目の前に小さな島が見える。どうやらこの女の航海術はホンモノみたいだ。
おれが一人で海に出る時は、運まかせで陸が見えるまで適当に漕いでるだけだからな。おかげで何日も海の上で、そのうちメシも無くなる。
ついこの前も、街に着くまで二週間も海を彷徨ったせいで腹が減って死にかけたもんだ。
そこで出会ったのが海賊〝道化の
あそこには再戦を約束した剣士もいるから、そのうちどっかで会えるだろう。
そして、最初は敵として出会ったこの舟にいる船長と航海士のコイツ達二人。合縁奇縁とは良く言ったもんだ。
メシの礼が大分高く付いて海賊に身を堕とす羽目になっちまったが、例え悪名だろうと〝豪剣〟の名を世界に轟かせれば満足だ。
「すげー! ちゃんと島に着いたぞ!」
小さな砂浜は岩場に囲まれていた。こりゃデカい船だと入れないな。
ブギーから
「そりゃ、着くわよ当たり前でしょ。て言うか、アンタ1人の時どうやって航海してたのよ?」
「ん? アレだ、ノリで」
どうやら船長もおれと同じで航海術はからっきしみたいだ。いや、お前海賊なんだろ?
「アホかー! はぁ、なんでこんな奴に着いてきちゃったんだろ」
そりゃお前が……まあコイツも色々あるんだろ。触れないでおいてやる。
馬鹿なやり取りをしていると、浜辺に隣接してる目の前にある森から急に気配を感じた。
咄嗟に刀を抜き、思わず「誰だ」と叫んじまった。
おれは剣士として戦ってきた経験から人の気配には敏感だ。正面きって勝てない奴が寝込みを襲ってくるなんてことも珍しくないからな。
そんなおれが、この近さで上陸前に気が付かない訳がないんだが──ソイツはそこにいた。
ずっと動かず、まるで森と一体化しているようなソレは
「オレ、テキ、チガウ! ナカマ! ナカマ!」
近づいてきた怪しい風貌の男に船長と航海士もようやく気が付く。コイツら危機感が足りねぇな。
おれは片言に喋る男をジッと観察する。
猫背気味のこの男は真っ直ぐ立てばおれよりも大きいだろう。
体格は全身を隠せるほどデカいマントで解りにくいが、僅かに覗かせる首元を見る限りかなりの細身だろう。
次に目につくのは、左目に着けた穴の空いた眼帯だ。意味あんのかソレ?
さっきから必死に片言で「ナカマ!」と叫んでんのは、まさかおれの頭を見て言ってんのか?
最後に、唯一の武器だと思われる腰に下げた剣は どう見ても
そもそも剣士じゃねェな。どんな曲技をもった剣士だろうが、体幹を見れば剣を使う人間かどうかは分かる。
コイツに敵意がないのは分かったので刀を納め「ああ、ナカマだ。ナカマ」と適当に返してやる。
コイツはただの島に住んでる狩人かなにかだろう。気配の消し方だけ異様に上手いが他の振る舞いは一般人と変わらねェ。
言葉が片言なのは気になるが、まあこんな奴もいるんだろ。世の中には独特すぎる笑い方をする奴もいるんだしな。
意外と友好的なコイツから食糧でも分けてもらえればこんな辺鄙な島に
そう思った矢先に森から何かが動く気配がした。
「おわっ! なんだコレ、どーなってんだ!!」
何やってんだあの馬鹿! いつの間にか森に入っていた船長が、罠にかかって木から逆さまに吊り下がってやがる。
「こんにゃろ! クソ、
「おい暴れんな! ルフィー! 今切ってやるから……
と、おれが言い終わるよりも早くアイツが前に出てきて、そのまま無言で船長を指差したかと思えば──
「ニー、ドー、ショッ!!」
そこには高速で発射される矢のようなものが──
「クソ! 油断した! ルフィー! 避けろー!」
おれの心配も虚しく、指先から射出された何かは見事に撃ち抜きやがった。
──船長の足に巻きついていた蔓の根元を。
ゾロ(推定)に殺されかけて、必死に弁明してたら何とか警戒を解いてもらえた。
それにしても、この世界での言語が
そういえば、この島には一度もニュース・クーがやってきてないな。一時期、鳥を射撃しまっくたから警戒してるのかも?
話は戻って、会話がカタコトになった理由だけど──ロクに喋ってなくて発声しづらかった事と、前世での英語の成績があまり良く無かったという事だ。
まさかこんな所で語学力が必要になるとは死んでも思うまい。ああ前世でスピードラーニングでもしておくべきだった。
「おう! おれたちは友達だ!」(意訳)
ゾロ(推定)が刀を納めて返事をしてくれた。最初はいきなり殺気を放つ野蛮人かと思ったけど、なかなか話の分かるやつだ。
ナミ(推定)……もう面倒だから確定でいいか。ナミはずっと考え事をしているのか黙ったままだ。ルフィに至っては姿が見えない。
ん? この状況でオレを無視してどこ行ったんだ?
