第37話〝その海の名は〟
「……もう止めようナミさん。こんな戦い、虚しいだけだ」
「私は諦めないわっ! 絶対に取り戻してみせるから! エダっ!!」
「──向かって来るなら、容赦しないぞ」
「上等よ! 私を甘く見たツケを払わせてやるわ」
2人の新たな戦いが始まる───互いに〝譲れない想い〟をかけて。
〜 時は
空は快晴、風は軟風。
今朝は風車がよく回りそうな気候だ。
キッチンの窓から、美味しそうな匂いが風に乗って漂ってくる。
お腹空いてきたな……けど、朝食はみんなが起きてからだ。
昨日
いま起きているのは、みかんの観察をしてるオレ。
料理中のサンジ。
甲板で談笑してる女性陣。それと───
「おーい! 何か見えたぞー!!」
船首の上で、見張り当番をしてるルフィだ。
呼びかけに応えて、ナミさん達も移動している。
ロビンは、なんだか楽しそうだなぁ……オレには辛辣なのに。
いつかルフィが言ってた様に、きっとロビンも冒険にワクワクしてるんだろう。
ま、当然だ! オレも普通に気になるし!
よし、観察終わり。異状なしっと。
「何が見えるんだ? ナミさん」
「岬が二つ見えるでしょ? あれがジブラルタル海峡──通称〝ヘラクレスの柱〟よ」
「「「ヘラクレスってあの!?」」」
「カブト虫か!?」「森の勇者の……!」「大英雄の!?」
「エダが正解、伝説の英雄よ。カブト虫の名前の由来にもなってるし、ある意味ルフィーも正解ね」
「なあロビン、森の勇者って何だァ?」
「…………ぅ」
「ちょっとルフィー、そこはスルーしなさいよっ! ロビンも気にしないで! 別にクイズじゃないんだから」
ロビン、哀れなり……。
あんな得意顔で 森の勇者 なんて言えば、そりゃルフィだって気になるよ。
けどそれって〝ヘラクレス
うぉっ!? キッって音がしそうな迫力で睨んできた!? なんでオレに対して怒ってるんだ!?
「──それでヘラクレスは帰ってくる時に山を壊して、あの海峡を創ったって伝説なのよ」
「山を壊しちまうなんて、スゲェでかい奴なんだな!」
「もー、あくまで伝説よ? そんな大きな人間いる訳ないもの」
ここは元々、大きな山があって陸続きだったらしい。それを壊すほどの巨体……古代巨人族ならあり得る?
でも今はロビンの機嫌が悪いみたいだし、話を振れないな。
おっと! それよりも、ちょっと聞き流しちゃってたナミさんの話の方が重要だった!
さっきヘラクレスが
「ナミさん! さっき言ってた〝オケアノス〟って?」
「何よ今更。私たちの最終目的地は〝
「初耳だけど!?」
「言ったわよ、初めて会った時に。あ! あんた言葉が理解できないんだったわね……」
「今はちゃんと喋れるぞ! 勉強したんだ!」
「昨日の夜はサボってたってロビンに聞いたわよ? まあいいわ。簡単に説明するとね───」
ふむふむ。オケアノスって言うのは、未開の海の事らしい。
それこそヘラクレスの時代は、地中海の外は全てオケアノスだったそうだ。
現在だと人類の探索も大分進んで、太平洋の一部の海域だけがそう呼ばれているって話だ。
そこが〝
みんなの野望は、何だかんだでそこへと繋がっていた。
話を聞けば、島があるのかどうかも不明の海域。
だけど、もしそこに島があったなら、それは〝最果ての島〟と呼べるモノだ。
オレの野望も───〝
「なぁナミ。魚人たちが何かやってるぞ?」
「わぁ! 海峡の柱が、もう完成間近ね!」
「けどナミさん。柱って言うより、埋め立て工事みたいだぞ?」
「そう、埋め立てよ。事故で広がった海峡を、元の幅に戻す工事なの。柱って言うのは伝説になぞらえただけの名前ね」
「何故そこまでして戻すのかしら?」
「あ、そっかロビンは知らないわよね。数年前まで地中海には、大型の海王類が入り込んでいたの───」
言われてみれば、オレ達の航路には大型海王類が出なかったなぁ。
ナミさんの話では、地中海には元々海王類が生息していなかったとのこと。
けれど、その生態系は20年前に海峡で起きた事故のせいで一度崩れる。
事故で広がった入り口から、多くの大型海王類が迷い込んできたそうだ。
それをジンベエが長年かけて、全て大西洋側へと帰したらしい。
その後はじまった埋め立て工事が、いよいよ完成間近まで来ているんだ。
一通りの説明を聞いていたら、船はもう海峡へと差し掛かっていた。
船室で寝てた皆も甲板へ出てきて、ついに地中海を抜ける瞬間がやって来た!
