ー 20年前 ー
当時も変わらず、私はココヤシ村で駐在をしていた。
その頃は、海賊が攻めてくるような事も殆ど起こらず平和な時代だった。しかしある時、一人の子供と赤ん坊を乗せた船が村へと漂着したのだ。
その子供がエイダ、当時まだ12歳だった。そして、一歳にも満たない赤ん坊の方がナミだ。
なぜ、たった二人で船に乗っていたのかは分からなかった。
エイダは漂流するまでの
表情も固く、大人を警戒している様子が窺い知れた。村の者たちも対応に頭を悩ませていたのだが……ナミはそんな大人たちの事情など構わずに、無邪気に笑っておった。
なぜか私の顔だけは怖がっていたがな……。
ナミの笑顔をきっかけに、村人たちも二人を支援してやろうと奮起したものだ。
そんな時、偶然にもベルメールがノジコを連れ村へと戻ってきたのだ。
互いの事情を話し合った結果、境遇がどこか似ていたのもあって4人はベルメールの家で暮らす事になった。
まあ、家はあの大きさしかないからな。子供たちが成長するにつれ、次第に手狭となっていった。
それでもエイダが18歳になり家を新しく借りるまでの6年間、あの4人は家族として過ごしていたのだ。
まあその後も、エイダは仕事の合間を見てはみかんの世話を手伝い、ナミも日中はほぼベルメールの家で過ごしていたのだから関係は然程変わらなかったがな。
だがそんな時間も、たったの二年しか続かなかった。
ー 12年前 ー
「ゼハハハハハ!! おれはキャプテン・ジョーク! この村も隣町みてェにされたくなけりゃ、あり金を全部持ってくるんだな!」
その海賊は、隣にあったゴサの町を瞬く間に破壊し尽くした。
ゴサに駐留していた兵は
今でも、あの恐怖を忘れないため当時のまま残している……と言うのは半分建前でな、下手に動かすと倒壊に巻きこまれる可能性が高く、誰も撤去作業をやりたがらんから仕方なく放置しておるのだ。
ああ、そんな話よりジョークの事だったな。
結局我々は、圧倒的な能力の前ではなす術もなく。海賊達の要求を飲まざるを得ないと諦めていた。
だが子供からすれば、そんな理不尽には耐えられなかったのだろう……。
「これは村のみんなのお金よ! アンタにあげるために、かせいだんじゃないんだから!」
当時8歳だったナミからすれば、当然の怒りを当然の様に訴えただけだった。その事は誰も責められん、あの子は我々の気持ちを代弁してくれただけなのだからな。
「なんだぁ? ガキかよ。ゼハハハハ、そんな道理でやめるようなら海賊なんてしちゃいねェだろ?」
「ナミ! 逆らっちゃダメ! お願い……!」
「でも、おねえちゃん……」
「お! いいオンナもいるじゃねェか。どうだ? おれと一緒に来るなら、ガキは死なずに済むかもな?」
「っ…………わかったわ。だから、妹を離して!」
「やだ!! おねえちゃん! だめだよ!」
「聞き分けのねェ、ガキだなオイ!〝
「ナミ!!」
一瞬の出来事だった。奴の能力で闇の中へと沈みかけていたナミを、エイダが引き上げ私の元まで投げ飛ばした。
決して力の強い子ではなかった。ナミを守るため、持てる力を振り絞ったのだろう……。
「クソ! 折角のいいオンナが飲み込まれちまったよ。チッ、
「海賊っ!! よくもエイダを!」
「なんだ、他にもオンナがいるじゃねェか! ムダだムダ。斧なんて効かねェよ。おれは、
ベルメールは村外れに住んでいたため、隠れてやり過ごす事もできた筈だ。
だが、村の異変を感じて武器を手に駆けつけてくれた。まさか、着いた瞬間にエイダが闇へ飲まれるとは思いもしなかっただろう。
「ベルメールさん! おねえちゃんを
「任せなさい……!」