疑問は直ぐに解消された。
まだ残っていたウサギ用トラップに見事にハマり、逆さまに吊るされたルフィが騒いでいる。
その手には、一枚の葉っぱを握りしめていた。
あれは野生動物の誘引用に置いた、美味そうな香りが出るよう
足輪になっている蔓も簡単には解けないものだ。衝撃が加わると強力な粘液が分泌するように
仕方ない、撃つか。キャノンじゃデカすぎるし
ついでにこの距離なら
「〝ニードルショット〟ッ!」
よし命中! 無事に貫通力重視の細めな棘が蔓の根本を貫いた。
途中ゾロが何か言っていたけど、早口すぎて聞き取れなかったなぁ。まずい、リスニングにも難ありだ。
蔓が千切れルフィがどさりと落ちてきたので、握手を兼ねて起こしてやるか。
「ケガ ハ ナイ カ?」
「わりぃわりぃ。ありがとう! お前イイやつだなぁ」
思ったより好印象。このまま船に乗せてくれ。
「おい! 今のはなんだ!」
ゾロがまた何かを言っている。そう興奮すんなって、今のは聞き取れたぞ。
「イ、イマノハ、ニードゥ、ショッ! ダ!」
「だからソレがなんなんだよ!」
なんか怒られた。まったく! これだから英語は苦手なんだ。
できることなら転生直後の脳が柔らかい内に話相手が欲しかったよ。
会話が成立しないのでどうしようか考えていると、思わぬ助け船が出た。
「ねぇ、アナタ言葉が分からないんじゃないの?」
お、ナミがはじめてオレに話しかけてきたぞ。フムフム。よし!
「オレ コトバ シャベレナイ」
「喋ってんぞ、ナミ」
「アンタは黙ってて。んんっ、いい? ゆっくり喋るから良く聞いて。アナタは少しだけ言葉が分かるのね?」
ピンポイントでいい質問をしてくれた! さすがナミさん。もう呼び捨てにはできないぞ。
答えはYES!
「 ソ ウ ダ 」
その後、ナミさんが簡単な単語で色々と聞き出してくれたので、オレの現状はおおよそ把握してもらえたハズだ。
結構な時間をかけてしまい、喉が渇いてる様子だったから お礼に浜辺のヤシの実を蔓で取ってきた。
能力のせいなのかオレには不味くて食べられないものだけど、いい匂いがするしホントは美味いんだろう。
まず〝棘〟でヤシの実に穴を空けて〝枝〟を細く作り、中が空洞になる様に生成すればストローになる。先端がスプーンとしても使える自慢の逸品だ。
ちなみにヤシの実は、最初に果汁を飲んでからスプーンで果肉を掻き出して食べるのがオススメだ。
「サア ドウゾ ナミサン」
「ありがと。少しだけ喋るのにも慣れてきたじゃない」
「アリガトウ ゴザイマス」
「その色々出せる植物みたいなのがアンタの能力なのよね。はぁ最近立て続けに〝
ん? なんか呆れられてるぞ。まずい!
「オレ ガンバル! フネ ノル!」
「はいはい、こんな島に置き去りになんかしないわよ。アイツ達が帰ってきたら事情を話して早速出航しましょう」
何を言ってるのかは分からなかったけれど、コチラを安心させるための笑顔だけは理解できた。
ナミさんがヤシの実を食べ終わる頃、ルフィとゾロが帰ってきた。オレが知らない間に島の探索に出ていたらしい。
「この島ワナだらけなのに、なんにも無いぞ! ガッカリだ」
「それに動物一匹いやしねぇ、ソイツどうやって生きてたんだよ」
「はぁ、聞いてた通り食糧の補充は無理そうね」
なんだかイライラしている二人にもヤシの実をあげよう。どうせ、オレにはマズくて食べられないモノだし。
蔓を伸ばしてヤシの実を取り、棘で穴を空ける。
「ドウゾ ドウゾ」
「お、便利だな。うちの船長は伸びるだけで尖りはしないからな」
「なんだとー! ゾロ! おれだってヤシの実くらい割れるぞ!」ビシャ
「そりゃ、力ずくじゃねーか」
ルフィ達の漫才が終わるとナミさんが色々と説明を始めてくれた。
長く話していたので聞き取れた箇所は少ないけど、ルフィ達がコチラへ向けた表情などから判断すると多分こんな所だろう。
1.この島は無人島 いるのはオレだけ 動物は全部食べた
2.島の資源も十年かけて使い潰してある よって この何も無い島から連れ出してもらいたい
3.オレは名称不明の悪魔の実の能力者 植物をだせる
聞き取れてない部分が多いので微妙だけど、ニュアンスだけは合ってると思う。
って言うかルフィも途中から話聞いてないけど大丈夫か?
「と、言うわけで新しい仲間の〝エダ〟よ!」
え?
「おう! よろしくなエダ!」
え?
「わざわざ海賊になりたいなんて物好きなこった」
なんか勝手に命名されてるんですけどー!
植物「オレが動物を全滅させた」
ナミ「そう、家族はみんな死んでしまったのね……」
植物「オレの能力は名称不明なんだ」
ナミ「自分の名前を忘れてしまったのね、とりあえずエダなんてどうかしら?」
エダ「そうですね」
エダ「次の島まででいいので 舟に乗せてもらえませんか?」
ナミ「アイツらは海賊よ? 何も海賊にならなくても乗せてあげるわよ」
エダ「何でもします。船に置いて下さい!」
ナミ「……分かったわ〝海賊〟として乗れる様に話してあげる」
こんな会話がありました。