長かったなぁ。ココヤシ村を発って、間もない筈なのに……まるで数ヶ月経ったかのような気分だ。
まあいいか。
さて〝
「ナミ〜!」「達者でな!」「お前ら、ナミを頼んだぞ〜!」
「ダルマ! ゼオ! ドスン! 行ってきまーす!」
「相変わらず魚人に人気だなー、ナミ」「ヨホホホ、微笑ましいですねェ」
「人魚は!? 人魚は居ないのか!?」「落ち着けエロコック」
え?
工事してたの新魚人海賊団だったのかっ!?
みんなニコニコしてて、キャラ崩壊しすぎなんだけど!?
あー! 気付けば大西洋に突入してる!? 変なサプライズのせいで出鼻を挫かれた……。
ー 船内・ラウンジ ー
「スペードのエース、キング、クイーン、ジャック──階段革命!!」
「なっ!?」
「8切り、8切り、3のトリプルに、4のトリプルっと」
「何よソレ!?」
「はい、6が最後の一枚だから──またオレの勝ちだ!」
「絶対おかしいっ! あんたイカサマしてるわ!!」
「おい止めとけよナミ。エダのは正真正銘、ただの運だ……ワシは二度とやらん!」
「副船長は黙ってて! いくら巻き上げられたと思ってるのよ!?」
荒れてるわねナミ。
でも、彼の
私も、もう抜けるわ。
最初は見張り番のゾロを除いた全員でやっていた〝ダイフゴー〟だけど……
あまりにも一人勝ちが続くから、今残っているのは ナミ と エダ だけ。
彼もやめるように説得してるけど、ナミは引きそうにないわね。
「だからさ、オレはカード運がいいし、出し方もミスしないし……」
「この〝ダイフゴー〟はM・Gで作られたゲームよ! 何であんたが、そんなに詳しいのよ!」
「だってコレ、オレのやってた
「なによソレ! 私だって、M・Gじゃ負け無しだったんだから! 絶対、取り戻してみせるわ!」
これも偶然の一致なのかしら?
彼が前世でやっていたルール。大富豪も大貧民も発生しない、特殊な〝大富豪〟
本来なら、勝ち負けに応じて身分が決まるゲームなのだけど
このルールでは、毎回全員が
純粋にカード運と戦略だけがモノを言うゲーム。
M・Gのメンバーが、ほぼ革命軍の人達だと考えれば納得のできるルールね。
「ジョーカーのダブル」
「はぁ!?」
「8切り、8切り、8切り、4のトリプルで上がりっと」
「なんで8を一枚ずつ出すのよ! 腹立つわねっ!!」
「……もう止めようナミさん。こんな戦い、虚しいだけだ」
ホントに異常なカード運ね。
ちょっと前に、ルフィの天運に対して気落ちしてたのが嘘のよう。
いい加減、ナミが泣きそうよ?
あ……今度はナミが、一枚も出せずに勝負が着いてしまったわ。
ジョーカーが2枚入った、全54枚。2人での勝負だから、その半分の27枚がお互いの手持ち札。
運が良いとはいえ、彼はあの短時間で初手から完封までの流れを読んだのね……。
これなら私が居なくても、少しコツを掴めば性質変化技くらい使えるんじゃないかしら?