「うぉぉぉぉ! もう我慢の限界だ! 加勢するぞ、ベルメール! 例え殺されようと、私は奴を許せない!!」
「ゲンさん!」
「ゼハハハハハ!! 銃も! 剣も!〝悪魔の実シリーズ〟の能力だろうと!! 闇の前には何も効かねェよ! だが、そんなにあのオンナを返してほしいなら……返してやるぜェ? 成れの果てだがなっ!〝
私とベルメール、そして遅れながらも加勢してくれた村の者達。
その全員が、奴の体から
そして奴が言っていたように、エイダもまた闇から解放されていた……。
「おねえちゃん!!」
体が小さいため瓦礫を受けずに済んでいたナミは、エイダの元へと直ぐに駆けつけた。
だが、エイダは既に……
最後の力で、ナミへ幾つか言葉をかけたのち、ベルメールへナミを託し死んでしまった。
あの時、ナミが見た光景はまさしく地獄だっただろう。
目の前で姉が死に、大人達は殆どが倒れ伏し、それを行った海賊が高笑いをしている。
あのまま行けば、今頃この村は廃墟となっていただろう。あの時、ジンベエ率いる〝魚人海賊団〟が来てくれていなければな。
ここから先は、後で聞いた話だ。私も瓦礫を頭に受けていたので、救援を確認した直後に気絶してしまったからな。
あの無敵とも思えたキャプテン・ジョークの能力も
魚人達には、海水を飛ばす技があってな。分が悪くなったジョークは、奴の仲間を囮にして撤退したそうだ。
数名の魚人が後を追ったようだが、その者達は未だに行方知れずとなってしまっている。
そしてそれ以来、キャプテン・ジョークの名も一切世に出なくなった。ナミは手がかりを探すためにM・Gへと入ったのだが、まさか奴が亡霊になっていたとはな。
麦わらの小僧には感謝している。仇討ちなんぞで、あの子の時間を使ってしまう事をエイダも望んではおらんだろうしな。
奴の話はもういいだろう。
次は、魚人達とナミの話だ。
ジンベエはあの襲撃を退けたのち、海賊からの防衛に適したこの地に、新拠点を置く事になった。
だが当時の我々は、村を救われた恩を感じながらもジンベエ達へどこか忌避感を覚えていた。ああ、海賊だからではない。〝四掠撰〟としての活躍は皆知っておったからな。
今となっては恥ずべき話だが、当時の我々は〝魚人〟という種族を無意識に差別していたのだ。
村の西へ拠点を作り始めた魚人達。
ゴサからの避難民と一緒に、ココヤシ村の居住区画を広げて行った私達。
やっている事は似ていたが、手を取り合う事はなかった。後から聞いた話では、魚人側も我々に対して思う所があったようだ。
だがそんな状況を改善してくれたのが、他でもないナミだった。
駐在として見回りをする必要のあった私は、ジンベエの元へ訪れる機会が何度かあった。そんな時、ジンベエと気兼ねなく話しているナミを見つけたのだ。
「ねえ! 親分さん! きょてんできた?」
「ワハハ、まだまだ出来んのう! だがお前さん、よくここに来ておるが村の者は心配しとらんか?」
「……うん。みんな、私のせいでケガしちゃったから」
「なるほどのう……ゲンゾウが話しとった子供はお前さんじゃったか」
「ジンベエ親分。その話は……」
「え!? ゲンさん!」
「ナミ。何度も言うが、あれはお前のせいではない。みな気持ちは同じだったんだ……それをお前が言ってくれた。私は、その勇気を誇らしく思うぞ」
「でも……でも」
「悪いのは、あの海賊だ。そこを間違えてはならん」
ナミは何も言わずに走り去ってしまった。どう言い繕っても、あの子は自分自身を責めてしまう。
海賊へ意見したこと。姉が身代わりになって自身を助けたこと。
その全てが、身勝手な海賊が起こした蛮行のせいだ!! なぜ、肉親を失ったばかりの子供が大人達へ気を使わなければいけない!?
