一件が片付いてからだ。
すっかり
「まぁ副船長うんぬんは置いといてよぉ、今は
「そりゃそうだな、漸く手に入れたんだ。早くアイツに会いに行ってやろうぜ」
おれじゃ触れねェからカイリキに持たしている〝海楼石〟こいつを手に入れるのに十年もかかっちまうとはな。
昔
能力者のおれには必要ねェなんて当時は思っていたが、
「にしても盲点だったよな。能力者を忌み嫌ってる教会にコレがあったなんてよ」
「考えてみりゃおかしな話じゃねェ、それがありゃ誰が能力者かすぐに分かるからな」
おれ達にとっちゃ、やたらと煩わしいあの教会だ。
拠点にちょっかいを出して来やがった落とし前をつけに乗り込んでみりゃ、思わぬ収穫が2つもあった。
〝海楼石〟と牢屋に捕まっていた〝あの男〟
アイツも能力者だから、長い間教会に捕まっていたらしい。生かさず殺さずってのは
「キャプテン・ブギー! 上陸の準備ができました」
カバジは相変わらず手際がいいな。あそこは今のデケェ船じゃ上陸できねェから小舟を用意している。
モージの奴はもう舟に乗り込んでやがる、
「カイリキ。留守を頼むぜ」
「あ、ああ……。でもよぉ、見てみろ
カイリキが動揺しながら望遠鏡を渡してくる。
そして、おれは見ちまった。
太陽に照らされて、微笑んでる
アイツの幸せそうな顔を
おれは、遅すぎたんだ。アイツはもうここから連れだすべきじゃねェ。
まるで
クソ! あの人に合わせる顔がねェ……。
「ブギー……。いや、キャプテン・ブギーおれ達は……」
唯一アイツの事を知ってるカイリキも同じ考えみてェだな。
「ああ。テメェら! 上陸は中止だ!! 帰るぞ!」
「えぇー!?」「どうしてだキャプテン・ブギー!?」「お宝があるんじゃねェのか!?」
「ぎゃはははは、おれの勘違いだ! すまねェテメェら! 拠点に戻ったらいくらでも酒を飲ましてやる!」
「「「うぉぉ! サイコーだぜ! 我らがキャプテン・ブギー!!」」」
ノリのいい連中だ、肩透かしを食らっても陽気に笑ってやがる。新入りもノリがいい奴で一丁前に演奏なんかしてやがる。
「おいモージ! 撤収だ。さっさと戻ってこい」
「え!? あ、ああ。分かったぜ」
小舟も引き上げたし、もう用はねェ。
しかし、あの赤ん坊がスッカリ成長したもんだぜ。多少痩せちゃいるが、カイリキの言った通り世話なんかしてやらなくても勝手にデカくなっちまうたぁなぁ……
「キャプテン・ブギー。号令を」
「おう! 取り舵いっぱーい! 進路はおれ達の拠点だ!!」
あの島から大分離れた辺りで、今はもうねェハズの指からあったけェ感覚がしたが。
ま! 気のせいだろ!
ちなみに魚のすり身を生で食べるのは危険です。
火を入れれば離乳食期の赤ちゃんになら食べさせても大丈夫みたいです。
悪魔の実の名前はボカシを入れてます。反転しても出ない仕様です。
ヒトヒトの実 幻獣種 何のモデルかはまだ内緒です。本編で明らかになるのでお楽しみに。