「ごめんナミさん。オレ、勝負に手加減は出来ないんだ!」
「もうヤダ! エダきらい! ロビ〜ンっ!!」
「フフッ、あらあら」
「なっ!? ズルいぞロビン!……う、そのドヤ顔をやめろ!」
能力に関してのヒントは、しばらく黙っている事に決めたわ。
ー 補給地、近海 ー
船は海峡を抜け一旦北へ。地球で言うポルトガルを目指している。
交易が盛んな場所らしく、食料を始めとした物資を買い込むには最適みたいだ。
「おい元気だせよナミ。もう目的地の港が見えてるぜ?」
「……副船長が居れば平気でしょ」
「ワシは別に構わねェけどよ。普通ならルフィーの仕事だからな?」
「お、そうだな! よし、任せたぞ ウソップ!」
「はぁ〜、ナミの苦労が良く分かったぜ」
ナミさんが本調子じゃないから、代わりに副船長が方針を決めるみたいだ。
ここでの目的は物資の補給。
サンジ と ルフィが食料担当。
ナミさん と ロビンが日用雑貨──服とか椅子などを買い足すらしい。
オレ と ゾロが武器──砲弾と銃弾の補充と、いい刀があればそれも買う予定だ。
残りの2人、副船長とブルックは船番。
原作だと船番を立てるケースは少なかったけど……ここは必要そうだな。
港へ入ったメリー号が、さっそくゴロツキ達に取り囲まれてる!
「おいおい、ここが
「へっへっへっ、貧乏そうな船だが下町に停めちまったのが運の尽きだ」
「ビリーさん、やっちまいやしょうぜ」
「ああ、女2人は傷付けんなよ? ありゃ、高値で売れそうだ」
嘲りの町ってモックタウンみたいだな。
それに、ビリー? バラティエの人とは別人みたいだけど……。
まあ、ありふれた名前か。
おっと、今はそんなことより気落ちしてるナミさんが心配だ!
流れ弾が当たらないように気を付け──
「〝巻き〟!」「〝ムチ〟!」「〝シュート〟!」
「「うぁぁぁぁ!!?」」
──る、必要もないな。船長とその両翼が、あっさりと無双しちゃったよ。
あれ? でもなんかロビンは難しい顔してるな。アイツらの発言に怒ってるのか?
「どうしたんだ、ロビン?」
「いえ……ルフィ達に関して少し気になっただけよ。さっきの技、割と初期のモノよね?」
「そりゃ相手が弱かったんだから、強力な技を使うまでもないだろ」
「そうね。杞憂ならいいのだけど……」
「ヨホホホ! 分かりますよ、お二人とも。あの強さを見てしまっては気後れもするでしょう」
「だが気にすんな。ワシらはワシらで、得意分野が違うんだ。戦闘はアイツらに任せて、各々が出来る事をすりゃいいさ」
おおー! なんか、含蓄のある言葉だ。
副船長は狙撃、発明、操船、医術と多方面だし。
ブルックだって、音楽以外にも、長く生きてるだけあって知識が豊富だ。
ナミさんは当然、航海士として船には欠かせないし。
オレも得意分野で頑張るか!
あれ、なんかデジャヴが───?
「まずいぞロビン! オレ達だけ得意分野が無い!?」
「一緒にしないで欲しいわ。私は考古学の……いえ、原作の知識が──」
「森の勇者とか言ってたのに?」
「
「さすがロビ ン! ムダに詳しいン!」
「──っ!」キッ!
「なに姉弟喧嘩してんのよ。ロビンの能力で操船は大分楽になったし、エダは……強いじゃない。トランプ」
オレの得意分野ってトランプだけなのか!?
「助かったぜエダ。やっぱ船をキレイに直せんのは、お前さんだけだな!」
「う……気遣いありがとう、副船長」
「ヨホホホ! なんという綺麗な仕上がりっ。さすがです坊ちゃん!」
さっきの戦闘の余波で、メリー号が少しだけ傷付いていた。
それを能力で修復して、ただいま副船長とブルックに気を遣われている最中。
仲間なんだからそんな気遣いは無用なのに……2人とも完全に子供扱いしてきてるなぁ。
オレも色々あって、あれくらいじゃショックを受けない程度には強くなってるんだ!