「難しいもんじゃな。助けが遅れたわしに恨み言でも言ってくれればええんじゃがのう」
「あの子は、そんな事を決して口にはしないだろう。エイダの葬儀で、もう後悔をしないと気丈に宣言していた」
「だが、そう割り切れるもんでもなかろう」
「そうだ。実際、村人が傷付いた事へ負い目を感じてしまっている。さっきの様に言い聞かせても、
「わしらに出来る事はないんかのう?」
「あの子は、ジンベエ親分達に懐いている。勝手な話だが、あの子がここへ来た時は相手をしてもらえないだろうか……」
「ワッハッハ! こっちから頼みたいくらいじゃ! あれだけ、魚人への偏見が無い人間は珍しい。ウチの連中にも気難しい奴はおるが、ナミが来れば自然と笑顔になっておるわ!」
それからも、ナミはジンベエの拠点へ何度も訪れていた。
再びベルメールの元で暮らしだしたナミは、ノジコとベルメールの温かさに触れ、次第に後悔の念も薄れていった。
半年も経てば、村人への負い目も薄れ今まで通り接するようになった。
魚人達とも交流を続けていたナミが村へ魚人を連れてきたり、また逆に村人を未だ完成していないジンベエの拠点へと案内したりもした。
その内種族間の隔意も次第に無くなり、互いの工事を手伝い出すようになった。村はさらに拡張され、もはや町と呼べる規模にまで広がり、アーロンパークも当初の予定より数段大きくなった。
いつからか、アーロンパークの測量室がナミの部屋になっていたのには驚いたがな。幼い頃からあの子には、地図や海図を描く才能があったのだ。
魚人達が調査した情報を、ナミが綺麗に海図へまとめ、それを元に魚人達が新たな調査へ赴く。一時期は、ナミが測量室へ入り浸る時間も増えていったが……ベルメールが怒鳴り込んでからは改善されていった。
結局、私は見守る事しかできなかったのだ。
時間が全てを解決したなどと言う者もおるが、私はそうは思わない。
あの子が自分自身の力で過去を乗り越え。
あの子のお陰で、種族間の隔たりが解消できたのだ。
「長くなったが、その事を踏まえた上でお前に問いたい……? 泣いているのか?」
「な゛いでないっ!」
「まあ、いい。お前はナミに〝必ず助けに行く〟と言っておったな?」
「……言った」
「その意味は重い。分かるな?」
「分かってる」
分かってる。今でもナミさんは、助けを求めるのに躊躇しているのだろう。どんな窮地に陥っても、彼女は助けを求められない。
それを、勝手に助けるって宣言したんだ。だから何があっても助けるのは当たり前だ。その上で、オレも生き残るのが大前提になった。
あの時……ナミさんを置いて、死ぬかもしれない特攻をした自分が愚かしい。挙句失敗して、死にかけた姿を見せたんだ……。
これ以上、心に傷は残させない。
「その
「いやぁー! 助けてー!!」
え?
ナミさんがオオカミっぽい動物に追いかけられて、こっちへ向かってきた。
「ニードルショット」
「はぁー、ありがとエダ」
「ナミ……」「ナミさん……」
言葉が出ねェ! 普通に助け求めてきたし……いや、まあその方がいいんだけどね?
「あははは。お墓参りに来たんだけど……何か男同士で話してたから、出て行きにくくて。そしたら、後ろからオオカミが襲ってきたからつい」
「……夜は冷える。墓参りを済ませたら早く戻れよ」
えーと、何で帰ろうとしてんの? ゲンさん。
「ナミも灯りを持っているんだ。送った後に借りればよかろう」
「ゲンさん、お休みなさい。また明日ね」
「ああ、ではな」
そう言って本当に帰ってしまった。今は、オレとナミさん……そしてオオカミの死体だけ。これどうしよう?