このままチョッパーみたいなポジションになる前に、ハッキリ言っておこう!
「子供扱いはやめてくれ! オレはもう一人前!……だ、よな?」
「おいエダ。船直したんなら、とっとと行くぞ。他の連中はもう行っちまったんだ」
「あ、ゾロ。今行く! それじゃ、留守番よろしく」
「ヨホホ、お任せを」「おう、
「ん? ゾロ、その荷物は?」
「武器屋へ行くついでだ。気にすんな」
一足遅れて、ゾロと一緒に買い出しだ。さっき地理は頭に入れたし、迷うこともないだろ。
この街の名前は〝バンジード〟
ルブニール王国に属する大きな港街。ルブニールって言えば、原作だとノーランドの出身国だな。
丘に面してつくられた街で、三層に区分けされている。
今いる下層は、治安最悪なスラム街。
高町と呼ばれる上層は、貴族や富豪が暮らすエリア。
これだけ聞くと、完全にゴア王国なんだよな……。
まあ、オレ達が向かってるのは中層。治安も良く、普通に店が営業してるエリアらしい。
全部さっきのビリーって奴が教えてくれた。サンジが半ば強制的に吐かした情報だ。
そういえば、相手が海賊じゃなくてルフィはショックを受けてたな。
なんでも、最近モーガニアの旗を手に入れてないんだとか。
たしかに副船長の故郷では、ルフィ不在で解決しちゃったし。
クリークの旗は、ミホークが船ごと沈めちゃって回収不可能。あとは海軍としか戦ってないからなぁ。
「で? 砲弾から買うのか?」
「いや、荷物が増える前にゾロの刀を見よう」
「ああ……別に
「まあまあ、軍資金はあるんだし」
「お前ソレ、ナミからぶん取った金だろ」
「……哀しい戦いだった」
「お前らがいいんなら、構わねェがよ。仲間を巻き込むんじゃねェぞ?」
「? オレもナミさんも仲間同士だから、巻き込むも何もないだろ」
「……お前の図太さだけは
なっ。さっきの会話聞いてたのか!?
図太さだけって……オレは割と繊細だぞ!
それにナミさんとの関係も、旅の間は〝仲間〟って事に2人で決めたんだ。
ああ──でも、もしロビンが現れなかったら あのままなし崩しで……
「せいぜい、刺されねェよう気を付けろよ」
「……実はもう、1回刺されてる」
「おいっ!?」
「浮気はしてないからなっ! ホントだぞ!?」
「仲間同士なら、浮気も何もねェだろ。ったく」
う。ゾロが呆れた目で見てくる。
ソレとコレとは話が別なんだ。ナミさんは浮気絶対許さないウーマンだからな……。
浮気なんて一切してないのに、あの気迫に押されて つい挙動不審になっちゃうんだよなぁ。
それに引き換え、ゾロはどこか余裕がある。
先の先を見据えて動いてるって言うか……どんな場面も想定してる一人前の男ってカンジだ。
「おい、置いてくぞ」
こうやってぶっきらぼうな様で、さりげなく
オレも少しは見習っ───てえぇっ!? そっちはスラムの方向だろ!?
明らかに街並みが違うのに、なんで間違えるんだ!? しかも足取りに一切迷いが無い!
脳内マップにモザイクでもかかってるのか!?
やっぱゾロも全然、一人前じゃなかったな……。
おっと、呆れてる場合じゃなかった。急いで追いかけないと───
「ん?」
「3段アイスだーっ!!」「おいおい、走ると落っことしちゃうぞ」
「あっ」ベチャ!!
「冷たっ!」
嘘だろ!? 双子岬っぽい所を越えて来たんだぞ!?
なのに……!
オレのズボンがアイス食っちまった!!
なんでローグタウン限定イベントが起こるんだ!? ああもう! 訳がわからん!
けれど! いまオレがやるべき事くらいは分かる。
それは───
目の前で泣きそうな顔をしてる女の子に〝5段アイス〟を買うコトだ!!