「……ゲンさんにはああ言ったけど、お墓参りは口実なの。私はね、お姉ちゃんの魂みたいなものはお墓じゃなくて、このクリスタルに居るんだと思ってる」
「なら、どうして?」
「あんた、アイツらに置いて行かれちゃったんでしょ? ランプも持って無いと思って、それで外へ出てみたらゲンさんと一緒にこっちへ来たから……」
「隠れて、聞いてた?」
「お互い様でしょ! あんたも、人の過去を聞いてたんだから!」
確かに出て来にくかっただろうな。あれだけシリアスにゲンさんが話してたんだし。きっと、オレ達が去った後バレないようにそっと帰る気だったんだろう。
それがオオカミのせいで……。
そうだ、勢いで仕留めちゃったけど。考えてみたら、肉なんだよな。よし!
「ちょっと! 何!? オオカミが皮だけになっちゃったわよ!」
「〝根〟で食べた。
「……クリークね。てっきり、あんたは敵を殺さないって思ってたわ」
「場合による」
「きっと、あんたが覚悟を決めてたから
ロビンのことだな。そうだとしたら、オレの意思は伝わってたって事になるけど……?
あれから何度かロビンに呼びかけてるんだけど、相変わらず返事はない。
「そろそろ帰りましょ。さっきまで曇ってたけど、今は月も出てる。だから、別に送ってもらわなくても帰れるわよ?」
「オオカミ」
「そうそう出ないわよ。本来は北の方にしか居ないんだし」
「送ってく」
エイダさんのお墓へ手を合わせ、心へ誓う。この先何があっても必ず守り、悲しませないと。
「ねえ、あんたが口下手なのは知ってるけど。さっきの話を聞いて、私に何か言うことないの?」
「つきがきれいですね」
「……なによ、それ? 言っとくけど、
「きっと分からない」
ナミさんを家まで送り、ようやく船への帰路に着く。月も明るいから、結局ランプは借りなかった。
顔に当たる夜風を心地よく感じながら一人考える。
ナミさんの仇は、キャプテン・ジョークじゃない。おそらく、黒ひげが名を騙ったんだろう。ヤミヤミの能力は、原作と少し違う……って言うか大分パワーアップしてると思うけど。
ゲンさんが忌々しそうに言った、ソイツの笑い声。ゼハハハハなんて笑うのはティーチしかいないだろう。
ティーチとして手配書が出回っていればナミさんが気付かない訳がない。だからきっと、どこかの海でティーチは身を潜めてるんだろう。
原作での動向を考えると、
この冒険を続ければ、必ず出くわす事になる筈だ。エイダさんは仇討ちを望んでいない……ゲンさんも言っていたけど、当然だな。
ティーチの存在は、ナミさんへは伏せておこう。
出来れば、ナミさんが気付かないままティーチを葬りたい。
剣も銃も能力も効かない闇、か。
海水のみが弱点? ああ、海楼石って手もあるけど……それらは、オレの弱点でもある。なにか他に、オレが取れる手段はないか?
仮にロビンみたいに悪魔の実を作れたとしても、例の〝異形〟って理由で確実性に欠けるんだよな。
うーん、こう考えるとオレの能力ってつくづく戦闘で使えるものが少ないんだなぁ。
うん! やっぱり筋力だな! ライオンだって屈強な筋肉で裸締めにすれば倒せるんだし。
そうそう、肉で思い出したけど
そういえば、ナミさんを送った時ベルメールさんが
あ! もしかして、オオカミの毛皮のせいで
誤解だ! 仮にそうだとしたら一体どんなアピールなんだよ!? 「どうも。送りオオカミですけど何か?」ってくらいの煽り方になっちゃうよ?
なんか、明日ベルメールさんと顔を合わせるのが怖くなったな……